●あと10000冊の読書(毒読日記)  ※再は再読の意 毒毒度(10が最高)

2002-11

2002/11/28-9177
ホラー小説大全[増補版] 風間賢二 角川ホラー文庫 2002年7月10日初版発行
   毒毒度:2
“吸血鬼や狼男は、いわば被害者であり犠牲者だが、人狼は徹頭徹尾加害者であり犯罪者なのだ。吸血鬼は《生ける屍》であっても、あくまで人間だが、人狼は完全に人間性を捨て去ったケダモノへと変身するのである” (人狼伝説)

どこから読んでもいいと著者の許しがでているので、第5部から第1部へと遡ってみた。つまり「究極のモダンホラー・ベスト100」「サイコとエロ・グロ・スプラッタ」「スティーヴン・キングの影の下に」「近代が生んだ三大モンスター」「西欧ホラー小説大全」の順である。ベスト100のうち約半数既読。アンソロジーは、ホラーファンのたしなみというレベルで結構収集できていることがよくわかった。収集もれの部分については今となっては入手しにくいものがあるのが難点だが。

2002/11/27-9178
AMPHIGOREY Also Edward Gorey A HARVEST BOOK 1983年発行
   毒毒度:7
“They spent the better part of the night murdering the child in various ways”

The Utter Zooで開幕だ。気色悪い動物たち。諸説あるけど絶対可愛くはないと思うのだが。特に這いずりものはイヤですな。『優雅に叱責する自転車』『蒼い時』『華々しき鼻血』という、風変わりだが人気既訳3作収録。問題は『おぞましい夫婦』(これはたしかコリン・ウィルソンの犯罪実録ものによく出て来る話を元にしているはず)の翻訳をそのまま出せるかというところだろうか。自転車をモチーフにした絵はがきもあって、ちょっと気になる。丘にたくさんの自転車が捨てられている風景は悲しい。

2002/11/25-9179
エンディミオンの覚醒(下) ダン・シモンズ
酒井昭伸 訳
ハヤカワ文庫SF 2002年11月30日発行
   毒毒度:5あるいは-5
“人はすくなくとも、生の一部において、時間も空間もなく、誕生も死もなく、くることもいくこともない世界に生きられると。その世界にあっては、時に分かたれず、空間に隔てられず、愛する者同士を分かつ障壁もなく、経験と心をさえぎるガラス壁もない”
“死んでしまったけれど、どこかへいったわけではない。それと同時に--もっとだいじなのは--どこでもないところへいったということでもあるの。つまり、無へ。さらに生自体もまた無に属するもの。生と死は、形が変わるだけで、連続したものなんです。”
“長いあいだ人間を見てきて、わたしにはわかっているつもりです。愛情はけっしてくだらない感情などではありません。M・アイネイアーは、愛は宇宙の主要エネルギーであると教えておられますが、これは正しいのではないかと思います”
“あすになったら、ぼくはふたたびアイネイアーを選び、アイネイアーもまたぼくを選ぶだろう。さらにそのつぎの日も。そのつぎの日も。いついつまでも。ひとときひととき、一瞬一瞬において、ぼくたちはそうするだろう”

「選べ、もう一度」とアイネイアーが言う。今を選び、未来を選ぶ。行くべき星を選ぶ。このひとときひとときが一瞬一瞬が未来へと繋がっている。そして未来はひとつではないのだ。
ネメスはどうなったんだよ!と突っ込みたくなるかもしれない。結局アイネイアーの父親なのかおまえはシュライク?と突っ込みたくなるかもしれない(実際、宇宙船のAIから出ていこうとしたキーツはコアにとって“目障りな存在”になってやる〜と宣言しているし)。だが、問答無用に全編、愛、である。もはや毒毒度などどうでもよい。『ハイペリオン』のときは結構低かったし、『ハイ没』下巻には6なども付けているが、気にしないことだ。面白いのだから。シモンズには、そしてマキャモンにも絵を想像しながら読む楽しさがある。ちなみに萩尾望都の絵で読んでみると、かなりイケる。かつて、ハイペリオンの総督シオ・レインが私の脇役好きを刺激したが、なんと今回その直系の子孫が出てきた。シオ・レインはそう、萩尾望都描くところのテナーおじさん(ブレッドベリ原作『ウは宇宙船のウ』収録の「集会」に出て来る素敵な吸血鬼)のイメージなんだけどね(おい、しゃべりすぎだぜ)。

