●あと10000冊の読書(毒読日記)  ※再は再読の意 毒毒度(10が最高)

2001-08

2001/08/31-9494
薔薇の葬儀 アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ
田中義廣 訳
白水uブックス 2001年7月20日発行
 毒毒度:2
マンディアルグ最後の短編集。「薔薇の葬儀」は、元遊女という謎めいた日本女性たちに誘拐され、いまわの際の女主人の晴舞台を見せられる話。薔薇に魅せられた者といえば三島由紀夫。三島はマンディアルグの匿名作品『城の中のイギリス人』(POISON READING 1999-12参照)を愛読していたというし、実はマンディアルグは三島の戯曲『サド侯爵夫人』を仏訳し、1979年の日本公演にも同行している。サドといえば澁澤龍彦で、『城の中のイギリス人』の訳者も澁澤…というような関連性の環も楽しめる。マンディアルグ作品にあって死に魅せられ一方でその死と虚しく闘う象徴ともいえるクルマ、オートバイ、自転車という道具もレギュラー出演。ただし、五感に触れてくる異様さというと、他の短編集よりもあっさりした感じ。訳者が違うせいか、いつものグルーヴ感がないのだ。

2001/08/30-9495
狼の太陽 マンディアルグ短編集
生田耕作 訳
白水uブックス 1989年7月10日第1刷発行
2000年12月10日第3刷発行
 毒毒度:4
“苺の実は、両唇のかたちにひらいた左右の傷口のあいだにはさまって、大腿の薄桃色を背景にどことなくぞっとする(少なくとも私にとっては)一種の真紅色と、てかてかした陶器のきらめきで日光に輝いていた。それは禍々しくはびこった、生身の肉体のなかに深く根を下ろしている、地獄の苑生の果実だった。若い裸女のむごたらしい傷口を、それとも醜くあふれ出た苺の実をこれ以上見るに忍びず、すぐさま、私は眼をそむけてしまった”(考古学者) 

マンディアルグといえば異様で残酷でエロティック。蠢くものの執拗な描写。夥しい菓子類を咀嚼するこきのクリームのべたつき感。蟹の甲羅をむしり、海老の殻から中身を引き出すという行為の幻想。それに加えてこの短編集全体に漂うのは、女性の成熟への嫌悪とでもいおうか。たとえば「考古学者」は、ナポリの僧院で《美しきチェザリーナの彫像》を見てしまったことから、美しい婚約者へ不満を覚えていく男の物語。チェザリーナというのは蝋でできた等身大の少女で、切り裂かれた下腹部から夥しい苺の実を露出させているというかなり悪趣味な代物である。このモデルは実在するに違いない。17〜18世紀には精巧な蝋細工の人体模型(死体から型をとったり、本物の骨を使ったりする)が作られていたと聞いている。とりわけ有名なのが、フィレンツェの解剖されたヴィーナスとボローニャのイヴ像。これらの現物でなくとも写真を一度でも見れば、偽りの生、生命の嘘という観念にとらわれること間違いなしなのである。ちなみに集英社文庫荒俣宏コレクション『バッドテイスト』にて確認できる。

2001/08/27-9496
野球術(上) ジョージ・F・ウィル
芝山幹郎 訳
文春文庫 2001年8月10日第1刷発行
 毒毒度:1
“リグニーは長い歳月を通じて、野球における四つの知恵を発見した。それを重要な順にならべると、(1)全力でプレーすること(2)勝つこと(3)金を稼ぐこと(4)楽しむこと、となる。ラルーサもまた、この四つを信条としている。問題が起きるのは、(3)と(4)が(1)と(2)よりも優先されてしまうときだ”
“野球には時計が介在しない。であれば、野球を終わらせるためにはだれかが最後のアウトをとらなければならない。そして最後のアウトをとるのはいちばんむずかしい。” 

監督は選手の能力に合わせて自らのめざす野球を調整する。監督は24名の選手が十分に力量を発揮できるよう、環境の整備に努める。監督は、有効なデータを収集し、それをコーチ陣と共有する。監督はゲームの状況に応じて選手を起用する。監督はチームを代表してメディアに対応する。以上が監督5ヵ条である。ここでは野球をロマンチックになど語ろうとはしていない。たしかに野球を見る者はロマンチックな思いにとらわれるにしても、あえて反ロマンチックに語ろうという試みがなされる。しかし、トニー・ラルーサ(監督術 トニー・ラルーサの「危機管理」)にしても、オレル・ハーシュハイザー(投球術 オレル・ハーシュハイザーの「現実感覚」)にしても、読む者はやはりロマンを抱いてしまうのであった。初回にマウンドに向かうとき狙っているのは完全試合、ヒットを1本打たれたら1安打ピッチングを、四球を1個出したときには、それ以上歩かせない…つまりはその都度実現可能な完璧をめざすというハーシュハウザー。上巻締めの言葉、「過ぎたことはしようがない。でも、未来は無傷ですから」。

