S  i  s  t  e  r  s  】

By  pufさん

(1)

彼女の視線に気がついたのは、偶然だった。
 

その日も私はいつものように、古代さんと一緒に射撃訓練をしていた。

そこに来ていた彼女と、妙に目が合う。

向こうは気がついてないみたいだけど。
 
 

彼が彼女の方を向いていないとき、他の人と話しているとき。

彼に気づかれないように、そっと見ているみたいだ。
 

あの目には見覚えがある。
 

『アナタノコトガキニナッテイル。アナタハダレノコトヲミテイルンダロウ』

『ワタシノキモチニキガツイテ。デモヤッパリキガツカナイデ』

恋する女の子、ってヤツだ。
 

んー。

彼女といつも一緒にいるのは、私の年の離れた妹。

今度機会があったら、彼女のことを聞いてみよう。

そう、思っていたのだけど。
 

その機会は、わりとすぐにやってきた。

古代さんが、彼女から私の妹を預かってきたのだ。

「お久しぶりです。お姉さま」

そうよね。よく顔を会わせているけど、こうしてゆっくり話すのは久しぶりよね。

「ええ」

昨日、はしごから落ちたときは大丈夫だった?

「ええ。古代さんがキャッチしてくれたから、私はどこも打ってないんですよ」

そう。よかった。ところで、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。

「なんですか?」

実はね。その、そちらの姫のことなんだけど。

「はあ」

妹の目が光ったように思ったのは、気のせいだろうか。
 



私の名前はコスモガン。
 

正式には、南部重工業大公社製2144年式コスモガン。

私は、日々古代進さんに仕えている。
 

南部一族は開発・試作の「中の家」を中心として、東西南北と5つの家系からなっている。

「東の家」は、主にコスモガンや、コスモライフルなどの小火器の家系だ。私もこの家の生まれ。

「西の家」は、ブラックタイガーなどの航空機関連。

コスモ戦車や多弾頭といった対陸戦の者は、「南の家」。

「北の家」はレーダーをはじめとする、防御装置関連が中心となる。通信機もここの家の者。
 

ただしカスタマイズされた場合は、その時点で「中の家」の養子扱いとなる。

私も若によってカスタマイズされているので、今は「中の家」の養女。

「中の家」の長女は、言わずとしれたヤマト姉様。うちの若が搭乗するコスモゼロは次女にあたる。
 

この妹はユキさんのお供で、今はまだ「東の家」の者だけど。

若がユキさん用にカスタマイズするだろうから、遠からず「中の家」の養女になるだろう。
 

まあともかく。

このイスカンダルへの旅にあたり、わが南部一族は総結集した。

人間の南部家からは、惣領家の康男坊ちゃんが参加している。
 

この旅は、戦争を放棄した日本に生まれつき、長いこと肩身の狭い思いをしてきた私たちが、

日本ばかりか全地球の期待を一心に背負うという、かつてない事態なのであって。
 

そしてその中心となっているのが、うちの若、古代進であり、

この妹のところの姫、森ユキさんは、若にとっては重要人物なのだ。



私たちは二人とも、若にメンテナンスしてもらいピカピカ。

エステを受けたあとのようなものと言えば、この気持ちよさはわかってもらえるだろうか。
 

今、若は定期検診のため、医務室に出かけている。

船外で作業をする者は、毎月の定期診断が義務づけられている。

検診の際は武器不携帯となっているので、珍しく私たちはお留守番。

姉妹水入らず、というわけ。
 

昨日、はしごから落ちたユキさんを若が助けるという出来事が起こった。

そのことで、若は悩んでいる。

ユキさんの様子もおかしい。
 

『落ちたときの衝撃で、調子が狂っているかもしれないから。まだフル整備はできないだろう?』そう言って、若は私の妹を預かってきた。
 

本当は、ただ彼女に話しかけたかっただけかもしれない。

昨日からずっとぎくしゃくしたままだから。
 


その、ね。

そちらの姫はうちの若のことを、どう思っているのか、聞きたかったんだけど。

話題が話題だけに、おそるおそる妹に聞いてみる。
 

「それはこっちのセリフです。そちらの若はうちの姫のことをどう思ってるんですか?」

...切り替えされちゃった。

どうって。その、ねえ。
 

「うちの姫は、昨日からずっと落ち込んでるんですよ。若のせいで」

落ち込んでるって、どうして?

