●あと10000冊の読書(毒読日記)  ※再は再読の意 毒毒度(10が最高)

2003-03

2003/03/30-9090
美食文学大全 篠田一士 編 新潮社 1979年6月20日発行
   毒毒度:2
“やはり、文章の力なのである。つまり、この文章における品目の記述が、それなりに様になっていて、過不足ない、ひとつの空間の調和のなかに、物を食う人間のありようをあざやかにうつしだしているからだ。あざやかというのは、その当人の生き甲斐、この場合だったら、もちろん食べるよろこびということになる”

風呂で本を読む習癖のある同僚によるセレクト本。920円の定価だが古本屋の値段は1000円。ふむ。午前中は不調だったが、灯油不足を解消すべく町場へ出かけたところけっこう回復。初筍をオーブンで丸焼きしつつ、ル・クルーゼでいちごジャムを作りつつ、煎れた茶は、ラスサンスーチョン。先週茶道具持参で遊びに来た友人の煎れてくれた鉄観音黄金には遠く及ばないが。BGMはWEATHER REPORT1972年の日本公演が入った『I SING THE BODY ELECTRIC』である。もちろんアナログ。隠れ家のレコード群はほとんど前オーナーの遺物で、約5回ほどもってけ大会を開催したにもかかわらず、なおも掘り出し物があるのが不思議。試しに繰ってみたら『THE RALLY』というやつを発見。1978年から1980年にかけてのラリーサウンド集である。ジャケットはランチア・ストラトスHFか。1979年5月ARBO RALLY、Porsche 911車載録音がいかす。A面のラストを飾るのは1979年のPORTUGAL RALLYでのセリカの勇姿、もとい勇音。映像よりも想像力は刺激されるのは間違いない。土煙をたてて近づいてきて、コーナーを抜けていく。合間に観客のおしゃべり、小鳥のさえずり、犬の吠え声まで。嗚呼こんなことをしているうちに、食がおろそかになった、ごめんなさい。

2003/03/29-9091
悩ましき買物 赤瀬川原平 光文社文庫 2002年6月15日初版第1刷発行
    毒毒度:1
“いいのはやはり猫らしい物である”
“猫というのは可愛いけどブスでみっともないもので、わがままで、孤独で、悲し気で、ゴーマンで、しようがなくて、そういういろいろが染み込んでいるはずなのだ”

猫好きとして知られる著者が実は大のニガテだった猫。交際をはじめるにあたり、猫の置き物で練習したそうな。そんなちょっといい話もある、上品な大人の物欲特集。やっぱりカメラが多いのだけれど、ナイフ、仕事する男のバッグ、骨董、腕時計。iMacまであるのにはオドロクが、さすがにクルマはないっすねえ。今私的には物欲に走りたい気マンマン。とりあえずOS9が動かせるうちにPowerBookを新調したいしクルマにおいてはいわずもがな。気に入った電話機ひとつ買えないが、カプチーノはモーターショーで見た翌週、病み上がりをおして買いに走った(しかし半年待ちという宣告を受けた、だが実は2ヵ月半後に回ってきた)という実績がある。さらに上手をいくRX-7キャッシュ買いという人物も存在したが。N産本社にあるお買得のクルマには憎悪すら感じる私の行く先は…。

2003/03/28-9092
盗まれた街 ジャック・フィニイ
福島正実訳
ハヤカワ文庫SF 1979年3月31日発行
1996年2月15日9刷
   毒毒度:1
“きみの中にも感情はない。きみはただ昔の感情を記憶しているだけなのだ。”

サンタ・マイラの町である日、妻が夫を、妹が姉を、子供が先生を偽物ではないかと疑いはじめる。集団ヒステリーなのか? 医師マイルズは、かつてのガールフレンドであるベッキイ、友人のジャックと謎を解明しようとするのだが…。ジャックの家に隠されていた人間モドキ、宇宙から飛来した奇妙な莢。偽物は街全体に広がり、ついにはマイルズとベッキイも変移を迫られることとなった。
侵略テーマ。莢で作られた人間に感情がない、というのがミソで。

