●あと10000冊の読書(毒読日記)  ※再は再読の意 毒毒度(10が最高)

2001-12

2001/12/31-9420
ないもの、あります クラフト・エヴィング商會 筑摩書房 2001年12月10日初版第1刷発行
   毒毒度:2
“本品を購入されましたら、まず広げる前に「たたむ」練習を重ねること。これが肝要であります。広げてしまってからでは、もう遅いのです。ただ広げるだけなら誰でもできます” (商品番号・第23番 大風呂敷)

美本。堪忍袋の緒から口車、助け舟、果ては大風呂敷まで。あったらいいな、がここにある。ただし毒アリ。使用には十分注意が必要となる。覚悟ができていれば電話してみよう。赤瀬川原平の特別エッセイのために用意された優柔不断麦酒株式会社製〈とりあえずビール〉の商標、よくできてます。

2001/12/30-9421
十五少年漂流記 ジュール・ベルヌ
波多野完治 訳
新潮文庫 1951年11月18日発行
1990年5月25日66刷改版
1999年6月5日80刷
   毒毒度:-2
“いまこの嵐のまっただ中に漂う船に乗り込んでいるのは、少年たちだけである。そんなことがありうるだろうか。船長はいないのか? その下で船をあやつる水夫たちは? こんなあらしの時にこそ腕をふるう舵手は? そうだ。大人たちは一人もいないのだ。”

会社帰りに読むもののない師匠に貸して、「時代劇みたいに読めるよね」という感想つきで返ってきた1冊。勤勉、勇気、思慮、熱心…これですべての困難が解決できるか、今となっては?だが、子供のころは、無人島でのサバイバル、悪人との戦いにドキドキしながら読んだ。船がらみの少年少女小説といえばアーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』シリーズも好きだった。本棚にまだあるはず。12月は子供時代に還る月?

2001/12/29-9422
アウラの選択
グイン・サーガ第82巻
栗本薫 ハヤカワ文庫JA 2001年12月15日発行
   毒毒度:1
“「お前たちが邪魔立てすれば私はこの場でみずからのいのちをたち、魂魄となっておのれの王国に帰る。どけ、下郎ども。--偽りのパロ王レムス」
 リンダのスミレ色の--だがいまは激しい炎となって燃え上がっている瞳がまっすぐにレムスをとらえた。
「もはやお前は弟でもない、わが国王でもない。二度とお前を弟とは呼ばぬ」”

ヤンダル・ゾックに乗っ取られたレムスの導きで、魔の巣窟と化したクリスタル宮へグインは足を踏み入れた。機械人形のようなアルミナと生後2ヶ月だというのに異常な成長を遂げた王太子アモンとも会う。幽閉され魔の力によって眠らされるリンダを見届け、グインは宮廷を去ろうとするが、レムスはそうはさせなかった。諍いのさなかに、突然目覚めるリンダ、パロの二粒の真珠は今対決のときを迎えた。アドリアンとスニを連れたグインとリンダは果してクリスタル宮を脱出できるのか? 最後の望みはヤヌスの塔の地下にある古代機械。レムスを拒否した古代機械はグインを受け入れるのだろうか。
かっこえー、たんかを切るリンダ姐さん! ついにここまで来たか、グイン・サーガ。いよいよアルド・ナリスとグインが会うこととなるのか? 楽しみは2002年へ持ち越し。

2001/12/29-9423
リオノーラの肖像 ロバート・ゴダード
加地美知子 訳
文春文庫 1993年1月10日第1刷
1998年1月15日第5刷
   毒毒度:2
“あなたはもう真実を知ったし、それは忘れてしまうのがいちばんだ。わたしもそうする”

