●あと10000冊の読書(毒読日記)  ※再は再読の意 毒毒度(10が最高)

2002-08

2002/08/27-9258
ファンタジイの殿堂
伝説は永遠に 3
ロバート・シルヴァーバーグ編
斉藤伯好・他訳
ハヤカワ文庫FT 2000年12月15日発行
   毒毒度:1
“暗闇にあってこそ光がある”(「ドラゴンフライ」アーシュラ・K・ル・グィン)

おなじみ『時の車輪』『ゲド戦記』『オステン・アード・サーガ』『ディスクワールド』の外伝特集。とはいえ、私にはどれもお初なわけで、さらに翻訳のせいかきょとんとしてしまうこともしばしば。こうしてみると、河出の20世紀SFシリーズって読みやすいんだよなあ。そして毒書すすまず。

2002/08/23-9259
強くて淋しい男たち 永沢光雄 ちくま文庫 2002年8月7日第1刷発行
   毒毒度:4
“組織という観念をやっとうっちゃった解放された闘いぶりを見せている。仕事ではない。木村健吾が、心から闘っている” (木村健吾)
“スポーツとは自分をいかに表現してみせるか、という行為であり、観客の感動や勝敗などはその行為の後で結果としてついてくるもので大した意味はない。だが時には、絶対に勝たなければいけない、勝つべき試合というものがある”(葛西裕一)
“人間が生き続けるのは難しい。それは、犬や亀が生き続けることより、難しい。人間は、犬や亀よりも、死を恐れているからだ。だから、毎日毎日、辛い” (ドッグレッグス)

本当にせっぱつまらなくては腰を上げず、もの書きになりたいのに何も書けない。インタビューの仕事をやっと貰えたと思えば沢木耕太郎を意識してしまう、動機がないのだ自分には。格闘技のことなど知らないのだ何も、というスタート地点からして情けないのだが、合間に挟まれる私生活では女に逃げられてばかりでこれまた情けない。そんな「弱くて淋しい男」永沢光雄が書いた「強くて淋しい男たち」である。格闘技、ボクシング、競輪…。佐竹雅昭が高校時代から独学で空手家を目指したことを知る。滝沢正光が練習の虫だということは知っていたが適正組出身だとは知らなかった。『おとなの特選街』に書き、同じ主人公をテーマに『毎日中学生新聞』へも書く。これもまた不思議な味わい。

2002/08/18-9260
運命の糸車
グイン・サーガ第86巻
栗本 薫 ハヤカワ文庫JA 2002年8月15日発行
   毒毒度:2
“私はその日だけを信じて生きる希望としているんだよ。…私とグインが出会ったとき、必ず何かが起きると。…それまでは死なぬ、決して死なぬ”

ううう。ねぶ。ただでさえ少ない夏休みは見事にぶっとび、日曜の朝に仮釈放。ウエディングやって全米行ってタヒチ、ニューカレドニア、タイ5大王朝…合間に深夜の居酒屋で飯食うこと数回、朝のもらい湯数回、今はアジアのビーチをうろうろ(仕事の話ねこれは。しかし人間の想像力は無限ですなー。)何日かぶりの毒書である。おおお、いきなりカメロン登場。愛するイシュトがよりによってこの世で一番戦いたくない相手のグインと、そして二番目に戦いたくない相手スカールともぶつかっているのだから、ボやくのも無理はない。ア◯〜◯スの衝撃的な自害という大事件もあって、100巻めざし疾走するグイン・サーガ。これを見届けるだけでも生きてゆく価値はあるな。

2002/08/14-9261
ゲルマニウムの夜 王国記I 花村萬月 文春文庫 2001年11月10日第1刷
   毒毒度:2
“しん…とした秘めやかな植物独特の腐敗の香りが立ち昇って、僕はうっとりとしてしまった。植物が朽ちて腐って、たとえばこの楡の葉のように葉脈を徐々に露にしていく姿は本当に控えめで好ましい”

だが、そうれに比べ動物は。放浪歴のみで作家となった男の芥川賞受賞作。この路線ではひたすら異邦人である人間が描かれる。だが登場人物の造形やエピソードは『イグナシオ』で読んだことでもある。そして『イグナシオ』の方が衝撃的だった。巻末に小川国夫との対談。たしか蔵書が極端に少ないと言われる萬月だが、小川国夫全集と自らの作品は揃えていた。ふうんなるほどね。

2002/08/13-9262
ジャンゴ 花村萬月 角川文庫 2000年10月25日初版発行
   毒毒度:4
“なあ、沢村さんよ。芸術家ってのは、犯罪者に似ているな”
“だれもが異常者であり、自殺者だ。自殺者の群れだ。”

芸能プロを率いるヤクザ山城とその美貌の妹麗子の怒りを買い、巨人症のオカマ、ミーナにいたぶられたギタリスト沢村。「指の動かない天才ギタリスト」ジャンゴ・ラインハルトとして生きていけるのだろうか? さまざまなカタチのアウトロー、異邦人、フリークスが登場する。そして山城と麗子の近親相姦的な関係やジャンゴ・ラインハルトにまつわる物語は、花村ワールドのモチーフとしてもはや馴染み深い。行きつく先はフォービートの死。自意識を崩壊させられた男が放つ復讐の凄まじさ。音楽は聞こえるが、『ゴッドブレイス物語』や『風に舞う』路線とは全く違う音である。