2002/11/24-9180
AMPHIGOREY Too Edward Gorey PERIGEE BOOK 0000年0月00日発行
   毒毒度:5
のっけから『醜悪な赤ん坊』だ。邪悪で、可愛らしさの微塵もない赤ん坊が最後には崖の上に捨てられ、鷲に連れ去られるが途中で落とされる…というある種ハッピーエンド? 赤ん坊がItと呼ばれ鷲がHeと語られるのに注目。バク風動物の行進でホッとしたのも束の間、少年の短い生涯に泣かされ、あっという間に『悪魔の花園』へと引きずり込まれてしまう。ドイツ人作家のEduard Blutigによる原作をRegera Dowdy夫人が訳したなどと遊んでくれるではないか。恒例アルファベット・ブックも収録、毛皮を着た髭ヅラの自画像と思われる人物もあちこちに出現。殺し合ういとこ3人という、ゴーリー作品でも特に悪名高き双璧(もうひとつは子供を誘拐しては殺す『おぞましい夫婦』で初版は返品の山だったとか)と呼ばれる『デンジャラスないとこ』も収録。おトボケ猫なんかどこにもいない。人によっては後悔も怒りすらも覚えるかも知れないデンジャラス本である。

2002/11/23-9181
あぶない丘の家 萩尾望都 小学館文庫 2001年12月10日初版第1刷発行
2002年6月1日第2刷発行
   毒毒度:2
“過去も…未来も…
 少しずつかたちを変えて…
 いくつも存在するのよ”

ええい、そして先延ばし。読み終わってしまうことが怖いのだ。先延ばしに耐えられるものといえば萩尾先生、貴女しかいません…ってこれじゃまるで解説・森博嗣ではないか。いや、萩尾先生をこうして「つなぎに」使うとは、「手塚治虫も問題じゃない、20世紀最高の作家」とまで絶賛する森博嗣の恨みを買うやもしれぬ。
1994年発表なので、1970年代後半から萩尾望都にハマっている者にとっては比較的最近の作品。両親を亡くした平羅坂真比古(ひらさか・マヒコ)と「アズにいちゃん」こと安曇の兄弟ふたりの大冒険。3年前に養子になったというアズ兄ちゃんには実は翼があるし、時空を超えてるし…。ストーリーは4部構成。土着ホラー〜学園ミステリイ〜歴史もの〜なんとタイムマシンの出て来るSFで大団円? コメディタッチだが、家族の愛、友情、人間の本質、夢、未来、すべてについて考えさせられる。もちろん考えているのも、自らの思いを絵にしているのも萩尾望都で、我々は懸命にそのイマジネーションを追いかけているのにすぎないのだけれど。

2002/11/23-9182
11人いる! 萩尾望都 小学館文庫 1994年12月10日初版第1刷発行
    毒毒度:3
“この時の中
 この星ぼしの下に--
 --つきぬ、人の思いよ
 夢よ”

宇宙大学の最終テストは実技だった。外部との接触は断たれた状態で53日間生き延びねばならない。10人のチームが宇宙船に乗船、したはずだった。だが11人いた。誰が11人目なのか。さらに男性ばかりのはずなのに、どう見ても少女と思われるフロルの存在。フロルに惹かれる一方で、タダをとらえる奇妙な記憶の切れ端。この宇宙船にかつてぼくは乗っていたのではないか?
解説・中島らもの毒が霞むほどの圧倒的な、作家の存在感、思い。それにしてもこんな風な毒書をしてしまうとは、萩尾望都にもシモンズにも申し訳ない。だが私の気持ちもわかってほしい。シモンズのあの物語にはもう続きはないのだから(否、もう外伝は読んでしまっているのだから)。