2003/03/27-9093
ローレンス・ブロック傑作集2
バランスが肝心
ローレンス・ブロック
田口俊樹 他訳
ハヤカワ・ミステリ文庫 1993年7月31日発行
1997年4月15日2刷
   毒毒度:1
“短編小説は、書き手に多くを求める点において、詩の次に位置するものと言える”

ほんのちょっとのことなのだ。戦争と、局地的な戦闘のような違い。決定的な瞬間を切り取る、短編小説。ブロックのは確かに水準以上。『マロリー・クイーンの死』にはなんだか聞いたことのある名前の関係者が多数登場。こんなにサービスしていいんかい? アンソロジストのロッテ・ペンズラーなんて!

2003/03/26-9094
親愛なるクローン ロイス・マクマスター・ビジョルド
小木曽絢子 訳
創元SF文庫 1993年12月24日初版
2001年11月16日6版
   毒毒度:2
“古い友だちは新しい恋人よりも近寄るのがむずかしい”
“自分が何者なのかは、何をするかできまる。もう一度選べ。そして変わるんだ”

マイルズ24歳。3つの顔。バラヤーの高貴なる家の嫡男ヴォルコシガン卿、帝国軍のヴォルコシガン中尉、そしてデンダリイ自由傭兵艦隊の指揮官ネイスミス提督。ダグーラ第4惑星での大脱走を成功させたデンダリイ隊一行は宙港都市ロンドンにてしばしの休息、届くはずの軍資金を待つのだが一向に埒があかない。バラヤー大使館主席随行武官ガレーニはつかみどころがないし、しかも次席の随行武官はあのイワン! 二重生活が苦しくなってきたマイルズがレポーター相手に口走った「マイルズのクローン」話がとんだ苦難を呼ぶことになろうとは! 誘拐、復讐、陰謀うずまく宇宙大活劇、マイルズ・ヴォルコシガン・シリーズ地球編。
マイルズ健在。『戦士志願』で顔に火傷を負いマイルズが修復の治療費を出したエリ・クイン中佐は見事に美しい顔を取り戻し、どうやらマイルズに気のあるそぶり。幼馴染みのエレーナへの恋心を隠し傭兵隊内で恋愛はしないという誓っていたマイルズだが、ついにクインと恋人どうし? そしてあのいまいましいジャクソン統一惑星で産み出された、マイルズのクローン(ベータ式では兄弟)マークの運命は?

2003/03/25-9095
バラヤー内乱 ロイス・マクマスター・ビジョルド
小木曽絢子 訳
創元SF文庫 2000年12月22日初版
   毒毒度:3
“普通の尺度では計れない行為よ。命を生み出すってことは。マイルスがおなかにいるとき、そのことを考えたわ。『この行為で、わたしはひとつの死を世界にもたらすんだ』って。ひとつの生とひとつの死。そしてふたつのあいだにある、あらゆる苦痛と、意志による行為。”
“誕生を受け入れなさい、二度目の誕生を。名前も受け入れて。マイルズは兵士という意味だけど、その意味の力に負けないでね。突然変異を忌み嫌ってそれがいちばん深刻な苦しみだと思われてきた社会で、あなたは捩じれた体形で生きていくの。”

