●あと10000冊の読書(毒読日記)  ※再は再読の意 毒毒度(10が最高)

2004-01

2004/01/28-8912
アムステルダムの犬 いしいしんじ 講談社 1994年4月25日第1刷発行
1994年6月3日第2刷発行
   毒毒度:1
“犬をぬらぬらと従え、数時間ぶりにマトモな世間に復帰をこころみてドアを開ける。僕を待っていたのは、マトモという字はどう書くの? といわんばかりの大騒ぎだった。決して広くはない通りに、八坂神社の初詣×30くらいの人口密集度である。さらに、八割がたのヤカラがビールを手にしている。足元には空きカンが砂利砂利ところがり、三歩進むと誰しもマラドーナ風ドリブルを決めてしまう。すごい状態だ”

はふはふbyぱとらっしゅ。古本屋で探してもなかなか見当たらない名作。怪我人の暇つぶしグッズとしてまた借りた。たまたま一部引用してはみたもののホントはもっとどこもかしこもおもしろい。アムステルダムに居ながら会話はすべて関西弁。食い物を与えるとキリキリ舞いする犬、パトラッシュやアムステルダムの住人たちのイラストもいい味。

2004/01/26-8913
魔界都市シリーズ4
蛍火の章
菊地秀行 祥伝社文庫 2001年9月10日初版第1刷発行
   毒毒度:1
魔界都市新宿。美貌のせんべいやの主人。ふだんは茫洋としているが、その美貌冴えわたり「私」と名乗りはじめたらキケンなのだ! 凄腕マンサーチャー秋せつらのシリーズ4作目。

2004/01/23-8914
紙のライオン 路上の視野I 沢木耕太郎 文春文庫 1987年1月10日第1刷
   毒毒度:2
“ここでルポルタージュは陸上競技と同じものだというのは、結局ルポルタージュといえども、自分ひとりのためのものでしかないということを、はっきりしておきたいからである。少なくとも、ぼくにとって、ルポルタージュは誰のためのものでもなかった。自分の愉しみだけのために踏切板を蹴り、跳んでいたのだ”(虚構の誘惑)
“スポーツの世界、とりわけプロ・スポーツの世界において、大事なことがさほど多くあるわけではない。「闘う」者にとってはいかに勝つか、「視る」者にとってはいかに愉しむか、大事なことはそれだけである”(視ることの魔)

いかに愉しむか。知識、想像力、そして「思い込み」がスポーツを面白くする。面白がること。「視て」「書く」者としては自分が面白がれたものを書ければいちばん幸せなのだが。
タイトルはアメリカのライターの作品『ペーパー・ライオン』によるらしい。著者のジョージ・プリンプトンは、アメリカン・フットボールのデトロイト・ライオンズのキャンプに参加しプロフットボールの世界を描こうとした。努力もし、チームケイトも受け入れてくれたが、結局は本物のライオンにはなれなかった、自ら檻に入りIDカードを発行された紙のライオンに過ぎなかったというエピソードである。
ノンフィクションとフィクション、ノンフィクション作家としての完成と破壊。最近毒了したての『羆嵐』(吉村昭)が評されていて、その偶然に驚く。

2004/01/21-8915
百の旅 千の旅 五木寛之 小学館 2004年1月1日初版第1刷発行
   毒毒度:1
“だらだらと抹籍のいきさつを書いたのは、要するにインターネットを通じて知ることのできる情報というものが、じつはごく表面的なありきたりの上っ面にすぎず、その背後の人間の内面のドラマや、事実の細部にかかわる部分はすべて脱落してしまっている干物のような形式的なものにすぎないということを言いたかったからだ”
“本当のことは、人間とナマで接してこそ見えてくる” (英語とPCの時代に)

術後1カ月、リバビリの真っ最中、やっと読書の余裕ができたらしい怪我人から、『みみずくの夜メール』に続き読了後の本書も回してもらった。
五木寛之が“抹籍、のち中退”とわざわざ書くほどこだわっている一方、巷を騒がせている某議員の学歴詐称疑惑はさらに拡大、実は一度も在学どころか聴講の記録もない大学で学んだとネットで公開していたそうだ。なんだかな。

2004/01/18-8916
血と薔薇 全3号復原 内藤三津子 編輯 白順社 2003年3月14日第1刷
2003年4月20日第2刷
   毒毒度:5
“ここではモラルの見地を一切顧慮せず、アモラルの立場をつらぬくことをもって、この雑誌の基本的な性格とする” (「血と薔薇」宣言)