2002/11/22-9183
エンディミオンの覚醒(上) ダン・シモンズ
酒井昭伸 訳
ハヤカワ文庫SF 2002年11月30日発行
   毒毒度:4
“わたしが救世主なのは、わたしにしかできないことがあるからよ”

アイネイアーは自らをウイルスだと言った。人々に「死者の言葉を学び」「生者の言葉を学び」「世界(スフィア)の音楽を聴き」「一歩の踏み出し方を学ぶ」ことを感染させるのだと。オールドアースに辿り着いてから4年後。アイネイアーは救世主としての使命を果すべく、再びパクスの支配領域へと足を踏み入れようとしている。彼女は標準年で16、ぼく、ロール・エンディミオンは32になっていた。いつの日にかハイペリオンの老詩人の元へ還りつくまで彼女を護り抜く。それが約束だったはずだ。今こうしてアイネイアーと別れ、ちっぽけなカヤックで領事の宇宙船を迎えに行く途上で腎臓結石を病み、パクスの追撃をかわしたのも束の間、大気と雲と雷だけの世界で巨大イカの口に飲み込まれようとしている。別れの前アイネイアーとの初めてのキスに動揺した自分が情けない。だが彼女と二度と会えないのではないかという不安は、この状況ではぬぐい去ることは不可能だ…。どうするエンディミオン?
地獄の狩人・女戦士ネメスの復活、シュライクとネメスの激戦、デ・ソヤ神父大佐の、パクスへの反逆、しかも壮絶な。外伝『ヘリックスの孤児』に繋がるエピソードも交え、紡がれてゆく新たな冒険物語。そしてシリーズは最終章へ。さらに厚みを増しているが、SFというジャンルを意識せずに読みすすめられる。根底には人が、ちっぽけだがたったひとつの個であるという思いがある。ふたつでも半分でもない。その人である限りひとりとして数えられる個人。

2002/11/21-9184
AMPHIGOREY Edward Gorey PERIGEE BOOK 0000年0月00日発行
   毒毒度:5
収録された15冊の本はオリジナル初版がいずれも1953年から1965年。あの『うろんな客』も『ギャシュリークラムのちびっ子たち』も『不幸な子供』も収録。不条理で無気味で徹底的に不幸。可愛いのはBUG BOOKくらいかも。最近日本版が出たThe West Wingも収録。もともとThe West Wingは絵だけなので、ということは今後わざわざ日本版を買わなくてもよいということですね。でも1冊で15冊分…約半月ぶんの足踏みですな。

2002/11/20-9185
TUGBOAT 1999.07-2002.05 TUGBOAT マドラ出版株式会社 2002年0月00日発行
   毒毒度:4
ジャンル的にはシゴト本。しかし私は岡康道ファンなのである。この作品集が入手できただけでシアワセもんなのである。岡さんはシゴトも生き様も受賞映えする風貌もいいのである。あまりに嬉しいので側に置いて寝たら、表紙が折れてしまったではないか。なんとしたこと。

2002/11/20-9186
松本五十勝計画 〜さよならセットアッパー〜 二尋 司 文芸社 2002年10月15日初版第1刷発行
   毒毒度:3
“現在、ハウンドドッグス、リーグ一位。マジック〇。リーグ優勝決定。
 そして松本智機。四十九勝十七敗。生涯成績百九十九勝百三十三敗
 今期五十勝まで、あと一つ”
“我々は今、まともに野球をしているんです。そして、まともにやる限り、野球に絶対という作戦は存在しない。だからこそ、野球は愛されるスポーツになったのです。”

