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M404

医師の生涯研修(ドイツとスイスから)

岡嶋道夫

M422 「ドイツの医師生涯研修-2004年から罰則付き義務化」もご覧下さい

これはあるメーリング・リストで書いた内容を加筆したものです

1999年7月10日掲載(1999年8月26日小訂正)

 

(追記:ドイツでは2004年6月から生涯研修は罰則付きで義務化されました。

関連する資料を近く掲載したいと思っています。

2005年3月)

 

良い病院や信頼できる医師について種々論じられてきましたが、その基本になるのは、医師がしっかりした卒後研修で教育され、さらに生涯研修を継続することにあります。しかし、医師の生涯研修はあまり話題に上らなかったので、一寸取り上げてみることにします。

生涯研修を実施するには、研修を提供する側と受ける側が、ともに目的と責任を自覚しなければなりません。多くの医師が目にしている雑誌にJAMA(アメリカ医師会雑誌)というのがありますが、年に2回生涯研修の予定(プログラム)を、専門別に分類して詳しく伝えています。それ以外の国の事情については、あまり情報がないように思われるので、たまたま入手したドイツとスイスについて紹介してみます。

はじめに、ドイツ医師会雑誌(1999年3月12日号)(*1)にこんなニュースがありました。

「バーデン・ヴュルテンブルグ州では、卒後研修のプログラムが年に3,500件あるが、そのプログラムがonlineで見ることができるようになった。」

ドイツでの生涯研修は、各州の医師会のアカデミー(生涯研修委員会)が、生涯研修プログラムを編成する責任を持って実施しています。上記の州は1千万人の人口を有しています。

私は人口がこれより少し小さい州の医師会雑誌(月刊)(*2)を購入していますが、生涯研修のプログラム数は上記の州に匹敵するほどあり、プログラム案内は毎号およそ18頁にわたって掲載されていて、その頁だけは黄色の紙を使って目立つようにしています。研修の数と種類は、わたしたちの想像を絶するくらい膨大なものと言えるのではないでしょうか。

研修への参加費は、研修内容や時間数によって種々ですが、1時間から1日のコースですと、大雑把にみて2千円から1万円、2万円、内容によってはそれ以上となっています。救急医療のような基幹的なものは一般に安い傾向にあります。また、コースによっては会員、非会員、卒後初期研修医、失業中の医師に分けて参加費を決めているものもあります(収入の低い初期研修医と失業中の医師の参加費は少し安い)。しかし、研修は経済的利益と結びつくものであってはならないと強調されています。医師が自分の職業の質を維持するために、少なからぬ自己投資をしていることになります。

生涯研修はずっと以前から、医師職業規則によって総ての医師に義務づけられていて、医師は生涯研修したことを証明できなければならないと規定されています。

そのような状況の下で、医師の生涯研修をさらに徹底させるために、新たな試みとして生涯研修証明書を発行するという、以下のような記事が上記州医師会雑誌の今年6月号(*2)に載っていたので要点を紹介します。

「今年7月1日よりこの州では、医師が自発的に生涯研修を行ったことを証明する生涯研修証明書を発行する制度をスタートさせる。生涯研修の提供者は、アカデミーから生涯研修の公認を受ける。参加者には生涯研修点数が与えられる。所定の期間(差し当たって3年間)終了時に必要な点数(100点)が集っていれば、生涯研修証明書が交付される。この証明書は次の3年間有効である。」そして、

「生涯研修の具体的なプログラムが医師に明示され、生涯研修証明書の発行について開示が行われる」というものです。したがって、生涯研修証明書を取得した医師と、取得しなかった医師が一般に知られてしまうことになるようです。

研修の内容からみると、専門領域のもの、学際的なもの、包括的なものに分けることができます。また研修方法で分類すると講義形式;ワークショップ、作業グループ、質に関するサークルなどのように参加者全員が行動する形式;超音波診断のような実務実習などがありますが、その選択は今のところは各医師の自由に任せる、としています。そして講義などは、1時間を1点とし、全員参加形式や実習的なものには加算点が与えられます。

これらの生涯研修の大多数は、共通の休診日である水曜日の午後(研修開始時刻は大体4時ごろから)と土曜日に集中して行われます。この時間帯は、自分の患者に何かあったとしても、交代で担当する救急当番医が対応してくれる制度になっているので(救急業務規則)、安心して研修に参加できます。このほかに、数日間にわたる大きな生涯研修プログラムも多数提供されています。

スイスの生涯研修

一方、スイスは詳細な生涯研修規則を作成し、数年前から実施しています。それによると、1年間の平均生涯研修時間を規定し、3年間に所定の時間数に達していないときは、補充するための1年の猶予期間が与えられ、それが満たされない時はさらに1年の猶予期間が設定されます。それでも生涯研修を確保できないときは、専門医称号を標榜する権利が失われるという罰則が待っているので、医師業務は事実上できなくなるのではないかと思われます。後日欠落した分の生涯研修を証明できるようになれば、専門医称号の再取得は可能となりますが、このような処罰が最初に言い渡されるのは2001年からだそうです。

スイスの場合、1年間の平均生涯研修時間は最低80時間です。その内訳をみると、企画された生涯研修への参加については、その医師の専門領域に属する研修は最低35時間を必要とし、専門の異なる領域や一般的な内容の研修は最高15時間まで算入されます。その他に自己学習による研修(例えば文献、視聴覚による方法)が30時間算入されることになっています。

*1 Nachrichten: Fortbildung in Baden-Wuerttemberg jetzt online. Deutsches Aerzteblatt. 96(10): A-593, 12. Maerz 1999.

*2 Kammerversammlung beschliesst Modellprojekt zur freiwilligen Zertifizierung der Fortbildung. Westfaelisches Aerzteblatt: 8, Juni 1999.

ドイツとスイスの事情は以上の通りですが、多少なりともご参考になれば幸いです。

ところで、現在日本ではカルテ開示が問題になっていますが、あちらの生涯研修に相当する目的意識と熱意があるならば、早速各処で「カルテの書き方」という生涯研修プログラムが企画されていてもよいことになりますが、現状はいかがなものでしょうか。そのような熱意が生涯研修という形で示されれば、医師会が準備のためにしばらく待ってほしいと言っても、国民はこれを率直に信用するでしょう。生涯研修の実態を調べると、日本と外国の医師の自覚の程度を比較できる客観的な尺度(evidence)となりそうです。

なお、州医師会雑誌を見てみたいという方がおられましたら、数冊(重複分が多数あるので)をお貸しすることができますので、遠慮なくご連絡下さい。

以上