2001/08/26-9497
猫はどこ? 林丈二 講談社文庫 2001年8月15日第1刷発行
 毒毒度:-2
“これはだいぶ前から怪しいとにらんでいるのだが、よく猫が車の縁や底の部分をしつこく嗅いでウットリしているのを見かけることがある。これはエンジンオイルやガソリンの漏れている匂いで酔った状態になっているのじゃなかろうか” 

表紙が友人猫のパルの後ろ姿を連想させて思わず購入。こういう風情の猫写真を撮るとはタダ者ではない、と見たら「路上観察学会」の一員だそうな。マンホールの蓋研究などで知られる著者は、小学生時代から筋金入りの調査マニア。この本も、漱石の吾輩猫の子孫を探すという途方も無いテーマを引き継いで、路上猫観察、明治時代の新聞猫記事、ヨーロッパの猫絵はがきという具合にかなりマニアックな「猫本」が作られている。ちなみに表紙の猫は、背中に犬柄をしょった珍種「犬猫」だとか。

2001/08/25-9498
CARMILLA 吸血鬼カーミラ ジョーゼフ・シェリダン・レ・ファニュ
清水みち 鈴木万里 訳
徳吉久 写真 
大栄出版 1996年4月30日初版第1刷発行
 毒毒度:3
“あなたの心が傷つくと、私の狂おしい心も一緒に血を流すの。私は途方もない屈辱のきわみの恍惚を覚えながら、あなたの命の温もりとひとつになって生きていくわ。そして、あなたは死ぬことになるでしょう。甘美な死を迎えて私の内に入るのよ” 

街道を離れた途端に幻想的な空間にはまり込む。今晩も霧が出ている。「霧」は様々なミステリ、ホラーに欠かせない現象。キングの中編『霧』も、ジョン・カーペンター監督『霧』もしかり。かくしてホラー環境は整った。『吸血鬼カーミラ』といえば勿論創元推理文庫の初版(平井呈一訳、カバーデザイン日下弘)で読んだのだが、新訳訳し下しでこのようなコラボレーションものが存在するとは知らなかった。平井版に不自由さを感じてはいないので、新訳である点については特に魅力的というレベルではない。同じシリーズ『ポーの黒夢城』(サイモン・マースデン写真)に比べ写真に気をとられすぎることなく読み進められるのは、写真家になじみがないせいか。『吸血鬼ドラキュラ』も生誕103年後に新訳完訳として出版されたが、こうした傾向が単なる吸血鬼ブームにのったものではないことを祈りたい。

2001/08/20-9499
空想犯 安野光雅 講談社+α文庫 2001年3月20日第1刷発行
 毒毒度:2
“簡単にいうと、小説である。その嘘が、本当であってもふしぎではないほどよくできていても、ルールとして、考えれば嘘が見破られる隙が用意されていなければならない。なにしろ、小説だと断わった以上は、仮に本当のことを書いたとしても、嘘ということになる。小説と断わらないで書くと詐欺になる。” 

妄想族もいれば空想犯もいるわけだ。空想とは、嘘であることを承知で思い巡らした夢。1979年に刊行されたものの再編集ということだが、時代を感じさせない。ABCの本をつくるときの苦労話は面白い。ピーとビーンの違いがわからない。イギリスの物識りによれば、さやごと食べられるのがピーで、豆粒を取り出して食べるのがビーンとな。ふーん。じゃ落花生とピーナツ、南京豆の違いは? 殻つきが落花生、薄皮つきが南京豆、皮ナシがピーナツ(笑)。

2001/08/19-9500
数奇にして模型
NUMERICAL MODELS
森博嗣 講談社文庫 2001年7月15日第1刷発行
 毒毒度:-1
“でも、理屈で動かないなんて野蛮よね” 

