●あと10000冊の読書(毒読日記)  ※再は再読の意 毒毒度(10が最高)

2003-01

2003/01/31-9135
伊集院大介の私生活 栗本薫 講談社文庫 1988年9月15日第1刷発行
1993年2月19日第7刷発行
   毒毒度:1
“探偵には、警察にできないことはできる。--つまり、単純に殺人事件などの犯人を発見したり、逮捕したり、するだけでなく、人間というものを、観察し、洞察すること--それを通して、事件のウラにひろがっている模様をみることができること”

私生活が、つまり毒書が侵されたとき、切り札を使う。ヴァンパイアものか栗本薫。まさに今月はこんな結果である。しかも伊集院大介ものにはほとんど踏み込んでいないにもかかわらず「外伝」というもうひとつの切り札も使ってしまったことになる。やれやれ。

2003/01/28-9136
メディア9(下) 栗本薫 ハルキ文庫 1999年11月18日第1刷発行
   毒毒度:1
“ある意味では、私は幻にすぎない。そうしてまた、ある意味では、私は--そしてメディア9の全クルーは--まもなく、死のうとしつつあるのかもしれないし、また、われわれは、たしかに汚染されていると言って言えないことはない。きわめて致命的な伝染性の疾病にね”

病原体による汚染という噂を信じ、メディア9の爆破を企む市民たち。「スペースマンを吊るせ!」シティを包む狂気の輪から、同級生ヴァイとともに逃れたリンは、テロの危険を知らせるためメディア9への連絡方法を探しはじめた。亡くなったスペースマンのファミリーの協力で、サイコ・ヴィジホーンという転送装置を発明した老人を訪ねるが…。
半期に一度、恒例会社暮らしの最中である。電車に乗る機会はほとんど睡眠の場と化した。

2003/01/28-9137
メディア9(上) 栗本薫 ハルキ文庫 1999年11月18日第1刷発行
   毒毒度:1
“《船》が帰って来るのは、いつも、特別なことだ”

10年という長い旅から帰還した宇宙船メディア9。スペースマンのファミリーたちが待ちわびていた。だが、メディア9は数百名のスペースマンを乗せたまま、基地の上空に静止し続けた。コンタクトしたファミリーに、声だけでロイ宙航士は告げた、「われわれはひどいことになっているが信じていてくれ、うわさには惑わされずに」と。ロイのひとり息子リンは、当局の陰謀と、シティを包む狂気の輪から逃れ、戦いはじめる。、メディア9の謎を求めて。
この書き手の本格SFはほとんど初めてである。宇宙船の帰還、スペースマン=普通ではない種という設定は私にとってはブラッドベリでおなじみ。萩尾望都の絵で読めるSFはとっつきやすい、そう『ハイペリオン』シリーズのように。

2003/01/25-9138
きみの血を シオドア・スタージョン
山本光伸訳
ハヤカワ文庫NV 2003年1月31日発行
   毒毒度:2
“彼が彼女と結婚した考えうる唯一の理由は、彼女が彼に話しかけてくれたただ一人の女だからということであった。二人の間にそれ以上のものがないことは明らかだった。孤独だけである。人間は自分自身に孤独になり、耐え切れずにちょっかいを出し、結婚し、そして二人して孤独になるのだ”

SFのビッグネームが残した幻の吸血鬼?もの。このたびめでたく文庫で登場。飛びつかないわけがない。書簡で展開する奇談は『ドラキュラ』のようであり『フランケンシュタインの怪物』のようでもある。正統なヴァンパイアは登場しない。その意味でこれはヴァンパイア・ホラーではない。怖いのは、コリン・ウィルソンの犯罪実録ものにありそうな話だからである。主人公ジョージ・スミスにとって血を飲むことが生きている証であり、コミュニケーションであり、愛なのである。

