多英ちゃんは実にかわいかった.母が友の会や幼稚園の用事で出かける時は遊んであげたし,ミルクも作って飲ませてあげた.母よりもずっと上手に遊んであげたけれど,いつも決まって夕方になると妹は「ママ,ママ」と言って泣いた.こんなに一生懸命やっているのにどうして母には勝てないのだろうと不思議で仕方なかった.私は,はいはいもあんよも全部自分が教えてあげたと信じていた.お買い物ごっこで数の数え方も教えてあげたし,画用紙に魚の絵を描いて切り抜き,磁石で魚釣りごっこもしてあげた.たいてい野菜やお金を切り抜いたところで,その日は終わったものだったが.妹を遊んであげる代わりに私は妹のお人形を貸してもらって遊んだ.足を曲げて座らせたり,ミルクを飲ませたり,金髪をとかせてリボンで結んだりできる人形は,まりこの子供の頃にはなかった.棒の先に頭だけが付いている人形におりがみで作った着物を着せかえるのがせいぜいだった.小学校高学年,まりこはもう人形遊びなどする年頃ではなかったが,妹を遊ばせるというのはりっぱな言い訳だった.人形に服を着せるのに熱中しても,子供向けの絵本を読んでも,少しも恥ずかしくなんかない.