「俺は人のウソを見破ることができるんだ」 「あら、どうして?」 「ほら、人間ってウソをついたり、言い訳するときになると雄弁になるじゃない」 「そうかしら」 「そうなんだよ、例えば殺人事件の犯人なんか、バレるまでは親切な隣人みたいな風に、マスコミにしゃべっていて、逮捕されてから実はこの人でした、とみんなビックリさせられるだろ。でもその時のビデオが流れたりすると、こいつはずいぶん余計なことをペラペラとしゃべってるな、と思うことがあるだろ」 「そう言えばそうね」 「これはきっと動揺を隠すための心理が現れたものなんだよ。つまり、人間はウソをついたり都合の悪いときほど動揺を隠すために雄弁になる生き物なんだ。相手がおしゃべりになればなるほど裏返せば『あまり語りたくない自分の心理』を読まれたくない、という防衛心が働くんだ」 女は男の話がつまらないらしく、途中から相槌も入れなくなっていた。男は話し終わったが彼女が無反応なので二人に少しの間があった。 男の顔は、さっきまでのハイテンションがウソのように暗く沈み、小さくため息を吐いた。 「……それでさあ、もう一回聞くよ。どうして別れたいなんて言うんだ」 「あなたが嫌いになったの」 女の返事によどみはなかった。 「今の返事にウソは見られない……本心だというのが良く分かるよ。残念だけどお別れか」 男は、泣き出したいのか怒り出したいのか、自分でも分からない心境のまま無理に笑顔を作った。そして勘定書を手にして席を立ち、最後の言葉を言った。 「じゃ、さよならだ」 「ゴメンね。あたしの意志にウソがないって分かってもらえたかしら」男の背中に彼女は悪びれずに言う。「でもあなたが動揺しているってことも、よく分かったわ」 おしまい |