質問・回答(0281)


「MRSAと診断されてしまいましたが」

Subject: 医療相談の件・***希望
Date: Tue, 3 Sep 2002 19:25:15 +0900

数日前MRSAと診断された生後2ヶ月の次女について。

7月*日生まれ、生後2ヶ月の次女、出生場所は開業医の産婦人科。普通分娩にて出産。出生児体重2700グラム。母子ともいたって健康でした。現在5200グラムと順調に育っています。

しかし生まれつき目やにがひどいのが気になり、生後1ヶ月で眼科を受診。
「鼻涙管閉塞」といわれ、貫通処置を週3回、計7回受けました。
現在は右目だけ多少目やにが続いている状況です。

八月中旬、新生児特有の脂漏性湿疹ができ皮膚科(開業医)を受診、そのとき医師から
「唇の腫れが気になる」(唇の内側が上下白っぽく、水ぶくれのようだった)「黄色ブドウ球菌かもしれないので検査をしたい」と言われ、便の採取。湿疹には顔の塗り薬を処方してくれました。

薬を塗りはじめて三日後に湿疹は良くなりましたが、後日、便の検査結果で「黄色ブドウ球菌だった」と言われましたが、再び「どの抗生剤があうかの検査もしたい」とのことで2度目の検査をしたところ、昨日「MRSA(1+)」と告知されました。

そして「抗生物質を処方されるような病気のときは、この検査表を見せなさい」と、薬剤感受性検査の結果表を渡されました。
PCG       R
MPIPC     R
ABPC      R
CEZ       R
CCL       R
CFDN      R
CMZ       I
FMOX      I
IPM/CS    I
MEPM      I
FRPM      R
SBT/ABPC  I
GM        S
ABK       S
EM        R
CAM       R
CLDM      R
MINO       I
VCM       S
TEIC       S
SPFX       R
LVFX       R
FOM       R

そして、誰でもMRSAは持っているし、どこにでもある末端の菌だから、健常者は心配いらないということで説明は終わりました。処置なども一切ありませんでした。

特別な症状もなく検査され、MRSAが常駐していると言われただけで疑問だらけで大変困惑しています。MRSAといえば新聞等でも話題になっているので深刻な問題と認識していたのですが、
●一体どう心配いらないのか全くわかりません。
診断をした医師からの特別な処置はありませんでした。
●鼻腔、のどの除菌などもありませんでした。
●唇の症状に関しても一切説明はありませんでした。
●生後間もなくから続いている目やにとの関連性はないのでしょうか。

産婦人科では「全く心配いらないから気にすることはない」と電話で簡単な説明をされました。
また「皮膚科は転院したほうがいい」とも言われました。

今では正直いって、「何も問題がないものだったら検査をされて知らなくても言いものを知らされただけなのでは」という感じにさえなっています。
誰もが持っているというのなら、他の子供たち(四歳男児、五歳女児)も、検査をすれば保菌者だということもありえるのでしょうか。その皮膚科を受診しなければ、次女もMRSAだと宣告されずに済んだだけのことなのかと、大変困惑しています。

●今後、風邪や突発性発疹(2人の子供は40度以上の熱がでました)など、今後かかるであろう病気に対してMRSAであることは問題ないのでしょうか。受診に際しても通常のままでよいのでしょうか。それとも医師にその都度MRSAであることを告知しなければならないのでしょうか。
●大学病院で精密検査などを受けたほうがいいのでしょうか。
●皮膚科の医師からは「菌が減ることもある」と言われましたが、菌をなくす方法はないのでしょうか。また治療する必要があるのでしょうか。あるとすれば、一体どこでこのMRSAの治療を受ければよいのでしょうか。(**県**市、**県**市、**県**市が通院可能な範囲です)
●定期的な検査をする必要はないのでしょうか。
●体のどの部分に潜伏しているのでしょうか。またどうやって感染するのでしょうか。
●検査表は薬を処方してもらうときにそれほど重要なのでしょうか。
●抵抗力が著しく下がったときが危険と言われましたが、それは一体どういうときなのでしょうか。盲腸などの手術を受けるときでもそれは該当するのでしょうか。それともガンのような重病のときとか、抵抗力の落ちるという段階はあるのでしょうか。
●自分自身、空気が乾燥するとたまに鼻の奥が痛みのどが腫れた感じになり、唾液を飲み込むとき痛みがあったりしますが、これは保菌者ということなのでしょうか。
●今後、MRSAと言われた次女を育てていく上で、日常生活で気を付けなければならないことなどがあるのでしょうか。
●また家族側の心がけみたいなものがありますか。
●本当に医師がいうように「楽観していい」ものなのでしょうか?

