●あと10000冊の読書(毒読日記)  ※再は再読の意 毒毒度(10が最高)

2002-02

2002/02/28-9376
町でいちばんの美女 チャールズ・ブコウスキー
青野 聰訳
新潮文庫 1998年6月1日発行
1999年2月15日3刷
毒毒度:1
“美しさなんて意味ないの、どうせ消えてしまう。醜いほうがどれだけ幸せか、あんたはわかってないの。だって、あんたが誰かに好かれたら、好かれた理由が他にあることがわかるもの”(町でいちばんの美女)
“じゃあな、チャールズ、とうぶんあんたの顔はみたくないよ” (訳するにあたって二、三のこと/青野聰)

なんともめちゃくちゃなじじい…ブコウスキー。一生消えない傷を顔に持ちながらも、生涯女にはもてた。訳者は仕事の最中につらくて投げ出したくなった、本をでなく、一緒に歩いているブコウスキーを…と告白している。翻訳を超えた創作であるとすら言う。それほどまでに苦難の途であったらしい。エルロイの原文が熱に浮かされたような悪文と言われながらも訳書としては十分すぎるほどまとまっている例もあるので、原語で読めないことにも案外利点はあるかも。

2002/02/26-9377
ママがプールを洗う日 ピーター・キャメロン
山際淳司訳
ちくま文庫 1992年12月3日第1刷発行
毒毒度:0
“君の人生で、nと他のすべてのものを加えると、うまくいっているように感じられるような、そんなnを求めよ。nイコール何だ。nを解け” (宿題)

訳者で購入。旅先で購入して気に入った本を訳してみました…という経緯らしい。まさに、あの時代の産物である、事件が起らないところが。主人公たちは、この社会の中ではいごこちが悪く、倦んでいる。

2002/02/25-9378
ICHIRO メジャーを震撼させた男 ボブ・シャーウィン
清水由貴子・寺尾まち子訳
朝日新聞社 2002年3月5日第1刷発行
毒毒度:-1
“この街は弱気になっていた。ケン・グリフィー・ジュニアとアレックス・ロドリゲスに去られ、二度も失恋したのだ。だが、今ではイチローに夢中である”

5フィート9インチ、160ポンド。これが彼に与えられた肉体的条件である。シーズン前、ほとんどの人が、これほど活躍するとは思っていなかったが、春季キャンプをまるでポストシーズンのように騒然とさせ、本人はいたってクール。2001年4月2日の開幕戦でヒットを記録してから、打つわ打つわ242安打。伝説のシューレス・ジョー・ジャクソンの新人安打記録を塗りかえたほか、打率と盗塁数はリーグ首位、オールスターゲーム出場、新人賞どころかMVPまで獲得してしまった。「たたき打ちのスルタン」であり、全米をうならせた『ザ・スロー』のような素晴らしい肩を持つ。みんながそのプレーに釘付けなのだ、ファンのみならず、他球団の選手ですらも。
マリナーズ番記者によるノンフィクション。個々の場面は暮れのNHKで見たことばかりなので、内容にそれほど新鮮味を感じない。ICHIROのマスコミ嫌いと言葉の壁が著者に距離をおかせているのが残念。もうすぐオープン戦がはじまる。ICHIROにとって、著者にとって、世界中のベースボールファンにとって心おどるシーズンとなるだろうか?

2002/02/24-9379
朝日のあたる家V 栗本薫 発行・光風社出版、発売・成美堂出版 2001年12月25日発行
毒毒度:2
“俺は…良と…生きてゆきたいと思ってるんだから”

ふたつの魂が出会い、互いにそうとは知らず惹かれ会い、傷つき、再び巡り会い、真実にめざめ、このラヴストーリイも終わる。時速200ページ一気読み。気がつくと、熱に浮かされたかずいぶん具合が悪い。