2003/01/22-9139
闇の果ての光 J・スキップ&C・スペクター
加藤洋子訳
文春文庫 2003年1月10日第1刷
   毒毒度:2
“頭のなかで小さな声が聞こえるんだ。なにをすべきかわかっているんだろ。だったらやれ。ほかのだれかがやってくれるまで待とうとするな。だれもやろうとしないし、やれないんだ。だいいち、待ってるうちに手遅れになる”
“「わたしはきみが怖くないんだよ、ルーディ」アーモンドは言った。「人間が神に背く罪を犯すのを見てきたからね。それこそ、きみが何百年たっても太刀打ちできないような奴らだった。そいつらにく比べれば、きみなど赤子にすぎない」”

ニューヨークの地下に麻薬によるミュータントが棲んでいるという話が『地底大戦』。深夜の地下鉄で人肉を吊るす殺人鬼といえば『ミッドナイト・ミートトレイン』。さてこれはニューヨークのメッセンジャー対地下鉄に棲むネオ・ヴァンパイアの戦いである。ヴァンパイア・ホラーと言われているが、奥ゆかしさのなさが典型的な、文春お得意のスプラッター。もたり具合がCの下ぐらいの絶叫映画というところか。吸血鬼になっても愚か者は愚か者にすぎない。

2003/01/19-9140
ハリウッド・ノクターン ジェイムズ・エルロイ
田村義進訳
文春文庫 2003年1月10日第1刷発行
   毒毒度:-2
“目があった。
 バスコーは水を蹴って泳いできて、おれの股ぐらに鼻先を突っこんだ。そのときのことがスローモーションでいまによみがえる。甘い音楽をバックに、恋人たちが黙って見つめあい、紫煙をくゆらし、性交するフランス映画のように”(甘い汁)

ブランチャートやバズ・ミークス、ミッキー・コーエン…懐かしい顔ぶれ。遺産相続犬のバスコーとのハリウッドの蜜月が騙られた「甘い汁」には余裕すら感じられる。こうして文庫化されたこの短編集を読むと、悪文とか、書きつけられた呪詛というエルロイの文章についての評判を忘れてしまいそうになる。それくらい読みやすいのだ。翻訳家の力がかなり評価されていいはずだ。腰巻きにはエルロイ未経験者に最適と書かれているけれど、そいつはどうかな。暗黒のLA四部作の外伝っぽい内容ゆえ、エルロイのベテラン向きだと思う。ちょいとここいらでリリカルなエルロイをお楽しみくださいといいたい。
上山田の河原でシクロクロス・ミーティング最終戦を見たあと、長野駅でおやきを買って夕方から会社へ。なんだかな。

2003/01/17-9141
真夜中の鎮魂歌(レクイエム) 栗本薫 角川文庫 1988年1月10日初版発行
   毒毒度:2
“ギリシァの神々--神秘な野性の、美しい獣が、そこにいた。”
“たとえそのために何を踏みににじりどんな暗黒を見ても、道はひとつしかなかっただろう。倒した偉大な敵の屍の上で血にぬれてうたう遠吠えが狼の知るただひとつの恋の歌、愛の告白だった。”

再毒の日々は続く。栗本薫による元祖・まよてん。あとがきによれば、双児の弟が『真夜中の天使』として先にデビューしてしまったので兄はやむなく整形したというべき経緯らしい。埠頭で出会った若きトランペッターと元天才ジャズピアニストの、愛と魂のインプロヴィゼイションとでもいいますか。本人も言っているがかなりの若書き。本人も言っているがかなりこっぱずかしー。まず表紙。TV「時間ですよ」の風間さん(藤竜也が演じた)がトランペットを吹いているエッチング。これって読んだヒトならわかるんだけどペットを吹くのは主人公の今西良で、風間さんはもと天才ジャズ・ピアニストで麻薬がらみで手首切り落とされて今はヤクザっていう役なので、実はゼンゼン間違いです、ハイ。ちなみにJUNEシーンは皆無。
気がついたのだけれど、花村萬月のブルースものって実はこの作品にかなり似ている。14歳の少女ミキが40男の風間を父親のように慕いつつも自分が母親のように振る舞い、自分を輪姦させた今西良を憎みながら最後には母親の愛で包んでしまう、というややこしい疑似家族めいた部分。《ビッグ・マン・バド》ともてはやされたものの麻薬がらみで手首を切り落とされ復讐に燃えるという風間の過去なんかほら『ジャンゴ』でしょう? そのてのエピソードはジャズの人たちの間ではありそうな話なのかもしれないけれど。やがて栗本は『キャバレー』を生み、その中で、ただじっとジャズの演奏を聴きにくる寡黙なヤクザ(映画では鹿賀丈史だったが)なんか登場させていた。