アトランティック・リーグのお荷物球団ハウンドドッグスが「卑怯」とも呼ばれるなりふりかまわぬ作戦でリーグ優勝を遂げた翌年、ふたたび狂気のシーズンがはじまった。それは引退を決意した元チームリーダー松本投手を名球会へと送り込むこと。松本の成績は現在150勝。つまりはシーズン中に松本に五十勝させなくてはならない。カリスマ二塁手、毒舌捕手、ロリコン、オカマ、躁鬱四番打者…球界の異端者たちが一丸となって、前代未聞、空前絶後のシーズンに挑む。球史に残る美談か、それとも只の暴挙となるのか? これもひとつのファンタシイ。しかも野球小説。こなれていない部分もあるのだが、エンタテインメントとしてはなかなかイイ狙いをしている。だって、今の日本のプロ野球ってどんどんつまらなくなっているわけでしょう? オーナーが野球好きじゃないし、球場で応援しているはずの人たちは、鳴り物にかかりっきりだったり。イチローがメジャーで認められた理由のひとつ、「かれのプレーのひとつひとつにベースボールへの敬愛が感じられる」ということをよーく思い出してみよう。

2002/11/19-9187
犯罪カレンダー<7月〜12月> エラリイ・クイーン
宇野利泰 訳
ハヤカワ文庫HM 2002年8月31日発行
   毒毒度:1
“これは海賊と、掠奪された財産の物語である”(針の目)

7月から12月にちなんだミステリイ集。ラジオドラマの脚本をオリジナルとしている。なるほど、事件を解くカギはある音だったり、会話だったり。気負うことなく推理を楽しめる。

2002/11/18-9188
うつろ舟 澁澤龍彦 河出文庫 2002年9月20日初版発行
   毒毒度:2
モダーンな澁澤による和もの幻想譚。花散る夜。

2002/11/17-9189
エドワード・ゴーリーの世界 濱中利信 編
柴田元幸・江國香織ほか
河出書房新社 2002年8月20日初版発行
   毒毒度:4
“ゴーリー病は広がりやすい”(ヘンリー・トゥリーダーノ)

愉快で不可解、ときにはキッカイ(韻をふんでみた)なゴーリーの世界。おなじみおトボケ猫やうろんな客、妙ちくりんな動物、ブラックなテーマ、ミステリアスな情景満載。2年前にはじめて邦訳が出たのだとはちょっと意外。100冊近い著作の作者。そして夥しいジャンルの挿画。のみならず舞台美術まで!(なんと、『吸血鬼ドラキュラ』舞台セットまであるのだ)。自分が楽しい本を私家版で出す。言葉が一切無い本もある。押しつけがましくない。読者の想像力に期待したふしもある。
水曜日の夜、新大塚にて打ち合わせはいいのだが、データをMOにおとすのに小一時間ほどかかるという。ならばと待ち時間に大塚駅まで書店をはしご。なかなかの大型書店にも遭遇。海外文庫はほとんど新しいもののみ、埃にまみれたロビショーものなど発掘できる環境ではなかったが、海外文学の棚でゴーリーの名を見つけてゲット。ゴーリーのブラックな味わいがわかる人へのクリスマス本によいだろう。ゴーリーのプライマリー・ブックスがカラーで載っている他、《本と闘う人々》の書斎を描いた磯田新一がゴサム・ブックマートでのゴーリー遭遇譚を寄稿。読んでいる最中にいてもたってもいられずamazon.co.jpにて作品集『AMPHIGOREY』を3作一気に収穫。

2002/11/16-9190
「悶える者を救え」亭の復讐 マーサ・グライムズ
山本俊子 訳
文春文庫 1987年11月10日第1刷
   毒毒度:2
“ぼくが言いたいのは、アメリカ人が何かやるときは--少なくともプロの犯罪人に関しては--一流のことをやりますよ。われわれの国の犯罪人のようにいい加減なことはやらない”
“モリーは行っちまった、おれを残して”

