艦開け放たれた窓から、時折吹く風がレースのカーテンを揺らしている。久しぶりに二人そろっての休日の午後。
マグカップ片手に音楽を聴きながら、ソファに肩を寄せ合って座っている。
「・・この間、家に帰った時にね、アルバムを持ってきたの。」
不意にユキが僕に話し掛けてきた。
「見る?」
もちろん僕は二つ返事で頷いた。
ユキは立ち上がって、寝室のドアに消えていった。
アルバムかあ。見せてもらうのは初めてだ。
・・・・その中には僕の知らないユキがいる。
当たり前だが何だかドキドキしてきた。
ユキが戻ってきた。分厚いアルバムを胸に抱え込んで、僕の横に座った。
僕は心の動揺を知られまいと平静さを装い、
「開けてもいい?」
と言った。ゴクンと唾を飲み込み、震える手をなんとか落ち着かせ、表紙を開いた。
アルバムはきれいに整理され、生まれた頃から順番に並べられているようだ。
赤ん坊の頃、幼稚園の頃、小学校の頃・・・・
女の子と一緒の写真ばかりだったが、一枚だけ男の子と一緒の写真を見つけた。
「この子は?」
「ああ。彼の名は中田大地君。近所に住んでて、一緒に学校に通っていたの。」
ほら、私が通っていた学校って公立じゃなくて、私立でバス通学していたって前にいったことあるでしょ。
同じ学校に通う子って中田君しかいなくて、行き帰りはいつも一緒だったの。
行き帰りが一緒というだけでね、「ラブラブ〜」とかよく言われて、クラスのみんなからよくからかわれたわ。
ユキは懐かしそうに答えた。
その中田とか言う奴と一緒に写っているユキを見ると、とびっきりの笑顔で、他の写真と少し違う。
「それにしてもいい笑顔だ。この子が君の初恋の人なのかい?」
「よくわからないわ。そうかもしれないし、そうじゃないかも。
わたしって中学も高校も女子校だったでしょ。
大学に入るまで男っ気なしだったし、よく遊ぶ男の子って大地君だけだったからそうなのかも。」
ユキがそんな風に他の男の事を考えるだけで、僕はがまんができない。
僕の知らないユキを彼は知っている・・・そう思うと見たこともない今の彼に嫉妬してしまう。
―――奴のことが好きだったからこんなイイ笑顔が出来るんだよ――――
そう言おうとして僕は言葉を飲み込んだ。
過去に嫉妬したって何にもならないぞ。彼女が困るだけじゃないか。
今、ユキは僕の隣にいる。
それがすべてだろう?
僕の中でもう一人の僕がそう叫んでいる。
「その・・・中田君は今は何をしているんだい?」
「それがねえ、会社は違うけどパパと同じ製薬会社なんですって。
この間、同窓会に行ったとき、最近の中田君の写真を見せてもらったの。
スキンヘッドで、昼間に絶対会いたくない職業の人みたいで、見た目は怖いお兄さん風になっててね。
それを見た時やっぱり初恋の人じゃないわって思ったわ。」
ユキはころころ笑いながら答えた。
それを聞いて、なんだかホッとした。
「・・・今度は古代君のアルバムがみたいわ」
「そうだな・・・・」
今度航海から帰ってきたら、地下都市のあの部屋からアルバムを取ってこよう。
そのアルバムを見たら、彼女は僕のようにドキドキしたり、嫉妬したりするのだろうか?
「そのとき、・・・古代君の初恋の話も聞けるかしら」
少し小首を傾げながら言うユキの質問に僕の答えは決まっている。
『初恋の人なんていないよ・・・僕の初恋の人はユキ、君だから・・・』
fin