2003/01/15-9142
女狐 栗本薫 講談社文庫 1983年11月15日第1刷発行
1987年2月15日第6刷発行
   毒毒度:3
“お前、私と相対死(あいたいじに)しておくれでないか”(「女狐」)
“ゆるやかな、なまめかしい、晴ればれと明るいような、あやしく充ち足りきっているような、半月形の--ついぞ父の知らぬ、戦慄とも畏怖ともつかぬおののきをさそう古拙めいた微笑。” (「微笑む女」)

栗本薫の時代小説デビューも当時、拍手をもって迎えられた。大長編もさることながらこの人の魅力は短編にもあり、さらに人情噺ではなく情念・怨念めいた噺が異常に上手い。

2003/01/14-9143
暗闇にひと突き ローレンス・ブロック
田口俊樹訳
ハヤカワ・ミステリ文庫 1990年9月30日発行
   毒毒度:2
“「ずっと私はあの子はなんの理由もなく殺されたものと思ってた」と彼は言った。
 「それはそれで怖ろしいことです。が、今になってあの子は何か理由があって殺されたことがわかった。それはもっと怖ろしいことだ」”
“彼は、あなたがこのことにのめり込むかもしれないと言っていました。それは大きな探偵社がやらないやり方だとね。あなたは何かに食らいついたら決して放さないとも言ってました”
“トライベカというのは、《サウス・オヴ・ハウストン・ストリート》が《ソーホー》になったように、《トライアングル・ビロウ・カナル》の頭文字を取った地名だ”

そのころ、私は連続殺人、猟奇殺人による死体の山を築いていた、サイコスリラー全盛期のちょっと手前だったかもしれない。ごくたまに期待はずれがあったにしても選択はおおむね良好だったと記憶している。とある古本屋の山の中から拾い上げたこの一冊は一見猟奇連続殺人ものと思いきや意外なことにかなり地道な捜査の物語だった。ひょんなことから逮捕された数年前のアイスピック連続殺人容疑者。だがバーバラ・エッティンガーの一件だけ容疑者は否認した。警察は再捜査をするつもりはないようだった。バーバラの父親はマット・スカダーに調査を依頼する。近所の住人をあたり、被害者の当時の雇い主を探し、当時の夫の現在の家庭を訪問し、他の被害者の殺害現場へ最初に到着した警官を探し当てた。死は命を奪う。そして死は秘密を永遠に隠す。死を辿ることによって秘密が曝されることもあり得る。このころスカダーはかなり酒を飲んでいるし、今は亡きジャン・キーンとの出会いがあった懐かしい4作目。ソーホーやトライベッカの語源を学べるとはね。

2003/01/13-9144
流線形の女神
アールデコ挿絵本の世界
荒俣 宏 編著 発行・牛若丸
発売・星雲社
1998年5月20日初版発行
    毒毒度:-2
世間では3連休だというのに、シゴトである。結局休んだのは中日だけ、山梨みやげの桔梗信玄餅を携えて出社。年末のBOOK-OFF買いだめ本もamazonの新年初荷本もやっつけてしまったのでなんと通勤本がないのだった。どうせ空いた電車だからたまには単行本もよいかも。美しい、ただゴトではない雰囲気はさすが。