ソンムで戦没した父。自分を生んですぐ亡くなった母。しかしその墓はどこにもない。意地悪な義理の祖母と、母娘二代のリオノーラの葛藤。何代にもわたる家族の秘密と悲劇。それを引き起こしたのは戦争である。イギリス色たっぷりのゴシック・ロマンス。人の心こそミステリィ。偶然処女作を読み、今回は偶然にも2作目を読んだことになるが、本当に読ませるのがうまい。「読んでおもしろい小説がないので自分で書くことにした」らしいが、おおいに納得。

2001/12/26-9424
女性署長ハマー(下) パトリシア・コーンウェル
矢沢聖子 訳
講談社文庫 2001年12月15日第1刷発行
   毒毒度:-2
“あなたがぼくを人とも思わないなら、ぼくもあなたを人とも思わない。モルグはいい場所かもしれませんよ。死者に敬意を払う練習をして失敗しても、相手は気にしないから”

知事は頭も目も悪いし、いき遅れの4人の娘はキョーレツだし、報道担当官は悪意と犯罪の種そのものだし。悪徳歯科医と海賊の末裔とハイウェイ・パイレーツとストックカー・レースまでてんこ盛り。やれやれ。カニとマスにまで重要な役まわりがあったとはね! ところでアン・ライスのエジプトもの『ザ・マミー』がなぜあのタイトルかという疑問が偶然解決された。ミイラのことを意味するとは知らなかった。

2001/12/25-9425
女性署長ハマー(上) パトリシア・コーンウェル
矢沢聖子 訳
講談社文庫 2001年12月15日第1刷発行
   毒毒度:-1
“人生のハイウェイのスピード違反か”

「検屍官」シリーズになじんでいると、なんだかドタバタしすぎて落ち着かない気のしていたシリーズ3作目。主要登場人物3人のうち、女性署長ハマーとジャーナリスト兼警官のアンディ・ブラジルがリッチモンドに異動となっている。リッチモンドといえばあのスカーペッタ検屍局長の町。ブラジルとケイがモルグで会うシーンもあるが、あくまでパロディなのでそれほど期待しないように。深夜にトラックやトレーラーを襲う残虐な事件が多発、そして「トルーパー・トゥルース」の名でブラジルが開設したWEBサイトをめぐってひと波乱。

2001/12/24-9426
ボトムズ ジョー・R・ランズデール
大槻寿美恵 訳
早川書房 2001年11月15日初版発行
2001年12月15日再版発行
   毒毒度:1
“あんたのパパは魂を蹴りつけられたのよ。あんたもね。”

イヴだというのに仕事である。しかし邪魔立てするものは何もないのではかどった。東京ミレナリオもはじまっているし、銀座中央通りあたりではさぞやたくさんのラヴ・ストーリイが展開していることだろう。古井戸の名曲「讃美歌」のフレーズが浮かんでくる。「渋谷は道玄坂、クリスマスもようの歩行者天国に消えていったきみの後ろ姿を追いかけて追いつけなかったとき流したぼくの涙はどこへ行ったの?」
クリスマス・イヴの1冊はハップ&レナードシリーズでおなじみのランズデールによるサザン・ゴシック。MWA最優秀長篇賞受賞作だが、アンソロジー999収録の中編『狂犬の夏』を読んだ人はあえて今これを単行本で読む必要はないのかも知れない。新キャラも登場するのだが、あの情感溢れる中編を長篇にふくらませる必要があったのだろうか。家族の絆、人種差別、クラン、えらく長寿の黒人女性、うわさ話…類似のテーマを扱いながらマキャモンの『少年時代』は泣かすツボをこころえていた。グロ味だったら、『ボトムズ』とは思う。もちろんイヴにフツーの人が読む本ではない。これをクリスマスの1冊に選んでしまったことに、もちろん反省の色はないが。

2001/12/23-9427
翻訳者の仕事部屋 深町眞理子 ちくま文庫 2001年12月10日第1刷発行
   毒毒度:-2
“訳者は役者である”