厚い。最悪1週間もかかろうかという厚さである。しかし本日は仙台へ日帰りのため時間は十分あるのだ。犀川&西之園シリーズも10冊目、思えばおあと9999冊、つまり10000冊のうち1番目が「すべてがFになる」だった。当初は真面目に謎解きに挑戦していたものだが、私ごときに簡単に解けることがわかってから態度を一変させている。今回はモデラーズスワップミートの会場での猟奇殺人と大学構内の密室殺人がほぼ同時に発生…。萌絵の遠い親戚の大御坊安朋がきらびやかに(爆)登場のほか、喜多北斗や金子勇二などレギュラー陣も活躍。にぎやかなせいか犀川&西之園の冴えが見られないような気がする。一方で殺人者には魅力ナシ。恒例「綺麗」攻撃も、700ページに分散していれば気にならない?(笑)

2001/08/18-9501
STAR ATLAS 21
星の地図館
林完次
渡部潤一
小学館 1999年11月10日初版第1刷発行
2000年1月1日初版第4刷発行
 毒毒度:2
“まるで織姫のしなやかな指にはめられた指輪のようである。こういった星雲は天の川のあちこちに点在している。これらは惑星状星雲と呼ばれる天体で、実は静かな老人星の死の現場である。リング星雲の中心にかすかに輝く白い星が見えるが、あの星が今、死んだのである” 

昔は星座をよく見た、とはいってもプレヤデス星団を肉眼で見る程度のことであるが。都会では地上の方がまばゆくて星座は探しにくい。終バスから降りた時に、冬ならオリオン座を見つける程度である。空気の澄んだネオンのないところでは、驚くほど星が見えるということを何年か前に穂高で体験した。しかし、今では八ヶ岳ですら星は見えにくくなっているらしい。星座は88、動物とギリシア神話の星座はともかく、望遠鏡座、定規座、八文儀座とかには覚えがなかった。美しいカラー図版に加え、天体写真の撮影方法や携帯用野外星図などお役立ちページ、ツールが魅力。古本屋にて新品を半額以下で収穫。

2001/08/18-9502
Beyond the Wall
THE LOST WORLD OF EAST GERMANY
Simon Marsden &
Duncan McLaren
LITTLE, BROWN AND
COMPANY
First published in 1999
 毒毒度:3
“Twilight was descending as I gazed up through the arches. It was as if the sky had fallen on a sublime epoch.” (Schlosskapelle, Schloss Dargun)

ファンタシイとスーパーナチュラルの写真家サイモン・マースデンと、画商であり蒐集家、旅行家であるダンカン・マクラーレンのコラボレーション。1989年に壁が崩壊してから、彼らは東ドイツへの旅に出た。『ポーの黒夢城』購入のついでにGET。もちろん英語だが非常に読みやすい(と思う)。

2001/08/18-9503
ワールド・ミステリー・ツアー13
第5巻 イギリス篇 
森英俊・仁賀克雄 他
発行・同朋舎
発売・角川書店
1998年12月15日第1刷発行
 毒毒度:2
“英国は1マイル平米あたりの幽霊出現のパーセンテージが、世界のどの国よりも高いと言われている。このことは英国人にとっては、自慢の一つであるようだ”(内田武彦「英国ゴーストスポットを歩く」)
“できることなら、夜明けや夕暮れ時に訪れることをお勧めしたい。大気がもっとも透明で、昼と夜の境であるこうした特別な時間は、もうひとつの世界と接する時間でもあり、その世界への扉が開くかもしれないからだ”(沢田京子「ミステリアスなストーン・サークルを巡る」)

英国のフレーバーを嗅いだところで(『魔女の刻』では古代の異教の地、『八つ裂きジャック』の元祖はロンドンの在)、ミステリーの国イギリス紀行。アメリカの作家なのにイギリスの黄金期ヴィレッジ・ミステリのお手本みたいなエリザベス・ジョージやマーサ・グライムズが気に入っている私など、シャーロキアンやクリスティ・ファンから見れば、ふざけるにも程がある…というところか。当然ドイルやクリスティを訪ねる旅よりも、怪奇幻想紀行に惹かれるわけだ。行ってみたくなったのは、ヘイ・オン・ワイと、「サー・ジョン・ソーンズ・ミュージアム」だ。かたやチャリング・クロスよりも大規模という古書店の町、かたや新古典主義の建築家が築いた病的なまでに周密な空間。せっかくの企画なのでもっと地図を充実させて欲しかった。『ロンドン篇』があるのだから、この『イギリス篇』にいまさら「ロンドン塔ミステリー・マップ」は不要でしょう? 各紀行の総括的な地図はどうしたの? 表紙のクレジットも撮影者だけで、場所はどこなの? …と数々の不満が残る。
「英国長編怪奇幻想小説13作を読む」に紹介されているエリック・マコーマック『パラダイス・モーテル』をamazon.co.jpで探したのだが、在庫なしのようで、残念。