20年前のローズ・マルヴァニー殺人事件。ひとりの医学生による情痴殺人という「結末」に不満を持つマキャルヴィ警視はずっと独自の捜査を続けていた。その医学生が仮釈放となった途端、肉屋の息子、牧師の孫、弁護士の娘が相次いで殺される。復讐か? 誰が誰に? 舞台は『バスカヴィルの犬』でおなじみダートムア。ロンドン警視庁のジュリー警視は、ことごとく強引なマキャルヴィとぶつかりながら捜査をすすめる。謎めいた女性モリー・シンガーに心惹かれるジュリー。爆ぜる暖炉の蒔。泣き叫ぶ魂。十歳の女相続人ジェシカ・アッシュクロフトに危機が迫る…。
ハードボイルド刑事マキャルヴィのインパクトにより、子供殺しという陰惨さが和らげられている。今回はアガサの毒があまりないのが特徴。グライムズお得意の子供、犬、猫の描写には感動させられることうけあい。イギリスにいるのはアマチュアの犯罪人、カポネとかニクソンのようなプロの犯罪人がいないというメルローズ・プラントの発言にくすくす笑。
やっと見つけたパブ・シリーズ6作目。もはや一般書店にて入手不可能。思いついてamazon.co.jpのユーズトストアで捜索。あった、1冊だけ、四国に。なんと本体74円、送料340円。状態は「良し」とのこと。到着してびっくり、腰巻も付いていて満足。未毒のおあとは一冊だけ、こちらはamazon.co.jpにて注文済み、収穫待ち。ふっふっふ。

2002/11/15-9191
吸血鬼幻想 種村季弘 河出文庫 1983年2月4日初版発行
1992年9月10日13版発行
   毒毒度:3
“生きながらにして精神の闇の世界に落ちた精神錯乱者は、死の国=月世界からやってきた生きている死者たる吸血鬼の前段階であり、兄弟である” (吸血鬼のエロチシズム)

著者編『ドラキュラ・ドラキュラ』は1985年の文庫版初版を持っているのだが、この『吸血鬼幻想』については今の今まで縁がなかった。1970年代から続いているホラー・コレクション、吸血鬼コレクションには不可欠の存在。偶然にもめでたく、市内老舗古本屋にて収穫。「第七芸術のヒーロー」ドラキュラ伯爵はもとより、「生きている吸血鬼」ロンドンのヘイまで、古今東西(この場合は東欧と西欧か)吸血鬼考。フォークロアを語るわけではない。野中ユリの画。そして澁澤龍彦に捧げられている。これで十分。

2002/11/14-9192
シマロン・ローズ ジェイムズ・リー・バーク
佐藤耕士 訳
講談社文庫 1999年7月15日第1刷発行
2000年4月14日第4刷発行
   毒毒度:2
“L・Q、今日は裁判をしくじったかもしれない。
 おまえ、自分の切り札を知ってるか? あの子の素直な性格だ。あの子は勇気がある。なぜかわかるか?
 教えてくれ。
 おまえの息子だからさ”

ロビショーものの作者の新シリーズ。主人公は元・テキサスレンジャー、今は弁護士のビリー・ボブ・ホランド。レンジャー時代、銃撃戦のさなかに相棒L・Q・ナバロを誤射して死なせた過去がある。ナバロの亡霊はしばしばビリー・ボブを訪ねて来る。今度の事件は私的に厄介。レイプ殺人の容疑者は、ビリー・ボブの実の息子ルーカス・スマザーズなのだ。映画関係たとえば脚本家だったらこういう展開にはならないなというイラつき感が初期のロビショーものにはあるのだが、このシリーズはまあまあの出だし。ギリギリのテンポでMWA長編賞受賞。御存じの通りロビショーもの集めは頓挫中。

2002/11/12-9193
金輪際 車谷長吉 文春文庫 2002年11月10日第1刷
   毒毒度:1
“ともかくそこで、ある臭いを嗅いだ。ある男が、その男の資質において求め、揃えた本だった。その男の強烈な臭いがする本だった。しかもそれは、いまだどこでも嗅いだことのない臭いだった。言葉の臭いだった。言葉という権力を所有した男の臭いだった”(金輪際)

初めての作家。もちろん毒読初登場。生のむごさと死の予感、執拗な描写。しかし怨念とか情念にはちょっとついていけない感あり。とりあえず最近の傾向として馴れは禁物としておこう。

