「スポーツ事故の法的責任」出版に関する遺族の立場としての賛同書


 私は、20049月に静岡県大瀬崎先端でダイビング中に溺水で妻を亡くしました。

 ダイビングは楽しく、水中できれいな魚やサンゴが見られ魅力あるレジャーだと妻が亡くなるまでは安易に考えていました。ダイビングの雑誌等を見ても99%の方々はそう感じることと思います。ある程度の講習会で協会から認定されればダイビングをすること自体は簡単に行えるのです。

妻が亡くなってからダイビングの実態について調べたところ、ダイビングの危険性について始めて知ることになりました。また、あまりにもダイビングの危険性や事故に関する情報が少ないことにも大変驚きました。今回の事故でダイビングショップなどの業界は、遺族に対する接し方の冷たさも今回の事故で感じております。

一旦、事故が発生すると、刑事処分になるまで長期化することも多く、損害賠償訴訟を行うにしても、水中という閉塞的な環境の中で、目撃者もなく被害者や遺族に不利な状況であり、それを調べるには、残された家族が相当の苦労をしなくてはなりません。(妻の事故についても刑事処分がまだ決まっていませんし、民事訴訟の準備もなかなか進展していません2006/10/1現在)

 スポーツレジャーという観点から考えると、他のスポーツレジャーと同様に個人の責任において行うことが基本となりますが、ダイビングは、特殊な技能・技術が要求されるスポーツレジャーであり、他と比較しても特殊性を持っているものと考えます。またダイビングの現状は民間の団体が定めたルール従って行わざるを得ない状況になっています。それは、団体が発行した認定証(Cカード)がないと機材のレンタルをしてくれない等の対応の悪さ(弊害)や業界の事故に対する閉鎖性からも明白な事実です。

他のレジャーと比較して、事故発生時の死亡率が非常に高いリスクの大きなスポーツであることが世間一般に広く知られておらず、これからダイビングを始めようとしている人の判断材料となっていないのが実態であります。

オープン・ウォータの認定を受けると一人前と業界ではいわれているようですが、講習の内容をみても短期間の講習の中で独り立ち出来るとは到底思えません。講習中のわずかな時間であらゆるダイビング技術を覚えて認定を受け、例を挙げれば水中でのコンパスワーク1つを見ても、ファンダイブで視界10m位しかない水中の状況下で即実践は出来ないと考えます。私も登山を行いますが、登山に例えると、初心者が冬山の登山道のない視界が悪い状況下で目的地に向かうようなものです。(登山でコンパスワークを覚える場合、最低でも1シーズンは実践させて、ベテランが常に監視して能力を見極めないといないと危険です)それだけ、初心者ダイバーは危険にさらされながら(本人は自覚することなく)ダイビングを楽しんでいると私は感じています。

本来であれば、このようなハイリスクのスポーツは民間会社(団体)のルールであっても一定のガイドラインがあるべきではないのかと思います。また、事故発生により事故の様々な事象やその当時の状況に応じてルールを見直していき、それを公表していく取り組みこそが事故防止やダイビングを楽しく行なう上での判断材料につながっていくことと思います。

とはいえ、ダイビングの現状は一定のガイドラインやルールが明確になっておらず、またそれを監視する組織団体なり公的規則がありません。“ダイビングは楽しいことだけではない”ということを世間一般が認識し危険な落とし穴に陥らないためにも、またダイビング事故を減らすためにも、ダイビング事故の情報公開と、一日も早い行政によるガイドラインの制定及び非営利法人的(公的)な監視組織の制定が必要だと感じております。

 

今回の事故でいろいろと関係する書籍,雑誌を読みました。ダイビングに関する書籍を探してもなかなか正確に記述しているものは少ないと感じております。今後、ダイビングを始める人や行っている人達が解かりやすく理解が出来る書籍が多数出版されることが必要でないかと思います。

今回の出版により、今まで述べたようなことが実現できるよう、そしてこれからダイビングを始める人や、現在ダイビングを行っている人達がダイビングの危険性というリスクを正しく理解し、そしてダイビング業界全体がリスク低減に取組むことを期待します。

 

福島県在住  今井 宏