●また私の父(66歳)が1年半前に脳内出血で倒れ開頭手術で一命をとりとめ、半年間リハビリ病院に入院して退院後、現在左半身麻痺がのこった状態で、降圧剤を毎日飲みながらリハビリに通院しておりますが、MRSAの子供との接触は避けたほうがよいのでしょうか。
接触する場合はどんな点に注意すればよいでしょうか。

以上、長々と書きましたが、なにぶん情報が得られず、どこに問い合わせても問題ないの一点張りで、一体何がどういうふうに問題がないのかわからず、告知以来不安な毎日です。

ご多忙とは存知ますが、どうぞよろしくご回答のほどお願いいたします。

Date: Wed, 04 Sep 2002 18:59:50 +0900
Subject: 「インターネット病気個別ご相談」お答えします。

メール拝見致しました。

マスコミでも連日のようにあんなに大きく取り上げられているMRSAが見つかったというのに、その愛児に対して担当の医師からは冷淡な対応しかしてもらえないというご不審、一体どうなっているのかというご不満、疑問のお気持ち分かりました。

私も一体どこからどうお答えしたら正確にご理解頂けるのか悩みましたが、まずは取り敢えずお示し頂いた疑問点の黒丸の順にお答えしてみます。

>●一体どう心配いらないのか全くわかりません。
>診断をした医師からの特別な処置はありませんでした。

「MRSA」が健常人(健康で普通の生活を送っている人達)の身体のどこかに見つかったからと言って即座に大変なことで対応が必要であると言う事にはならないのです。

確かに、「MRSA」はほとんどの抗生物質で殺菌することが出来ないのでこのような細菌が原因で肺炎や髄膜炎や敗血症やその他の感染症に罹(かか)ったらその患者さんを助けようとして投与する薬が少なくて我々医師も大変困ります。MRSAを殺菌することが出来なくなってその患者さんの命にも関わることもあり得ます。だから「MRSA」というのは恐いのです。

では、そんな恐い「ばい菌:MRSA」はこの世の中から無くしてしまえば良いと思う人も確かに多いです。でもそれは大変難しい、というよりほとんど無理なことなのです。

何故かと言うと「MRSA」は探せば、いろいろなところにびっくりするほど、見つかり過ぎるほど見つかるのです。

私の臨床的経験からは現在の環境では一般の人達の数%、何十人かにお一人くらいは鼻汁や、喀痰、便、手などの小さな傷口の培養を行えば何らかの形でMRSAは見つかると思います。しかし、通常はそういう検査はしません。

細菌と人間の係わり合いについて一般の方にはかなり知らないことも多いのではと思います。血液や尿には普通は細菌は1匹も居ませんがそれ以外の私たちの身の回りや便はもちろんのこと皮膚の表面、口の中、喀痰はなどには何千とか何万などというレベルではなくその又何千、何万倍もの細菌が存在しています。

そんなことを考えると気持ちが悪いので医者や細菌の研究者など特殊な人以外はあまりそういうことを考えないようにしているのだと思います。

それから「そんなにたくさんの細菌が居てはいつ病気になるか分からなくて大変なので殺菌して欲しい」と思われる方も中にはいらっしゃいますがそれはいろいろな意味で間違いです。人間の身体の表面や口の中、腸の中を完全に無菌にするのは技術的にほとんど無理なだけでなく第一、そんなことをしようとしたら使った薬の副作用が大変危険です。大腸菌や乳酸菌と共存してうまく行っている大腸に大変な変化が起こり、例えばかえってひどい下痢になったりすることも考えられます。

