「よぉよぉよぉ」う。なんか、イヤな予感。
「なあ、ユキさんとはどうなってんだよ」
...やっぱり、そうきたか。
ここでむきになったら、さらに言われるだけ。
経験に学べ。
別に。
何もないよ。
「またまたあ。なんかいいことあったんじゃないの?」
「そうだよなあ。しょっちゅう二人で一緒にいるしなあ」
一緒にったって、ただ訓練してるだけで。
特別なことなんて何もないよ。
「そうは言っても、なあ?」
「そうそう。ごまかしちゃって」
「外に出ちゃったら、密室で二人きりだもんなあ」
「いいなあ。あんな美人と二人きり~」
ほかの奴らも騒ぎ出す。
あー、もう。なんにもない!!
どうにもなってない!!
二人きりって言っても、訓練してるだけ!!
どうにか、できるわけない!!!できたら、こんなに苦労しないー!!!!!!!
あ。
「へえ~」
しまった。
みんなのニヤニヤ顔。
「やっぱり、どうにかしたいんだ」
「初めから素直になればいいのに」
「なあ?俺たちも協力してやろうか」
どっと、連中がわく。
あーあーあー、うるさい。
蹴散らしてやろうか。
もう、いい加減にしてー!!!
ビービービー
『パトロール、発進10分前。準備急げ!』コントロールが指示を出し始める。
「やべ!!」
「隊長たちが来るぞ」
「ずらかれ!!」
発進するのは2機だけなんだけど。
さんざん人をからかっていた連中が、わらわらとそれぞれの仕事を始め出す。
(ずらかるって、ずらかるって、どこによ?)「じゃあな、コスモゼロ!!続きはまた今度ってことで」
隊長機のにいちゃんが叫ぶ。
全くもう!!
にいちゃんてば、やめてよねー!!
いくら隊長のこと気に入ってるからって、すぐに真似したがるんだから。ようやく連中から解放され、ほっと息をつく。
ああ、さっきの若の気持ちが、よおくわかった。
疲れるわ、ホント。
今朝の戦闘班のミーティング。
フォーメーションの検討をするはずだったんだけど。実際のところ、検討していたのはフォーメーションについてではなく。
ほとんど姫と若について、だったわね。ああいうの、つるしあげっていうんじゃないっけ。
加藤さんをはじめ、ブラックタイガー隊はみんな若のことが好きで。
もちろん班長としても信頼している。ただ戦闘以外については、うちの若ほとんど小学生なみだからね。
ついつい、からかっていじめたくなるのも無理はない。姫とのことをさんざん聞かれて、気の毒な若は真っ赤な顔。
「ただ、訓練してるだけだし」なんてつぶやいて。もっと余裕こいて「ふふん、まあな」なんて言っちゃえば収まるのに。
そういうの、守さんなら得意だろうになあ。うちの若ってば、てんでだめなの。
あげくには「別に何もないし、何とも思ってないー!!」なんて叫ぶもんだから。...それじゃ逆効果だってば。
みんなの愉しそうな顔。「チーフってかわいいー!!」
女子隊員の中には、最近ファンもあらわれつつある。どうしてこんなにわかりやすいんだろう????
おばかな、若...なんて、同情している場合ではなかった。
そのやりとりを見ていたにいちゃんたちが、「俺たちもやろうぜ!!」なんて。
ミーティング後の、人のいなくなった格納庫で大盛り上がり。うう。
その場合のターゲットは私かい??
ブラックタイガー隊による、コスモゼロいじめ。気がつくと、若同様にすっかり愉しまれてしまった。
はあ。
若におつとめするの、やめようかなあ...
もったもったもった
ぐ~ずぐ~ずぐ~ず
そんな効果音が聞こえてきそうな様子で、姫が探査機のチェックをしている。
一緒にいるのは若ではなく、アナライザー。
元気のない姫とは対照的に、なんだかご機嫌の様子。あれもよくわかんないんだよなあ。
生まれもよくわからないし。(うちの一族ではなく、科学局の系統らしいんだけど)姫の恋人に立候補している、いわば若のライバル?
うちの若も、あのぐらい積極的になれればねぇ。「えーっと、あとは」
それにしても、ユキさん。探査機自身は発進予定を聞かされてから、もうすっかりスタンバイしている。
今姫がしているのは、パイロットが搭乗前にする目視による点検。いつも若たちのを見慣れているせいかもしれないけど、あまりにも心許ない。
心配だわねえ。
やっぱり、「なんだか、あぶなっかしそうだな。艦長に許可をもらって、俺も行こうか?」
そうそう。
って、あら若じゃないの。いつの間に来たのか、ユキさんの様子を不安げに見ている。
いいこと言うじゃない。そうよ、ついて行ってあげたら?「大丈夫かと思って、様子を見に来てみたけど」
たまには、若も素直じゃないの。「やっぱり君とアナライザーの二人だけじゃ、無理そうだよな。ヤマトの問題児が行くわけだからなぁ。」
ば、ばか!!