惑星バラヤーの退役提督アラール・ヴォルコシガンと結婚したコーデリア。アラールの愛情を確かに感じつつも、異文化にためらい、女性蔑視の傾向にある社会をののしることもしばしば。アラールが、幼いグレゴール皇帝の摂政に任ぜられたことで、コーデリアの生活は激変する。反乱分子の影。さらに就寝中を毒ガスで攻撃されたコーデリアには中絶の危機が…。それは恐ろしいクーデターの前章だったのだ。
幼帝を護って山中に潜んだり、マイルズの入った人工子宮を奪還しに行ったり、またまた大物の暗殺にかかわったり、コーデリア大活躍の巻。あの《イワンのばか》ヴォルパトリル卿誕生の秘密も、なによりヴォルタリアンの乱の全貌がわかるしくみだ。バラヤーってのは帝政ロシアと軍隊が生き生きしていた頃のドイツと、武士道が重んじられた時代の日本を足して3掛けたような国であるからして、両性人を作っちゃうようなベータ惑星を故郷に持つコーデリアにとって、アラール以外は(ときにはアラールも?)ほとんど敵みたいなもんである。それでもあの狂暴なボサリでさえコーデリアには服従するし、『名誉のかけら』で負傷して今はアラールの秘書をしているコウデルカや、元皇帝のボディガード・ドロウなど気持ちの通じ合える人も身近にいることはいる。毒ガスの後遺症が予測されるマイルズを生むことで、彼女はバラヤーを変え得るのだろうか。

2003/03/22-9096
ローレンス・ブロック傑作集1
おかしなことを聞くね
ローレンス・ブロック
田口俊樹 他訳
ハヤカワ・ミステリ文庫 1992年12月15日発行
1995年7月15日6刷
   毒毒度:2
“人間の美徳がそうであるように、短編小説もまた天国に召されたのである。だから、今、作家が机に向かって短編小説を書く唯一の理由は、自己満足のためである”

起承転結のある長編、織り成す綾にはまる醍醐味シリーズもの、そして切れ味のいい短編があれば毒書は満足だ。思いがけない悪意に出会い、避けられない運命に抗う人々。どこかで聞いたような話であるのは、おそらくTV映画化されていたりするせいだろう。おなじみのスカダーものもあるし、バーニーものも、そして「成功報酬弁護士」エイレングラフものも2編。

2003/03/20-9097
カーリーの歌 ダン・シモンズ
柿沼瑛子 訳
ハヤカワ文庫NV 1998年1月31日発行
2003年1月31日3刷
   毒毒度:4
“この世には存在することすら呪わしい場所がある”

ちょっとストラウブの『レダマの木』『ブルー・ローズ』を連想させるが、さすが、ダン・シモンズ。初版から15年経っても十分怖くておぞましい。
戦争がはじまった。前回の場合、戦争中継をBGVにしつつ『銀河英雄伝説』を並べて読みふけるということを行ったわけだが、今回はまっているのはヴォルコシガン・シリーズというのもなかなか不思議な巡り合わせだ。さて先日配送された収穫物の中に本書あり。Yブックセンターで見たのを最後にAmazonでもずっと在庫切れだったのだが今年はじめにめでたく再版。そしておトクな価格データベースのカラクリで旧価格。この調子で早く『殺戮のチェス・ゲーム』もなんとかしてくれ。

2003/03/18-9098
名誉のかけら ロイス・マクマスター・ビジョルド
小木曽絢子 訳
創元SF文庫 1997年10月24日初版
2002年1月18日再版
   毒毒度:2
“わたし、あなたが何者か知っている。ヴォルコシガン、コマールの殺し屋”
“死者はあなたを傷つけたりできない。痛みを与えることもないわ。あなたが彼らの顔に自分の死を見る以外はね。”

ヴォルコシガン・シリーズの本当のはじまり。マイルズの父アラールと母コーデリアの出会いから結婚までの物語である。ボサリ軍曹の娘誕生の謎とかもよおーくわかる。もう1週間かかるかと思っていたら日曜日ひょっこり発送の知らせが(しかし、受信後、パソ壊れる)。Goliveで作ったこのサイトファイルだけ開かないという問題発生で、今の今まで更新できずにいた次第。そして戦争が始まろうとしている。本書の「最終楽章 戦いのあとで」のエピソードが心に染みる。

2003/03/17-9099
両性具有の美 白洲正子 新潮文庫 2003年3月1日発行
   毒毒度:2
“男は男に成るまでの間に、この世のものとも思われぬ玄妙幽艶な一時期がある。これを美しいと見るのは極めて自然なことであり、別に珍しいものではない”
“おもうに、真物の衆道は室町時代で終わっていたのだ”

