「宇宙運輸ヤマト」


――私のヤマト号には恐ろしい装置を備えています。それは自爆装置。
 たかが貨物船に、なぜそんなものが、と? 私の扱う品物が一般的な貨物ではないからなのです。悪意ある第三者の手に奪われてはいけない物ばかりなのです。顧客への信用と、その略奪抑止効果を狙って組み込んだのです。
 その破壊力はすさまじく、太陽の半径ほどのエリアにいる船を巻き添えにしてしまうでしょう。その装置に今、スイッチが入ってしまいました。
 スイッチは私の奥歯に特殊な方法で仕組まれ、どんな状況でも起動できるよう考案されています。それは一度起動すると、もう誰にも止められません。
 私にはその覚悟が出来ていますが、もし助かりたければ、その爆発からワープで逃げ出すしかありません……間に合えばの話ですが――

 「――だからあなた達、あの世へ道連れです」
 「何だと!」
 海賊の親玉が目をつり上げ、私につかみかかりました。
 「いたたた、この期に及んで、これ以上手荒な真似はよしてください。私は手足を縛られ、立っているのがやっとなんです」
 「言えっ、あとどれくらいだ」
 <爆発まで5分です>
 「そのモニターを見てください。もう5分を切ったところですね。急いで海賊船へ引き返すんです。急いだ方がいいですよ、今から5分以内にワープしないと……」
 「バカ言うな。どう急いだってワープまでに10分はかかる」
 「それはそれは……まあ運が良ければ直撃は避けられるんじゃないでしょうか」
 「おまえ、立場逆転した気か!」
 また殴られる――そう思ったものの、なぜか親玉は掴んだ手を離し、ニヤリとほくそ笑みました。
 「――へん、だがな、残念だったな、そんなことは鼻からお見通しさ。ちゃんと調べてあるんだ――今日の積み荷も、乗り込むための転送コードも、自爆装置のこともな。コスモネットでハッキングしたんだ……それに知ってるぞ、急速ワープが可能な脱出ポッドが一艘あるってな」
 「そ、それも知って……」
 「おまえ、うまいこと言って一人だけ助かる気だったろう? 悪いがあの世へはおまえ一人、先に行って待っててくれ」
 「えっ……」
 確かに脱出ポッドなら1分もあればワープが可能です。非常用の救命艇で、緊急事態に備え常にアイドリング状態になっているからなのです。
 <爆発まで4分です>
 「おい、野郎どもっ、ポッドで脱出だ。他の荷物はいらねえ。『ヘリブライト結晶』だけは忘れるな。ダイヤの1000億倍の価値がある。急げ!」
 「へい! しかしウチらの船は……?」
 「あの船じゃ間に合わねえ、最初から見捨てるつもりさ。しかしこのお宝さえあれば、あんな船なんかすぐに手に入る」
 海賊達はあっという間にポッドに乗り込み、そして私は船に取り残されました。

 私は手足を縛られたまま、ぴょんぴょん跳ねながらモニターパネルへ近寄りました。そこには遠ざかっていくポッドが映し出されていました。
 <爆発まで1分です>
 ポッドは一瞬キラリと発光し、すぐに暗闇にとけ込みました――ワープしたのです。これで爆発の影響を受けない距離まで離れた事でしょう。
 <爆発まで30秒です>
 もはや一巻の終わり。まさか自分の仕掛けでこんなことになろうとは……
 <爆発まで5秒です>
 なんと皮肉な結末でしょう。もっと別の方法はなかったものでしょうか。
 <3、2、1……>
 おお、神よ!
 <ゼロ>


 ……あまりに遠く、肉眼にはピカリとも光りません。しかし確実に爆発したメッセージがモニターに表示されました。
 <コンプリート>
 「なんと哀れなことでしょう……あの海賊達は」

 ――私の船の自爆装置。
 その爆薬は脱出ポッドに仕掛けてあったのです……逃げる者を許さない、我ながらなんと恐ろしいことを思いついたことでしょう!

 さて、超硬質のヘリブライト結晶はこれくらいでびくともしません。あとでゆっくりサルベージするとしましょう。
 当ヤマト号は、なんたって御客様第一、真心込めて運びます―― 

おわり

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