2003/01/12-9145
ダンシング・ベア ジェイムズ・クラムリー
大久保寛訳
ハヤカワ・ミステリ文庫 1993年1月31日発行
2001年2月15日2刷
   毒毒度:2
“中庸を知らぬこと--それが、私の人生における常変わらぬ問題点だ”
“この言葉をいったのは誰だったか--フロイトか? マーガレット・ミードか? フィリス・シュラフリィか? --いかなる文明国も女を戦場に送ることはできない。残酷すぎるからだ”

メリウェザーの名家の三代目、ミルトン・チェスター・ミロドラゴヴィッチ3世、通称ミロ。一族の名を冠した公園もあれば、諸団体が欲しがる3千エーカーの土地もある。だが父の遺した信託財産はなんと52歳になるまで使えない。人生に目的を持たず怠惰に生き、酒好きで女にだらしない、これらもまた父から受け継いだ私の財産ともいえるだろう。野球チームを作れるほどの数の、別れた女房たち。そしてこの日私に届いた郵便が、私の人生をさらにややこしくしていったのだ。戦争よりも気違いじみた世界へと私は踏み込んでいくことになったのだ。
先日読みはじめはちょっと違うかなと思ったが、恒例あずさの車中で読んでみたらがぜん面白い。筋を通すし、男気がある。父の元愛人の依頼で謎の男女を尾行したことからややこしくなっていくミロの人生がスピーディに展開される。適度なお色気と過激なアクションを伴って。しかもモンタナの冬の激しい雪の中で。小泉喜美子の訳に期待ができないため未毒というワケありシリーズもの。旧価格データベースのカラクリで、新品なのにおトクだった。

2003/01/10-9146
暗黒神ダゴン フレッド・チャペル
尾之上浩司訳
創元推理文庫 2000年8月25日初版
   毒毒度:0
“わたしは目覚め、人生がいかに忌まわしいものであるかに気づいた”

牧師ピーター・リーランドは新妻シーラとともに、祖父母の遺産である古びた屋敷へと移り住んだ。執筆中の研究論文がはかどらない。何か屋敷の中には不思議な雰囲気が漂っている。やがて屋根裏部屋にて、鎖で固定された手錠に自らをとららわせたときから、狂気がつきまとう。シーラとはぎくしゃくした関係となり、敷地内に住む娘ミナの奇怪な風貌にひかれていく。そしてある夜…。
ラブクラフトに捧げられているのだが、ピンと来ない。ダゴン神は、そう、『エイリアン』で腹の中から出てきたエイリアン・ベイビーみたいな感じ。

2003/01/09-9147
温かな夜 リンダ・ラ・プラント
奥村章子訳
ハヤカワ・ミステリ文庫 1999年10月31日発行
   毒毒度:1
アンナ・ルイーズ失踪事件を解決に導いたロレイン。手にした大金で顔の醜い傷を整形し、デザイナーブランドの服を取り揃えた。事務所も引っ越し、メルセデスのオーナーにもなった。秘書のロブ・デッカーはなかなかハンサムで馴れ馴れしすぎることはないので好感を持っている、ただしゲイなのだが。ある日、夫を殺したのかもしれないというシンディ・ネーサンからの電話を受ける。会社社長のハリー・ネーサンが射殺死体でプールに浮かんでいたのだ。前妻ケンドル、ソーニャ、そしてもちろんシンディにも十分動機はあった。そして第二、第三の殺人が発生。誰が誰を殺したか?
前回の事件で親しくなったルーニーとロージーは結婚して新婚旅行中。ロレインも捜査の過程で知り合った刑事課長ジェイク・バートンと急速に燃え上がっている。人を愛し愛されるという幸せをかみしめるロレイン。ところがロレインの事件解決への執念が災いし…。文章がぶっきらぼうといいながらも馴染みつつあったシリーズ、実は突然の完結編である。

