お・も・い・で

by  さとみさん
2週間の宇宙勤務も昨日で終わった。

昨日から五日間の休暇。

いつも一緒に休暇をとるユキは、防衛会議があるため後半の二日間だけ一緒に休暇が取れた。

家の中を片付けようとするが、いつもユキがきれいにしているためすることがない。

家の中にいての仕方がないので近くの公園まで出かけてみる。

広場では、子供の声が賑やかに聞こえてくる。

ベンチに座りそんな風景を眺めていると、不意に声をかけられた。

「あのぉ、古代 進さん?ですよね」おずおずと尋ねてきた。

あまりにも有名になってしまった顔と名前。僕としてはそっとしておいて貰いたいのに・・・

仕方なく「どこかでお会いしましたか?」と、聞いてみると

「私です、覚えていませんか?」と、聞き返されてしまった。

どこかで逢ったことがあるようなないような、考え込んでしまった僕を可笑しそうに見ている。

「本当に覚えてないんだぁ。物覚えは昔から悪かったものね。進お兄ちゃん」

「ええっえ!進お兄ちゃん?お兄ちゃんなんて呼ばれる筋合いは持ってないぞ!」

突然お兄ちゃんだなんて言われてみても思い出すことができない。

困っていると僕の隣へちょこんと座ってしまった。僕より二つぐらい年下の彼女を見つめたしまった。

こんな風に座ったことあったような・・・?