昨年復原が出たと聞きAmazon.co.jpで調べたときには既に第1刷は売り切れであった。第2刷の入手は忙しさに取り紛れ逸した。なにげに覗いたYブックセンタにて発見、11000円也に一瞬たじろいたものの見本とおぼしきものの他にビニ本状態の一冊がある。ちょっと遅めのお年玉ということで収穫。
ウワサには聞きしものの、とにかく凄い本。1968年11月から1969年3月までに3号だけ出た“エロティシズムと残酷の総合研究誌”である。責任編集は澁澤龍彦。ロゴは白地あるいは黒地に金の装飾体。堀内誠一によるアートデザインが映える。トレーシングペーパーに包まれたその姿にエロスを感じる。第1号の巻頭を飾るのはジョルジュ・バタイユ特集“男の死”。聖セバスチャンの殉教を演じる三島由紀夫(撮影はむろん篠山紀信)。ページを繰っていくとオルフェを演じる美少年は中山仁(撮影は細江英公)だ。拷問や男色を経て種村季弘による吸血鬼特集という具合に毒満載。デジタル技術もたまには役に立つと言えばよいのか、こういった復刻版が可能となったのは喜ばしい。編集人によれば紙質や印刷・製本に関していえばオリジナルを超えた美麗ぶりであるとか。内容についていえば悲しいかな、今の時代この水準の雑誌を刊行することは、まず不可能。

2004/01/17-8917
羆嵐(くまあらし) 吉村昭 新潮文庫 1982年11月25日発行
1992年1月20日17刷
   毒毒度:3
“「最初に女を食った羆は、その味になじんで女ばかり食う。男は殺しても食ったりするようなことはしないものだ」”

大正4年12月、北海道は苫前村の開拓地にて起こった日本獣害史上最大の惨事。一頭の羆が集落を襲い、死者6名重傷者3名を出した事件がそれである。雪と闇の中で聞こえる、犠牲者の骨を噛み砕く音のおぞましさ。最初に女性を襲い味をしめた羆は、避難して空家になった家々で女性の持ち物を狂ったように漁る。鉄砲も警察も役には立たない。村人を恐怖から解放したのは、忌み嫌われる酒乱の羆撃ちによる一撃だった。
10年以上も前の誕生日プレゼント発掘。動物ものの好きな私とはいえ、人食いグマの話とは。生身の人間と自然というテーマゆえ、そんじょそこいらの化物ホラーよりも怖いこと必至。

2004/01/15-8918
京都おもしろウォッチング 路上観察学会 編 新潮社 1988年9月25日発行
1994年5月15日第13版発行
   毒毒度:2
“路上は人類の発明した膜面である。そうだ、フィルムなのだ。この世の中にチリチリと蠢く人類の生活反応が、いくつもの物件となって感光し、その膜面に焼き付けられている”(大人の京都修学旅行…赤瀬川原平)

ふっふっふ。赤瀬川原平・藤森照信・林丈二・一木努・南伸坊・松田哲夫・井上迅というメンバーによる路上観察学会、京都不思議探索の旅。坪庭ならぬ壺庭、ヘンな建物、ヘンな看板・ハリガミの類い、おなじみトマソン、マンホールの蓋、建物のカケラ…大人の修学旅行。物件を探し、はしゃいでみるというのがキホン。

2004/01/14-8919
遺伝子の使命 ロイス・マクマスター・ビジョルド
小木曽絢子 訳
創元SF文庫 2003年12月26日初版
   毒毒度:1
“「いまここではっきりいえることがひとつだけあるわ、アトス人。世の中にはお金で買えないものもあるってこと」
 「それは何だ、傭兵」
 彼女はドアのまえで立ちどまって口許をにんまりあげたが、目はきらきら輝いていた。「プロらしくない瞬間、よ」”

人工子宮を使い男性だけが生殖を繰り返す惑星アトスは、卵子培養基の疲弊問題に直面していた。急きょ入荷させた卵巣がすり替えられた偽物とわかり、直接卵巣を買い付けるべく人口委員会はジャクソン統一惑星へ青年医師イーサンを派遣すると決定。イーサンはあの、《女》というおぞましき存在の住む外界へと赴くはめになる。ところがステーションに到着するやいなや銀河スパイの魔手にかかり絶体絶命。イーサンの命を救ったのは美貌の傭兵中佐エリ・クインだった。
昨年はまったヴォルコシガンシリーズのいわば外伝、原題は『アトスのイーサン』。年賦でいえばデンダリィ隊が特殊任務隊と認められた『ヴォル・ゲーム』の2年後、『天空の遺産』の直後のエピソード。マイルズは“面倒の山の上に乗っかっているひねくれた小男”てな調子に話の中にしか登場しないが、ときには“プロらしくなく”活躍するクインはもとより、マイルズにも増して面倒が押寄せてくるイーサンという人物がなかなか魅力的な存在。遺伝子やテレパスという要素はあるものの、軽妙なやりとりやわかりやすい悪人像など、小粋なスパイものの印象(大昔のテレビ映画「それいけスマート」みたいな)に仕上がっている。