2003/01/07-9148
渇いた夜(下) リンダ・ラ・プラント
奥村章子訳
ハヤカワ・ミステリ文庫 1997年8月31日発行
   毒毒度:1
次第に明かとなるケーリー家の秘密。実は奔放な娘だったアンナ・ルイーズ。彼女は父親ロバートと関係を結んでいたのか? 麻薬に溺れるエリザベス。カジノ建設資金不足に悩み、アンナ・ルイーズの信託財産に手を付けているロバート。アンナ・ルイーズは実の娘ではないらしい…。ロバートと関係を持ったロレインは愛の予感に震えるが、仲間のニックはニューオーリンズの路地裏で喉をかき切られて死んでいった。誰もが待っているマルディ・グラの夜。アンナ・ルイーズ失踪から1年、事件が解決しようとしていた。

2003/01/06-9149
渇いた夜(上) リンダ・ラ・プラント
奥村章子訳
ハヤカワ・ミステリ文庫 1997年8月31日発行
   毒毒度:1
ロレイン・ペイジ。元警部補。元アル中。酔っぱらって無実の少年を誤射、仕事も家庭も失った過去を持つ。実際ある時期は、記憶がないぐらい酔っぱらい、酒のために売春までしていたらしい。轢き逃げされて九死に一生を得、ロージーというルームメイトと共に探偵事務所を開いたものの、依頼の電話はあまり無い。ついに事務所を閉じようとしていると、元有名女優エリザベス・ケーリーの娘アンナ・ルイーズの捜索という仕事が舞い込んで来る。生死にかかわりなく見つけたときには百万ドルのボーナス! ロレインとロージー、元刑事のルーニー、ルーニーの元同僚ニックはアンナ・ルイーズ失踪の謎を追ってエリザベスの出生地ニューオーリンズへと向かう。失踪には恐ろしいブードゥーの呪いがかかっているのだろうか? 文章全体がなーんかぶっきらぼうなのだ。軽妙というのとはちと違う。行動は大胆だが、自分の気持ちを素直に表現できないロレインらしいといえばそうなのだが。

2003/01/04-9150
笑う山崎 花村萬月 祥伝社ノン・ポシェット文庫 1999年7月20日初版第1刷発行
  毒毒度:3
“「五分五分といったところだ。基本性能はわるくない。あとはおまえの意志の問題だ」
 「意志、ですか?」
 「意志、だ。いいことを教えてやろう。人間に必要なものは、意志だけなんだ」”
“「横田は、美意識のために死んだんだ。それは事実で、真実だ」”
“「俺が嫌いなのは、自分で考えることを放棄した人間だ。組織にいてもいい。しかし、真に個人的人間であれ」”

京大中退の極道、山崎。女形を思わせるほど華奢な背広姿。墨も入れていない色白の優男。誰も山崎の行動原理を理解できない。ホステスのマリーの鼻を殴り潰し、入院先へ犯しに行く。整形で直して妻にする。マリーの連れ子パトリシアには甘い。その一方で借金の取り立ては厳しく、制裁は残酷だ。山崎狙撃の楯となって死んでいく組員の美意識を尊重する。自分には美意識はない、とうそぶく。美しくない人間にはそれなりに対処するのだ、と。
なにを笑うか、山崎。腐れ道徳観か倫理観か。クラムリー『ダンシング・ベア』を読みかけてちょっと違うかと乗り換えた。当初短編として完結させていた「笑う山崎」を連載にさせられた苦痛をあとがきで語っているが、なるほど超然としたものがこの章にある。問答無用性というか。中盤の各章でヤクザの美意識を語らせたり最終章に《愛だよ》と答えさせたからといって、納得したくはないものがあるはずなのだ。

2003/01/04-9151
tray のせる・はこぶ・おく 堀井和子 KKベストセラーズ 2001年10月25日初版第1刷発行
    毒毒度:-3
“カフェの週末のディナーは隅切りのかなり大きな根来の角盆でサーヴされる。そのお盆の上には、白ワインのグラス、四角い形のフランスの白い陶器、プレート、白い柄のナイフ&フォークが並べられていた。”

