| 2002/10/31-9206 | 
								
									| オイディプスの刃 | 赤江 瀑 | ハルキ文庫 | 2000年6月18日第1刷発行 | 
											再    毒毒度:3 | 
								
									| “彼は、少し苦しいと言い、苦しいことはおれは好きだ、と言った” 赤き吊り床に死は棲みて。若い研ぎ師の腹に刺さった魔性の名刀「次吉」。三兄弟の運命を狂わすラベンダーの香。大迫家を壊滅させた、真夏の惨劇。あの日一体何があったのか? その昔、赤江作品に耽溺していた話は何度もしている。ほとんど単行本で読んだ、この作品もその中の一冊。懐かしくて手にとった。
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									| 2002/10/30-9207 | 
								
									| 貴ノ花散る 相撲小説集 | もりたなるお | 文春文庫 | 1990年1月10日第1刷 | 
											    毒毒度:2 | 
								
									| “このように、みやびな若武者ぶりを、後にも先にも、見たことがない。 大銀杏に結った髷は、濡羽色に輝き、金襴の縁取りをした化粧まわしが、鮮やかに目を射た。眉はあくまでも濃く、鼻すじ高く、口もとは可憐でさえあった”(貴ノ花散る)
 朝日に匂うほどの貴ノ花の若武者ぶり。徳俵で懸命に弓なりになってこらえ、あるいはまた巨漢のつりを蝉のように凌ぎ、一瞬の隙に勝利する。乱れた髷と、妙に艶めいた富士額。ううーん、思い出すね。息子たちより数倍絵になる関取だったと思うのだ貴ノ花は。いくら今はサエない双子山親方であっても。 | 
							
							
								
									| 2002/10/29-9208 | 
								
									| ハード・ラック・ウーマン | 栗本薫 | 講談社文庫 | 1990年5月15日第1刷発行 | 
											再    毒毒度:1 | 
								
									| “こいつはブルースだった” “何一つ、もっていなかったライ、何にもできなかった女、ダメな奴、性格破綻者、しょうもない奴--だが、とにかく、ライは必死の気迫だけはあった。”
 オレ達のバンド「ナイトメア」のグルーピーが殺された。ライ。ライオンのライ。オレはそいつと寝たこともないし、名前も知らなかった。ボーカルのマサトがからんでいるのではと調べはじめたオレには、しだいにライの痛みがわかりはじめてきた。ロックミー。ラック。バッドラック。あのころのオレ達がいるわけだ。栗本薫のこの手の作品はゼッタイ読んでるはずなのに、わざわざ買って(しかもBOOK-OFFでだよ)再毒してしまったとさ。
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									| 2002/10/28-9209 | 
								
									| 獣たちの墓 | ローレンス・ブロック 田口俊樹 訳
 | 二見文庫 | 2001年1月15日初版発行 | 
											   毒毒度:3 | 
								
									| “「おれは犯人を死なせたい。おれは犯人が死ぬ場面に立ち会いたい。犯人が死ぬところを見届けたい。この手で地獄に送ってやりたい」彼はそれだけのことをなんの抑揚もなく、感情も一切まじえずに言った” “マット、おたくの手先がどれだけ器用なのか、ブラインド・タッチでキーボードが打てるかどうか、それは知らないけど、それから、おたくは機械にはあんまり強くないみたいだけど、これだけは言えるよ。おたくにはハッカーのハートと魂がある”
 レバノン系麻薬ディーラーの妻が誘拐され、コマ切れにされて還ってきた。復讐に燃える夫キーナンはAAに通う兄の紹介でスカダーに捜査を依頼した。未解決の殺人事件が2件、さらにレイプのあげく乳房を切除された被害者の存在が明かとなる。犯人の目当ては娯楽。元・アル中探偵マット・スカダー・シリーズで、《倒錯3部作》のラストを飾る作品。エレイン、TJ、さらにハッカーの協力でいつになくハイテクな捜査。長い辛い一夜を越えてエレインに心中を明らかにするスカダー。《倒錯3部作》でこのふたりの仲はかなり発展、どうやらめでたく?か。一旦ハード・カヴァーで出た本作も、気がつけば文庫化されていた。ちょっと嬉しい。 | 
							