穂高へ日帰り、あずさの旅。ランズデールの『ボトムズ』を持ったのだが、マキャモンの『少年時代』の直後ではどちらにも失礼のような気がして、単行本で出たときから気になっていた1冊を間に挟むこととする。ハヤカワ書房のSFにはじまり、ルース・レンデルやキング訳でお馴染み、深町眞理子女史による仕事のこと、本のこと。テクニックと心がけ、想像力、スピード。もちろんこれだけでなく、華のあることが翻訳者の芸であるとか。

2001/12/22-9428
少年時代(下) ロバート・R・マキャモン
二宮 馨 訳
文春文庫 1999年2月10日第1刷
   毒毒度:-4
“わたしは間違っていた。死神は理解されないものなのだ。誰でも仲間扱いしてもらえないのが死神なのだ。もし死神が男の子なら、辺りの空気が子供たちの笑い声で小波立っているとき、校定の片隅に独りぽつんと立っているのが彼だ。死神が男の子なら、彼はどこへ行くにも独りだろう。話すときは囁くように話し、人間には決して知りえないなにかを知ったための、妖しい光を目に宿しているだろう”(信じること) 
“ミスター・ロッド・サーリングには、「ゾーン」のはるか彼方まで延びるその才能と想像力に。それからミスター・レイ・ブラッドベリに。あなたの湖はわたしのそれより深く、より甘美で、あなたの瓶にはずっと大きな謎が秘められていて、あなたのロケットはずっと正確にハートへと飛んでいく。ありがとう、本当に、本当に” (謝辞)

愛犬レベルの死があった。転校していく子が空へ向かって投げたボールは落ちてこなかった。カーニヴァルは去り、親友デイヴィー・レイの死があった。父は職を失った。サクソン湖に車ごと沈んでいった男の夢が未だ父を悩ませていたが、黒人居住区に住むザ・レディが父の夢を解明する手助けをしてくれた。キーワードは33。そして33番路線のバスに乗って見知らぬ男二人がゼファーへやってくる。一人の男の腕には、湖に沈んだ男と同じ髑髏の刺青が…。一方コーリーも謎を解きつつあった。あの良い人物が実は殺人犯なのではないかと気づいたのだ。鸚鵡の羽根とドイツ語の罵り言葉が意味したのは?
謝辞を読むだけでも十分泣ける。光の中に見えるのは翼を持った四人の子供、同じように翼を持った彼らの犬達。いろんなことを思い出す。団子割り、カン蹴り、だるまさんがころんだ。フィラリアで助からなかったルル。破傷風菌の棲む船田池。マムシの出る弁天池。丸石の自転車。

2001/12/20-9429
少年時代(上) ロバート・R・マキャモン
二宮 馨 訳
文春文庫 1999年2月10日第1刷
   毒毒度:-3
“わたしはこのとき、勇気とはなにかを学んだ。勇気とは、自分に向けるそれよりももっと強い愛情を他人に向けることなのだ”(オールド・モーゼズの短い訪問) 
“いまやついに骸と化してしまった。わたしは雨のなかに坐りこんで、その思いを噛みしめていた。人間が道具を用いて作り出した物体に魂を付与していたなにかが、ついに壊滅し、パックリとひらいた傷口から水びたしの天上へと飛び立っていったのだ。フレームは折れ曲がり、ハンドルはねじ一つで辛うじてぶらさがっていて、サドルは折れた首のようにあらぬ方向を向いていた。チェーンははずれ、前のタイヤはリムからはみ出し、折れたスポークが小枝のように突き出ていた。かくも無惨な殺戮現場を目のあたりにして、わたしは声をあげて泣きたくなった” (ある自転車の死)