2004/01/12-8920
消えた女官-マルガ離宮殺人事件-
グイン・サーガ外伝18 アルド・ナリス王子の事件簿1
栗本 薫 ハヤカワ文庫JA 2003年12月15日発行
   毒毒度:0
“ぼくはいつかきっと、この湖の底に身をよこたえてはじめて永遠の憩いを得るのだろう”
“女の子というのは相当若くてもすべて魔女、ひとりの例外もなく魔女なんだ”
“何を信用していいのかわからないときには、何も信用しないことに決めているだけだよ”
“結局、おそろしいのは人間の心だけなのだ”

アルド・ナリス15歳。マルガにてなかば虜囚のような暮しをしているナリスが連続女官失踪事件に遭遇する。92巻の腰巻きでは正篇93巻12月発売となっていたが、実は外伝が発行されていた。ナリスが拷問により片足と美しい声を失い、ついには崩御となった正篇は、ナリスファンにとっては辛くさえあるとも言われている。こうしてその元気な姿を見られるというのが外伝の醍醐味。内容については引用がすべてを語っておりまする。

2004/01/10-8921
みみずくの夜メール 五木寛之 朝日新聞社 2003年11月30日第1刷発行
   毒毒度:1
“食べることと同じように眠るのにもエネルギーがいるのだそうだ”
“まあ、世の中で一番重いのは、じつは紙なのだ”

朝日新聞の月曜日の朝刊に連載中。家はずっと朝日なので読んでいるはずだが、こうしてまとまってしまうと新聞で読んだというしっかりした記憶はない。風呂に入らない話、大学抹籍と中退の相違などお馴染みのネタが目につくせいだろうか。旅と寺テーマも満載、ちょうど新刊も出て頃合よしですかな。

2004/01/09-8922
黒蠅(下) パトリシア・コーンウェル
相原真理子 訳
講談社文庫 2003年12月15日第1刷発行
   毒毒度:0
“「いっただろ。あいつはおれを見つけるって」ジェイは頭がずきずきしはじめている。「おれがいないと生きていけない。おれなしでは死ぬこともできないんだ」”
“「やっぱりあなたにはできなかったかもしれないわね、マリーノ。あなたがやらなくてよかった。息子なんだもの。どこか心の奥のほうでは、彼を愛してたはずよ」
「あいつが死んじまったことよりももっとつらいのはな、やつを愛したことなんかなかったことだ」”

すべての死の謎が解明される。とっくにこのシリーズに毒はないのだが、ノンストップで読み通せるストーリイテリングは健在と言っておこう。ただしどうもラストはいつも迫力不足の感がある。嵐にもまれつつ再会したふたりはさて???

2004/01/08-8923
黒蠅(上) パトリシア・コーンウェル
相原真理子 訳
講談社文庫 2003年12月15日第1刷発行
   毒毒度:1
“「死者はせっかちなのよ」と、スカーペッタはいった。”
“要するにプロファイリングは見かけ倒しなのだが、ベントンがそう思うにいたったことは、司祭が神は存在しないという結論に達するのと同じようなものだ”

前作『審問』からきっかり三年目、スカーペッタが帰ってきた。今の彼女は検屍局長を辞任しフロリダに移住、法病理学者としてコンサルティング業務を行っている。マリーノは刑事を辞めた。ルーシーはThe Last Precinct(最終管区)という私設捜査機関を運営している。死刑囚となった狼男ことジャン・バブティスト・シャンドンがケイにラブレターを寄こした。同時に気になるバトンルージュでの連続女性失踪事件。狼男の犯行なのか?
当然9.11以後に書かれた物語である。殺人はもとより小児性愛、誘拐、ヘクトクライム、テロ行為…人類の犯罪にはとめどがない。このシリーズにも変化が起きた。心機一転、ケイの年齢は若返っているし、一人称が三人称になったのも目新しい。さらにケイの恋人ベントンが死んでから読むのが辛くなったという読者にはあっとオドロク展開になっておりますです。

