「10年待って」


 西暦2000年。
 俺の手には一枚のMOが握られている。その中身は世紀の大発明、タイムマシンの設計図だ。
 産業スパイの俺は、ここ「タイムマシン研究所」へ忍び込んでいる。
 昼休みに誰もいなくなった研究室。目の前には出来立てのタイムマシンがスタンバイしている。俺の任務はこの盗み出したMOをクライアントに渡すこと。
 しかし俺はふと考え直した。
 このままこの目の前にあるタイムマシンで過去に戻ればこの発明は俺の独り占めに出来る。そのための設計図はこの手の中に握られているのだ。雇い主に義理立てて、安い報酬で満足する必要なんかないんだ。
 そう思った途端、俺はそのMOを手にタイムマシンに乗り込んでいた。
 操作は電子レンジ並みに簡単だった。ダイヤルを行きたい時点に合わせて「START」のボタンを押すだけだ。
 何年前に戻ろうか? このタイムマシンの研究が始まる前を選ばなければならない。それに設計図があっても作るには時間が掛かると思い、余裕をもって20年前にダイヤルを合わせた。

 西暦1980年。
 20年前に戻った俺はさっそくタイムマシンを作ろうと思った。しかし愕然となったね。
 なんてことだ、その時代にはまだMOが発明されていなかったんだ!

 西暦1990年。
 MOが発明されるまで10年待った。俺はこの10年の年月をただ待つしか方法がなかった。ひたすら待った。思えば遠い道のりだ。
 今度は「MO開発研究所」に忍び込んだのさ。そこにあった試作品はちゃんと俺のMOを認識することが出来た。
 やっと念願かなって設計図は俺のものだ。俺は感激で身が震えたね。
 しかし……しかしそのMOのファイルを開き、またもや俺は愕然となった。中身が「花子2000」で作られていやがる。
 花子2000が出るまで、あと10年待たなくてはならない……

おわり

もどる