2002/02/23-9380
エンディミオン(下) ダン・シモンズ
酒井昭伸訳
ハヤカワ文庫SF 2002年2月28日発行
毒毒度:5または-5
“祈ったのではない。その被造物たちにこんなふうに相争わせる宇宙神のことを考えていたのだ。どれだけ多くの類人猿や哺乳類が、その他の何兆もの生物が、最後の瞬間、こんな恐怖をいだいたことだろう。どれだけの個体が、心臓をはげしく搏たせ、アドレナリンを全身に横溢させ、それによっていっそう疲弊しつつ、貧弱な精神で絶望的な脱出の方策をさがしもとめたことだろう。みずからを慈悲深い神、もしくは女神と名乗る存在に、こんな牙の生えた捕食動物を宇宙に満ちあふれさせるようなまねがどうしてできたのだろう”
“もう復活槽にもどる余裕はない。だが、船の行動に関して特殊な命令手順を呼びだし、優先コードを打ちこみ、その命令を厳守させ、モニターのパラメータを変更し、それをもう二回くりかえすだけの余裕はあった。三度めの優先割り込みに対し、確認の応答があった。同時に、大天使は量子ジャンプを行ない、超光速に移行した。
量子化によって、デ・ソヤは文字どおり、カウチのなかでズタズタに寸断された。だが、死にゆく彼の顔には、凄絶な笑みが浮かんでいた”

アイネイアーとロール、A・ベティックは、記憶が定かでない宇宙船(笑)、空飛ぶ絨毯、筏(!)を使っての逃避行を続ける。かつての転位ゲートはアイネイアーのために開く。あのシュライクも姿を見せ、筏に一緒に乗ったり!するのだが、何を考えているのやらわからない。少なくともアイネイアーを傷つけることはなさそうだ。稀少な友人と出会い、助けられる。だが別れたあとで、彼らの死を感じる。
そして追跡者がいた。デル・ソヤ神父大佐。アイネイアーを生きたままとらえるという使命をおび、何百回というむごらたしい死と痛みのともなう復活を乗り越える鋼の精神。だがある日、悪意の塊ラダマンス・メネスが遣わされてきた。その目的はアイネイアーを殺すこと…。
物語が読みたかったら、すぐに手にとることだ。第3部は今までよりも軽いタッチで綴られているように見える。ロールにしても、優れた語り部であったであろうロールの婆さまにも、途中で出会う盲目の神父にしても、本を大事に読むことを人生の喜びと感じているところに好感を持つ。老詩人との約束はまだ途中までしか果されていない。山ほどの謎を抱えたまま第3部は終わってしまう。『ハイペリオン』が2000年11月、『没落』が2001年3月、この2002年2月から、いつまで待てばいいのだろうか?

2002/02/22-9381
エンディミオン(上) ダン・シモンズ
酒井昭伸訳
ハヤカワ文庫SF 2002年2月28日発行
毒毒度:5または-5
“「乾杯じゃ--愚かさに。聖なる狂気に。尋常ならざる探究の旅に、曠野で叫ぶ救世主に。暴君の死に。われらが敵の混乱に」
 ぼくはグラスを口もとに持っていきかけたが、老人のことばはまだおわっていなかった。
「ヒーローに--床屋で散髪するヒーローに」”
“ロール・エンディミオン。恩知らずみたいに見えたらごめんなさい。命懸けで助けてくれてありがとう。この旅につきあってくれてありがとう。わたしたちのだれひとりとして、どこへ到達するのか想像もできない--そんな大がかりで複雑な冒険に乗りだしてくれて、ほんとうにありがとう”

故郷の空の色は瑠璃色(ラピスラズリ)。ぼくの名はロール・エンディミオン。惑星ハイペリオン生まれのアウトサイダー。もと兵士。ブラックジャックのディーラー、船頭、造園職人の見習い、狩猟ガイド…語るに足る人生ではなかったと思う、そう、27歳で最初の死刑宣告を受けるときまでは。この世界を統べる〈パクス〉の聖十字架の秘蹟を拒否し、ぼくは死刑に処せられたはずだったが…なぜか老詩人の家で目覚め、奇妙な依頼を受けることとなる。ブローン・レイミアの娘アイネイアーを〈パクス〉の手から救い出し、アイネイアーが〈教える者〉となるまで一緒に旅をして、盗まれた地球を見つけもとの場所に戻し、〈テクノコア〉のもくろみをくじき、〈アウスター〉と接触し老詩人に真の不死をもたらし、パクスを滅ぼし去る、さらに、人類を滅ぼさんとするシュライクの動きを今止める…これだけのことをぼくは引き受け、旅に出た。領事の宇宙船で、アンドロイドのA・ベティックとともに。
読ませる、読ませる。勢いで読む。いつかどこかで懐かしいエピソードがちりばめられ、思い描ける映像効果も。ダン・シモンズ版オズの魔法使い。ロビンソン・クルーソーもちょっぴり。アンドロイドの働きは『エイリアン2』のランス・ヘンリクセンを思わせる。ロールが最初の死刑宣告を受け、司祭の訪問を受けるくだりはカミュ『異邦人』だったりして。

