▼フルサワの2000年映画ベスト10

■2000年公開&映画館で観た映画(全70本くらい)からベスト10をつくってみたよ。やっぱりマグノリアは好きで1位,理屈なし。「アメリカン〜」「アナ〜」「フェリシア」など素晴らしい出来の映画が多かったのも印象的な2000年。驚きというか嘆息というかでは「マルコヴィッチ」にはホントやられた。10位の「デトロイト〜」,音楽映画というと「スティル・クレイジー」もすごく好きだった。このロック愛映画の後押しもあって,「サイダーハウス・ルール」は悩んだ末,トップ10落ち。2000年映画お尻10なら有無を言わせず1位の「サイダーハウス」でしたが。

1. マグノリア

手塚治虫のマンガに,本人が登場し「これはマンガだから」みたいなことを言うことがよくある。物語にとって神である作者が,自ら作品に登場しこんなことを言う,かなりトリッキーな技。あのラストには,そんなトリッキーさを感じた。カエルの一匹一匹に込められた,愛すべきダメ人間たちをちょっとふざけながら見守る監督の優しさ。それが染みる映画。力技も多いし,時間も長い。かなり好き嫌いや賛否が別れる映画だと思うけど,ボクは大好きだった。

2. アメリカン・ビューティー

ストーリー,映像,キャスト,音楽...どれをとっても完璧に仕上がった映画で,ボクなんかに言うべき言葉もないのです。ケビン・スペイシー,娘の友人(ミーナ・スバーリ)にみとれて惚ける顔,あの表情だけでもう主演男優賞決定!てほどの名演。音楽の使い方も本当に秀逸で,特にエンドロールの"Because"には震えた。ビニール袋がふわふわと舞う無常観漂うシーン,そして「空が青いからボクは悲しい,空が青いから」という歌詞がホントに相通じていて,この無常観がタマらなくイイなと。

3. アナとオットー

これもまた映像,物語の構成と,完璧につくりこまれた映画。運命?それとも偶然の連続?はたまた必然からすれ違いを繰り返す男女。この男女を演じている二人も素晴らしい。遂にオットーに会える,湖畔に椅子を置き腰かけるアナの姿。このときの彼女の瞳。このシーンは神々しいほどに美しく,涙が止まらなかった。子役もよかったな。

4. マルコヴィッチの穴

何なんだコレは!?の連続。突拍子もないアイデアとぐいぐい引き込まれる映像,そしてストーリー。観客のボクはスパイク・ジョーンズの穴にでも吸い込まれたような感覚になってしまった。スパイク・ジョーンズの穴の入口は,冒頭の人形操演シーンからすでに大きく開いていて,この魂の吹き込まれた人形の動きに見とれているうちに,もう異世界に足を踏み入れている。7.5階(あのエレベーターの止め方!)。チンパンジーのトラウマ映像。キャメロン・ディアス,こんなホコリっぽい役の方がステキ。

5. 素肌の涙

これは神話だと思う。ギリシア神話なんかには近親相姦の物語がよくある。あれは地中海の気候にブッ飛んでる神様の話だからいいんだけど,この映画は生身の人間の物語,あまりにも痛すぎる。新しい命が産まれ愛に満ち溢れた家庭,トムはそんな家庭に潜んでいた歪みに気付く。真実を求めればこのシアワセは崩れる,だけど真実を求めずにはいられず,遂には破局を迎えてしまう。父に犯される娘,このシーンの痛さ・辛さといったら他にないくらいで,痛いof the year決定。冒頭,風に歪んだ大木を映すカット,ラストの岸壁を映すカットなど,神の視点と思うほどに美しいです。

6. フェリシアの旅

いわゆる「癒し」というには突き放した,残酷な視点に思えるかもしれない。けれど,簡単な見せかけではない「癒し」を描いた映画だと思う。ディティールにも唸らされた。母親の偏愛で倒錯してしまった男,彼の家の物置部屋にたっぷり積まれたフードプロセッサだとか,何よりフェリシアの危うげな生足&サンダル。

7. 人狼

パラレルワールド的昭和日本,世界観は脚本の押井守そのもの,これを沖浦啓之が監督することで,押井監督作品にはない艶っぽさが滲み出ていた。自分の存在の拠り所・存在意義のためにしか生きられない,そんな悲しい事実がつきつけられるのは,押井作品共通のテーマだと思う。狼が人を取り戻し,少女と心を通わせそれが肉体の触れ合いに至る瞬間を描いたシーン。二人が手を取り合うだけなんだけど,その指一本一本から情念を感じました。

8. アメリカン・ヒストリーX

人種や同性愛者など,マイノリティへの憎悪から産まれる犯罪「ヘイト・クライム」を重く描いてる。 映画なんだからハッピーに終わってもいいじゃない,とも思うんだけどこの結末は実に心に重くのしかかる。エドワード・ノートンの鍛え上げられた肉体がものすごい説得力で,若きネオナチの旗手として活躍する姿を通して悪の魅力もしっかりと描かれている。ただヘイト・クライムを非難するだけでなくて。

9. 顔

藤山直美の映画,になってしまいそうなトコロを,他のキャストも見事にはまった素晴らしい演技で,それだけでも満足。どの役者もスゴイんだけど,牧瀬里穂の姉への残酷すぎる視線,中村のトラック運ちゃんはすごく印象に残ってる。逃げて逃げて逃げてどんどん前向きになっていく女と,立ち向かって立ち向かってボロ雑巾のように死んでしまうやくざとの対比が面白かった。藤山直美が砂浜で泳ぎの練習をするシーンになぜか泣けて仕方なかった。

10. デトロイト・ロック・シティ

素晴らしい青春&音楽映画。KISSだけでなく,70年代ロックへの愛に満ち満ちてる。主人公達の母親がKISSを聴いてムキーッ!と発狂しそうになる冒頭のシーンからしてイイ。そして主人公達が例の"The Hottest Band In The World KISS !!!"てフレーズを叫ぶところ,ここでグッとつかまれたらもうラストの本物メイクKISS登場シーンまで止まらない。ラストのKISSも"Detroit Rock City"で火を吹くは血を吐くは舌は長いわの大サービス。やっぱり映画は愛情だねという一本。