2002/11/11-9194
ブエナ・ビスタ 王国記II 花村萬月 文春文庫 2002年11月10日第1刷
   毒毒度:2
“本を所有するというのは、数ある快感のうちでも、もっとも心地よいものだからだよ。書物に淫するというのかな。本を所有するということで、なんとなく本質を所有した気になれるのさ”
“世界でちばん気持ちのいいことは、淫していたものに唾を吐きかけること。私にとっては本を棄てること。愛していた本を棄て去ること。つまり知識を棄て去ること。”

神は私を嘉されなかったという絶望に捉われ、修道士・赤羽が修道院を去る。クルマで送り役の朧が、「転びばてれん」と呼ぶ。二人はその日安物のワインで赤羽の修道院卒業を祝った。朧は修道院長に奉仕する身で、美少年ジャンに奉仕される身だ。実は俺は殺人を犯したし、修道女を孕ませている。赤羽さん、シスターテレジアのお腹の子の父親になってはくれないか? 
萬月作品にもずいぶん馴染み、大抵のことには驚かなくなった。本を所有しない作家・花村萬月。遠き日々に父親から無理矢理本を読まさせられた記憶への反発か。作家になるときひたすら事典を読んだ。抽き出しから出せない広辞苑。

2002/11/10-9195
プロ野球 男の美学 近藤唯之 PHP文庫 1998年10月15日第1版第1刷
   毒毒度:1
“盗塁は試合の勝負どころで成功させて初めて意味を持つ。10対0で勝っているのに、盗塁しても意味がないだろう。さらに本塁打打者が打席にいる場面で走っては、本塁打打者に失礼に当たる”(「広瀬叔功」)

名手21人の野球人生。広瀬流職人気質。盗塁の美学。そして、いつものように打球を追う高田繁が落ちて来た場所が20センチズレたのを理由に引退を決意する、引き際の美学も。

2002/11/10-9196
ダイヤモンドの四季 赤瀬川隼 新潮文庫 1995年10月1日発行
   毒毒度:-1
“僕は、静謐な場所ではなく、戦争で、肉親の生と死を見つめさせられたのだった”(「一塁手の生還」)

木々が紅葉している。夜は冴えざえと澄み、星々の瞬きが近い。こんなに秋が深くていいんだろうか?
遠く孤島で終戦を迎えた野球ボールの帰還。持ち主は戦地で草野球の最中にグラマンに攻撃され戦死している。戦友の手によって故郷へ届けられ…という「一球譚」や、戦死したはずの長兄の帰還と故郷での病死を見つめた「一塁手の生還」など、《ホーム》《帰郷》にまつわる作品集。

2002/11/09-9197
グイン・サーガ外伝18
宝島(下)
栗本 薫 ハヤカワ文庫JA 2002年11月15日発行
   毒毒度:2
“誰でも、二十のときには、二十のようにしか生きられない。そのときに、すべてを失ったからといって、世界全部を失ったと思うことそのものが、まだまだ子供だという証拠さ。お前は、たぶん、早く船出しすぎたんだ。イシュトヴァーン”

ヴァンパネラにとって歯は命ゆえメンテは怠れない。歯医者は17時45分から、その前に老舗古本屋とSデパート内S省堂を攻めることとする。老舗古本屋で初版ではないが種村季弘『吸血鬼幻想』を収穫、Sデパートへ。エスカレータを歩きながら、前回目をつけておいたジェイムズ・L・バークのロビショーシリーズ、可能な限り収穫をめざす。売り場到着28分。しかーし! 角川の棚にはごっそり抜けた穴が!やっぱり本は見た瞬間に買わんと。そうめん流しでござりまする。茫然としてもいられない。リミットが迫る。新聞広告で覚えていた萬月の文庫新刊『ブエナ・ビスタ』とついでに車谷長吉の短編集『金輪際』と、月刊グインを収穫。40分撤退、44分歯医者着。歯医者後、もう一軒回ってロビショーもの『ディキシー・シティ・ジャズ』を収穫。1000円。文庫が高すぎるぞ角川くん。
グイン史上初の上下巻は、海賊と秘宝と呪い。外伝ならではの出し物ともいえよう。来月いよいよ正篇87巻刊行!