堂々、日本男色史。解説にもあるのだがあくまでも「男の」両性具有の美である。きっかけでもあり結論でもあるのは「女に能は舞えない」ということなのだ。

2003/03/16-9100
菊地秀行の吸血鬼ドラキュラ 菊地秀行 講談社 2002年7月20日第1刷発行
   毒毒度:1
最近知ったのだが、Mガジンハウスの1本向こうの道がなかなか面白い。古本屋が2軒。美術書、デザイン雑誌が店頭に並んだ1軒。文庫はまあビジネスマンが読む感じの和もの多し。300円均一の棚で発掘。人気作家の翻案による冒険小説シリーズというわけだ。大沢在昌のバスカビルの犬、伊集院静のロビンソン・クルーソー…。現代のエンターテインメントホラーから見るとかなり「もたる」原作の印象はしかしぬぐい去られてはいない…。傷口が「うじゃじゃけて」っていう表現はどうも私は好かんのだが。記念すべき900冊目はさりげなくってところか。

2003/03/15-9101
天空の遺産 ロイス・マクマスター・ビジョルド
小木曽絢子 訳
創元SF文庫 2001年9月28日初版
   毒毒度:1
“ぼくの経験では、手は頭脳の一部として絶対に必要なもので、知性のもうひとつの葉肺だといっていいくらいです。人が手を通さないで得た知識は、ほんとうに知っているとはいえません”
“「恋に落ちる」と表現する理由が、いまやよくわかった。そこには自由落下と同じむかつくような目眩があり、同じ爽快感があり、さらに、たちまちせりあがってくる現実に衝突して骨折するのを確信したときと同じ不快感があった”

賞とかにはこだわらないけれど、これは無冠。敵国セタガンダ帝国の皇太后の葬儀に、バラヤー代表としてつかわされたマイルス・ヴォルコシガン卿と、いとこのイワン・ヴォルパトリル卿(通称イワンの馬鹿)。セタガンダ皇太后は遺伝子管理をしていた本物の天空の女王。その死と共にどうやらお家騒動が持ち上がっているらしい。皇太后の侍女と名乗るホート・ライアンの神々しさに打たれたマイルズは秘密捜査に乗り出すが…。例によって例のごとく騒ぎに巻き込まれるマイルズ、今回は名探偵ぶりを発揮するの巻。印象はハンドラーの『ホーギーシリーズ』が宇宙の姿を借りた平安朝を舞台に展開されるといえばいいのだろうか。12単着て歌詠んだりする《天空》人ってなんだか平安時代っぽいと思っていたらどうやらホントに源氏物語や枕草子を参考に書かれているらしい。毒舌でもないし痛快でもなく、傭兵とはまったく異なる雅びな人だち(だが腹の中がわからん)がぎょうさん出て来るのでちょっとこのシリーズの中ではテンション落ちるかも。《生体唯美主義展示会》で、気に入った人の足にからみついてくる蔓薔薇はともかく、子猫が莢に入っている木はかなり悪趣味。しかもイワンってば子猫を解放してやろうとして莢もいじゃって猫死ぬんだよ〜。やだやだ。

2003/03/14-9102
双頭の蛇(下) 栗本薫 講談社文庫 1989年12月15日第1刷発行
   毒毒度:1
マセラッティを駆る美貌の御曹子。誰もが改新のリーダーとしての貌しか見ていない。ほんとうの貌に今、沖は近づいた。だれも孤独になど放っておいてくれない町。ただひとり、沖だけが、孤独でありえた町。
夜の11時半近くにもなって「どこー?会社?」との電話が2本も。飲みの誘いらしいのだが意味不明。