「どうしてって、ああ、もう!」妹がじたんだを踏む。

な、なによ。

「お姉さままで、若と同じ鈍ちんなんですか!!」

に、鈍ちんですって!?あなた、よく姉に向かってそんなことを言えるわね!!

「だって、鈍ちんは鈍ちんなんですもの!昨日もずっと一緒だったんでしょ」

そうよ。

「なら、農園でも一緒だったんでしょ」

ええ。

「だったら、もうー!わかんないかな、姫の女心がー!!」
 

...あの、『ぎゅっ』のこと、かしら?

「そうですよー!!なんだったんですか、あれ。

もう姫はそれで悩んで悩んで、昨日は一睡もしてないんですよ」
 

ふう。

思わずため息をつく。
 

...うちの若のこと、怒ってる?その、セクハラ、とか。

「はあ?なんですか、セクハラって。まあ、私はある意味怒ってますけど」

ぷんすか、と腕をくんで妹が言う。
 

いや、その思わず抱きしめちゃったから、セクハラだって怒ってるんじゃないかなーって。

「...若は、そう思ってるわけですか」だんだんと妹の目つきがこわくなる。
 

いえ、その、ね。とっさのことでよくわからなくて、後で考えてみたら抱きしめちゃってたなーと。

「後で考えてみたら、ね」冷ややかな声。
 

うわーん。この子、すっかり気の強い子になってる。

通常カスタマイズされる前は、おとなしいのだけど。
 

「女の子が!とっさのこととはいえ、同い年の意識している男の子に抱きしめられて!

どきまぎしているところを『どうかした?』なんて言われて!

その後も彼は全く平然としていて!!

意識してるのは自分だけなんだって、姫はすっかり落ち込んでるって言うのに!!!

セクハラだって怒ってないか、ですって????

若の鈍ちんにも、ほどがあります!!!!!」
 

ご、ごめんなさいー!!
 

鼻息も荒く怒り続ける妹に、思わずへこへこ頭を下げる。

と、そこへ。
 

『あの子は、昔からそうなのよ』
 

わっ!

「きゃっ!!」

突然の声に、妹と二人思わず身を寄せ合う。
 

『ごめんなさい。驚かせちゃったかしら?』

声のする方に目をやると。
 

あ、あなたは!
 

守さんとこのお姉さま!!!
 

(2)

私たち一族は、主人との結びつきが強い。

もちろん主人の身を守るため、最後の瞬間まで力の限りを尽くすのがモットー。

実際、そうして命を落としていく姉妹たちも多い。
 

でも不幸にしてはぐれてしまったり、主人を守りきれなかった場合。

残された者は、最低限の能力しか発揮できなくなってしまう。

私たちは主人とともあってこそ、自らの力を発揮できるのだ。
 

特に「中の家」は、扱いにくく変わり者と評判の家系。

嫡子はもちろん養子たちも、主人以外には扱いにくくなっているわけで。

それだけに、使いこなせる主人との結びつきは非常に強いものとなる。
 

他の家の者は、新しい主人ができれば再び目覚めて働くのだけど。

「中の家」の者だけは別。

もし主人が自分より先に死んでしまった場合、二度と目覚めることはないと言われている。
 

守さん?うちの若のお兄さん?は、名前を彫り込むほどのカスタマイズを施していた。

そんなお姉さまは当然、私と同様「中の家」の養女だ。
 

若がタイタンでみつけ連れ帰ったのだけど、ずっと沈黙したままだった。

だからてっきり守さんは、その...で、お姉さまももう目覚めることはないものと思っていた。

お姉さま!ということは、守さんはご無事なんですか?

『...私がはぐれた時には、怪我はしていたけど軽いものでした』

久しぶりに聞くお姉さまの声は、相変わらず耳に心地よく、涼やかだ。
 

「今は、どちらにいらっしゃるんです?」やっと我に返った妹もたずねる。

『わからないの。捕虜にされて、どこかへ連れて行かれたようなんだけど』

「そうなんですか」
 

でもお姉さまが目覚められたということは、生きていらっしゃる可能性があるということですね。

『そうね』

ああ、若にこのことをお伝えすることができたら、どんなにお喜びになるか。
 

それにしても、どうして突然?