2002/11/08-9198
球は転々宇宙間 赤瀬川隼 文春文庫 1984年9月25日第1刷
1995年11月5日第2刷
   毒毒度:-4
“志村がスタンドのファンの声で好きなのは、統制されて唱和する声ではなく、湧き起こるどよめきである。ファインプレー、エラー、ホームラン、三振、その度に自然発生的に起こるどよめきは、一人ひとりの個別な感懐が自由に発露されながら、全体として一つの厚みがあってしかも柔らかい声の束になる。志村はその束の中から、喜びと落胆の響きを聞き分けるのが好きだ”

コミッショナーの英断で3リーグ18チーム制となったプロ野球。企業がオーナーではない。それぞれ地方都市に本拠地を置き、地元出身選手を多くメンバーに持つ。ドラフトなし。ただしスカウトはいて、こまめに草野球にも発掘しにいく。札幌と長野と仙台に開閉式ドーム球場。むろん自然の芝だ。延長は18回まで。それでも3時間半で済んだほどスピーディになった。札幌ベアーズの監督は北海道出身、18球団唯一のプレーイングマネージャー若松勉。子供らしい子供が増えた。野菜がおいしくなった。いいことばっかりの「プロ野球・地方の時代」。
日米野球を前に、プロ野球の近未来を描いた赤瀬川隼の処女小説を読む。吉川英治新人賞に輝いたことはさておき、書かれてから二十年が経ち、描かれた近未来からも十数年たってしまった現在といちいち比較してみる面白さもあり、現実への落胆もある。著者と同じで現実を告訴したくなったりする。

2002/11/07-9199
驚愕の曠野 自選ホラー傑作集2 筒井康隆 新潮文庫 2002年11月1日発行
   毒毒度:4
“なるほどこの世界ではこのような陰惨な死にかたしかないが故に、すべての者が「魔」になるのだな。そしておれもまた新たな「魔」になるのだな”(「驚愕の曠野」)

原稿を読んだ編集者がその夜悪夢を見たというエピソードつきのホラー集。屋上から飛び降りた少年、阿鼻叫喚の様相を呈する学校。「二度死んだ少年の記憶」をはじめ、「定年食」「メタモルフォセス郡島」へと悪夢は。

2002/11/06-9200
懲戒の部屋 自選ホラー傑作集1 筒井康隆 新潮文庫 2002年11月1日発行
   毒毒度:4
“蛹からかえったデロレン蠅が舌の先を食い破ってとび立とうとする時、行きがけの駄賃に舌の筋肉をたっぷり食い荒して行きおる”(「顔面崩壊」)

ううう。狂気。悪夢。決して追撃の手足を緩めない取的、駅員、女性たち。これらがあんまし怖いから「近づいてくる時計」とか「かくれんぼをした夜」とかでホッとしてしまうのだ。

2002/11/06-9201
死者との誓い ローレンス・ブロック
田口俊樹 訳
二見文庫 2002年2月25日初版発行
   毒毒度:2
“誰も永遠には生きられない”
“人は来て人は行く。それが世の習いというものだ”

ヤッピーのハンサム、グレンがマンハッタンの公衆電話を利用しようとして撃たれた。偶然彼はスカダーの知り合いとも言える存在だった。ホームレスの男ジョージが逮捕され事件は解決したかに見えた。しかし、ジョージの弟がスカダーに捜査を依頼、さらにグレンの未亡人リサがスカダーの依頼人となる。死は過去を暴く。グレンの秘密が明らかになるにつれ、リサに対して複雑な思いを抱きはじめるスカダー。エレインとの関係は?
猟奇殺人と、決着の付け方が話題を呼んだ《倒錯三部作》に続くマット・スカダーもの。一見地味ながら、スカダーとエレインが今まで口にしなかった結婚をという言葉を確かめ合う記念すべき作品。黒人の少年TJとの会話のテンポが、暗さを救っている。