MRSAの元になる黄色ブドウ球菌はそれらの細菌の中でも大変ありふれた細菌です。その黄色ブドウ球菌が抗生物質の中で生き延びようとするとMRSAに変わるのですが、抗生物質は病院で良く使われるのはもちろんのことですが、魚の養殖や畜産などでも大量に使われますので地球上かなりのところでMRSAが調べれば見つかるでしょう。

決して良い事ではありませんが以上が現状です。「どこにでもある末端の菌だから、・・・」と言われたのはそういう意味です。

>●鼻腔、のどの除菌などもありませんでした。

鼻腔のMRSAを除菌するバクトラミンという名前の薬もありますし、咽喉の除菌にイソジンガーグルが使われますがなかなか一朝一夕にというわけには行きません。たとえ鼻腔や咽喉の細菌検査をしてMRSAが見つかったとしても肺炎になりそうな抵抗力の弱った人の場合は別ですが健康な人の場合そのMRSAが暴れだして肺炎を起こす可能性は何千分の1とか何万分の1というレベルです。

>●唇の症状に関しても一切説明はありませんでした。

唇の腫れとMRSAとの関連は特に無いでしょう。

>●生後間もなくから続いている目やにとの関連性はないのでしょうか。

たいていの目やにには黄色ブドウ球菌や連鎖状球菌などがみつかりますので同じ菌の可能性もあります。目やにの細菌検査をすると単なる黄色ブドウ球菌ではなくMRSAが居るかもしれません。鼻涙管閉塞など眼の病気の処置はしっかりとしてもらってこれらの細菌による障害が少なくなるようにするに越したことはありません。
>
>●今後、風邪や突発性発疹(2人の子供は40度以上の熱がでました)など、今後かかるであろう病気に対してMRSAであることは問題ないのでしょうか。受診に際しても通常のままでよいのでしょうか。それとも医師にその都度MRSAであることを告知しなければならないのでしょうか。

処置方法が変わることはほとんどありませんが一応告げておきましょう。
あくまで万が一肺炎などになったときの参考のため、念のためです。
医師はありとあらゆる可能性を考えて患者さんを診察、処方する必要がありますのでどのような小さな情報でも一応はご提供をお願いします。

>●大学病院で精密検査などを受けたほうがいいのでしょうか。

鼻腔、眼脂(めやに)、大便の細菌検査を何度かやっておくとまだMRSAが住んでいるのかどうかが分かって気持ちは少しすっきりとしますので私の患者さんの場合でしたらやっておいて上げたい気持ちはするのですが、今の保険制度ではそのような医学的に意義の少ない検査は査定を受ける可能性が高いです。

ほとんどの大学病院では「様子を見ましょう」と言われるだけでよほど関心を持った先生で無いと精密検査はやってくれないのではないかと思います。

>●皮膚科の医師からは「菌が減ることもある」と言われましたが、菌をなくす方法はないのでしょうか。また治療する必要があるのでしょうか。あるとすれば、一体どこでこのMRSAの治療を受ければよいのでしょうか。

大便中のMRSAをなくしてしまうには培養検査でSと出た抗生物質をうまく組み合わせたりして可能かもしれませんので下痢、発熱、血便などの症状があれば検討が必要です。
しかし、何の症状も無い場合は抗生物質の副作用の可能性、腸の中のMRSAが何か悪さをする可能性を突合せてみると前者の可能性の方がよっぽど高く薦められません。

>●定期的な検査をする必要はないのでしょうか。

MRSAが見つかったからといってそれについての特別な定期的な検査の必要性は認められませんが、MRSAの有無に関わらず子供の体調は急に変化しやすいので毎日の生活の中で暖かくしかも注意して見守ってあげる必要はありますし、一般のお子さんと同じような定期検診は受ける方が良いでしょう。