作っちゃ食っちゃ読みは続く。食をもっと楽しく快適にする、トレーへのこだわり。他人のこだわりを観察することは、気に入ったものに出会えるようになれる練習だと思う。

2003/01/04-9152
ある日のメニュー 絵のあるレシピ 堀井和子 文化出版局 1995年7月16日第1刷発行
    毒毒度:-4
理想の休日、作っちゃ食っちゃ読み。ヨーグルト・ポムポム改(中身は缶詰めの洋梨)を4分の1、昨晩のウィークエンドヴェジタブルをリゾット風に変えたもの、モアッツァレラのせ榎茸焼きゆかりふりかけ(ざくっと切ったえのきに刻みモアッツァレラをのせてオーブントースターにて8分焼き、ゆかりをふりかけたもの)、を食した直後もなお料理本は見飽くということがない。エッセイとレシピとコラージュが楽しい本。パリで味わう家庭料理、カフェメニュー、ヴェトナム料理に加えて和食メニューもあり。こういう風に出来上がりの写真がない方が想像力は刺激される。

2003/01/03-9153
サイコメトリック・キラー D・グラシウナス&J・スターリン
小林理子訳
ハヤカワ文庫NV 1999年12月15日発行
   毒毒度:2
“いい部分は楽しみ、悪い部分は笑い捨ててすぐにすぎ去ってくれと願うことだ。生きていることを味わいたまえ。だが、特定の部分に執着しすぎてはいけない。なぜなら、すべてははかないものだから”

エレヴェーターの落下事故でサイコメトリーを身につけた元弁護士デイヴィッド。入院中に妻子を惨殺した連続殺人犯への復讐を手始めに、警察の手に負えない異常殺人者を狩りたてるマンハンターへと変貌した。FBIのアイラ・レヴィット捜査官の追撃をかわしながら、マンハントは続く。
遅れてきたサイコもの。異常殺人のサンプル一覧が相手なので、マンハンター有利。連続殺人の遺族アンジェラと恋に陥ってしまい、サイコメトリーがちょい鈍ったりするのもご愛嬌。後半は、クーンツばり化物相手の派手なアクションものに変貌。
雑貨店のショッピングポイントが3000円分貯まったので、ル・クルーゼのオーバル型(18000円)を購入。早速、マドモアゼルいくこ秘伝の「ウィークエンドヴェジタブル」を作る。本日の中身はキャベツ、たまねぎ、にんじん、じゃがいも、チョリソ、マッシュルーム。だしはチキンブイヨン2個とバターでいためたにんにく&ベーコン。ベイリーフ2枚、水は少々。あとは鍋が作ってくれる。粒マスタードを添えて食すため、「肉抜きポトフ」とか「西洋おでん」とも呼んでいる。

2003/01/02-9154
タナトス・ゲーム 伊集院大介の世紀末 栗本薫 講談社文庫 2002年7月15日第1刷発行
   毒毒度:3
“愛を求める孤独なる魂の群、といったんだよ。…僕の最終的な印象はそういうものだ”
“あたしがうたぐりぶかいのかもしれないんですけれどね。でも、ひとって、すごく簡単に死ぬんだけど、そう簡単に死なないと思われませんか。死んでほしくない人は簡単に死ぬけど”
“どんなに外見が綺麗でも、性格悪かったり、文章でげげっと思わせるようなヤツは駄目なんですよ。その意味じゃ怖い世界だなと思いますよ。--性格ブスは強烈に駄目ですもんね。”
“結局のところ、ネットの上だろうが、サイバー・スペースだろうが、しょせん人間は人間にすぎないのだ”

