質問・回答(0276)


「人前で字を書くと手が震えます」

Date: Tue, 09 Jul 2002 19:18:05 +0900
私は3*歳の百貨店勤務の女性です。

実は、人に見られながら字を書くと、手 が震えます。仕事上でも伝票など人前で書く事が多いので困って います。それと、特に結婚式などの受付で芳名帳に名前を書くのは、最も ひどく、見た目にも手が揺れているのが分かり、字になりません。 手が震えてペンにキャップがかぶせられないくらいです。

もともと昔から 手に汗をかきやすく、人に手のひらを見せるのが嫌でした。そんな汗かき なので、紙が濡れたりインクが滲んだりするのを人に見られたくないと いう気持ちがあり、仕事でも何とか早く書いてしまおうと、字が雑になって いきました。でも、仕事上では誤魔化せても、署名や記帳は誤魔化す事ができ ず、「ここに書いて下さい。」などと言われてしまうと、それだけで 緊張して必ずといっていいほど手が震えます。

最近では人前で字を書く事が怖 くなり、クレジットのサイン、領収書など全ての物で震えます。

でも、一人で書いている時は、なんともありません。人がいる時だけです。 実は昨日も友人の結婚式に出席しましたが、やはりだめでした。 せっかくの結婚式なのに、その前から憂うつで、終わった後も、なんとも 言えない嫌な気持ちでした。その芳名帳が友人の所にずっとあるかと思うと、 暗くなります。

また来月友人の結婚式があります。その時までになんとか治す 方法はありませんでしょうか? 今まで大病した事はなく、薬も常用してません。震えるようになったのは、 就職してからです。少し血圧は高い方ですが、高血圧ではありません。 いつも字が書けなくなってしまうので、字を書くのを避けようとしてしまい、 だんだんと消極的になっています。

こういう症状はどこに行けばいいのでしょうか?(何科) また、薬などで治るのでしょうか?**に住んでいますが、どこかいい病院を ご存知でしょうか?方法があれば、教えて頂きたく思います。 今まで病院にも行きづらく、どうすればいいか悩んでいました。でも、イン ターネットでこのホームページを見つけ、今度こそ治そうと思っています。 これからも書く機会がある度に、悩むのは嫌なのです。 普通の人からすれば、書く事には意識してないと思いますが、今の私には、大 きな悩みなのです。是非ともお返事をお待ちしております。 宜しくお願い致します。

Date: Thu, 11 Jul 2002 21:23:08 +0900 Subject:
「インターネット病気個別ご相談」お答えします。

典型的な「書痙(しょけい)」の症状です。英語では「writer's cramp」と言い ます。 「対人恐怖症(たいじんきょうふしょう)」という「神経症(しんけいしょう)」 の一種です。 身体的な疲れや、精神的なストレスなどをきっかけにたまたま人前で震えが出る ことは誰でもあります。

普通の人は気にしないのですが「書痙」の患者さんは、 妙にふと意識をしてしまい、周りの人におかしく思われはしないかなどと、何故 か気にしてしまうのです。震えないようにしようと緊張するので余計に震えてし まい、そうするとさらに周りの人に変に思われるはしまいかともっと気になり震 えは余計にひどくなるという悪循環に入ってしまう病気です。

終にはご質問者の 文面のとおりの状況になってしまいます。 繊細な神経の持ち主に多く、知能程度の高い人に多くみられます。逆に無頓着で 鈍感な人には見られません。 ご質問文を拝読していますと、「一人で(誰にも見られていないときに)書いて いるときは、何とも無い」とのことですし、他に身体や神経、精神症状もなさそ うですのでそういう場合はうまくすれば比較的短期間に治ってしまうことも多い です。

稀に「本態性振戦(ほんたいせいしんせん)」などの神経内科的疾患が背後に隠 れている場合や「脳波異常」が見つかることがありますがご質問者の場合はメー ルの内容からは考えにくいです。 本格的に治す方法として「森田療法」、「行動療法」、「バイオフィードバック」、 などがありますが、知能程度の高い患者さんが多いのでこの病気のしくみなどを 理解して納得するだけで治ってしまうことも少なくありません。 「森田療法」、「行動療法」などの臨床心理学の専門書を読破されてご自分で治 してしまわれる方もいらっしゃいます。

精神安定剤もある程度の役に立つことも あります。不熱心な精神科、心療内科の医師を受診すると、面接などは十分にせ ずに精神安定剤だけを「毎食後飲みなさい」などと言ってくれるところもあると 聴きますので注意して下さい。 人にもよりますが、「自分の弱点を人に見せたくない」という気持ちが強いこと が原因になっている場合が多いものです。