2003/03/13-9103
双頭の蛇(上) 栗本薫 講談社文庫 1989年12月15日第1刷発行
   毒毒度:2
東京から特急で3時間半離れただけの土地--平野は、はみ出し刑事・沖竜介を拒んでいた。土地の有力者の御曹子・片桐真吾。美貌の双生児・俊男と恭二。ブンヤ殺しとともに葬り去られた片桐一族の連載記事を追う沖だったが。おお、アルド・ナリスめっけ。美貌の双児はリンダとレムス?そしてなんと伊賀清正ですと?同姓同名でルックスも似ているキャラ登場。主人公のはみ出しぶりはイシュトヴァーンかと思いきや作者はあんまり愛着なさそうなのは気のせい?
毒書活性化。ほんの5分でも活かして東京駅構内の書店へ。もちろんヴォルコシガン・シリーズを探したのだが望みの巻は無し。仕方なく読んだとはいえ時速250ページとはわれながらオドロキ。

2003/03/12-9104
ヴォル・ゲーム ロイス・マクマスター・ビジョルド
小木曽絢子 訳
創元SF文庫 1996年10月25日初版
1999年6月11日7版
   毒毒度:-4
“もちろん、ネイスミスをもう一度演じられますよ。自信がないのはネイスミスをやめることのほうです”
“戦争ってのは、それで終わりってものじゃない。救いようのない破滅に地滑り的に落ちこんでしまえばそれっきりだけど。戦争は平和のためにするんだ。はじめたときよりもましな平和を求めてね”
“名誉は自由な人間だけに許されている贅沢なんだよ。ぼくのような家柄の帝国軍士官は、名誉で縛られているわけじゃない。もともと縛られているんだ。”

帝国軍士官学校を卒業したマイルズ・ヴォルコシガン少尉。てっきり宇宙に飛び立てるものと思いきや…配属先は気象観測基地とは! しかももめごとの中心的人物として機密保安庁に勾留される身となってしまう。おいおいまた大逆罪の疑いかよ〜。だがそんなことはネイスミス提督復活の、ほんの前奏に過ぎなかったのだ。ヒューゴー賞受賞作。いわゆるスペースオペラというやつなわけだが、マイルズの口八丁手八丁ぶりは手品を見るようで退屈しない。エレーナやソーン、カイ・タングといったデンダリィ隊の面々と再会できるし、今回は凄絶な美人(天使の顔で心はマングースとか)の悪役が登場。どうやら『親愛なるクローン』はまだ読まずにいて正解、この『ヴォル・ゲーム』を先に読んでもバチは当たらぬらしい。しめしめ。

2003/03/11-9105
猫の事件簿 ピーター・ラヴゼイ 他
グリーンバーグ&ゴーマン編 山本やよい他 訳
二見文庫 1994年5月25日初版発行
   毒毒度:2
妻を殺そうとする夫。叔母を殺そうとする甥。でも、猫は何でも知っている。そして猫殺しの罪は重いのだよ、諸君。

2003/03/09-9106
メッシュ3 萩尾望都 白泉社文庫 1994年12月18日初版発行
   毒毒度:3
“あなたがそうと望むなら 魚にも草にも娘にも この姿をかえてもよかったのに”

ショービズ。ファッション界。きらびやかな仮面に隠されたもの。一本の電話からメッシュの過去が、複雑な家族の像が浮かび上がっていく。

2003/03/09-9107
メッシュ2 萩尾望都 白泉社文庫 1994年12月18日初版発行
   毒毒度:3
フランシス・マリー。これがかれの本名だ。母親に女の子として溺愛された過去。パリで。モンマルトルで。メッシュという呼び名の妖しい存在。歌手との恋、画家の友人。男娼の世界、故郷への憧れ、天使の矢。萩尾望都が絵にする舞踏のような動きに目を奪われるだろう。

2003/03/08-9108
無限の境界 ロイス・マクマスター・ビジョルド
小木曽絢子 訳
創元SF文庫 1994年7月15日初版
   毒毒度:3
“普通の人間には、普通でない見本が必要なんです。そうしたら、こう考えられますからね。うん、彼にできるんなら、おれにもきっとできる” (喪の山)
“信じられない事態だった。リョーヴァル研究所の地下室に、セックスに飢えたティーンエイジャーの狼女といっしょに閉じ込められるなんて”(迷宮)
“が、頭もいっしょに取れた。マイルズはヘッドセットをはずすために、感覚のないほうの手でその頭を抱えていなければならなかった。頭の重みと、密度と丸い感触が、彼の感覚に打ちこまれた。”(無限の境界)