『いえね。もうしばらく休んでいようと思っていたんだけど。どうしても気になって』

『守さん、うちの殿はいつも進くんのことを心配していたのよ』

そうだったんですか...

『戦うことの嫌いな優しい子だったのに、自分たちがふがいないから軍人になってしまったって』

...そういうわけじゃないと思いますけど。
 

そう。

うちの若の戦闘能力は抜群なのだけど。

その性格は、戦うことに向いていないんじゃないかなーって私も思っている。
 

だって、やさしいのですよ。

私たち南部一族の者のこともいつも思いやってくれるし、よく声をかけてくれる。

ゼロなんてすっかり若に心酔していて、『他の奴は乗せてやんない』とよく言っているのだけど。
 

農園で土いじりをしている時の若は、本当に楽しそうで。

きっとこれが若の本来の姿なんだろうな、なんて思ってしまうと。

私なんぞがお供していていいのだろうか、と考えてしまう。
 

と、しんみりとした空気の中。

お姉さまってば、にやりと笑って、

『おまけに恋愛がらみには鈍いから、ちゃんと彼女つくれるのかなーって』なんておっしゃる。
 

お、お姉さま!人がしんみりしてるっていうのに!

そういうところ、話に聞く殿とそっくり!!
 

「そうなんですよー、守さんとこのお姉さま!!」我が意を得たり、とばかり妹が勢いづく。

「ねえ、年頃の女の子を抱きしめておいて、ですよ。

そういうときに『どうかした?』なんて言います?」

『言わないわよねぇ、確かに。少なくとも、殿は言わないわ』とにっこり。

お姉さま、おもしろがってません?
 

『どうかした?』じゃなくて、『どうしたの?』って言ったんです。

それに抱きしめたって言っても、事故だったんですよ、事故。若はとっさにかばったの!
 

「『どうしたの?』でも同じことですよ。それに、あの『ぎゅっ』はそれだけじゃないでしょ」

妹が口をとがらせて言う。

まあ、それは、その...。
 

『進くんは、緊急時になると他のこと全部すっとんじゃうのよねぇ』

そう!そうなのよ。お姉さま、良いことを言うじゃありませんか!
 

あの時は、とにかく姫を守ることしか考えてなくて。

その後、艦の責任者としての役目を果たさなくちゃいけなくて。

だからね、一通り落ち着くまで、自分が何したかよくわかってなかったの。

医務室からの帰り道にやっとふりかえって、姫を抱きしめちゃったって気がついたのよー。
 

確かに時間がかかりすぎだと私も思うけど、と心の中でつぶやきながら、若の弁護を続ける。
 

でもね、嫌われちゃったらどうしよう、とか、どう思われたかなって、やっぱり眠れなかったのよ。

あなたの整備をするのを口実に、やっとの思いで姫に声をかけたんだから。

「ああ、そうだったんですか」

妹が少し納得、というそぶりをみせる。
 

「でもそれにしては、ずいぶんとぶっきらぼうでしたけど」

だからね、ぶっきらぼうな言い方は照れ隠しなの。そこのところを分かってもらいたいんだけど。

「...そりゃあ、分からなくもないですけど」

けど?

「うちの姫もね、相当の恋愛下手なんですよ」やれやれ、という口調で妹が言う。
 

「男きょうだいもいないし、ちゃんとおつきあいしたこともないし。

男の子の事なんて全然わかってないんですよ」

うーん。

「だからですね。そこのところを、若がくんでくれるとありがたいんですけど」

それは、難しいかもしれない...
 