2002/02/20-9382
楽園の骨 アーロン・エルキンズ
青木久恵訳
ミステリアス・プレス文庫 1997年12月15日初版発行
毒毒度:-2
“よく思うんですけどね、どう見ても単純で簡単な事件のはずなのに、あなたに依頼すると必ず、あっと目をむく、とんでもなく複雑怪奇な事件になってしまうのは、いったいどうしてでしょうね”

FBI捜査官ジョン・ロウの家族に不幸が起きた。叔父のニックはタヒチでコーヒー園を経営しているが、娘婿のブライアン・スコットが事故死したのだ。過去にマフィアといざこざがあったこともあり、ジョンは死因に疑いを持つ。調査を依頼されたギデオンは、愛妻ジュリーを残してタヒチへ飛んだ。ところが着いてみると、ニックは遺体の発掘申請を取り下げているではないか! 警察に内緒で墓掘りを開始したギデオンとジョンが発見したものは? 特にドンデン返しもないのは、舞台がのんびりムードのタヒチだから? 殺人も2件どまりだし、毒といえば、タヒチの気候の中で1週間たつ間に死体がどうなるかとか、発掘した遺体の骨を調べやすくするためにどういった処理をするのかとか程度のことで…。ええい、そして、こんなことをしている場合ではないのだ(スケルトン探偵ごめんなさい)。『エンディミオン』の発売ではないか。

2002/02/18-9383
ドラキュラ崩御 キム・ニューマン
梶元靖子訳
創元推理文庫 2002年1月25日初版
毒毒度:4
“ローマは吸血鬼(ヴァンピリ)にとって安全な場所ではありません。彼らは人間を狩るものを自称していますが、ここには彼らを狩るものがいるんです。このボイア・スカルラット〈深紅の処刑人〉は終戦以来、いくつもの凶行を重ねてきました。犠牲者はすべて長生者(エルダー)です”
“わたしにとって彼の印象は、いつも深い悲しみに包まれた男だ。転化とともに何かを失ったのだよ。ほとんどのヴァンパイアはそうだ。きみたちも例外ではない、死を忘れたお嬢さんたち”

1959年のローマ。『紀元』で青年だったチャールズ・ボウルガードは転化を拒み続け、愛するジュヌヴィエーヴに見守られながら死に瀕している。チャールズを見舞うためにローマを訪れたケイトの眼前で女優マレンカとケルナッシ伯爵が惨殺された。エルダーばかりを狙う〈深紅の処刑人〉の正体は? 次なる標的は、ドラキュラ伯爵なのか? 2000年6月22日にシリーズ第1作『ドラキュラ紀元』を読んだときはへとへとだった。なにせ温血者(ウォーム)、不死者(アンデッド)、長生者(エルダー)と新生者(ニューボーン)、切り裂きジャックとドラキュラ公と英国諜報部員が入り乱れての世紀末ロンドン大絵巻。実在であれ、他者の手になる小説の主人公であれ、2人に1人は事典をひいてみないと素性がわからぬ登場人物300人ときてはもう! 続いて2000年7月9日に毒破した第2作『ドラキュラ戦記』ではまたまた荒唐無稽、レッド・バロンが血の空中戦を繰り広げた…そして待望の第3作である。黄金のローマを舞台に、吸血鬼映画のみならずありとあらゆる映画のモティーフがちりばめられている。おなじみの主人公たちの他、女王陛下の諜報部員ヘイミッシュ・ボンド(二度死ぬとはこのニューボーンのためにある言葉か)、若き犯罪者トム(『太陽がいっぱい』のアラン・ドロン)、ローマの新聞記者マルチェロ(もちろんマルチェロ・マストロヤンニ)らが絡んで…。

