まりこの育った家は長屋の中の一軒で,隣の家とは壁1つで隔てられているだけだったから,隣のかっちゃんがおばさんに叱られている声もよく聞こえてきた.車も通らない道路は子供の遊び場で,石蹴り,ゴムとび,缶蹴りをして遊んだ.道路は向かいの家とこちらの家の間の廊下みたいなもので,向かいのおばさんがシミーズのまま五目豆を炊いたからと持って来てくれたりした.夏の夜には縁台を出して,隣のおじさんが息子と将棋を指していて,その傍で小さい子は花火をした.ろばのパン屋さんもこの路地までは入ってこない.氷屋さんがのこぎりで削った氷のかすを道路に落としていった.