セリフが違うでしょうがー!!「何かあったら心配だから」とか「君のことが心配だから」とか。
ここは、そう言うとこでしょう!?ヤマトの問題児なんて、そんな言い方したら。
「お気遣い頂きまして、ご親切にどうもありがとうございます。
でも、何もお忙しい戦闘班長さまに手伝って頂かなくても、結構ですっ!!
これくらい、私とアナライザーだけで、なんとかなりますからっ!!」顔色を変えた姫が、探査機に乗り込む。(なんとか、よじのぼったって感じだけど)
ほうら、やっぱり。
怒っちゃったじゃないの。
「一緒に行くのが、問題児のアナライザーだから心配だ」って。
ちゃんと言わなくちゃだめじゃない。「二人きりにさせるのが心配だ」って言えたらいいんだけど。
...無理だよなあ。はあ。
若のコスモガンと目を合わせ、ためいきをつく。姫のとこのコスモガンが、あかんべしてる。
わ、私達に怒らないでよー。ほら、そこでもうちょっと強く言うのよ。
きっと姫だって、不安に思ってるはず。
意地張ってるだけなんだから、強引についていっちゃえばいいのに。それなのに。
心配でたまらない、って顔して。
でも、立ちつくす若。............................
あーあ。
行っちゃった。「...大丈夫かなあ」なんてつぶやいてるなら。
行く?
私なら、いつでもいいけど。すっかりスタンバってる私には気づかず、
若ったら姫の探査機をしばらく見送った後、格納庫を後にした。どうせ命令違反なんて慣れてるくせに。
素直じゃないんだから。『あーらら、こらら』
『いーけないんだ、いけないんだ』格納庫中、にいちゃんたちの大合唱が反響してる。
なによお、もう。「だめじゃん、若。また姫を怒らせちゃって」
「『君のことが心配だ』って言っちゃえばいいのにさ」
「あー、またこれで姫に嫌われたな」
がやがやがや。って、もう!
どうして私が責められなきゃいけないのよ!!もう、若のばかー!!!
誰かに、ぐち聞いてもらおう。
中距離通信、えい。
『つまり、
[1 まだ操縦に不慣れなのに、単独飛行をさせること]
[2 未知の星に探査に行くのに、護衛をつけていないこと]
の二つが、まずとりあえずの心配ね。
それから
[3 「ユキにプロポーズする」と宣言したアナライザーと二人きりであること]
というのが、今回に限っての心配。
で、結局
[4 いつでも、とにかく、ユキさんのことが心配でたまらない]
のが本音、ってとこよね。
素直じゃないんだから、全く』
インカムが、格納庫でのやりとりを僕に聞かせる。
彼女は今コスモゼロとコンタクトしながら、僕に説明してくれている、というわけ。
ふうん。
で、どうなの?
ユキさんは、古代さんのこと意識してるみたい?
『まだ、はっきりした情報はきてないのよね』
ああ、そうなんだ。
『ぎいちくんはどう思う?』
僕にも、まだよくわからないんだよね。
とりあえずさ、さっきのスカートめくりのこと、ユキさん怒ってるんじゃない?
『ちょっと、相原さん!スカートめくりって何の話よ!!』
うわ。
脳裏に、コスモゼロの声が響く。
血相をかえる彼女(なのか?)に、僕は食堂での出来事を伝えた。
ユキさんがアナライザーにスカートをめくられたこと。
古代さんが、手を叩いて笑っていたこと。
『もう若ってば、何やってんのよー。かばってあげればいいのに!!!』
じたんだを踏んでいるかのような、コスモゼロの声。
そんなこと、僕に言われても。
古代さんに言ってよ。
『だって、若には聞こえないんだもん』
だからって、何も僕に八つ当たりしなくても。
『しかたがないんじゃないの?ぎいちくんの他に、聞いてくれる人なんていないし』
インカムまで、そんなことを言う。
まいったなあ。
「まったくもう。うちの若ときたら」
ため息つきつつ、新たな声が飛びこんでくる。
今度は誰?
振り返ると、噂の古代さんが艦橋に戻ってきたところだった。
ってことは、この声はコスモガンかな?