語り手はコーリー・マッケンソン。寒すぎず暑すぎず野球場のある町ゼファーに住む12歳。物を書くことが好き。「フェイマス・モンスターズ」を購読している。働き者で頼もしい父と優しく強い母。愛犬の名はレベル。夏のある日ぼくらが翼をつけて空を飛んでいることを誰の両親も知らない。自転車はぼくらの宇宙船。どこまでも、火星旅行にだっていける。だから、あの日自転車が突然死んでしまったときはそれはそれは悲しかった…。少年時代という魔法の時間、故郷という魔法の土地。コーリーの父だけが目撃した、車の中の死体。人種差別、川に棲む伝説のモンスター「オールド・モーゼズ」の謎。古きよきアメリカのホームコメディを見るようなお約束に満ちた展開に、ミステリとアドヴェンチャーをトッピング。いい話だ。やっぱりマキャモン。

2001/12/18-9430
幻のヴァイオリン アン・ライス
浅羽莢子 訳
扶桑社ミステリー 2001年11月30日第1刷
   毒毒度:1
“まだ音楽が聞こえる。おお、神さま、このただ一人の弾き手が、伸びた草と降る雨と想像の夜、幻の闇を充たす煙を衝いて来て、なおもわたしと共にあり、悲しげな歌を奏で、わたしの頭の中の声に言葉を与えてくれますように。地面がしっとり湿り、土中に生きるものたちが全て、自然で心やさしく、多少は美しくさえ感じられるなか。” 

先月の『トニオ、天使の歌声』に続き「アン・ライスなのにヴァンパイアが主役ではない」音楽小説。ヒロインはトリアナ・ベッカー、54歳。年老いた子供のようなさま。美と才能とは無縁。父母との確執、幼いわが子との死別、夫との生き別れ、末の妹との離別を経て二番目の夫カールを今エイズで亡くした。数日間夫の死骸と暮らし狂気にとらわれんとするとき、ヴァイオリンの音を聴く。ヴァイオリン奏者は、長髪の美貌の若者。名をステファン・ステファノスキーといい、ウィーンに住むロシア人公子。実はステファンは音楽のために父親を殺し、ヴァイオリンのために命を捨てた彷徨える幽霊だ。ステファンの愛器を手にしたトリアナは独創的な音楽を奏ではじめ、おもわぬ運命へと導かれていく。
実の娘を病で失ったことを考えると、音楽と小説の違いはあれアン・ライスの自伝ともいえるだろう。夫の励ましを受けてはじめた創作活動。やがてストーリーテラーとしての才能が開花した。ステファンとトリアナの会話が多少うざったい気もするが…。

2001/12/16-9431
SMALL SPACES
Inspiring Ideas and Creative Solutions
TERENCE CONRAN Randomhouse 9/2001
毒毒度:-5
“Space is the greatest luxury of our time”

ほんとうに小さな空間でも寛ぎのスペースたりえることを様々な写真が教えてくれる。コンラン卿ありがとう。キャビンでもツリーハウスでもトレーラーでも自分だけの書斎。あああそして本の収納が…。

2001/12/16-9432
秘密の保存食 赤堀千恵美 21世紀ブックス 1981年9月20日初版発行
1982年4月1日第26版発行
毒毒度:-3
結構お世話になっている実用書シリーズの1冊。大根おろしやパセリのみじん切り冷凍も教えてもらった。ピクルス、水煮、常備食、保存食のコツ満載。大量に貰った林檎を赤ワイン煮とジャムに加工して日が暮れる。

2001/12/13-9433
筋肉男のハローウィン
13の恐怖とエロスの物語II
レイ・ブラッドベリ他
吉野美恵子訳
文春文庫 1996年11月10日第1刷
毒毒度:1
“力とは単純なもの、生と死ですよ。殺して、死者の血を飲む”(「赤い嵐に襲われて」サラ・スミス)

愛と死のアンソロジー続編。書かれた年代は古く、「ミステリーゾーン」の時代からマッキャン、ドイルまで遡る。当時は十分扇情的だったであろう物語たち。雑誌出版史に名を残すほどの問題作チャールズ・ボーモント「倒錯者」と、愛と死といえばもちろんはずせない吸血鬼もの「赤い嵐に襲われて」が印象的。あいにくラストを飾るドイルは退屈でしかないが。

