病気相談

質問・回答(０２４３)

「妊娠中ですが梅毒にかかっていました」

Date: Fri, 19 Oct 2001 18:46:40 +0900

　2＊歳の主婦です。10月19日現在　妊娠１４週＊日です。近くの産婦人科に通っています。血液検査の結果　現在梅毒にかかっていることが分かり、不安を感じずにいられない現状で、この度相談させて頂くことになりました。

（現在までの経過）　
①9月14日　産婦人科で妊娠初期の血液検査をするため採血する。胎児は順調だったため、1ヶ月後に検診に来るよう指示されました。1ヶ月後の　10月12日（13週2日）胎児の成長は順調でしたが、血液検査の結果　梅毒反応が陽性でした。●ガラス板法　定性（３＋）　●TPHA法　定性（＋）先生もその日に気がついたようで、すぐに詳しい検査をするため採血しました。

②10月15日　（3日後）検査結果を主人と二人で聞きに行きました。結果　●ガラス板法　定量（＋）16　●TPHA　定量（＋）5120でした。主治医によると「最近梅毒にかかっている人も少なく、以前診た患者も3年前でこれだけの高い数値の人を見るのは初めてだ」と少し困惑気味でした。妊娠していることもあり強い薬を投与できないとの事で、ペニシリン系の　パセトシン　250㎎を朝昼晩１カプセル　４週間続けることになりました。

③主治医の見解によると、「数値が高い為下げないと母子感染の恐れが出る。最近梅毒の患者が少ないので大阪市の統計が無いため、どの薬が最も有効で　副作用が少ないか机上の上でしか分からない。また胎児への影響がどれほど出るのか産まれるまで分からない」との話しでした。結局治療が優先と言う事で「一般的な治療方法で、どれだけの効果を出すのか分からない」との事でしたが、主治医の指示通り　10月15日（13週5日）の夜からパセトシン250㎎を服用しています。

④主人も泌尿器科で診察してもらい、●RPR法　定量（－）１未満、●TPHA法定量　80　で治りかけとの事でしたが、完治させるため薬を服用中です。

自分たちでネットを通じて勉強した結果、的確な治療を今すぐ始めなければ時間がありません。さらに担当医も梅毒患者の経験が乏しく、返事が曖昧で不安を感じずには居られない状況です。

（先生にお伺いしたいことは以下の通りです。）

　１投薬の安全性について
①種類（パセトシン250㎎は安全か）
②摂取量（どのぐらいまでが適量か）
③時期（胎児に影響が少ないのは妊娠何週までか）
④投薬によって考えられる胎児への副作用、

　２梅毒による母子感染　
①現在の状況から母子感染する確率
②いつまでに治せば安全か
③数値が（－）になるまで胎児に影響があるのか又どの位下がれば安全なのか。

　３上記の主治医の説明では、「出産するまで胎児への梅毒薬の副作用は分からない」と言う見解でした。そのリスクがあっても出産したいと考えております。上記のような可能性があると言われているので、主治医に申し出て設備の整った病院に移りたいと考えています。（もし可能性が無くても心配なので移りたいと考えております。）その場合紹介状を書いてもらえるようお願いするつもりですが、　　
　紹介状があれば紹介先の病院で出産することは可能なのでしょうか。病院のシステムが分
からないので、先生のご意見をお聞かせ下さい。

　　以上の事を踏まえ、どうする事が最良の策であるか、先生のご意見をお聞かせ下さい。
　とても悩んでおります。ご多忙かとは存じますが、どうぞ宜しくお願い致します。

Date: Fri, 19 Oct 2001 23:07:24 +0900

「妊婦の新鮮梅毒」と考えられます。専門の産婦人科医でも最近ではほとんど遭遇することが少なくなった珍しい例です。

本来ならばご相談者ご自身の外陰部よりトレポネーマパリヅム(Treponemapallidum)をパーカーインク法、墨汁法、暗視野法などで確認できると診断が確定出来るのですが、自分で自信を持って検査出来る産婦人科医や病院は探すのが難しいくらいで一般の大学病院などでもほとんどないのが現状です。

ですから梅毒血清反応で判断するしかないのが現状ですが、１０月１５日のＴＰＨＡ定量検査の結果が５１２０ということですので、検体の間違いなど可能性が極めて少ない事態を考慮に入れなければ新鮮梅毒であることはほぼ確実と考えて間違いなさそうです。
梅毒血清反応には「偽陽性」と言って別の病気による反応が出てしまうことがしばしばあるのですがそういうのでは無く、本物であるということです。

そうなるとおなかの赤ちゃんへの感染防止に全力を挙げる必要が出てきます。
赤ちゃんに先天梅毒が発生するのを防ぐ為です。
先天梅毒は胎盤循環が成立する妊娠第１６週起こりにくいとは言われていますが絶対に可能性が無いとは言えません。

先天梅毒ではほとんどが子宮内で死亡して流産します。たとえ何とか生き長らえて産まれてきても、骨軟骨炎、皮膚の水疱、瘢痕、萎縮、鼻炎、鞍鼻（鼻が凹む）、前歯の異常、難聴、知能障害などさまざまな症状を抱えた赤ちゃんが生まれてくる可能性もあります。