やれやれ。
古代さんに仕える身分は、大変だね。
「あら、相原さん?そうなのよー!聞いてくれる?」
え、いや。仕事しないと。
これ以上ぐちをきかされるのは、たまらない。
いくら僕でも、限度ってものがある。
『そうね。そろそろお仕事しましょう』
インカムがくすくす笑いながら、コスモゼロとコスモガンに合図する。
僕のコスモガンにでも言っておいてよ、後で聞くから。
「なに言ってんの。相原さんとこのは寝てばっかりでしょ!たまには射撃訓練しておけって、若も言ってたわよ」
うへ。やぶへび。
全くなあ。主人に性格って似てくるんだなあ。
誰だよ、こんな変な一族を開発したの。
軽く隣の「坊ちゃん」をにらむと、いぶかしげな顔をされた。
「なんだ?相原」
あ、なんでもない。
僕は小さい頃から、機械と話すことができた。
てっきり、誰でもそうだと思っていたんだけど。
どうも違うらしいと知ったのは、小学校に上がったときだった。
「何もしていないのに、むこうから話しかけてくる」
それまで僕は、機械っていうのはそういうもんだと思ってた。
でもさすがに、ヤマトに乗り込んだ時は驚いた。
こんなに結束の固い集団なんて、初めてだ。
「一族総結集」なんだってさ。
僕のインカムは、すごくおしゃべりで。
当初3日間かけて、彼女たち一族についてレクチャーしてくれた。
なにしろ、ヤマト自身が総領娘だってんだから。
女系家族らしいけど、男(というのだろうか?)がいないわけじゃない。
外見ではわからないけど、たとえば加藤さんのをはじめ、ブラックタイガーには男が多いらしい。
それぞれいろんなグループがあって、主人同士の仲が良いと交流も活発なんだそうだ。
みんな仕事熱心で、しょっちゅうあちこちで自主的ミーティングをやってる。
もっとも、暇なときにはクラブ活動や余興大会の話も出てるって聞いた。
クラブ??? 余興大会?????
それが一体どういうものなのか、僕にはよくわからない。
たとえばコスモガンによるバレーボール部とか?
通信機による餅つき大会とか?
そんなものがありうるんだろうか?
ちょっと、頭が痛い。
ともかく、その中で僕は有名人なんだそうだ。
確かに、あちこちでよく声をかけられる。
大体は僕のインカムが、マネージメントしてくれているけど。
普通はコスモガンがキーパーソンになっているらしいんだけど、僕のはね。
あまり出番もないし、のんびりした昼寝の好きな子なんだ。(仕事熱心な一族の中にも、もちろん例外はある)
その分インカムがアクティブだから、いいんじゃないかな。
まあそんなわけで、僕のところには艦内の情報がすぐに集まる。
彼女たちの方が、人より早いからね。
もっとも、古代さんがユキさんを意識していることは、僕じゃなくても知ってる。
直に接することの多いメインクルーとブラックタイガー隊は、大体感づいているんじゃないかな。
ユキさんに対してだけ、妙につっかかったり意地悪を言ってみたり。
そんな古代さんは、まるで『初めて女の子を意識しちゃった小学生』みたいだ。(せいぜいが中学生ってとこ)
はじめはけんかっぱやくて、ささくれだった人という印象だったけど。
古代さんの評判は、旅が進むにつれてだんだんと変化してきた。
すごく仲間思いなこと。
とても頼りになること。
態度はぶっきらぼうだけど、誰にでも親切なこと。
実は、けっこうテレ屋なこと。
そんなことが徐々にわかってきて、最近の評判は上々。
そうすると当然、噂の的になってくるわけで。
まあ、お年頃の年代が多いヤマトだから。
大抵は気になる子の一人や二人、いるわけだけど。
泣く子も黙る戦闘班長にも好きな子がいるらしい、ということは多くのクルーが知ってる。
というのも、女性陣についての噂話に全くと言っていいほど加わってこない。
それは年頃の男の子として、おかしい。
どうも誰か決めた相手がいるんじゃないか、ってことになって。
加藤さんが、かまかけた。
『誰か好きな子がいるんだろう?』
とたんに真っ赤になったその顔が、質問への答えってわけだ。
その相手がヤマトの中にいるらしいと知っているのは、まだ半分くらいかな。
一方、出航当初から注目度の高いユキさん。
本人が『艦内に好きな人がいる』と言ったらしく、お相手は誰だ?と今もっぱらの噂。
同時に「古代さんと島さんの二人は対象外」というのも流れてきたんだけど。
でも、ちょっとあやしい。
右前方を見ながら思う。
艦橋に戻ってきてから、ずっと沈黙したまま。
まるで『心配・不安・心配』と書いてあるかのような背中。
本当にこの人を除外していいんだろうか?
ユキさんは大抵の人に優しいし、いつもにこやかだ。
その前向きさに艦長が惚れ込んで、生活班長に推したという噂もある。
それなのに古代さんに対してだけ、すぐ怒ったりむきになったり。
二人は、しょっちゅう衝突している。
古代さんの態度にも問題があるんだろうけど。
でも、どうもそれだけじゃないんじゃないか、と僕はにらんでいる。
なんか、こう。
もやもやした感じがあるんだよなあ。
気をつけて情報を集めてはいるんだけど。
この件について、ユキさんのところのコスモガンは「ノーコメント」と沈黙しているらしい。
うーん。
今度は誰にきいてみようかなあ。
『ぎいちくん。そろそろアナライザーから通信が届くよ』
今後の情報収集について考える僕に、インカムが呼びかける。
そうそう。
仕事、仕事。
探査機と連絡回路つながなきゃ。
艦橋全体に行き渡るように。
実のところは、『姫のことが心配でたまらない若』の背中に向かって。
僕は声をはりあげる。
アナライザーからの映像、入ります。
ぽちっとな、と。
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