2001/12/11-9434
レベッカ・ポールソンのお告げ
13の恐怖とエロスの物語
スティーヴン・キング他
大久保寛訳
文春文庫 1994年2月10日第1刷
1997年12月25日第6刷
毒毒度:2
“暴力と血糊はファンタジーやイマジネーションとは関係なく、ただ単に死体の数を競うだけで、狂暴な男らしさを誇示するにすぎない”(「はじめに」ミシェル・スラング)

幻想文学大辞典をもとに、入手可能なホラー集めをしてみた。持っていないものは大抵「現在お取り扱いできません」状態だとわかる。この愛とSEXと死のアンソロジーは私のスキに出版された珍しい例。文春から最近出た『死のドライブ』の長姉ともいえる。キングの表題作にはじまりクライヴ・バーカー「ジャックリーン・エス」に終わる。クライヴ・バーカーは10年ぶり。このスプラッターを超えた凄まじい愛の純度に瞠目。

2001/12/08-9435
芸術的な死体 ジャック・アーリー
大久保寛訳
扶桑社ミステリー 1990年5月25日第1刷
毒毒度:1
“ものとか人間って、どうして見かけとちがうんだい? こんなに知らなければよかった。知ることは死につながる”

足を引き摺りながらでしか歩けないほど親指の付け根が痛む。原因不明。ダッシュなどもってのほか、階段を降りるのもやっとである。家へ帰るやいなやリビングの床に倒れて10時間眠る。まともな食事を摂り、湯舟に浸かってマッサージしてようやく医者に行かなくてもよさそうな状況になった。やれやれ。
ジャック・アーリー(本名サンドラ・スコペトーネ)のデビュー作。サイコな波が押寄せていた1990年頃、「ラザマタズの悲劇」や「9本指の死体」など、結構読んだものだ。舞台はニューヨークのソーホー。ショーウィンドーで血を流したマネキンが発見され、家出した少女の撲殺死体だとわかる。少女の叔父によれば、少女の弟も行方不明。私立探偵フォーチューン・ファネリが捜査してゆくと、麻薬や幼児ポルノがらみの犯罪の可能性が…。ソーホーの芸術家たち、うさんくさいギャラリーのオーナーたち、麻薬とアルコールに溺れる男女、ゲイ、幼児性愛者、家族に暴力をふるう男、離婚する男女、母親を失う子供、父親を失う子供…描き方に節度があるとはいえ1984年当時はセンセーショナルな内容だったに違いない。

2001/12/06-9436
ストレンジ・ハイウェイズ3
嵐の夜
ディーン・クーンツ
白石朗ほか訳
扶桑社ミステリー 2000年5月30日第1刷
毒毒度:-2
“人間は学び、そして変ってゆく。さもなきゃ死ぬしかない” (チェイス)

手足をもがれるに等しい。日常の水曜日があまりに嫌な幕切れ。こんな日には、クーンツの愛と勇気の物語は立派なクスリたりえる。以前ハヤカワNVで読んだSF刑事もの「ハードシェル」と、桜の散りようがファンタスティックな「黎明」は例によって改稿。はじめて原稿料を貰った作品「子猫たち」はブラックな味わい。事件を通じて出会った男女が手を携えて解決に臨むというドワイヤー名義お約束?の「夜の終わりに」改稿版「チェイス」は、主人公が最後には勝利をおさめるのがわかっているだけに安心して?ハラハラできるだろう。

2001/12/04-9437
ストレンジ・ハイウェイズ2
闇へ降りゆく
ディーン・クーンツ
大久保寛ほか訳
扶桑社ミステリー 2000年1月30日第1刷
毒毒度:2
“最上の人間のなかにも、暗闇がひそんでいる。ましてや最低の者ともなればひそむどころではなく、それに支配されている”

週に一度ほど「樹の花」にて遅いランチをとる。ほんの数十分間の旅。ひとりで、大抵本を携えて行く。大きく弧を描いたカウンターで、シナモントーストとミニ豆カレーのセット、ミルクたっぷりのお茶をいただく。歌舞伎座の客も、この静かな二階にはなかなか足を踏み入れて来ない。こういうシチュエーションに合うとは思わないが、今日はクーンツである。改稿と新訳の嵐。「ブルーノ」のノリは好感が持てるのだが1971年作なのにメタリカとかメガデスとか出てくるのは一体どっちのトリック? 