うむ。面白い。おそらく『親愛なるクローン』を読むべきなのだろうと思いつつも、この中編集を読んでしまった。
例によって(笑)担荷に乗って特命任務から帰還したマイルズ・ヴォルコシガン卿中尉兼マイルズ・ネイスミス提督。デンダリィ傭兵隊関連費用の報告に不備がある、つまり公金横領の疑いありと機密保安庁長官シモン・イリヤンに指摘された。マイルズが病室で、逆上した頭を冷やしつつ、士官学校を卒業してからの冒険の数々に思いを馳せるという仕掛けで語られる3つのエピソード。卒業直後のマイルズが辺境の山村での嬰児殺しを捜査する『喪の山』は、ネビュラ賞・ヒューゴー賞を受賞している。『迷宮』は、閉鎖空間でマイルズの能力が十分に発揮されるエピソード。遺伝子操作で生まれた究極の戦士・タウラとマイルズのひとときのロマンス?もあって、おやおや。傭兵隊創設?時のメンバーで両性者ベル・ソーン艦長(美形ではあるらしい)が登場するするのでかれ(かのじょ)のファンには嬉しいだろう。捕虜収容所に単身潜入する『無限の境界』はおそらくマイルズの機知(と、はったり)がいかんなく発揮される。誇大妄想的大脱走とはよくいったものだ。だが、脱出劇のさなかに、マイルズは好ましいと思っていた女性と、忠実な士官を失ってしまうのだ。

2003/03/06-9109
戦士志願 ロイス・マクマスター・ビジョルド
小木曽絢子 訳
創元推理文庫SF 1991年1月30日初版
1991年5月10日再版
   毒毒度:-3
“人を殺すとき、最初に相手の顔を消してしまえば楽になる。巧妙な、知能的な技術だよ。兵士にとって便利な方法だ。こういうふうに視野を狭めることがおまえにできるかどうか、疑問だね。おまえは、なにもかも見ずにはいられないんじゃないかな。おかあさんに似て、自分の頭のうしろ側までいつもくっきり見ている人間だから”
“「組織と言うものは、成長したりなくなったりするものだが、いまごろはもうなくなっているという可能性はないのか」
 マイルズは唇を噛んだ。「そうなってほしいと思ってはいますが--わたしが出発した時点ではおそろしく健全な様子でした。成長中で」”

皇帝の統治、貴族階級の存在する惑星バラヤー。首相の息子マイルズ・ネイスミス・ヴォルコシガンは身体的ハンデにより士官学校への道を閉ざされた。17歳にして一切の希望が失われたかに見えた。だが、護衛のボサリ軍曹と軍曹の娘エレーナとともに、母親の故郷、惑星ベータへ旅立ったマイルズは、ひょんなことから旧式の貨物船を入手したのを手始めに、勢いで大宇宙への冒険を開始してしまう。知力を駆使して、もののはずみでできた傭兵軍団を率い「ネイスミス提督」とまで呼ばれるようになろうとは思いもよらなかった。ましてや皇帝への反逆罪に問われることになろうとは。
サイト常連のはあびいさんにもすすめられ、また、いつもは本のおすすめをさせてもらっているKさんからも最近逆おすすめをしてもらったヴォルコシガン・シリーズ初登場! なるほど「ハイペリオンシリーズ」が好きならこれはアリ! 自分の可能性もさることながら、他人の能力を発見させたり伸ばしたりしていくマイルズ。偽物から本物へ。機知とウィットに富んだ展開の中で、だれもが「自分さがしの旅」を満喫できるのだ。通貨がマルクの帝国政バラヤーと通貨がドルの民主政ベータが存在するのも、ふふーん。銀英伝ではふんだんだった美形たちは登場しないのだが、なぜか魅せられる。
クライアントである専門学校から企業研修生を預かり中のため、正しい時間に昼食をとる、よい習慣続行中。今日は師匠の誕生日を祝って、ggg近くのしゃぶしゃぶ屋でランチ。夜には足を踏み入れそうにない店でランチを試せるのは銀座界隈のサラリーマンの特権。ここは実は夜でも敷き居は高くないらしい、ただし食べ放題コースは止めたほうが無難とも聞いている。