							
								
									| 2002/10/26-9210 | 
								
									| 殺し屋 | ローレンス・ブロック 田口俊樹 訳
 | 二見文庫 | 1998年10月25日初版発行 2002年7月25日6版発行
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											   毒毒度:2 | 
								
									| “会ったこともない男を殺すために、二千マイルの道のりを飛んできたのだ。さっさと仕事を片づけることだ。夕陽はどこへも逃げやしない” ニューヨーカー。父のことは知らない。ソルジャーという名の犬を飼っていた記憶。ドットという女性からの連絡があると、ホワイト・プレーンズで親爺さんに会い、仕事へと赴く。空港で、偽名を使いレンタカーを借りる。どこかへ行くたびに、そこへ住みたくなる。電話帳で自分の名を探してしまうことがある。殺し屋ケラー主人公とした連作集。重くはない、シャレている。乗り換えの駅でも読みたくなる、さすがブロック。 | 
							
							
								
									| 2002/10/25-9211 | 
								
									| 知識人99人の死に方 | 監修 荒俣宏 | 角川文庫 | 2000年10月25日初版発行 | 
											   毒毒度:3 | 
								
									| “老衰により急逝した居室には、飲みさしのシャンペン杯があり、臨終間際にかすかに吸いつけたたばこの紫煙が漂っていた。幼時にして祖母の膝上でキセルをたしなんだという内田は、死においても、その耽美主義を《わがまま》という様式でみごとに貫いた”(内田百聞 享年81歳、死因老衰) 戦後の知識人99人の死に様。誰にでも遅かれ早かれ等しく訪れる。壮絶もあり。死にあって百聞のようにダンディズムを守れるケースは稀である。 | 
							
							
								
									| 2002/10/24-9212 | 
								
									| スパイダー | パトリック・マグラア 富永和子 訳
 | ハヤカワepi文庫 | 2002年9月30日発行 | 
											   毒毒度:1 | 
								
									| “日記をつけたことがあればわかるはずだが、たった一行ひねりだすのも不可能に思える夜もあるのに、何時間書きつづけても次々に言葉が湧いてきて、からっぽになるまで止まらないこともある。そして、自分が書いていたのではなく、書かされていたというような気がすることが?” 短編集『血のささやき、水のつぶやき』でデビューした、ネオ・ゴシックの騎手の長編第2作。デヴィッド・クローネンバーグ監督が映画化とのこと。風変わり度でいえば『蜂工場』(イアン・バンクス)『虚ろな穴』(コージャ)のノリか。ただし、この著者の小説は臭うのだ。老醜の臭い、死の臭い、毛穴から漂う悪の臭い、腐敗の臭いというか、とにかく臭みを表現するのが上手なのだ。 | 
							
							
								
									| 2002/10/23-9213 | 
								
									| 倒錯の舞踏 | ローレンス・ブロック 田口俊樹 訳
 | 二見文庫 | 1999年6月25日初版発行 | 
											   毒毒度:2 | 
								
									| “飲むってことに関して一番いいことは、たまにしかないことだが、時々えも言われぬ一瞬が訪れることだ。これは誰にでもあてはまることかどうか、それはわからないが” 気軽に楽しめたシリーズだが、この作品以降邦訳はハードカヴァーである。格上げは嬉しいが、電車での毒書という点からは遠くへ行ってしまったなという思い半分。《倒錯3部作》の2作目。内容はますます暗くなっていく。スカダーの知人が借りたレンタル・ビデオにダビングされていたスナッフ・フィルムという猟奇テーマ。スナッフ・フィルムといえば大好きなデヴィッド・リンジーのスチュアート・ヘイドン・シリーズ『殺しのVTR』が強烈な印象だったので、それに比べれば倒錯度ちょっとおとなしめか。『墓場への切符』も『倒錯の舞踏』にしても、もうこうするしかないのか時代は、という結末。
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									| 2002/10/21-9214 | 
								
									| 墓場への切符 | ローレンス・ブロック 田口俊樹 訳
 | 二見文庫 | 1995年11月25日初版発行 | 
											   毒毒度:2 | 
								
									| “市(まち)のせいではない。彼女は市(まち)にやられたのではない。あるひとりの男にやられたのだ。それはこの市(まち)とは無関係のことだ” 元高級娼婦のコニーが殺され、記事の切り抜きが娼婦仲間のエレインに送られてきた。スカダーとエレイン、コニーが過去にかかわった事件…それは狂暴なレイプ犯モットリーにかかわる出来事だった。かつてモットリーをハメて刑務所送りにしたスカダーと協力者エレインに復讐の魔の手が伸びる。ムショは悪人をさらなる悪人へと育てたのだった。マット・スカダーシリーズで《倒錯3部作》と呼ばれるものの第1作。アル中探偵としてデビュー、人気のシリーズは主人公が酒を断ったところで新たな展開を見せている。ひたすら孤独だったスカダーが人との関りに目覚めていくような予感。例えば以前男女の関係があって今は友情をあたため合うエレイン。調査に協力、互いに好印象を感じたマシロン警察の警部補ハヴリチェク。人相画の天才レイ。生っ粋の犯罪者ミック・バルーに誘われる「肉屋のミサ」。
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									| 2002/10/20-9215 | 
								