2001/12/02-9438
居心地のいい部屋づくり 西村玲子 幻冬舎文庫 2000年6月25日初版発行
毒毒度:-4
“大きく色彩をととのえて、小さな色彩を遊ぶ”

居心地がよいと一言で言っても、想いは千差万別。休日を過ごすにはショールームのような雰囲気よりも、程よく生活の気配がある場所が好きだ。休日は毒者や菓子職人と化したりするにしても、再生にはダラダラが必須。駅からの家並みにクリスマス電飾で輝くフツーの家が結構目につく季節。BOOK OFFについつい長居して、雑貨の店に寄る時間がなくなった、ちょっと心残り。

2001/12/02-9439
Material World
A Global Family Portrait
PETER MENZEL SHIERRA CLUB BOOKS SAN FRANCISCO 1994
 毒毒度:-2
“Peace cannnot be kept by force. It can only achieved by understanding. --ALBERT EINSTEIN”

30ヵ国から平均的な30家族を選び、暮らしぶりを追い、家の前に家族全員と所有物すべてを並べた写真を撮る。写真家ピーター・メンゼルの企画は1992年12月、日本からスタートした。3メートル離れればすべてをおさめることができる家族もあれば、電柱に上らねばいけないときもある。クウェートではマツダとメルセデスとホンダとミツビシのクルマから後方の家屋まで相当な距離である。
この写真集を知ったのは偶然に見たNHKのドキュメンタリー。写真集出版から約7年後に再びその家族を訪ねるという試みだった。
戦火のボスニア・ヘルツェゴビナで、兵士に守られつつの撮影。7年後に母は亡く、娘の夫の姿もない。家族を弾丸から守ってくれたぶ厚い医学書を見せる父。
死別もあれば離婚もある。夜逃げ同然ですべてをなくしたモンゴルの家族。一番大切なものはなんですか?という問いに、以前は「仏像」と答えた。24時間営業のドラッグストアで借金返済中の妻は、今では「家族」と答える。「だって物はまたいつか買えるチャンスがくるでしょう?でも家族は他にはかえられない」

2001/12/01-9440
吸血鬼 お役者捕物帖 栗本薫 新潮文庫 1987年9月25日発行
   毒毒度:2
“玲瓏、清艶--玉の如き完璧の美貌。しかし、どこか、冷たく翳をおびているのが、いっそあやしくなまめかしい。
 微かな悪の翳といおうか。生きるも死ぬもどうでもよい、虚無とも見えるうすい微笑が、この美しい、端正な顔にはかれて、この人を、とりつきにくく、冷やかに、えたいのしれぬ存在にみせていた”

誰をイメージしたか栗本薫。美貌の若女形・嵐夢之丞を主人公とする「捕物太夫」連作集。素性も素顔も謎という設定。どうやら武家の出身、仇討ちを果し、海岸で生死をさまよっていたところを初音座の座長・嵐駒之丞に拾われたというウワサ。夢之丞初舞台での猟奇殺人事件「滝夜叉ごろし」や「船幽霊」「死神小町」「吸血鬼」などタイトルからして伝奇な味のし上がりである。東スポ的な読み売りの版元や、おなじみの岡っ引きや目明かし、スリ出身の床山、夢之丞を狙う女賊など脇役もお約束。つれないく、余韻を残した結末に悶々とするかも。古本の山から掘り出したが第2作『地獄島』もどうやらそうやって入手せねばならないようだ。

(c) atelier millet 2002
contact: millet@hi-ho.ne.jp