2002/08/12-9263
風に舞う 花村萬月 集英社文庫 1998年11月25日第1刷
   毒毒度:2
“ただ、女という生き物は卑屈な男を嫌います”
“俺が惚れたのは、ジュンのルックスをも含めた、人間としての、音楽家としての基本性能の高さだ”
“俺たちを繋ぎ合わせているのは、友情とかいう甘くやさしく麗しいものではない。音楽という名の苛烈な神様だ”

『ゴッド・ブレイス物語』『渋谷ルシファー』に続く音楽小説ラインの作品。かつて武道館をも一杯にしたバンドのリーダー兼ギタリストだった武史。今はビル清掃のバイトをしながら、自分の本当の音楽を求める日々である。小説家志望の女子大生・操と知り合い、恋人同士となり、やがて操は文学賞新人賞を受賞し、華々しくデビューする。メンバーを集めた武史には、向井という凄腕プロデューサーがつき、京都での録音が始まった…。
音楽、特にブルースが聞こえる花村作品だが、今回はちょっと物足りなさを感じてしまう。中途半端感。魅力ある脇役も多数存在するのだが、ヤクザ笹山など、自主製作映画に友情出演している大物俳優風で、もったいなさすぎる。

2002/08/08-9264
いつかどこかで。 金子達仁 文春文庫 2002年8月10日第1刷
   毒毒度:3
“いまも自分がライターなのかジャーナリストなのかわからないでいる。しかし、今回の取材を通じて痛感したのは、この二つのジャンルは一個人の中で両立しえないのではないか、ということである。
改めて、思い出したことがある。私は、ライターになりたかったのだ。”
“いま闘えない奴は、明日も闘えない。いま自分を追い込めない奴は、明日も追い込めない--最近、強くそう思うようになった”

ナンバーに好評連載していたエッセイが単行本になり、こうして文庫になってきた。木曜朝の通勤電車で滲んだ涙を人に気づかれないようぬぐい本を閉じて闘いはじめて56時間後、やっと執行猶予付きで解放される。睡魔に勝てなかったし、夜中に喧嘩もしてしまったし、フィルムの出し直しもしてしまった。外へでると、こんなに暑い日にでも戸外でスポーツ浸けだったことが信じられぬくらい暑い。どちらがまともかと言ったらどちらもマトモではないような気もするが。あの暑くて熱いスズカの記憶も、近づく勝利に痺れるような快感を覚えた1993年7月4日の記憶も。さらに遡れば、神鍋のあの坂で浴びた声援も、ホースでかけてもらった冷たい水も。その記憶達がしまわれて、知らないうちに鍵をかけられることなどないように今は願うのみである。

2002/08/05-9265
時間線を遡って ロバート・シルヴァーバーグ
中村保男 訳
創元SF文庫 1974年7月12日初版
2001年8月24日11版
   毒毒度:1
“「見つけだすんだ、その女を!」とメタクサスは叫んだ。「そいつとファックしろ! すごい歓喜だぞ! すごい恍惚! 空間と時間など知ったことか、無視してしまえ! 神の目玉の中にきみの指を突っ込め!」”

時間旅行ガイドであるジャッドは先輩ガイドメタクサスの下で、傲慢というものを身につけた。メタクサスは自分の祖先を克明に調査していて、曾祖母とも寝る男である。メタクサスに強くすすめられたジャッドはビザンチン帝国で自らの先祖にあたる絶世の美女パルケリアと出会い、コトに及び、再会を誓ったのだが…ジャッドが随行する客に、タイマーに細工して行方不明になるという不届き者がいたせいで、ひどく慌てたジャッドはジャッドBという分身を生み出してしまう。同僚ガイドたちの奔走で事なきを得たに見えたのだが、思いもよらぬ悲劇がジャッドを待ち構えていた…。
まあ一言で言ってしまえばポルノSF? 終盤、書き換えられた歴史を元に戻そうと奔走するあたりからページをめくりたいピッチが早まってくる。シルヴァーバーグという人は、ある時期「小説工場」だったかと思えば「ノンフィクションの大家」だったりするのが面白い。私にはアンソロジストという一面が馴染み深い。

2002/08/03-9266
ダメージ--そこからはじまるもの-- 乃南アサ 新潮文庫 2002年8月1日発行
   毒毒度:-2
“ものすごくみんな、ないものねだりと欲張り。欲張りすぎ。私、人間、欲張りでいいと思うし、だから人はだんだん進歩するんだから、絶対それはいいと思うけど、すぎてると思う。あれもこれも欲張りすぎ。人間、手は二本しかないんだから、大事なおおきなものだったら両手で一個持つのがやっとなんだから。全部の指に指輪はめたいって言ってるようなもんじゃないですか。下品よ、それ。第一、殴られたら痛いですよ、そんなもので”

先週から盆進行で不規則な通勤、そして今日は通勤本を持たずして家を出てきてしまった。朝からキオスクで本選びである。乃南アサの作品はホラーしか読んでいないのだが、底意地の悪いヒロインが登場するので、こういう悪意が書ける人は実は人の痛みがすごくわかる人なのではないかと思っていた。そんなところにこのモノローグというか、お悩み回答スタイルのエッセイ?である。お悩み相談一刀両断のさなかに実は自分の人生が語られていてなかなか面白い。

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