									| 男と女 小説と映画にみる官能風景
 | 小池真理子 | 中公文庫 | 1998年10月18日発行 | 
											   毒毒度:2 | 
								
									| “なのに、この人はどこかが崩れているのである。いつもどこかが崩れそうになっているのである。固くこりこりと実っていたはずの果実が、じっと眺めているうちにみるみるうちに潤いを帯び、水を満たしたかと思うと、呆気なく形を崩し、強い芳香を放ち、やがて腐り、枝からボタリと音をたてて地面に落ちていく時のように、いやらしく危ない感じがする。”(デーモンの瞳 シャーロット・ランプリング) 真理子お姉様がお好みの映画、女優・男優を語る。偏愛、官能といった艶かしき文字。これらが修道会編集の機関誌に載ったのかと思うとくらくらするがさすがお姉様。「不条理な悲しみ」コスナー、「陽気なプレイボーイ」ビーティ、「凄絶な官能」ウォーケン、「憑かれた男」ニコルソン、「静謐な美貌」ドロン、「病んだ貴族」ボガード(濁る方だよ、違いがわかるかな?)、「イノセントなふてぶてしさ」ディカプリオ、「けだるい殺気」佐藤浩一、「しみいる静けさ」岸辺一徳、「虚構の色香」沢田研二。男の色気についてはむろん確かな目をお持ちとみた。結構バンカラ好きとみた。知識よりも、生きる知恵を重んじるのだろう。それにしてもランプリングの描写はまさにホラーの極致。 | 
							
							
								
									| 2002/10/19-9216 | 
								
									| 大リーグ・ドレフュス事件 ニ遊間の恋
 | ピーター・レフコート 石田善彦 訳
 | 文春文庫 | 1995年2月10日第1刷 | 
											   毒毒度:5 | 
								
									| “野球のことを考えると、すぐに気分がよくなるのだ。わたしは自分に、この国には野球があると語りかける。この国の都市がかかえるさまざまな障害、大気汚染、犯罪、麻薬といった問題にもかかわらず、この国には九つのイニング、ツー・ストライク、スリー・アウトがある。優れた投手力と二遊間の鉄壁の守り、これが勝利の鍵だ” “野球というスポーツの尊厳は、九十フィートの間隔におかれたベースとそれをかこむグラウンドで、最高の技術をもった選手たちが九回を戦うことにしか存在しない。メジャー・リーグで最高の遊撃手と二塁手が出場しなければ、これはワールド・シリーズではない”
 アメリカン・リーグのロサンジェルス・ヴァレー・ヴァイキングスの名遊撃手ランディ・ドレフュスははた目にはスランプともとれる状況に陥っていた。野球に集中できないのだ。原因はあのクリーブランドのシャワー室で起こりかけたことにあるのかもしれない。だがどうしてそんなことがありえよう。打率三割三分五厘、今シーズンのMVPの最有力候補。家には元ローズ・ボウル・クイーン、双児の母親でありながらいまだにロサンジェルスのクルマの流れを止めるほどの美人妻スージーがいる。それなのにどうしてまたシャワールームでチームメイトの裸体を見て勃起しかけるなんてことになるんだろうか? そう、ランディ・ドレフュスは、チームメイトであるDJ・ピケットに恋をしてしまったのだ! これは右打者が左打席に入るような出来事だった。この風変わりな野球小説をやっと手に入れた喜びが10月にはあった。一流のファンタジーであり、一流の純愛小説ともいえるだろう。名遊撃手ランディ・ドレフュスがある日突然恋に落ちた相手は鉄壁の二遊間コンビDJ・ピケット。自分の気持ちがよくわからないままDJを食事に誘うランディ。自分はゲイであると告白し、やっかいな人生を送りたくないのなら引きかえせと諭すDJ。しかしある夜トレーニングルームで一線を越えてしまう二人。完璧なダブルプレーのような恋だったが、ある日フィッティングルームでのキスが監視ビデオに撮られ、全米を揺るがす大スキャンダルに発展する。ワールド・シリーズ出場の立て役者となりながらも、コミッショナーによって野球界を追放となってしまう二人は居所を告げずメイン州へと旅立った。メイン州へのハネムーンの途上、彼らはクーパーズタウンの野球殿堂へ立ち寄る。野球選手の憧れの場所だ。ゲイの殿堂入りはおそらく認められないだろう。だが、とランディは気づく。たかが野球じゃないか。ここに並ぶのはただの銅板じゃないか。野球はどんなにがんばっても10のうち7回は失敗するゲームだ。それに比べれば隣にDJがいることの方がどんなに素晴らしいか。
 一人の野球記者ゾラの、人生を賭けた記事によって全米がふたたび動くこととなろうとは誰も知らなかった。「わたしは弾劾する」というゾラの記事をきっかけに追放は撤回され二人は晴れてワールド・シリーズへの出場が認められるが居場所が誰にもわからない。やがてメディアに毒されていない湖で釣りを楽しみながら愛を確かめ合う二人の頭上へ大統領の命を受けたAWACS査察機が降りてきた…出場したワールド・シリーズでさらに事件が起こるのだがここではバラさないでおこう。
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									|  | 
							