2002/02/16-9384
地獄島 お役者捕物帖 栗本薫 新潮文庫 1988年11月10日発行
  毒毒度:2
“夢之丞はまがうかたなき一個の悪魔、疫病神--わたくしに近づけば、人は死に、狂い、世を呪い、あるは運命狂い……その人びとの呪い、うらみ、にくしみが凝りかたまって、どうせ長生きはならぬこの身--なにもこの上、好き好んで、罪つくりをかさねたいと、どうしてわたしが思いましょう”
“鬼哭とも、自嘲とも、哄笑とも--つかぬわらいがあやしくこの麗人の、血の気のないおもてをふちどって、おりからさしこむ名残りの月の光をあびて、夢之丞の瞳はあかく、その唇は、かみきった血潮にぬれているかにさえ見えた”

『吸血鬼』の続編をやっと収穫。初音座の若女形・嵐夢之丞が姿を消し、座長・嵐駒之丞も行方知れず。あのあでやかな姿をもう一度見たいと恋こがれる女スリ・切支丹お蝶が、夢之丞に瓜二つの御新造を助けたことから巻き込まれていく事件。夢之丞の生い立ちとほんとうの姿とは? 大好きな『眠狂四郎』をも思わせるノンストップ伝奇時代ロマン仕上げ。せりふ回しが心地よく、時速200ページも可能。

2002/02/14-9385
闇の公子 タニス・リー
浅羽莢子 訳
ハヤカワ文庫FT 1982年10月31日発行
1994年3月31日9刷
 毒毒度:3
“女の美は死にも等しく、ジュリムを食い尽し、自らを以てその殻を満たした”

ドルーヒム・ヴァナーシュタを治める妖魔の王アズュラーンをめぐる物語。タニス・リーの世界は、こうしてみると『アルスラーン』と『グイン・サーガ』の故郷のような存在か。ペルシアの古き物語がときには真珠、翡翠、青玉から紅玉へ緑玉へ、さらには死を招く金剛石となり、われわれの眼前によみがえるのだ。

2002/02/13-9386
黒い文学館 生田耕作 中公文庫 2002年1月25日初版発行
   毒毒度:4
“ひとたび愛書家になれば、永久に「愛書病患者」としてとどまる以外にない”
“今や情熱は拡散する一方の時代ですが、情熱を一点に集中しそれで身を滅ぼす人間のほうが私には好ましいわけです。書物は人智がつまったもので、造本には工芸が見られ、挿絵には美術がある”

遅いランチを「樹の花」にて。たまには異空間で本を開くことも必要である。ビブリオマニアのための一冊は、京都祇園生まれ、類いまれなるダンディズムを貫いた、孤高の仏文学者による評論集。マンディアルグ、バタイユ、セリーヌ、レチフら、異端文学の魔力、毒書の魅力がそこかしこに。アルフォンス・イノウエの表紙絵が優雅なるエロスを感じさせる。読書、罰せられない悪癖…腰巻きのコピーに感涙。平積みの本の中でひときわ異彩を放つのであった。

2002/02/12-9387
嵐の獅子たち
グイン・サーガ第83巻
栗本薫 ハヤカワ文庫JA 2002年2月15日発行
   毒毒度:2
“彼はいずれ、人を裏切る。--それがわかっていて、手を組むのはむしろ、そのあいてに対して無礼だといってもいいくらいだ”
“ひとの信頼を裏切らぬのは、簡単なことなのだよ。それは、ごく単純に--信頼を裏切らなければそれでよい”

リンダとスニを伴ってクリスタルを脱出したグインは、ケイロニア陣へと帰還、リンダをマルガへ送る手はずを整えた。一方、パロへ攻め込んできたイシュトヴァーンの元へナリスからの使者は姿を見せない。またしても俺は捨てられるのかと酒に溺れるイシュトヴァーン。そんなゴーラ軍へ奇襲をかけてきたのは、アルゴスの黒太子スカール。血に飢えた狼と、妻の復讐に燃える草原の獅子が今、パロの地にて激突! 
『アルスラーン戦記』での10年の遅れを一気に取り返してしまったところで、月刊?『グイン・サーガ』を手にする。キム・ニューマン『ドラキュラ崩御』も届いたことだし、2月はダン・シモンズ『エンディミオン』を読めば、もう満腹?