2001/08/17-9504
八つ裂きジャック 菊地秀行 祥伝社文庫 2001年3月20日初版第1刷発行
   毒毒度:0
“よき人よ 我さらになし
 妖かしの術 秘かなる策謀を事とせしこと
 さはあらず 我が掲げしは常に愛と誇り
 邪悪なるたくみをおきて”

思いつきで、この夏二度目の海の家である。ジャックと海の家は、まずマッチしているとは言えないけれど。さても荒唐無稽な物語をどうしたものか。美貌で性悪の醍醐蘭馬VS八つ裂きジャック。霧のロンドンならぬ渋谷円山町での邂逅シーンはなかなかスリリングだが、どうもモタるんだよねえ。なんで数にこだわるかといえばそもそも地球外生命体が数を数えられなかったなんてのも…sigh 。『蒼き影のリリス』に比べてエロエロなのは、大好きな『眠狂四郎独歩行』をちょっと思い出させるにしても。

2001/08/14-9505
高橋克彦迷宮コレクション
ホラー・コネクション
高橋克彦 角川文庫 2001年7月25日初版発行
   毒毒度:1
“むしろ私が恐れているのは生きた他人と生きている自分なんです”
(私がホラー作家になったわけ--岩井志麻子--)

どこまで自分が邪悪になれるかを見せびらかしたい岩井志麻子。奇談をなぜ書くかといえば好きで真似したいから、コスプレ感覚という宮部みゆき。ホラーをなぜ書くかをめぐる対談集。

2001/08/13-9506
ヤーンの翼
グイン・サーガ第80巻
栗本 薫 ハヤカワ文庫JA 2001年8月15日発行
   毒毒度:1
中原にルアーの角笛が響きわたる。長い戦の世を告げる音色である。アルド・ナリスよりの使者を迎え、レムスよりの使者を迎えるグイン。そのトパーズ色の瞳はどちらに組するとも未だ語らない。一方、ついにタルーを発見し殺害するイシュトヴァーンだが、怪し気な軍勢の攻撃にあう。これが噂の「死者の軍隊」なのか?

2001/08/13-9507
ワイン一杯の真実 村上龍 幻冬舎文庫 2001年8月25日初版発行
   毒毒度:1
“暗い目をした女は、敵を殺すことができるし、敵を憎むことを止めない。たとえ殺されても敵に寝返るようなことがない。だからわれわれは暗い目をした女を大事にする。明るい目をした女は信用できない。誰にでも好かれて誰にでも笑いかけ誰にでも話しかける。そういう女は男に殴り殺されることもある” (モンラッシュ)
“この町かわたしのどちらかが死んでいるのだ”(トロッケンベーレンアウスレーゼ)

「落伍者のための名作フェア2001」とな。この文庫ならではの凄いキャンペーンタイトルだ。女性であることは異邦人なのか。ワインの名の下に、痛々しい物語が集う。
ランチを食べに歌舞伎座近くの「樹の花」へ行った、本を携えて。半円に近いカウンターにて、ナス入豆カレーとミルクティーをいただく。マダムの白いブラウスと焦茶のギャルソンエプロンが粋である。レノン&ヨーコ夫妻のサイン、菊地信義「装幀家の余白」。次回は窓際の席でシフォンケーキを。

2001/08/12-9508
ポーの黒夢城 エドガー・アラン・ポー
サイモン・マースデン 写真
岡田柊 訳 
大栄出版 1996年7月20日初版第1刷発行
   毒毒度:3
“不幸にはさまざまな種類があり、悲しみにはさまざまな形がある。それは虹のように大きく弧を描いて地平をおおい、虹のようにさまざまな色彩をおびる。ひとつひとつの色はあれほどはっきり見えるのに、境を接する部分で色どうしが微妙に混じりあっている。虹のように大きく弧を描いて地平をおおう--いや、なぜ美しいものから醜悪なものを導きださなくてはいけないのか?” (ベレニス)