							
								
									| 2002/10/18-9217 | 
								
									| 雨に祈りを | デニス・レヘイン 鎌田三平 訳
 | 角川文庫 | 2002年9月25日初版発行 | 
											   毒毒度:4 | 
								
									| “町はずれのすたれた景色の中を、カレン・ニコルズのささやき声がとおりすぎていった。 ほらね? この世に愛なんてないのよ”
 半年前の依頼人カレン・ニコルズが、カスタムハウスの展望台から全裸で飛び降り自殺した。可愛く無邪気で、何の苦労も無く何もかも手に入れることができる良家の子女という印象だったカレン。ストーカーにつきまとわれているという彼女の悩みをわたしは一日で解決していた。6週間後カレンは再度電話をよこしたが、わたしはヴァネッサとの情事に忙しく留守電を聞きながらもすっかり忘れていた。わたしが忙しい間、カレンは溺れ続け、次にカレンの名前を聞いたときには彼女はすでにこの世にはいなかったということだ。わたしは依頼人なしの調査を開始した。明らかになっていったのは、カレンに対する第一印象は間違っていたらしいということと、誰かがカレン・ニコルズの人生を悪意をもって破壊したということだった。木曜日の昼休み、銀座4丁目の書店で購入、ランチは「樹の花」でと思っていたのに、HANAKO銀座特集の余波でメチャ混み、仕方なく文明堂のカフェで我慢。待ってましたのパトリック&アンジー最新作。シニカルな語り口。会話のひとつひとつが実はもの凄く計算されている。まるで映画のカットようにスリリングなシーン。何よりも嬉しいのは、パトリックとアンジーがよりを戻したこと。アンジーとコンビを解消するまでめちゃめちゃ辛くても我慢できたことが今はできなくなったと、パトリックは素直に告白する。そしてブッバファンには嬉しいサービス、なんとあの歩く殺人機械が安定した恋愛かんけーに??? 誰とだぁ???
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									| 2002/10/17-9218 | 
								
									| ブラック・チェリー・ブルース | ジェイムズ・リー・バーク 佐和 誠 訳
 | 角川文庫 | 1990年11月10日初版発行 1999年5月10日3版発行
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											   毒毒度:2 | 
								
									| “あくまでも夢のなかのことだった。父親は死んで、この世にいなかった。わたしの妻も右に同じだった。幻影と、霞に包まれた優しさをともなう偽りの夜明け、それはモルフェウスの贈りものにも似てはかなく、無常だといえた。” ディキシー・リー・ピューに出会った。同級生、元名だたるブルース・シンガー。どうやら厄介ごとを抱えているらしい。巻き込まれたくなかった。ひとたびこの厄介ごとに巻き込まれたかと思うと、いつのまにかトラブルの中心にいる自分に気づく。妻アニーは殺された。わたしには守らねばならない養女アラフェアがいる。刑務所送りになるかもしれない、どうするロビショー?…ロビショーものの3作目、1990年のMWA長編賞受賞作。残念ながら訳に不満が残る。大久保寛だったらよかったのに。書店で新刊を調べたらかなりの数のロビショーものが出ていることがわかった。何かが足りないと思っていたことがわかりはじめた。邪悪。これである。悪はあってもストレートすぎ、そしてドンデン返しはない。まんまなのがひねくれものには気に入らないのだった。 | 
							