考え込んでいる僕に、じゃあ種明かしとばかりにいたずらっ子のような笑顔を見せた。

あれ?その笑顔子供のころ僕にまとわりついていた女の子にそっくりだけど・・・

「まさか、悠ちゃん?あのおませな?」驚いている僕を見てニッコリと笑った。

「そう、悠子。ほんとに物忘れが激しいのだから……おにいちゃんの活躍はテレビで見ていたからわかったけど、始めはわからなかったのよ。

だって、私の知っているお兄ちゃんは、とても優しかったからヤマトの艦長代理だなんてビックリしちゃった。」

屈託のない笑顔で僕のほうを見ながら話している。

僕はといえば、「そうかな、別に変わったつもりはないんだけど・・・」と、口籠ってしまう。

「時々見かけることがあるの。でも、お兄ちゃんが一人のときってないからなかなか声をかけられなかったの。あの女性(ひと)お兄ちゃんの恋人?」なんてこと聞いてくる。

「き、急に何を言うんだい?」あせる僕はなんて答えればいいのか困っていると

「うふふ…照れなくてもいいわよ。仲良く歩いてるとこ何度も見てるから……ねぇ、おにいちゃん。まだ結婚しないの?」不思議そうに聞いてきた。

「結婚はもう少し先になるかな。ちょっと色々ありすぎて結婚のことまで考える余裕がないんだ」うつむき加減に話をした僕に

「あっ、ごめんなさい。でも、いつかはするんでしょう?結婚。そのとき私にブーケを作らせてくれないかな?」

「ブーケって?」

「やだぁ、花嫁さんが持つ花束のこと。私フラワーアレンジメイトの資格があるの。

だからドレスのデザインとかでアレンジが変わるの。そのときは教えてね。

それからお兄ちゃんの恋人とっても綺麗な人ね。」

「ありがとう。ユキは僕にとってかけがえのない人だからね。」

呟くように答えた僕の背中を思いっきり叩きながら

「ごちそうさま。私まだ仕事があるからこれで失礼するね。

あっ、それから、花束のブーケが必要になったらショッピングモールの中の『ブーケ』というショップに居ます。

それじゃぁ、さようなら、進お兄ちゃん。」

元気良く走って行く彼女の後姿を見送りながら

「元気娘にはかなわないなぁ」とひとりごちた。

そんな二人の姿を誰も見ていないわけがなかった。

噂というのは勝手に一人歩きをするらしい。
 

本人の居ないのをいいことに、とてつもないことになってしまっている。

休暇中の僕のところまでは聞こえては来なかったが、本部へ出勤のユキの耳に入ってしまったらしい。

ここ数日ユキと話をするきかいが持てなかったのもいけないんだろう。

今日こそはゆっくりユキと話をしようと思い『仕事の終わる時間になったら連絡をください』と、メールを送っておいたけれどユキからの返事が来ない・・・

『仕事、忙しいのかなぁ・・・』

時計を見ると9時になろうとしている。

ドアフォンも鳴らさずに玄関のドアが開いた。

「ユキ?お帰り。」

無言のままリビングまで来たユキの後ろから声をかけてみた。

「・・・・・・どうした?何かあったのか?」

僕の問いかけに答えようとしない。もう一度「ユキ?」と声をかけてみた。

リビングのソファーに座ったままで、今にも涙をあふれんばかりのユキの姿を見た僕は慌ててユキの隣に腰を下ろした。

無言のまま睨みつけるように僕のほうを見ていたユキがポツリと呟いた。

「古代君・・・私の知らないところで、デートしていたって・・・」

突然のユキの呟きに僕は何を言っているのか解らなかった。

「誰とデートしていたの?とても楽しそうだったようだけど・・・」

「ちょっと待って。いつの話をしているんだ。ユキ以外の人とデートしたことないよ」

なんて答えてみたけれど、そんな答えなんかユキは信じていなかった。

「じゃあ、司令部で噂されていることは何?公園の広場のベンチで女性と楽しそうに話していたって・・・」

最後のほうは涙声になっていた。

「何も泣くことはないだろう?きちんと話すから泣き止んでくれないかな?」

ユキの泣き顔を覗き込みながらそっと抱き寄せた。ユキの涙が止まるまで・・・

「落ち着いた?じゃあ、話すけどいい?」とユキのほうを見た。

コクンと小さくうなずいたのを確認してから話すことにした。

「公園のベンチで話していた人はね、子供のころ遊んであげた子なんだ。ほら、イスカンダルからの帰りに兄さんにからかわれたこと覚えているかい?」

うなずきながら「ええ、古代君がおままごとの相手をしていたこと?」と聞いてきた。

「そう、ままごとの相手というより僕の後を何時もついてきた子なんだ。彼女は平居悠子さんていってね、とってもおませな子だったんだ。今はショッピングモールの中のフラワーショップに勤めているらしいんだ。それでね・・・なんていうか・・・そのぅ・・・」言いにくそうにしていると

「なぁに?何か聞かれたの?」

「ウン・・・ユキと歩いているところを見かけたっていてけど・・・」ごにょごにょと口籠もっていると

「なぁに?はっきりいって頂戴。何も隠し事をしない約束でしょう?」

「結婚はまだなのかって聞かれたんだ。もう少し先の話だって答えたらね・・・そのぅブーケをね、作ってくれるっていうんだ。僕たちの結婚式のときに・・・」

照れながらユキの顔を見てみると真っ赤な顔をしている。

「・・・で、なんて答えたの?まさか要りませんなんて・・・」

ちょっと睨みながら聞いてきたから、

「初めは、ブーケの意味に気がつかなかったんだ。

でもね、結婚式は必ず挙げるからその時はお願いするよって言ってしまったけど・・・よかったかな?

それにね、僕はユキが着る予定のドレスのデザインなんてわからないだろう。

それに、まだ見せてもらってないし・・・」

なんてとぼけてみたけど・・・嬉しそうに微笑んでいるからなんとなくホッとしてしまった。

「だから、司令部での噂なんて信じなくたっていいと思うけど・・・」

と、ここまで言いかけてたときに

「だって、古代君何も言ってくれなかったじゃないの!とっても心配したんだから・・・」

また涙をいっぱいにして僕のほうを見ている。

「ばかだなぁ。僕がユキ以外の人と噂になんかなりたくないよ。いい加減僕を信用しろよ」

こぼれそうな涙を指ですくいながらそっと抱き寄せ優しくキスをする。
 
 

しばらくそのまま肩を抱き寄せていたけど「くくっ・・・」と、笑いがこみ上げてきてしまった。

「何を笑っているによぅ」ってちょっと膨れて僕のほうを睨んでいる。

「いや、ちょっと思い出してね・・・」

「何を思い出してるのよぅ。また変なこと思い出しているんじゃ・・・・・・」

「いや、ユキのやきもちを焼いている顔を思い出してね。ユキのそんな顔も可愛いかな、なんて思ってね」

おどけて答えてみたら

「ん、もう、そんな事言わないでよ。でも、逢ってみたいわ、悠子さんに。ねぇ、近いうちに逢わせてもらえないかしら?」

「いいけど・・・逢って何をするんだい?」と、尋ねてみたけどクスクス笑っているだけで答えようとしない。

「何を考えているんだか・・・」ため息混じりに呟いてしまった。

「そんなことより明日からの予定はどうするの?どこかに出かける?」

「ユキはどうしたいんだい?行きたいとこがあるなら出かけてもいいけど・・・」

と、言いかけた僕のほうを見ながらうれしそうに微笑んでいる。

「なんかその微笑み、怖いな」なんて言ってしまった。

「うふふ・・・あのね、もし予定がなければ行きたいとこあるんだけど・・・」と、僕の耳元で囁いた。

「いいけど・・・、明日少し早起きしないといけないよ。ちょっと遠いからね」

うれしそうに微笑むと「明日の準備しなくちゃ」と言って寝室へ向かうユキを見つめていると、

「わがまま言ってごめんなさい」そう呟いてから、そっとキスをして行ってしまった。

そんなユキの姿がとっても可愛く思えてしまう。

明日は、早起きをして長距離ドライブになりそうだな、なんて思いながらユキの後を追った。
 
 

End

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