ヤオイマンガに登場させられてしまったと仰天する伊集院大介。寝食を忘れてヤオイ100冊毒破!したが、今度はヤオイ系HPの常連達が連続失踪? 以前起こったフレーミングが原因なのか? 出入り禁止になった美少女の存在。身元不明として扱われていた2人の自殺者、やがて売り出し中の人気ヤオイマンガ家が他殺死体で発見され、本格的に捜査開始。ヤオイものをも書き(しかも男性にもスゴイ売れゆきらしい)、ネット活動も盛んで、そして以前自身が拒食症であったことが背景にある栗本薫ならではのテーマ。匿名というネットが持つ危険性と「ヤオイがあって救われた人たち」の存在。以前グイン・サーガのあとがきで、ある会議室での自身への誹謗中傷に関してオフで正面に坐っている状態で同じ罵詈雑言をいえるかどうかを今一度考えて発言してほしい、と述べていた。その後自身のHPを立ち上げ相当なアクセスであると聞く。
「駅伝に例えるとあなたの人生はどのあたりですか」とテレビがいう。「5区と6区の繰り返し」とこたえておこうか。合間に流れるCFではエビスビールのがいい。元旦からもう一度見たいと思わせるのは、ニュ−イヤ−駅伝を制したコニカの疑似ル・マン。もう一度笑いたいのだが邂逅できず。あとは、SMAPを起用したNTT東日本。こいつも音楽がいい。

2003/01/01-9155
触角記 花村萬月 文春文庫 2001年6月10日第1刷
2002年6月25日第2刷
   毒毒度:2
“そのすごさは、早弾きというかたちで物理的にわかりやすい。問題は、音楽的にすごいのではなくて、物理的にすごいことだ。
 これだけ弾けるなら、弾かないでいるほうがよほど格好いいではないか。できない奴のでしゃばりは無様だが、できる奴の沈黙は最高だ”

ズバリ男の触角記。主人公の次郎くんは高校ドロップアウト寸前。だが父も母も別にとやかく言わない。まだ何者でもない。ギターの腕は並みより上だが、プロになれるとは思っていない。ミュージックスクールに通わせてもらっている。ピアノ教師の晶子に密室でかまわれ、自慰を見られた実の母にもかまわれ、憧れの同級生・芙美子にもかまわれるという恵まれた?男だ。ピアノ教師とやりまくった翌日の昼下がり実の母と交ってしまい、さらに夜には芙美子のバージンもいただけるのである。毒後さわやかな感じすら漂っているのは、この世の中にこんなにウマイ話はないのだと思えるせいであろうか。読んだのは作者が萬月で、主人公がロックやっているから。単純。引用した部分、イングヴェイ批評にはニヤリ。室井佑月の解説がいい。

2003/01/01-9156
地球最後の男 リチャード・マシスン
田中小実昌訳
ハヤカワ文庫NV 1977年9月15日発行
1995年4月15日5刷
   毒毒度:3
“生命というものは、理性をこえた、なにか、心を支配する絶対的な能力をもっているのか?”

残ったのはたったひとりの人間だ。ロバート・ネヴィル。妻を失い娘を失い、共に職場へ通っていた隣家の男は夜になるといまわしい吸血鬼として襲おうとしてくる。昼間のうちに食糧の補充をし、新しいにんにくを吊るし、発電機の調子を見、ガソリンを入れ、図書館で吸血鬼の研究資料を探す。潜んでいる吸血鬼を探し、丸木の杭を打ち込み続ける。ある日、昼間に出歩く犬を見つけた。時間をかけ、餌で釣って家の中に入れる。だがウィルスに侵されていた犬は1週間後に死んだ。次に見つけたのは女だった。陽に灼けている。今度も苦労してつかまえた。ほとんど信用しかけていたのだ、血液検査をするまでは。
救いがない。地球が吸血鬼だらけになったらどうなるか。壮絶な異邦人の物語である。仲間になりさえすれば楽になる。しかし男はあくまでも闘うことにこだわり続けた。カミュ『異邦人』を思い起こさせるラスト。
暮れの注文が元旦から届く。ちょいと古い(といっても1995年初版2001年2刷)ハードボイルドも同時購入だが、ハヤカワ旧値段のカラクリで、合計300円もトクした。

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