2002/02/11-9388
アルスラーン戦記10
妖雲群行
田中芳樹 角川文庫 1999年12月1日初版発行
   毒毒度:0
“魔道で国を建てることはできませぬが、国を滅ぼすことはできる”

蛇王ザッハーク再臨か? アルスラーンと取り替えられた王女とは、もしや女神官見習いレイラなのか?という疑問数々残してこの作家はまた数年間も読者を待たせるのであろう。『グイン・サーガ』との大いなる相違は、あちらがはや83巻であるのに対して、こちらは約10年で10巻。客人たちを駅に捨てるやいなや、人妻が家出してきたので、梅見など。木によって香がちがうのは当たり前だったか。

2002/02/10-9389
少年よ
萩尾望都イラスト詩集
萩尾望都 白泉社Cherish Book 1976年12月25日初版発行
1977年1月25日2版発行
   毒毒度:2
BOOK-OFF児童書コーナーにて発掘。メリーベルがいてユーリもエーリクもアロイスもいる。人々の営みと、星々の悲しみと、帰っては来ない少年たち。当時のことだから生憎印刷上がりが美しいとは言えないが、この詩心と哲学には平伏すしかない。

2002/02/10-9390
アルスラーン戦記9
旌旗流転
田中芳樹 角川文庫 1992年7月20日初版発行
   毒毒度:1
“血統にこだわるというのは、結局生きる姿勢がうしろむきということなのだ。血統がしめすものは過去の栄光であって未来の可能性ではないからな”
“芸術家と宗教家は、しばしばかえって人を迷わせるものじゃ。だからといって、おぬしが真の芸術家というわけでなないが”

海水浴のメンバーで落ち葉炊き&かもすきの夕べである。かもすきは、茂原街道沿い「まつや」にて。銀河高原ビールの生が、いたく美味。うどんのあとはおじやでしめて満足満足。栗本薫『グイン・サーガ』では竜王ヤンダル・ゾッグ、こちらは蛇王ザッハーク。魔道士やら有翼猿鬼やらも出そろって妖なる兆し。そういえば徳間のデュアル文庫版『銀英伝』本伝が完結したようだ。当時ラストシーンを読んだ私たちは「これってミッターマイヤーの物語だったのかー」と愕然としたものだったが。

2002/02/08-9391
「乗ってきた馬」亭の再会 マーサ・グライムズ
山本俊子 訳
文春文庫 1996年5月10日第1刷
 毒毒度:0
“ものを書くのは、油に汚れた苦しい人生の営みとはまったく関係ない。そう、仕事にはちがいないが、ティーカップに露を集めるとか、月に星を釘でとめるとか、そういう種類の仕事なのだ。”
“メルローズは図書館が好きで、騒がしい世の中のオアシスかサンクチュアリのように思っていた”

またJRが遅れていた。今日は最初からバスには間に合わない時間なので、腹もたたないが。油で汚れた人生の営みの帰途、ホっとできるパブシリーズ。舞台は主にアメリカ。というのも、レディ・ケニントンの知人の甥の死を調査すべくジュリーはボルティモアへ向かうのだ。ウィギンズと、メルローズも同行。スポーツや食べ物、飲み物の違いにいちいちオドロキながらの珍道中。野心的な女子学生とホームレスの死も実は関連があるらしい。キーワードはポーの偽作と爵位。果してメルローズは作家への道を歩むことができるのだろうか? レディ・クレイやレディ・ケニントンなど今までの事件で出会った人物を再登場させる手際は見事。殺人の動機探しはともかく、犯人があっけなく捕まり、もの書きゲームの部分が多いのはちょっと冗漫。

2002/02/07-9392
無印おまじない物語 群ようこ 角川文庫 1997年1月25日初版発行
   毒毒度:1
“「くそー、また水晶か」
私の体のどこの汚れを浄化すれば、結婚できるというのだ。
「ふざけんじゃないわよ」”

最終バスに間に合うよう退出してきたのだが、架線事故で乱れているとJRは言う。そしてしまった、今日読み終わるはずのパブシリーズをうっかり会社に置き忘れているではないか。落胆せずにいられる本を、コンコースで購入、所要時間は1分。お約束をゼッタイハズさない作家ということでこの人の出番だ。女の人が一人で生きていくことと、「おまじない」のカンケー。おまじないに異常なまでにハマる人にひとこと「けっ」と言える本。ちなみにバスには間に合わず、「けっ」と思いながらタクシーに乗った。