2004/01/05-8924
風の街 夢あるき 村松友視 徳間文庫 1987年6月15日初刷
   毒毒度:1
“私は、編集者と読者のあいだにある決定的なちがいは、作家とのライブの時間の有無にあると思っている。編集者が鋭い読者であるという見方は、私の場合は当っていなかった。すくなくとも鋭い読者は、それこそゴマンと存在したはずだ。だが、どんか鋭い読者にもないもの、それは編集者である私の、野坂昭如さんとの特権的なライブの時間なのだ”(路地・小路・神楽坂)

先月から持ち歩いていたのだが、なかなか毒了に至らなかった一冊。なんと当時新刊で購入した模様。家を建て替える際に数カ月神戸暮しをしていたとかで、「モトコー・タウンは夢のアーケード」編が、かなり嬉しい。というのもこのアーケードはいまだに存在しているからだ。神戸の姿はコレ。ゼッタイ観光雑誌などには載せてはいけない場所なのでございます。

2004/01/05-8925
メッシュ3 萩尾望都 白泉社文庫 1994年12月18日初版発行
   毒毒度:2
“ほんとはね 人にはさ 長所も短所もないの 
 ある型の性格があって それが 人と対するとき 
 うまくいけば長所で 悪くいけば短所ってことになるのよ”

やっぱりね、第1巻からでこそ。主人公を守るミロンという存在に『アメリカン・パイ』を思い出した。

2004/01/05-8926
メッシュ2 萩尾望都 白泉社文庫 1994年12月18日初版発行
   毒毒度:2
“自由で かったるくて ほこりっぽくて ガラクタの 古い都会 パリ”

不思議なのは萩尾望都の描くドイツが私のドイツで、パリはやっぱり萩尾望都のパリなのだ。

2004/01/04-8927
メッシュ1 萩尾望都 白泉社文庫 1994年12月18日初版発行
   毒毒度:3
“あの晩 オレが拾ったのはなんだったんだろう? 天使じゃなくて? 悪魔でもなくて?”

フランシス・マリーと名付けられた男の子。2才のとき母が出奔、12才まで父に疎まれる。渾名はメッユ、2色の髪。リンチにあい腕を折られたメッシュは、画家のミロンに拾われる。異形であることの悲しみ、《親に捨てられた子ども》というゾッとするような孤独を味わってきたメッシュの心の傷は癒えるのだろうか。そもそも第1巻を読まずして第2巻をはじめてはいけなかったのだ。

2004/01/04-8928
東京ブックストア&ブックカフェ案内 散歩の達人ブックス 交通新聞社 2004年1月10日初版第1刷
   毒毒度:2
“気をつけないと、人は自分が何を面白がれるか知る機会がないまま、人生をうかうか過ごしてしまう。”

新年に初ナマ新刊書店で収穫。シリーズ前作『東京古本とコーヒー巡り』が売れたのか続いて出たのもブックカフェカンケー本。贔屓のK造社書店が「ここで買ってトクしたと思わせる」フツーの本屋として紹介されている。そう、私も文庫版『ローマ人の物語』を差し出したらレジの女性(上品な年配の方)に「文庫が出てようございましたねえ」と声をかけられたことがあったっけ。
本のある空間を映した写真が綺麗。行ってみたくなる店満載。内容はいいのだが、どうもこのシリーズ、デザイナーが凝りすぎているふしがある。小さい文字が読みにくいのはお歳ごろかも知れぬが、この大きさでこの書体で白抜きはないんでないかい? 縦書きで一行76字とか、黒地にミンチョーで赤文字、白ズラシカゲ?なんて、やりすぎですって、読めませんって。

2004/01/03-8929
CROSS ROADS 3 NISHIKAZE 集英社 199X年X月XX日第1刷発行
   毒毒度:1
ここ数年、賀状を書くのが遅れに遅れている。さすがに2002年の暮れは喪中ハガキを12月20日にやっと間に合うくらいには出せたものだが。2004年分はついに発注25日、仕上がり29日、書き初めは新年明けてから、おせちは完食したというのにまだ半分しか書けていない。

2004/01/02-8930
CROSS ROADS 2 NISHIKAZE 集英社 1992年3月24日第1刷発行
   毒毒度:2
“北居さん家では猫までもドリフトの名手であった(これはノン・フィクション)”(A Happy New Year …JAGUAR)

怪我人は3日の朝まで仮出所。K'sデンキでラジオを買い、マツキヨでカルシウムを補給、書店で暇つぶしグッズを見つくろい、東西折衷の不思議なおせち料理を食べ、コーヒーとさつまいも茶巾絞りのマッチングに満足している模様。勢いでBOOK-OFFにも入って見たが何もなかったとさ。こちらは売って110円、秋せつらシリーズの続きや萩尾望都『メッシュ』の第1巻、GTromanの10巻など1000円分収穫して抽選はハズレ。

 

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