9/21(火)原生林,美しい湖,そしてレインフォレストへ

朝,オリンピック国立公園ハリケーンリッジに向けて出発した.道はすぐに美しい針葉樹林に囲まれ,どんどん高度を上げていった.
やがて標高1500mという尾根の開けた場所にでる.駐車場に車を置いて,トレイルを行く.
白や紫の高山植物の咲く小道を進み,木陰で,雪をいだいた山々を眼下に見下ろしながら,持ってきたマフィンとミルクティーの包みを広げた.リッチな朝食である.人参とたまねぎを入れて焼いたパンがとてもおいしかった.

森の中の木々は圧倒されるほどの高さだった.見上げると梢ははるか上の方.どの樹も大きく,高く,高く育っている.冬の雨のシーズンに入る前の一番乾いている季節なのか,予想していた,しとしとじめじめという感じではなかった.
天気も快晴で,準備していた傘も不要であったが,深い森の不思議には強く心うばわれる思いがした.どの樹にも宿り木が藻のように垂れ下がり,幹には苔が生えている.
こんな森を一人で通り抜けようとしたらきっと木が枝を伸ばして服や帽子を脱がせ,足を捕まえようと追いかけてくるような気がしただろう.

国立公園を後に,森を出ると西海岸まで続く道を進んだ.前方の道路の方に霧が漂っていると見るうちに,霧はますます濃くなってあたり一面真っ白に覆い尽くされてしまった.
海岸に近づいたのだろうか,道は南にカーブしたように思われる.道路のほんの数メートル先までしか見えない.また,右手の木立のとぎれた所も真っ白で何も見えない.もしかしたら海だろうか.View Pointの表示の所で車を止めて少し行くと,やはり眼の下に海が広がっていた.
海岸まで降りて行く道がつながっている.霧の向こうに砂浜と打ち寄せる波が見える.暖かい太陽に照らされて海の水が蒸発し,陽が傾いて急に気温の下がった今,水蒸気は霧となって森の方へ流れて行くのだ.この水分が広大な深い森を育てているに違いない.大きな地球の自然の営みを目の当たりにしたような,かすかな興奮を覚えた.

Hoh Rain ForestのVisitor Centerにはいくつかのトレイルの案内があった.川へ出るコース,苔むす森の中のコース,長いコース,短いコース,もっと時間をとっておいてどれも回ってみたかったが,すでに予定の時間は使い切ってしまっているので,一番短いコースを行くことにした.
私たちのようにここへ来るまでの途中で止まって写真を撮っている人は見かけなかったが,トレイルを散歩する家族連れはけっこういる.
酸素ボンベを持って観光している家族に出会った.ご主人が奥さんの腕を支え,娘さんがボンベを抱えている.トレイルはしっかり,そして森の奥まで十分続いている.このコースは確か車椅子も可と表示されていたと思う.
誰でもが国立公園の自然を楽しめるように整備されているのにはいつも感心させられる.

国立公園を外れると道の両側の森林も広い範囲で切り取られ,切り株畑になっていた.直径1m以上もありそうな大きな切り株もごろごろころがっている.
古い切り株からの新しい芽吹きのみられるところもある.古い時代に伐採された林,植林されて再び林に育ったところ,さらに近年再び伐採されたのか古い大きな切り株と新しそうに見える切り株の混ざって見えるところ,広大なアメリカの大地を広い道路がどこまでも続いていた.
大きな切り株の脇でちょっと休憩して,昨日テイクアウトした中華料理でお昼をすませることにした.ピラフはぱさぱさになっていたがやきそばはおいしかった.大きな丸木を6,7本積んだトラックが走り去っていく.今回の旅行ではこんなトラックを何回も見かけた.

引き返した方が早いだろうか.しかし,美しい湖に惹かれて,右にそれ,気が付いたら湖のほうに降りていく道をそのまま進んできていた.どれほどの道のりなのだろうか不安に思いながら細い山道をしばらく行くと,幸運にも西行きのもう1本の道に出ることができた.
これできれいな湖も海岸の景色も両方楽しむことにはなったが,時間もずい分費やしてしまった.

地図の上では広い地域が国立公園として緑に塗られているが,その大部分が保護された原生林であり,アクセスできる場所は限られていて,そして十分整備されている.私たちの好奇心を十分満足させられる程度に,行ってみたいと思う所にはトレイルが設けられ整備されているのである.
このオリンピック国立公園のメインであるレインフォレストには,さらに西の,別の町からアクセスできるようになっている.
海からの湿った空気のもたらす雨が作り上げた針葉樹のレインフォレストは世界でも珍しいそうである.私たちは一旦もと来た道を戻って国立公園を出てから,国道を西に進んだ.国立公園入園料の領収書は1週間有効だという.

小さな海岸の町を通り越し,できるだけ先に進んでから宿をとることにして,Quinault Lakeのほとりのアマンダパークまで走り続けた.ここは再びオリンピック国立公園の南端にあたり,湖のそばのロッジは宿泊客が一杯のようにみえたが,道路寄りのモーテルはがらがらに空いていた.
このモーテルでは車椅子の,髭を生やした白人のおじさんがOfficeの仕事をしていた.ここも川のほとりにあって静かないいモーテルである.私たちも6時半過ぎていたからずい分遅いチェックインだと思っていたが,日が暮れてからもう2台ほど泊り客が増えたようだった.

モーテルの近くに屋根の上に大きなTOKYOてりやきのサインのあるレストランがあった.店に飾ってある屏風が中国風だなと思っていたら,韓国人の経営であった.店の人が,私たちが韓国人かどうか確かめに来たのだが,日本人とわかると少し残念そうだった.
わずかな野菜と,皿一杯に食べきれないほどの鶏のてりやきが並んでいた.ここの店ではアルコールを出さないという.あとでなつ子に聞いた話ではアメリカでは規制が厳しくなって,お店でアルコールを扱うためにはいろいろと手続きが必要であるが,外国人の経営者の中には,その手続きをこなすことのできない人もいるという.正さんはビールが飲めなくてがっかりしていた.

Olympic National Park $10.00
Amanda Park Hotel $49.91
ガソリン $20.34

オリンピック国立公園の北西の角を回りこんで南にしばらく走った後,ようやくレインフォレストの入口に到着した.
あたりの木々はうっそうとして,ヤドリギがおばけのようにからみついた景色は藻が引っかかっているようにも見える.日差しも斜めにまばらに差し込むだけである.
国立公園のゲートに着くより手前ですでに何度も車を止めては写真のシャッターを切った.背の高い木々が生い茂る深い深い森の中の道かと思うと突然に開けた道の側には川が流れている.割合浅いきれいな川で,大きな魚が飛び跳ねているのが見えた.

西行きの国道は2本あったが,海岸沿いの回り道は避けて,少しでも近道らしい方を選んで行くことにした.Lake Crescentの横を通る道だ.
ところがこの湖にさしかかった所で道は封鎖されて通行止めになっていた.そういえば確かにClosedという標識は一度見たような気がするが,何がClosedなのかなとは思いながら,下の行は読めないまま,あまりはでな標識でもなかったし,まあいいかと通り過ぎてきてしまったのだ.