『鈍い同士なのねー。うふふ。それは大変だわ』

楽しそうに言うお姉さまを、妹と二人でキッとにらみつける。
 

そりゃあ、お姉さまはいいですよ。

殿はなんといっても、防衛軍一女性の扱いがスマートと言われてましたしね。

康男坊ちゃんもなかなかのものですけど、殿にはかなわないとか。

ふん。

ガチャ

「あれ、姫」
 

突然扉が開き、周囲を気にしながらユキさんが入ってくる。

看護服のまま息を切らせているところを見ると、検診の合間を見て抜けてきたんだろう。
 

ああ、お花の交換ね。

農園で摘んできた花と花瓶を抱えている。
 

姫は地球と最後の交信の際、身よりのいない若を傷つけてしまった、と気にしている。

それ以来、殺風景な若の部屋にお花を飾ってくれているのだ。
 

「これでよし、と」
 

花を生け終わると部屋を見回し、守さんの写真立てを軽くハンカチでふく。

これもいつものことだ。
 

そして、机の上の私たちをちらっと見たかと思うと、

そそくさ、という感じで姫は去っていった。
 

パタン
 

「姫ってば...」

『けなげなのよねぇ』

ほうっとためいきをつく、二人。
 

ちくちくちく。

確かにこのことについては、胸が痛い。
 

「それなのに...若は気がついてないんでしょう?」

恨みがましい目つきで妹が言う。
 

いや、その、気がついていないわけじゃ、ないのよ。

誰かがお花を飾ってくれていることも、花が時々変わっていることも気がついてるの。
 

『でも、それだけなのよね』また、お姉さまが楽しそうに言う。

はあ。
 

そうなの。

誰かが自分の部屋に花を飾ってくれている?その意味については、さっぱり気が回らないらしい。
 

出航直後にはなかったのだから、不思議に思わなくもないのだけど。

こっそり農園の手伝いをしているから、生活班からのお礼かななんて思ったりしている。
 

農園の手伝いについては、ユキさんと生活班の数人以外には内緒にしているから、

他の人の部屋にも飾られているのか、誰にもきけないでいる。
 

若は植物が好きだ。

だから「誰か知らないけど、やっぱり部屋に花や植物があるといいなあ」なんて喜んでいる。

そういうところ、若は素直なのだ。
 

「姫がかわいそうですー」妹がしくしくと泣き出す。

いや、そんな、泣かなくても。

「うぅ。若も、姫のこと好きなんでしょ?そろそろ気づいてくれたって」

そ、そんなこと言ったって。
 

困ったな。泣かれると弱いのよね。
 

ただでさえ若はそういうのうといし。

それにね、好きな相手にどう思われてるか、なんて分かるわけないじゃない。

「それにしたって」

姫だって、若の気持ちにちっとも気がついてないんでしょ。

「それもそうなんですけど...」妹がちょっとひるむ。
 

若が姫に夢中なこと、もうメインクルーや加藤さんあたりは気がついてるわよ?

大体、姫はうちの若のこと大嫌いだの、もてないくんだの言ってたじゃないの。

「はあ」

そうよ!ヤマトの中に好きな人はいるけど、若は対象外なんて言ったり。

どれほどうちの若がしょんぼりしていたと思ってるのよ!

「その...それについては、確かに姫が悪いんですけど...」

それで、姫の気持ちに気づけっていうほうが無理なんじゃないの!!

「姫は不器用なんですよ...」

不器用!確かにね。姫のコーヒーはものすごい味だったっていうしね!

「な!関係ないでしょー!!若はコーヒー飲まないんだから、別にいいじゃないですか!!」
 

ぜいぜいぜい。

つかみかからんばかりの勢いで、妹と二人にらみ合う。
 

『まあまあ。少し落ち着いたら』と、お姉さまが割って入ろうとする。
 

きっ!

お姉さまだって、おもしろがってるんでしょ!

若がよく言ってます!守さんは自分をからかってよく楽しんでたって!!

『まー!!』お姉さままで、青筋を立てて怒りだした。

『うちの殿を悪く言わないでちょーだい!!大体、進くんが鈍いからいけないんでしょう!?』
 

あー、もう!!

鈍い鈍い、言うなー!若だって精一杯なんだー!!
 

と怒鳴ったその時。
 

若が、戻ってきた。

(3)

「あー、終わった終わった。当直まで2時間か。少し寝ておくかなあ」
 

私たちの気持ちも知らないで。

検診を済ませてきたうちの若ってば、着替えもせずにベッドに寝転がる。
 

「あれ?」と、机の上の花瓶を見やる。

うふふ。
 

「花が変わってる」

ほら、ちゃんと気がついた。
 

「...誰か検診の間に来て、変えてくれたんだな」

そうそう。

思わず三人、息をひそめて次の言葉を待つ。
 

「誰かなあ。シーツやタオルの交換はユキが担当してるって聞いたけど。

今日は交換の日じゃないから、彼女じゃないよなあ」
 

ば、ばか!

