「あんたはおぜんざいを食べて生まれたんよ」と母は言った.久しぶりにあずきが手に入ったからと近所の家でおぜんざいをよばれた後,お腹がいたくなったので,おぜんざいに当たったのかと思ったそうだ.
まりこは大阪市城東区の下町に生まれた.五軒長屋の真ん中で,3,6,6畳の3部屋.台所は狭い土間の板敷きで,おくどがあり,内風呂はなかった.ここに祖母,両親,弟,伯母,従姉と,多くの家族が住んでいた.祖母はまりこが2歳の時に亡くなったが,まりこによく絵本を読んでくれた.「ここは陽だまりよ」で始まるその絵本は何回も読んでもらってすっかり空で言えるくらいであったそうだ.母も寝る前に本を読んでくれたが,昼間の疲れでつい頁を飛ばしたりすると,まりこはすぐにそれを指摘した.