しかし、ご相談者のようにしっかりとした治療を受けておられる限りそういう可能性はほとんど無くなります。

治療に使う抗生物質は副作用、特に催奇形性の可能性が少ないものを使用する必要があります。ご相談者は「パセトシン」という抗生物質を使われているようですね。これは一般名「アモキシシリン」というペニシリン系抗生物質で昔から「梅毒」に対する効果が強い薬として知られています。

私がニューヨークのコロンビア大学の医学部に留学したとき（１９７８年）に「足立先生は独身で行かれるのでこれが必要です」とある人が大量に親切にも「サワシリン」という抗生物質を手渡してくれました。私自信は全く必要としませんでしたが当時梅毒の感染を気にした留学医師たちからは私の持って行った「サワシリン」を奪うように持って帰られたことを想い出します。

この「サワシリン」は「パセトシン」と名前こそ違え全く同じ「アモキシシリン」というペニシリン系抗生物質で、梅毒に対する効果が素晴らしいことはほとんどの医師が知っています。しかも催奇形性についてはほとんど聞いたことがありません。すなわち、これを服用していたために赤ちゃんに奇形がみられたという報告がほとんど無いのです。
かなり昔から大量に使用されている抗生物質なのでそれだけ安心なわけです。

今かかっておられる先生の指示どおりにされるのが良いのではというのが私の結論です。なお、催奇形性の可能性についてですが、妊娠中に全く何も薬を飲まず、レントゲンも撮らず、トキソプラズマや風疹や梅毒など危険な病気にかからなくてもとても可能性は低いですが、ある確率で奇形児は産まれてくることは認めざるを得ません。これだけは誰もが承知しておかなければならないことです。

では、ご質問、項目順にお答えします。

１．
・「パセトシンは絶対」ということは絶対に言えませんが、数ある抗生物質の中で最も安全な薬の一つです。

・１日に１０００ｍｇを３週間から４週間されることが多いですので　現在の内服量は通常よりはやや少なめではありますが妥当な投与量と考えます。

・妊娠３週間までは薬剤による催奇形性はまず安全です。その後は危険ですが、また、１６週を超えると危険性はほとんどなくなります。

・パセトシンによる催奇形性の報告はほとんどなく、はっきりしません。　報告がはっきりしないくらいとても安全な薬の一つです。

２．
・現在の治療をしっかりと続けられれば母子感染の可能性は最大限低下します。

・一般には約１ヶ月内服を続けられることを推奨する意見が多いですが、　投与期間については患者さんの状態により主治医が判断します。

・ＴＰＨＡが残るのは仕方がないですがガラス板法が陰性化すればほぼ安心です。

３．
・メールの内容を拝見する限り、現在の主治医の先生はとても誠実に対応して下さっているように拝読します。
　設備の面では確かに大きな病院が安心ですが、誠実な対応が伴うかどうかは　主治医の人柄次第のところがあります。

・紹介先の病院で受け入れてもらえるかどうかは、受け入れ先病院の混み具合に拠るでしょう。希望者がほとんど居ないような病院では大喜びで受け入れてもらえるでしょうし、希望者が殺到する病院ではなかなか受け入れてもらえません。
　しかし、幸いなことに最近では出産数が減っていますので大概の病院では快く　受け入れてくれることが多いようです。

　全く支障の無いように思われる妊娠でもある確率で危険が伴います。

大きな病院に転院されることにより本当にとても大きく安全度が高まるのでしょうか。なかなか判断が難しいところです。

そういうことを踏まえられた上で、ご自分が納得され、ご自身で最も安心と判断され、感じられる病院と医師の下で出産されるのが一番大切なことです。

Date: Sat, 20 Oct 2001 21:24:30 +0900

Subject: RE: 有難うございます。
　足立先生、ご多忙のなか有難うございます。
こんなに早く返事を頂けると思っていなかったので、感激と安堵感で一杯です。そして詳しく説明していただき有難うございました。

　正直に梅毒であると診断されてか以来、「何の罪も無い子供に親の責任から産まれてから辛い思いをさせることになる。」と、結果を聞いたあの日から毎日眠れませんでした。また前向きに考えようと務めましたが、考えることは悪いことばかりで・・・。

　こんなことを書くと良くないかもしれませんが、担当医からの説明では安心感は得られませんでした。「薬を投与することで、胎児に危険がでる可能性があるので、ある人は子供を諦める人もいる」と言う話も聞きました。しかし何があっても出産するつもりでしたが、自分では判断できない病気の状況から不安が募りました。

　足立先生からの回答を頂き、現実を直視して前向きに考えられるようになりました。しっかり病気を治して、元気な赤ちゃんを産めるよう毎日の生活に務めていきたいと思います。また出産とは１００％安全ではないと言うことも先生のお話から良く分かりました。病院の件ですがこうして足立先生に返事を頂きやはり安心しできる環境が出産には一番大切だと感じました。
先生のご意見も参考にし、考えてみようと思っております。
　病気に関してのイメージも「足立先生の大学時代の話など」とても身近に感じられ、安心感につながるお話でした。
本当に有難うございました。もうこの言葉に尽きます。
今後も経過報告させて頂きますので、宜しくお願い致します。

Date: Sat, 20 Oct 2001 21:47:02 +0900
Subject: Re: 有難うございます。

大変ご丁寧なお返事をありがとうございました。信念を持って生きておられるご様子感激しました。

お大事になさって下さい。