							
								
									| 2002/10/16-9219 | 
								
									| 蔵書票の美 | 樋田直人 | 小学館ライブラリー | 1998年12月20日初版第1刷発行 | 
											   毒毒度:-1 | 
								
									| 今月のマイブーム。エクスリブリス。書物が紙であるからこそ存在する美。書物のどこに貼られるべきか図解もあり、歴史も語られる、蔵書票入門の書ともいえよう。廉価な分、図版には不満が残るがいたしかたあるまい。 | 
							
							
								
									| 2002/10/16-9220 | 
								
									| 知の休日 --退屈な時間をどう遊ぶか
 | 五木寛之 | 集英社新書 | 1999年12月6日第1刷発行 | 
											   毒毒度:1 | 
								
									| “いちばんいい休日のすごし方は、楽しく遊んですごすことである” 集英社の新書はかなりわかりやすい。本と遊び、体と遊び、アートと遊び、真骨頂「車と遊び」、声とも靴とも夢とも遊ぶ。とどのつまり、なんとでも遊ぶ。好奇心一杯の人生ではないか。毎日が日曜日。 | 
							
							
								
									| 2002/10/16-9221 | 
								
									| ネオン・レイン | ジェイムズ・リー・バーク 大久保 寛 訳
 | 角川文庫 | 1990年10月10日初版発行 1998年9月5日5版発行
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											   毒毒度:2 | 
								
									| “そのすべてを、ディケーターやマガジン・ストリートの古ぼけた安酒場で飲みたかった。どんなふうに酔っぱらっても責められることがなく、鏡に映る自分の怪物並みの顔も、窓を打つ、ネオンに照らされた雨のように平凡に思える酒場で” “人が飽きたとき、どんなことでも終わる”
 ハイでハードな男デイヴ・ロビショーのデビュー作。ニュー・オーリンズ警察警部補、ナム帰り、競馬狂、元アル中、離婚歴あり。子供のころの栄養失調が原因で髪に縞模様がある。よって渾名は縞頭(ストリーク)。バイユーに浮かんだ黒人娼婦の事件を探るうち、巨大な悪へ孤独な闘いを挑むこととなる。ジェイムズ・クラムリイも絶賛とのこと。なるほどテンポほどよく、文学畑出身という詩情もなかなか。日に何度もリリカルな空の描写にでくわすのは若干気恥ずかしいが、正統派ハードボイルドのイメージは崩れてはいない。ただし、何か足りないのはなんだろう。
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									| 2002/10/15-9222 | 
								
									| 英語屋さん --ソニー創業者・井深大に仕えた四年半
 | 浦出善文 | 集英社新書 | 2000年2月22日第1刷発行 2000年3月11日第2刷発行
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											   毒毒度:-2 | 
								
									| “その原稿にいつも入っていたのは、たとえば次のような主張だった 「会社の創業以来、絶対に『人のマネをしない』ことを信条としてきた」
 「最高の技術を、軍事用ではなくて民生用(consumer)の分野に投入することを企業理念とした」
 「日本人は発明(invention)は不得手かもしれないが、技術革新(inovation)には長けている」”
 色紙には「創造」という2文字を記すという井深大。産業翻訳者「翻訳小僧」による、あのソニー創業者井深大の通訳兼カバン持ちとしての4年半の体験。入社2年目の平社員で、帰国子女でもなく海外留学経験もない。受験英語と自己流の勉強で、数々の危機?を乗り越えてゆくさまはなかなかサスペンスフルですらある。 | 
							
							
								
									| 2002/10/14-9223 | 
								
									| レッド・ドラゴン[決定版](下) | トマス・ハリス 小島多加志 訳
 | ハヤカワ文庫NV | 2002年9月30日発行 2002年10月6日2刷
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											   毒毒度:3 | 
								