字を書いたりするときに手が震えるの は少し恥ずかしいことで他の人に対して弱みかもしれませんが、よく考えてみる と人間の長所、短所、欠点、弱点、優れた点などものすごく沢山あって「手が振 るえる」ことはそれらのうちのごくひとつに過ぎません。 「自分の弱点を人に見せたくない」という気持ちが強い人の場合はむしろ少しず つ自分の弱点を他人に見せる練習をするようにします。わざと人前でどんどん字 を書いてみるようにするのです。こういうやり方を「行動療法」と言います。

どんどん行動をして自信を着けて行くのです。よほど特殊な場合以外はそれを他 人に見せてしまうことによって損をすることは無いことを冷静に判断しましょう。 「完全犯罪で殺人を犯したことを隠しているという弱点などでしたら隠し通すの が得策かもしれない」などという極端な反例と比較して考えてみるのも一法です。

人前で字を書かなければならないときだけ数時間前に精神安定剤を服用するのも 自信を付けるのに役立ちますが精神安定剤をただだらだらと毎日服用するのは感 心しません。精神安定剤だけでなく「アロチノロール」というベータブロッカー という種類の薬が震えを抑えるのに役立つ場合もあります。 上の「行動療法」よりも「森田療法」の方が向いている人もいます。

本当の「森田療法」というのは数日間完全に篭って自分の心の中を自分で見つめ る禅の行のようなことをするのですが簡略化して行うことが出来ますのでご紹介 しておきましょう。 「人前で震えないようにしよう」ということばかりに注意を集中してしまうこと が「書痙」の症状を悪化しています。そこで「書痙」の人は「気にしないように しよう」と自分の気持ちの中から震えることの恐怖感を払拭しようと一生懸命に なってしまうのが反って病状を悪化させてしまっていることをまず理解します。

緊張をすると誰でも少しは震えるのが当然だし、「手の振るえも気になるのも当 然で自然なこと」であることを認めるようにするのです。 気になること、意識をし過ぎることを止めよう、止めようとすると余計に気になっ てしまう悪循環に入っていることを知って自分の中にある「気になる気持ち」を じっくりと外から眺める気持ちを静かなところで体得する訓練をします。 騒ぐ気持ちを静かな池に石を投げ込んだ波を思い浮かべて考えるのも一法です。 その波を鎮めようとして池の水の表面に手を入れてもさらにその手によって波が いっぱい出来て池は波だらけになるでしょう。波を鎮めようとするならば「ある がままの自分の気持ち」をじっと横で見ているのが一番ですね。そういう気持ち を何度もじっくりと体得するのです。これが自宅でも手軽に出来る「森田療法」 足立変法です。

森田療法は**大学付属病院精神神経科の初代教授の森田正馬が始め た方法で、現在もちゃんとした精神療法を受け継いでいますので担当医にもより ますがまずはお勧めです。

以上、今回のお答えとさせて頂きます。 どうぞ、お大事になさって下さい。


Subject: お答えありがとうございました
Date: Sat, 13 Jul 2002 01:08:02 +0900

メールを読ませていただきました。 詳しく丁寧にお答えいただきまして、ありがとうございます。 症状の説明を読みましたが、本当にそのとおりで、驚きとともに、 治ると聞いて、ほっとしています。 「手を震えないようにしよう。」ということばかり考えていましたが、 それは悪循環だったのですね。 「誰でも震えるものだ。」と逆に考えるだけで、少し気持ちが楽になります。 今日「森田療法」の臨床心理の本を購入しました。さっそく読んでみたいと思 います。 後日また経過をお知らせいたします。 取り急ぎお礼まで。


2002年7月13日4:54 足立:

おっしゃるように「手を震えないようにしよう」という今ままでの 精神的努力を「とらわれの気持ちをなくそう、横から眺めてみよう」という努力 に変えられることによりほとんどの方が症状改善に向かわれます。 もう既に臨牀心理学の本の勉強を始められたのですね。 その熱心さがあれば大変有望です。 時間はかかりますがじっくりと治って行く過程を味わってみて下さい。 そうすることにより、病気にかからなかった人よりも反って人間的に成長、成熟 されることが多いです。禅の悟りのようなものです。

このページをご覧になっている同じ病気の人の役に立つと思いますので 勉強されたことなどまた、経過ご報告を頂けるとありがたいです。 人間というものは長所と短所が織り成して出来上がっていることなども大変よく 理解でき実感できるようになると思います。 短所の無い完璧な人になりたいという気持ちは誰もあるのですが大概の人は最初 から諦(あきら)めているのでしょうね。