私たちは時々,道路をはさんだ向かいの高校へ遊びに出かけた.講堂では文化祭の練習が行なわれていた.――貧しい身なりの男が右手から逃げるように出てきて,掘っ立て小屋の陰に隠れる.そばにいた小さな男の子に手を合わせて,「お願い,黙っていて」と合図を送りながら.後を追ってどやどやと出てきた役人たち.しかし,男の子は役人たちがくれると言う銀色に輝くロザリオの誘惑に負けて,男の隠れ場所を指差してしまう.役人たちに引っ立てられて行く貧しい身なりの男.その男の悲しげなまなざし.男の子はたちまち後悔の念に捕らわれる.――迫力のある舞台だった.自分よりほんの少し大きいだけのお兄さん,お姉さんの演技に強く惹きつけられた.何度も何度も繰り返し見に行った.最後に歌われる「もろびとこぞりて」の歌もすっかり覚えてしまうほど通った.