2003/03/04-9110
葬儀 ジャン・ジュネ
生田耕作 訳
河出文庫 2003年2月20日初版発行
   毒毒度:4
“庭師は庭じゅうでいちばん美しい薔薇である”

私ジャンと愛人のジャン・D。小説はレジスタンスであるジャン・Dの死からはじまる。ジャン・Dの婚約者は風采の上がらない女中だ。ジャン・Dの母と愛人でありナチの戦車兵であるエリック。ヒトラー、死刑執行人、美少年リトン、ジャン・Dの兄ポーロ。複雑な性関係は「私」の妄想なのか。そもそも私と名乗っているのは一体誰なのか、慣れぬうちは戸惑うだろう。

2003/03/03-9111
星三百六十五夜 春 野尻抱影 中公文庫BIBLIO 1978年1月10日初版発行
2003年2月25日改版発行
   毒毒度:-3
“眼を奪うのは左側の、四粒の真珠が小さく囲む不等四辺形(トラペジアム)で、烏座を極度に縮めたのに似ている。否、真珠にたとえたのでは曲がなさ過ぎる。鮮やかな藍、うす紫、濃いざくろ紅、そしてピンクだからである。しかも、この際だって美しい色の対照と、いかにも入念なデリケエトな技巧とは、どうしても星ではない。選り抜きの宝石の象嵌としか思えない”

冥王星の命名者。早春の夕暮れのしんとした景色にはじまる空の日誌。いつのまにやら冬編も、その他にエッセイが数冊出ていた。こういう、繊細でもあり雄大でもあり得る文章にはつい憧れるものだ。

2003/03/02-9112
ホテル・ジャンキー 村瀬千文 王様文庫 2000年1月20日第1刷発行
   毒毒度:2
“《いい男》の条件というものは、与えられた条件と状況によって、いかようにも変わるということである。なんだか《男選び》と《ホテル選び》は似ている”

アメリカにはじまりハワイ、ミクロネシア、ソウル、プーケット、北京、上海、チェンマイ、シンガポール、ビンタン、ホアヒン、バンコク…旅は続いている、むろん机上で。不思議なことに、女殺しの文句(同僚談)もずいぶん板につき、たった40字で語るホテルにも苦痛がなくなってきた。さてこの本はまあタイトルにも惹かれたが表紙のラッフルズがいい感じ。中身はかなり辛口で、まず憧れのラッフルズが実は終わっているらしいことにガッカリしたが気を取り直し、アマン・グループでもアマヌサが一番正妻度が高く、アマンキラは《非系》カップルが多いとか、リージェンシーとグランドとパークという各ハイアットのターゲットの違いに納得し、ニューヨークに行ったらどこに泊まろうかと目移りししたりして、なかなかためになった。

2003/03/02-9113
寂しいマティーニ オキ・シロー 幻冬舎文庫 1997年12月25日初版発行
1998年1月5日2刷発行
   毒毒度:1
“あくまで澄みきった、透明な酒に満たされたカクテル・グラス。その中で、銀色のスティックに串ざしにされた二粒のパール・オニオンが、白く、鈍く光っている。いつもながら惨酷なまでに清冽で、美しいギブソンだった”(凄艶なギブソン)

夜の豪雨も午前中の風も止み、午後の陽射しが穏やかだ。だからといってテラスで氷を浮かべた酒を飲るほどの陽気ではない。近づいたり離れたりしながらいつのまにか春は来るものである。おやそういえば今日は誕生日。このカクテルストーリイが連載された機内誌を出している全日空のドラマと、誕生日が同じJOHN BON JOVIの出るドラマでも見て夜を過ごすのだ。

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