昨晩『エイリアン4』のテレビ放映をみる。子供エイリアンの不格好さには笑わせてもらった。脇役も全然魅力的じゃないし、製作費のほとんどをシガーニィとウィノナ・ライダーのギャラに使っちゃったらあーなるのか。やっぱり『エイリアン2』どまりだと思う。
という前ふりで、何が言いたかったかというと、その不格好エイリアン子供にそっくりな写真があるんだな、この本に。クレジットはないので場所は不明だが、墓所らしい。棺の中に骸骨の入った彫像である。以前からコレクションに加えたかった一冊をこの度めでたくamazon.co.jpにて入手。気がつけば『吸血鬼カーミラ』のリミックス版も出ているではないか、これもGETだな。

2001/08/12-9509
続・魔女の刻 ラシャー(下) アン・ライス
広津倫子 訳
徳間文庫 1996年4月15日初刷
   毒毒度:2
“なるほど、と考えた。おまえはあの呪うべき精霊におまえの魂を与えたんだな。”
“やがて考えるのをやめて祈った。マリアにではない。この場所の空気にむけて、時間にむけて、おそらくは地球にむけて祈りを捧げたのだ。神よ、と言った。まるでそれらすべてがその名を待っているかのように……。こういう取引はできるでしょうか? もし一族を救ってくださるなら、わたしは甘んじて地獄へ行きます。おそらくはメアリー・ベスも行くでしょう。その後の魔女たちもつぎつぎに……。しかし、一族の人々はお救いください。願わくは、彼らがつねに強く、幸福で、恵まれてあらんことを。”

体力が回復したせいか、天気が悪いではないか。意志に反したレインメーカー、それが私だ。蚊を撃退するという超音波に弱く、人よりも数秒だけ早く地震を察知する。15〜20日までは数字の勝負に強い。幽霊は見ないが死亡事故現場はわかる。これぐらいでは妖術使いとは言えないし、得をした覚えない。KEITH JARRETTの《The K嗟n Concert 》を聴きながら。
メイフェア・ウィッチのシリーズは未訳の『タルトス』という作品があるそうだ。存在は聞いていたが、こんなに出版されているとは知らなかった。こうしてみると徳間の宣伝下手が気になるのは私だけ?

2001/08/11-9510
東京在住猫
太田威重写真集
太田 威重 発行トレヴィル 発売リブロポート 1995年10月25日初版発行
再 毒毒度:-2
嗚呼、猫いじりてー! と時折叫ぶことを毒読日記の読者なら御存知のはず。そう、こんなに暑くてもである。友人猫の「ちびまる」くんももう人間なら100歳近く、この夏を越えられるか懸念されているらしい。友人たちはまた子猫を拾ってしまったという。生後2ヵ月ちょっと、さぞやいじりごごちが良いことだろう。さて憧れの職業にひとつ追加。「古本屋の縞猫」というのはいかがだろうか。

2001/08/11-9511
猫の宇宙 写真・文 赤瀬川原平 柏書房 1994年10月25日第1刷発行
再 毒毒度:-1
贈ったからには自分ももう一度愉しんでみる。こちらは文庫化前の単行本。置き物猫のカットが多いので、フツーの猫好きにはイマイチ物足りないかもしれない。が、赤瀬川原平の視線を面白いと思う人にはおすすめである。盆休みの月島あたり、カメラでクルマの陰の猫たちをとらえたのは何年前だったのか。あのときのモノクロームフィルムは実は現像に出していないのだ。そんな夏もあった。

2001/08/11-9512
続・魔女の刻 ラシャー(上) アン・ライス
広津倫子 訳
徳間文庫 1996年2月15日初刷
   毒毒度:1
“彼らつまずきて苦悩と苦痛に悩み
 いまだ学ばずして流血と恐怖を招く
 今や嘆く者らの谷間と化せる
 このエデンの春は災いなるかな”

クリスマスの日、自らが生んだラシャーの肉体と共に姿を消したローアン・メイフェアの行方は? ローアンの夫マイケル・カリーはラシャーとの闘いに破れ、プールに沈んでいた。再び甦りはしたものの、ローアン不在のこの家を一体どうしたものか。かのローアンは以前の同僚に電話をかけ、サンプルの調査を依頼している。人間の2倍の染色体を持つ身長195センチの幼児。一体そんな生物は実在するのか、実在するならば人間の雌との交配が可能なのかという奇妙な質問を何故ローアンはしたのだろう。メイフェア一族の女性にラシャーの魔の手がのびる。ギフォードが子宮からの大量出血で死亡しているのが発見されたのだ。天才少女モナ・メイフェアとの関係がマイケルを未来へ、そしてジュリアンの幽霊がマイケルを古へと導いていく…。
4連休の予定が急きょフツーの土日休みとなり、夏休みは来週に持ち越し。天日で乾かしてあった雑草などを燃やしてしまおうと庭に出たものの、たった10分で「晴耕雨読」が実現することとなる。遠雷が不安を誘う。モナ・メイフェア、老エヴェリン、ギフォード・メイフェア、老ジュリアン…アン・ライスお得意の一人称回想シーンの数々に目が眩むようだ。