									| “君には君の痛みがあり、わたしには本がない” 人の目には見たいものが見えて来る。だが謎めいているうちが華ということもある。『レッド・ドラゴン』以後レクター博士の人気は上昇し、露出度も高まっていったわけ(ちなみに下巻ではほとんど出演しない、ただしインパクトのあるお手紙は別)だが、『ハンニバル』に至ってハリスの想像力は潰えたのではないか。レクターにイル・モストロをぶつけメイジャーをぶつけ怪物が3人揃ったところで恐怖が3倍となるわけでもあるまい。私が『ハンニバル』に落胆したのは、クロフォードが全然サエなくなっていたのも理由のひとつ。『レッド・ドラゴン』再映画化では、『羊たちの沈黙』でスコット・グレンが演じたクロフォードをハーヴェイ・カイテルが演じるという。ううむ。スコット・グレンのクロフォードが気に入っていたのにな。ただ、「小ざかしいサルのよう」「ずんぐりした腕」と表現されていることを見るとカイテルの方が適役なのかも。同じ書店の平積みなのになぜ下巻だけが2刷なのだろう。結末だけ読む人が多いのだろうか? 謎である。
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									| 2002/10/13-9224 | 
								
									| レッド・ドラゴン[決定版](上) | トマス・ハリス 小島多加志 訳
 | ハヤカワ文庫NV | 2002年9月30日発行 | 
											   毒毒度:3 | 
								
									| “小説を書くときに理解していなくてはいけないことのひとつ、それはものごとをでっちあげてはならないということだ。すべては必ず目の前にある。” “君がわたしを捕まえたわけは、わたしたちが瓜二つだからさ”
 満月の晩、幸福な一家を殺しに来た殺人者。殺人現場でひとり、狂気の跡を辿るFBI調査官グレアム。ハンニバル・レクターのデビュー作がこの度[決定版]として出た。特に購入の必要はないはずだが記念に持っておくこととする。オリジナルはむろん読んだ。たしか『羊たちの沈黙』を読んだあとだった。[決定版]はどこが違うか。カバーデザインが新しくなり、ハリス自身の序文が付いた。上巻にすら解説が付くby滝本誠。下巻には人気アンソロジスト・オットー・ペンズラーと作家・桐野夏生による解説。字が大きくなりページ数は増えた。値段は520円→762円にアップ。男は弱い。TV番組「サバイバー」の予告編を見てもそう思う。したたかに生き残るのは女だ。この主人公刑事グレアムも、殺人者の気持ちになれるという常人ではない才能?を持ちながらも、ひたすら弱い。ついでながら連続殺人鬼ダラハイドも弱い。
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									| 2002/10/13-9225 | 
								
									| 頬を伝う涙 | 常盤新平 | 徳間文庫 | 1998年9月15日初刷 | 
											   毒毒度:1 | 
								
									| “年齢(とし)をとるというのは、信じていたものの多くが崩れてゆくことだ” (酒呑みたちのオーケストラ) “男はべつに急いではいないのだが、何人も追いこしていった。彼ひとりこの暑さにまいっていないように見えた。
 その歩き方に、とし子は見おぼえがあった。いままでになんども見た記憶があって、彼女の顔に微笑がひろがった。ひとりぼっちで、同時に得意そうで、しかし、長身をもてあましているような歩き方である”(平凡な生活)
 平凡な人生を送るのこそ難しい。なにかを我慢したり諦めたりするからだ。呑んべえの兄が亡くなったあとで、兄の好きだったオン・ザ・ロックを飲めるようになった弟には、兄の本当の気持ちがわかりかけてくるという「酒呑みたちのオーケストラ」。銀座で見かけた夫、声をかけずにこっそりあとを尾けてみる人妻の行動を綴った「平凡な生活」。「ニューヨーカー短編集」のノリで東京を舞台に繰り広げられる人間模様。銀座の洋書店やバーがさりげなく盛り込まれている。解説には普段持ち歩いていて時間があったらページを開くのがおすすめとあるが、私的には午後早い時間からテラスで一杯飲るにピッタリの本。 | 
							
							
								
									| 2002/10/13-9226 | 
								
									| 玲子さんの東京物語 | 西村玲子 | 講談社文庫 | 1993年11月15日第1刷発行 | 
											   毒毒度:-2 | 
								
									| “だって毎日違うのよ。夕焼けは毎日違うのよ” 土曜日の夜、復活したらしい「筋肉番付」のような番組(正しくは「体育王国」)を見た流れだったかふと気がつくと西村玲子さんの部屋が紹介されていた。インテリアでもオシャレの基本は「白」だそうな。その昔(結構昔)は単行本で彼女の本を買っていたのだけれど、途中で文庫本でも出版されるようになった。文庫とはいえ色もキレイ。こういうジャンルはBOOK-OFFでも美本が安く出回っていて嬉しい。秋の定番くりくりいもいもの休日(季節限定、栗の渋皮煮とさつま芋の茶巾絞り製造中)にはピッタリの本。 | 
							