2002/11/05-9202
御家人斬九郎 柴田錬三郎 新潮文庫 0000年0月00日第1刷発行
   毒毒度:-1
9人兄姉の末っ子残九郎。グルメ(困ったことに大食漢でもあるのだ)な母親の打つ鼓聞きたさに、介しゃくのアルバイトをして稼ぐ。二日酔いでも頚の皮一枚残す見事な手腕を買われているという設定。眠狂四郎に比べるとゼンゼン毒はない。

2002/11/04-9203
それ行けミステリーズ 赤瀬川隼 文春文庫 1996年8月10日第1刷
   毒毒度:-3
“恋愛と戦争と野球は、どんな策を弄してもかまわない”

悪人がひとりも出てこない、野球ファンタシイ。この人の野球小説には泣かされっぱなしだが、この小説は不思議と泣くことはない。サラリーマンの日常をも描きながらあまりに現実離れしているせいか。よって電車の中で読んでも安心。仕事の繋がりだけでなく何か、具体的には野球がしたいと思っていた主人公。通勤電車の中で喧嘩の仲裁に入ったことをきっかけにミステリーズのメンバーがひとりひとり増えてゆく。腕がたつメンバーを揃えようという気がないのも、いい。十一歳から六十八歳まで老若男女の極致も極致、コック、工員、大学の先生、OL、フリーライター、主婦?…職業多彩なメンバー。友情も愛情も控え目、主役は野球。

2002/11/03-9204
閉じられた環(下) ロバート・ゴダード
幸田敦子 訳
講談社文庫 1999年9月15日第1刷発行
   毒毒度:1
“同心円とは、つまりはそういうことなのだよ。窺い知れぬひとつの円(ワン・クローズド・サークル)が、べつの円に囲まれて、その円がまた、べつの円に囲まれる。そして、それらの円の中心に、ある男がいる”
“知りすぎるということはあるものだ。いまにしてそれがわかる。人生にはびこっていた軽率とうぬぼれは吸われるように消えてゆき、頭のなかは、かつてないほど澄みきっている。が、寒々として風が吹き渡ってもいた。笑うことは二度とないと思えたほどだ”

チャーンウッド家をめぐる虚偽と欺瞞。フェビアンの陰の顔が明らかとなりはじめた。恋仲となったダイアナへの疑惑にもガイは捉えられている。なんといっても、親友マックスはガイとダイアナの裏切りの現場で死んでいったのだから。フェビアンに酷似した魔術師の失踪。フェビアンは生きているのではないか? 大戦を引き起こした男とその仲間たちの秘密。手に入れられるはずのないもの--真実へとガイは行きつくことができるのだろうか?
早めの夕食。かぼちゃのソテーと自家製ピクルスを肴に、梅ワイン。とてもハードボイルドに合うとは思えない、さりとてゴダードにだって合わぬだろう。

2002/11/01-9205
閉じられた環(上) ロバート・ゴダード
幸田敦子 訳
講談社文庫 1999年9月15日第1刷発行
   毒毒度:1
“そこそこの知性を持つ男はみなそうだろうが、わたしもまた、ひさしい以前から、つまるところ愛とは、哲学の端切れを体裁よくまとっただけの、所詮は肉欲だと悟っていた。”

豪華客船上の詐欺師コンビ、マックス・ウィンゲートとガイ・ホートン。富豪のひとり娘ダイアナ・チャーンウッドに狙いをつけたが、いつしかマックスは本気で恋をしてしまう。結婚が認められないふたりは駆け落ちをはかるが、その騒ぎの中でダイアナの父フェビアン・チャーウッドが惨殺体で発見された。嫌疑はマックスにかかり、マックスは失踪。実は駆け落ちを未然にフェビアンに伝えて金を受けとったという秘密が、ガイにはあった。
翻訳最新作『今ふたたびの海』が出たばかりのゴダードの7作目。書かれた順番にという誓いは『日輪の果て』を読んでしまった段階で実は崩れていた。講談社、文春、扶桑社、創元各社が翻訳権所有のため、当初から書かれた通りに出版されていない。ゴダードお得意の《事件に秘められた歴史》は下巻で露になるようで、今のところはちょっと凡庸な展開。

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