別にリネンの交換の日じゃなくても、花を持ってくることはできるでしょうが!!

...お姉さまと妹の冷たい視線を感じる。
 

「検診の間も医務室にいたしなあ。彼女のわけないよな」

休憩をとると言って、少し抜けることもできるでしょうが!
 

「でも他の人と言っても思いつかないし」

うんうん。それで?
 

「んー。まあ、いいか」

え、ちょっと。
 

「とにかく寝よ。昨日は眠れなかったし、今夜は当直だからなあ」

あっさり考えるのをあきらめたかと思うと。
 

あろうことか、若はそのままコテンと寝てしまった...
 

若!若!!

昨日はあんなに悩んでたくせに、今日はそんなにあっさりと寝るなんて!!

私の立場はどうなるんです!?

ちょっと、若ってば!!
 

すーすーすー。
 

...もう、寝息が聞こえる。

そう、若はどこかの殿とは違って、いびきはかかないのだ。
 

それにしたって、もう。
 

若のバカー!!!

鈍ちーん!!!
 

久しぶりに集まった三姉妹。

声を合わせて、眠る若の背中に言葉を投げつける。

「はあー」妹がためいきをつく。

いや、その...申し訳ない。
 

「いえ、わかりました。私もう期待しませんから。うちの姫が頑張りますよ。

ええ、ええ、そうですとも。姫がそのうちなんとかします。

もう、いいです。私、寝ます。お姉さま方、おやすみなさい!!」

ぷい、と妹が向こうを向いてしまう。

あーあ。
 

『...私も久しぶりに起きていたから、疲れちゃったわ。休ませてもらうわね』

お姉さまもあくびをして、眠そうに言う。

そうですね...お休みになってください。
 

若もお姉さまも妹も寝てしまい、一人取り残される。
 

久しぶりに姉妹で話す時間が持てたことは、よかった、のか?
 

若が姫を好きなこと。

姫も若のことを好きなこと。

それを確かめられたのは収穫かもしれない。
 

それから、守さんが生きているかもしれない。

そう希望が持てるというのは嬉しいことだ。
 

でも、一番はっきりしたことは。
 

うちの若が仕事バカで、女心に致命的に鈍いこと。

そして、姫が致命的に不器用なこと。

そんな二人の恋が、前途多難だって事じゃないだろうか?
 

ああ、もう。
 

明日はコスモゼロと慰めあおうっと。

少し気を取り直す。
 

そして一緒に、お星様にお願いしよう。

どうか、私たちの若にも幸せが訪れますように。

寂しがり屋で甘えん坊で、やさしくて不器用な若のために。
 

好きな子を思わず抱きしめちゃって、1時間もそのことに気がつかない若のために。

気がついちゃったら恥ずかしくて、彼女の顔もまともに見られなくなっちゃう純情な若のために。

若のそんなところ。

今は無理でも、きっといつか姫もわかってくれる。
 

そんな日が来ることを願って。
 

そうだ。

総領家の康夫坊ちゃんと、コンタクトがつけられないかしら?

あそこの妹は、確か私と同じ「中の家」の養女になっているはず。
 

いつもなら、島さんのところの妹にも相談するのだけど、この件に関しては微妙なのよね。

どうも口が堅い子なのだけど、島さんも姫をねらってるんじゃないかと私はにらんでいる。
 

「東の家」始まって以来の才媛と噂の高い、真田さんとこの妹にも協力をお願いしようかしら。
 

それにあの、相原さんて人。

ヤマトの通信を司っていて、「北の家」と縁が深いのだけど。
 

昨日、彼の手によって「北の家」から「中の家」への養子縁組が一つ整った。

まだ試行段階だけれど、噂によると若と姫を応援するシステムなのではないか、ということだ。
 

彼はどうも私たちと直接コンタクトをとれる、きわめて珍しいタイプの人らしいから、

さっそく、協力をお願いしてみよう。
 

そうよ。

南部一族「中の家」養女、古代進がとこのコスモガン。

その名にかけて、頑張りますわよ。
 

ええ、ええ。必ず若を守りきってみせますとも。

そしてなんとかして、うちの若と姫に幸せを。
 

若と、姉と妹の寝顔を見ながら、決意を新たにする私なのでした。

Fin.
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