							
								
									| 2002/10/12-9227 | 
								
									| グイン・サーガ外伝17 宝島(上)
 | 栗本 薫 | ハヤカワ文庫JA | 2002年10月15日発行 | 
											   毒毒度:1 | 
								
									| “思い出という病は、まるで業病のように、あるとき突然にまだそれほど年老いてもいないものをもとらえ、その心臓にくいこみ、食い荒らしてしまうものであるとみえる。イシュトヴァーンは、おのれが追憶という発作にとらえられてしまったのを知った” 海賊気分で財宝を求めて。イシュト20歳のころやんちゃのひとコマ。美しいものあくまで美しく、丹野忍のイラストはいい。月後半土曜出の予定なので前半はしっかり休みたいのだ。しかし世間では当たり前のたった3連休を獲得するのになんとツライことよのう。終電では毒破できなかったのだった。 | 
							
							
								
									| 2002/10/08-9228 | 
								
									| 10月の旅人 | レイ・ブラッドベリ 伊藤典夫
 | 新潮文庫 | 1988年2月25日発行 | 
											   毒毒度:2 | 
								
									| “宇宙は10月に似ている” (永遠と地球) 10月はブラッドベリの月。リリカルで残酷。絶望したヘミングウェイとも言うべきか「すると岩が叫んだ」や、あっちこっちでおなじみ「十月のゲーム」収録。宇宙は10月。黄昏れの国。1974年当時、邦訳短編集未収録の作品ばかりを集めている。その後半分ほどが何らかの短編集・アンソロジーの邦訳に収録されたが、未だにこれでしか読めない作品もあるという。 | 
							
							
								
									| 2002/10/08-9229 | 
								
									| 書物愛 蔵書票の世界 | 日本蔵書票協会 編著 | 平凡社新書 | 2002年1月23日初版第1刷 | 
											   毒毒度:2 | 
								
									| “蔵書票には文字の存在が欠かせない。方寸の世界に美しい文字と洗練されたデザインの絵画とが絶妙のバランスで構成されていること” 「紙の宝石」と呼ばれる蔵書票を発注したい。票主になるのだ。バイロスは無理だからアルフォンス井上氏に頼みたい。ほとんどまじっす。おあと9000になったらホントに発注するつもり(とか言って自作だったりして)。完成の曉にはもちろんわが毒書セレクションに貼らせてもらうのだ。 | 
							
							
								
									| 2002/10/07-9230 | 
								
									| スクール・ウォーズ --落ちこぼれ軍団の奇跡 | 馬場信浩 | 光文社文庫 | 1985年12月20日初版1刷発行 2001年4月15日18刷発行
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											   毒毒度:4 | 
								
									| “眼を閉じても俺たちはつながっている。そう思って横や後ろにいる味方を信頼してほしい。今日一日のために一年があったのだ。悔いを残すな。結果の責任は全部、監督の山口良治にある。いいか、後へ引くな。一歩でも早くボールに追いつけ、前へ出ろ。それだけや” “点差を確かめるな。奪るだけ奪るのだ。一点一点が、お前たち、先輩たちが流した汗と涙と血のお返しなのだ。そう思って容赦をするな。たたきのめすことが花園高校への礼儀だ”
 ごく最近まで、テレビドラマ「スクール・ウォーズ」が実際にあった話を元にしているとは知らなかった。NHKで伏見工のこの奇跡を知り(プロジェクトXだったか?ホントか???)気になっていたらこの本を見つけた次第。全日本のメンバーだった山口良治が伏見工校長に見初められ?たっての願いで赴任する。しかし学園は崩壊しラグビー部は満足な体づくりもできていない状態だった…このあたり後藤正治『リターンマッチ』を思わせる。花園高校との112対ゼロという屈辱的な試合からたった1年で雪辱を果し、やがて全国大会制覇という頂点に立つわけだが、後半50ページに及ぶ大阪工大高校との死闘の描写は圧巻。肉体と肉体の激突、血の匂いが漂うスクラム、幾度もはずれる肩。痛み止めの痲酔を打って出場している主将・平尾誠二の太股に激痛が走る。足をひきずる平尾を眼の端にとらえた高崎が心の中で叫ぶ、この乾坤一擲のパスを貴様に投げられない、許せよ平尾、お前を飛ばすぞ。一瞬交錯した視線の中に万感の思いがある。 | 
							