2001/08/09-9513
ブルースマンの恋 山川健一 中公文庫 2001年12月20日発行
   毒毒度:2
“昨日の朝早くのことさ
 ブルースがおれに舞い降りたんだ” (マディ・ウォーターズ「アーリィ・モーニング・ブルース」)
“十九歳のときに、そういう《朝》があった。一年ぐらいの間、ぼくはブルースに夢中になった。だが、やがて、彼女は背中を見せてゆっくりと歩き去って行った。ぼくが彼女よりもっと若い、明るく陽気で、誰とでも寝てしまう、どうしようもない女に心移りしてしまったからだ。その女の名前はロックンロールという。”

舞い降りて来るのは、そしてブルースだけとは限らない。生きながら、ブルースに葬られ…。
誕生日に本を贈ろうと思い、文庫化された赤瀬川原平『猫の宇宙』を選ぶ。本を贈る相手が存在するということは幸せなことだ。そういえばアルファ・ロメオ好きだったよなあと、山川健一『快楽のアルファ・ロメオ』が棚にあるのを確認していると(ちなみに単行本で持っていると言ってたっけ)、隣にこの本があった。突然舞い降りて来たブルース。天使のように笑いながら悪魔のように男の心臓を掴んで離さなかったブルースの女神。生憎この本に出てくるブルース・マンのレコードは持っていない。ポール・ロジャース「マディ・ウォーターズ・ブルース」あたりが、今の気分かも。山川健一はC市の県立C高校出身。高校時代の話や津田沼のミスタードーナツなんてローカルな話題がちょいと笑いを誘う。

2001/08/04-9514
急ぎすぎた旅人--山際淳司 山際澪 角川文庫 2001年7月25日初版発行
   毒毒度:-2
“「スポーツは批判的に見ないで、心から楽しんで見ることが大切だよ。原稿を書きすぎると、つい仕事の視線になってしまう。書きすぎはよくない」”
“「病気は自分の意志と関係なく向こうからやって来た。仕事は僕の意志でやっているのだから、全くそれらは接点がない。だから、どんな時でも僕を病人扱いしないでほしい」”

家族と仕事を愛して、短く丁寧に生きた人生。一番リラックスして見たスポーツは草野球。気分転換のドライヴィング。ジョージ・ウィンストンの『オータム』をはじめピアノの音色が好きで井上陽水の歌と詞が好き。どこででも原稿を書き、どんなに短い時間でも睡眠をとれる特技。故人である山際淳司の日常を、夫人のエッセイで知る。書かれているのは人間として、夫として、恋人として、父親として、理想の姿である。唯一の欠点は、ひとりで先に旅立ってしまったということになるのだろうか。
山際澪さん、もっともっと肩の力を抜いて書きませんか。雨は「嘘のように」上がらなくてもいいのではないかと思います。このようなことを書く無粋をご容赦いただければですが。

2001/08/03-9515
ライヴ・ガールズ レイ・ガートン
風間賢二 訳
文春文庫 2001年7月10日第1刷
   毒毒度:1
“今夜、あなたは死ぬわ”

タイムズスクエアののぞき部屋「ライヴ・ガールズ」に魅せられ、破滅する男たち、巻き込まれる女たち。強烈な悪趣味が売りのスプラッタ・ホラー…というキャッチには期待していなかったのだが、残念ながら予想通りだった。日常が異常に刺激的ぎるせいか、どこがどう悪趣味なのかわからなくなっているのだろうか。うげーってならないもの(会社で仕事してた方が吐きたくなる。)吸血鬼たちも吸血鬼ハンターたちも中途半端。映画「ロスト・ボーイ」みたいに笑えるか、「やつらは渇いている」(マキャモン)みたいに怒涛の展開プラス泣けるストーリイを用意してくれなくては。訳者・風間氏のあとがきと尾之上浩司氏の解説文はやけに力が込められているのが、虚しさを漂わせて…。

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