2002/02/04-9393
アルスラーン戦記8
仮面兵団
田中芳樹 角川文庫 1991年12月10日初版発行
   毒毒度:0
“正義はかならず勝つ、という考えは、力が強い者がかならず勝つ、という考えより危険でございます”

前巻から3年、次なる戦いがはじまろうとしている。要するにお家騒動と国盗り物語なわけで。パロとパルス、ナリスとナルサスそしてさし絵は天野喜孝。栗本薫『グイン・サーガ』との類似点が気になるが、結構淡々としていて、感情の迸る『グイン・サーガ』とは対照的。

2002/02/03-9394
アルスラーン戦記7
王都奪還
田中芳樹 角川文庫 1990年3月25日初版発行
2002年5月10日14版発行
   毒毒度:1
“朝焼けと夕焼けとを同時に見ることはかないません”

田中芳樹といえば『銀河英雄伝説』である。その昔友人宅で、湾岸戦争をBGVに全巻並べたて、宿題には12チャンネルで深夜放送されていたアニメの録画を持たされるという英才教育を受けたものだが、その後友人たちはビデオのみで発売されはじめた続編を次々借りまくり、私はといえば道原かつみのコミックにも手を出した。さらには『タイタニア』にもこの『アルスラーン戦記』にも至るわけだが、錦糸町の映画館でアニメ『アルスラーン戦記』を見たところで記憶は途切れている。あれから10年。どうやら6巻目で購入を辞めていたのだが、突如復活! 若き身空で多大な苦労をしたあげく、雄将や智将に育てられ守られながらついには国王となるアルスラーン王太子の物語。

2002/02/03-9395
特ダネをつかむ女 エドナ・ブキャナン
鴻巣友季子 訳
扶桑社ミステリー文庫 1997年7月30日第1刷
   毒毒度:1
“マイアミにないものはない。戦争、過酷な気候、国家間の陰謀、スパイ、難民問題、街角の至近距離での撃ち合い。記者にこれ以上なにが望めよう?”
“成功する女たちは男の一員となり、姉妹たちに背を向ける。グレッチェンのように。わたしたちは敵の姿を見てきた。敵は女なのだ”

わたしはブリット・モンテーロ。マイアミ・デイリー・ニューズの記者だ。猫のビリー・ブーツと、亡くなった親友の飼い犬ビッツィーと暮らす。職業柄、恋をしている暇もない。グアピッシモ(文句のつけようがない)にイイ男、マクドナルド警部補とのロマンスはお預け状態。有能な図書資料室員のトリッシュに好感を持ったわたしは、彼女が希望のポストにつけるよう応援した。晴れて記者となったトリッシュはスクープを連発。成功を祝福しながらも、特ダネをものにできる状況に不自然さを感はじめた。やだ、わたしったら、やっかみなんかしていないはず。やがてトリッシュはわたしの職域を侵しはじめる…。人も街も裏切ることはある。わたしに着せられたのは何と第一級謀殺の容疑。今や戦いは地位と名誉を賭けたものではなくなった。人生の締め切りが迫っていた…。
刺激的なマイアミで事件を取材するブリット・モンテーロのシリーズ第3作。いつの時代も、どんな世界も、食うか食われるか。一方で、親友といえる報道写真家ロティ、しわくちゃのシャツに詩人の心を隠した同僚ライアンの存在にブリットも読者も救われている。第2作をとばしてしまったがいたしかたあるまい。今日の私は自分に甘いのだ。

2002/02/02-9396
ただのいぬ。 写真・服部貴泰 詩装幀・小山奈々子 ピエ・ブックス 2001年12月14日発行
   毒毒度:-3
“えんとつには ふたがありません”

ころころと無防備。小犬には子猫にはない別の愛らしさがある。警戒心がない。撮られるまま。最初に寄った古本屋で、思わずSUPER SEVEN FILE2をただ同然(\4000→\300)で買ってしまい運搬キャパが一杯だったので、ナマ本屋で立ち読みしてしまった。近日中にプレゼント本として購入を予定する。ただという言葉にひとひねりあるのは巻末まで行かないとわからない。

(c) atelier millet 2002
contact: millet@hi-ho.ne.jp