							
								
									| 2002/10/07-9231 | 
								
									| 書斎曼陀羅/本と闘う人々2 | 磯田和一 絵と文 | 東京創元社 | 2002年3月15日初版 2002年5月15日3版
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											   毒毒度:3 | 
								
									| “本の山脈だ!!”(内籐陳氏の巻) 本と闘う人もいれば、人々と闘う本たちもいる。作家が追放されてしまうのではないかと危惧されるほどの本の氾濫…。私設図書館を有する(というより図書館住まい)石原祥行氏の生活に憧れてしまうのだ。ギリギリ、シゴト本ともいえるか。いや、ちがうな。10000冊を誓ったのが1999年7月、おあと1年で1000冊毒破の予定だが、そろそろ置き場所がヤバい感じ。床の補強を含めいろいろ考えなくてはいけない今日このごろ。でも考えるのチョー苦手なんですよね。ははは(力ない笑) | 
							
							
								
									| 2002/10/06-9232 | 
								
									| ミステリ美術館 ジャケット・アートでみるミステリの歴史
 | 森英俊 編著 | 国書刊行会 | 2001年11月15日初版第1刷刊行 | 
											   毒毒度:2 | 
								
									| “それが映し出している時代風俗といったものにもっとも心惹かれる” 編者が恋に落ちたデザインだ。本の顔、ジャケット。イラストだけではなくロゴタイプとのからみがいいのだ。カラフルなものより地色にスミ1色のイラストに惹かれてしまう。その昔の創元推理文庫のカバーでは日下弘氏デザインが気に入っていた。初期の翻訳ミステリにはあの花森安治氏の作品もある。シャープな、洒落たデザインである。私にとって「本は読むため」以外の何者でもないが、「見るため」だったり「集めるのが好き」になったりするもんだろうか? | 
							
							
								
									| 2002/10/04-9233 | 
								
									| ナジャ | アンドレ・ブルトン 巌谷國士 訳
 | 白水μブックス | 1989年5月15日第1刷発行 1992年2月10日第4刷発行
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											   毒毒度:1 | 
								
									| “美とは痙攣的なものだろう、さもなくば存在しないだろう” 小説のシュールレアリズム。この言葉、まんまです。 | 
							
							
								
									| 2002/10/04-9234 | 
								
									| 犯罪カレンダー<1月〜6月> | エラリイ・クイーン 宇野利泰 訳
 | ハヤカワ文庫HM | 2002年8月31日発行 | 
											   毒毒度:1 | 
								
									| “父親は彼女をヘレンと名づけた。それというのも、リチャード・K・トロイ氏は、もっとも危険な人間である実行力のある感情家というタイプであったからだ” ハヤカワ・ミステリの文庫化。エラリイ・クイーンは今まで創元推理文庫でしか読んでいない。オリジナルは人気ラジオドラマということで、テンポのよさが気に入った。お気楽に愉しめる短編集。何かしら記念日にまつわるミステリイということだが、エイプリルフールはともかく、ワシントン大統領の誕生日とかになじみがないのは仕方ないか。 | 
							
							
								
									| 2002/10/02-9235 | 
								
									| 永遠の島 | 花村萬月 | 角川文庫 | 1996年10月25日初刷発行 1999年4月5日5版発行
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											   毒毒度:0 | 
								
									| “殺してみろ、ひねくれ者!” ZIIナナハン改に乗る長身のイイ女が登場するのはイイカンジなのだが、どうも萬月がSFとは無理があるようだ。おなじみ家族愛にもセツなさがないし。バンドー曰く“こんなに呆気なく「永遠の愛」を手に入れちゃっていいの?” そのとーり。 | 
							
							
								
									| 2002/10/01-9236 | 
								
									| ヨーロッパ ホラー&ファンタジー・ガイド --魔女と妖精の旅
 | 荒俣 宏 | 講談社α文庫 | 2002年9月20日第1刷発行 | 
											   毒毒度:2 | 
								
									| “極端な魂が活動した時代、狂暴だが同時に高尚で純粋な時代は、極端な善や悪をあきらめ中庸に暮らすことに慣れた現代人にとって、恐怖のファンタジーにほかならない。” 『ハリー・ポッター』『指輪物語』のヒットを経て、かつての怪かしげな処が誰にでも行けるおススメのツアーたり得る今日。あの、マンディアルグと澁澤龍彦と一冊の芸術新潮でしか触れられていなかった「ボマルツォ」ももはやメジャー!?なのである。はー。しかし、孤独な魂の遺物は、やっぱり陽を浴びちゃあいけない。荒俣先生も心持ち恥ずかし気ではないか。 | 
							
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