>●体のどの部分に潜伏しているのでしょうか。またどうやって感染するのでしょうか。

大腸、全身の皮膚の表面、目やに、鼻腔内、などに居るかもわかりません。
重症の患者さんが入院していて抗生物質を多く使う病院に多いですが、一般人でも持っていたりしますので電車のつり革や階段の手すり、本の貸し借り、会話での唾しぶき、など挙げ出したらきりがありません。

しかし、あまりこういうことばかりを考えていて細菌恐怖症になって一日に何度も手を洗わずにいられなくなったりするとそちらの方が困ります。

>●検査表は薬を処方してもらうときにそれほど重要なのでしょうか。

通常は参考にする程度です。医者はありとあらゆる可能性を考えて患者さんを診察、処方する必要がありますのでどのような小さな情報でも提供して下さい。

>●抵抗力が著しく下がったときが危険と言われましたが、それは一体どういうときなのでしょうか。盲腸などの手術を受けるときでもそれは該当するのでしょうか。それともガンのような重病のときとか、抵抗力の落ちるという段階はあるのでしょうか。

癌のときなどは免疫力がかなり落ちますのでとても重要度が増します。
虫垂炎の手術のときはそれほどでもありませんが気をつけるに越したことはありません。

>●自分自身、空気が乾燥するとたまに鼻の奥が痛みのどが腫れた感じになり、唾液を飲み込むとき痛みがあったりしますが、これは保菌者ということなのでしょうか。

上記の症状はMRSA特有の症状というわけではありませんので即座に「保菌者」と結びつけるほどのものではありませんが、少なくとも炎症類似症状ですのでMRSAが存在している可能性は少しだけ高まります。

>●今後、MRSAと言われた次女を育てていく上で、日常生活で気を付けなければならないことなどがあるのでしょうか。
>●また家族側の心がけみたいなものがありますか。
>●本当に医師がいうように「楽観していい」ものなのでしょうか?

特別な症状の無い限り直ちに大騒ぎをして入院したりする必要はありません。日常一般の通常の注意(「スタンダード・プリコーション」)で良いでしょう。
外から帰って来たら手を洗う、家族全員定期的にちゃんとお風呂に入る、家の中は整理整頓し、毎日ちゃんと掃除をする、晴れた日には布団はちゃんと干す、家族全員下着は毎日洗濯をする、手ぬぐいは個人個人別々のものを使うなど当たり前のことの方がかえって重要です。

>●また私の父(66歳)が1年半前に脳内出血で倒れ開頭手術で一命をとりとめ、半年間リハビリ病院に入院して退院後、現在左半身麻痺がのこった状態で、降圧剤を毎日飲みながらリハビリに通院しておりますが、MRSAの子供との接触は避けたほうがよいのでしょうか。
>接触する場合はどんな点に注意すればよいでしょうか。

半身麻痺というだけでは免疫力はそれほど低下しません。
おじいちゃんにお子さんのMRSAがうつって、しかもそのMRSAが原因で肺炎になって治療に難渋するようになる可能性はゼロとは言えませんが特別な対応をするにはあまりにも可能性が少なすぎます。
おじいちゃんが別のところからMRSAをもらって来る可能性も逆に言えばありますし、家族のつながりを避けてまで警戒するのはそちらの弊害の方が大きく一般的ではありません。お子様の大便から検出されているのならオムツの世話をおじいちゃんにしてもらうのを遠慮してもらうくらいが妥当なところでしょう。

MRSAは時と場合によっては生命に関わる重大な病気を起こしますので注意は必要ですが健常人にたまたま検出されたと言う場合には通常の警戒態勢(上記の「スタンダード・プリコーション」)で良いことが多く、過剰に反応してもかえって的外れのことになっては役に立ちません。

以上、今回のお答えとさせて頂きます。
どうぞ、お大事になさって下さい。


Subject: Re: 「インターネット病気個別ご相談」お答えします。
Date: Thu, 5 Sep 2002 07:26:55 +0900

足立先生

MRSAについてのご回答メール、昨日届きました。
お忙しい中、詳しくご説明いただき家族一同感謝いたしております。

とりあえずご連絡まで。