━━1998/12/07━━━☆━━━━━━━━━━━━━━━☆━━━━━━

                 たま

          バンコク発!<地球>乗り見聞録

━━━☆━━━━━━━━━━━━━━━━━[第五号]━━━━━━━

 

 

☆☆☆久慈ちゃんのバンコクで、たま乗り☆☆☆

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(4):《スゥータット・久慈のひまばなし》 

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<ピー>という言葉がある。年上の人を呼ぶ時に冠する語句で、

<ピー〇〇>という具合に名前の前に付ける。

兄さん、姉さん、といった意味だ。

逆に年下の者を呼ぶ時には<ノン>という語を使う(もしくは呼び捨てにする)。

オイラはこの言葉が好きである。

タイの人々がこう呼び合っているのを耳にする時、えもいえぬ温かさを感じる。

ある酒の席で聞いた「タイ人は国王という父親の下に皆兄弟なのさ」

という友人の言葉を思い出す。

まあ、この言葉の是非はともかく、

日本みたいに、ナイフを持って常に他人と対峙しているかの様な

ギスギスとした人間関係よりはよほど気持ちがいいように思える。

オイラは現在24歳である。

まだまだ青いとはいえ、一応は成人男子であるからして、

当然、<ピー>と後進の人々に呼ばれ得る年齢なのだが、

なかなかそうは呼んでいただけない。

それどころか、明らかに年下と思われる小娘に<ノン>

と呼ばれる事すらある(べつに腹も立たんが、ちょいと閉口はする)。

 

なぜなのか?原因は二つ考えられる。

まず、第一にはオイラのルックスの問題だろう。オイラはこんな年をしているが、

どうにも始末に負えない童顔、おまけにチビで、

いまだに15、6歳に見られる事がある

(最近のひどい例では、イギリス人に14歳と見られた)。

日本でも、居酒屋への入店を拒否される事はしばしばだったし、

時にはこのおかげで言われ無き軽侮を受ける事もあった。

多分、オイラを<ノン>

と呼んだその娘も悪気は無かったのだろう。

オイラを見てただ純粋に自分より年下であると判断したに違いない。

オイラの服装も良くなかった。

この為近頃は、少しでも大人らしく見られるように、服装の改善を試みている。

ジーンズや、デニムシャツを止め、綿パンに、ワイシャツや、メリヤスのシャツ。

髪型も、角刈りだったのを、伸ばし、

レオナルド・ディカプリオ風(身の程知らずだが)に作ってみた。

結果は・・・まあ、以前よりはだいぶ良くなったと言ってくれる人もあって、

そこそこの成果を見たのだが、それでもまだ

こまっしゃくれた小僧が粋がって背伸びしてる様な感じは拭い切れない。

元が元だから仕方が無いが・・・。

 

話が逸れた、

第二にオイラが思うに、タイ人としては、

外国人に対してこれらの語を使うのに異和感があるのではなかろうか、

という事だ。

実際、タイ人が日本人を呼ぶ時に、

「ピー雅彦」「ノン由美」等と言っているのを聞いた記憶が無い。

たいてい、呼び捨てにするか、「義男さん」といった具合に日本式に呼んでいる。

西洋人に対してはやはりそれらしくファースト・ネームを呼び捨てる事が多い。

それぞれにはそれぞれの相応しい呼び方があるというわけだろう。

 

オイラがスゥータットというタイ名を名乗っているのは、

そのような事情を踏まえての事で、これならばタイ人も<ピー>とオイラを

呼んでくれるだろうと目論んだのであるが、

やはり、第一の要因がでか過ぎるためになかなか思う様にはいかない

(買い物に行った時や、

食事をしに行った時等に店員から営業的にそう呼ばれる事はある)。

だからたまに<ピー>と呼んでくれる人があると、

それはもう嬉しくなって有頂天になってしまう。

増してやそれが可愛い女のコだった日には、完全に思考力は停止する。

もう何でも許しちゃうぜ、べいびいってなモンである。

 

先日こんな事があった。

行き付けのメシ屋に行くと、新入りの女のコが入っていた。

18歳のあどけない顔をした可愛らしい娘で、しきりと話し掛けて来る。

その呼びかけの二人称が<ピー>だったのだ。

その響きの心地よさでビールが一際美味かった。

おそらく、スキだらけのだらしない顔をしていたことだろう。

二時間程そうして気持ちよくビールを飲んだ。

程よく酔いがまわって来たところで勘定を済ませ外に出ると、

店先に菓子売りが来ていた。

オイラの後からその娘も出て来てお菓子屋のガラスケースを覗き込んだ。

そして、甘えるような瞳と声で言った。

「ねぇ〜、ピー、お菓子買ってぇ〜ん」

オイラはすでに思考力が止まっているうえに、酔っ払っている。

まるで、その辺のカラオケクラブで、

若い娘にちやほやされて鼻の下を伸ばしている日本のオッサンの様な状態である。

「よっしゃぁ〜オカシでも何でも好きなだけ食えい!!」

「きゃ〜すてき〜!ピー!!」……………………………・

結局50バーツ程の出費になった。

彼女等はさぞかしオイラの事を「チョロい奴」と思った事だろう。

 

ところで一体どの位の年齢の差までが<ピー>と呼べる範疇に入るのだろうか?

いつも疑問に思っている。

オイラが実見した例でいうと、20歳くらいの女のコが、

自分の親父みたいな歳のオッサンをつかまえて<ピー>

と呼んでいるのを見た事がある。他にも似たような例を幾つも知っているが、

これはオイラの日本人的感覚から見るとひどく奇異に映る。

又、それとは全く逆に、空港でオッサンが、若い免税店員に対して<ピー>と言っているのも見た事がある。これも何だか変なモンだ。

しかし、よく考えてみると、それはオイラが

<ピー>という言葉を狭く解釈しているからなのかも知れないとも思える。

つまり、<ピー>とは単に兄さん、姉さん、という意味ではなく、もっと

深いものが在るのかもしれない、と。

それが何であるのかは、これからもタイ人達と付き合っていきながら

ゆっくり考えてみたいと思う。

 

             <つづく>

 

 

◆◇◆コバちゃんの世界で、たま乗り◆◇◆

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(4): 《落差》

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彼女がソムタムとガイトォートを食べるのをじっと見ている。

 

チキンを小さく引き千切り、それとソムタムのパパイヤを一諸にして口に運ぶ。

その手慣えた手つきは見ていて気持ちいいし、

活き活きとおいしく食べてくれるのは、まことに気分がいい。

 

そして彼女は、つかんだソムタムを僕に食べさせてくれる。

唐辛子が10個か15個も入っている、

この一般タイ人用ソムタムを口に入れた瞬間に、辛みエキスが爆発して、

僕の口は完全な麻痺状態になり、

鼻水がたらりとしたたり落ち、目には涙が滲んで来初めた。

 

※参考資料

 

《ソムタム唐辛子表》____________

|唐辛子1/2個〜ちょっと物足りない味     |

|唐辛子1個(日本人の標準)〜ほんのり辛い |

|唐辛子2個〜水を片手に舌はピリピリ |

|唐辛子3個〜涙と鼻水が止まらない |

|唐辛子5個以上〜視界が朧げで呼吸困難   |

|唐辛子10個(タイ人の標準)〜生死に関わりそう|

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さっきまでとは大違いだ!

 

つい五分前までは、日本料理屋にいたのだけれど

彼女は退届そうに、割り箸で寿司をもて遊んでいた。

まず、にぎりを真ん中から半分にざくっと切り込み、それからネタを取り外し、

裏に付いている緑色のワサビを「なんだこれは?」と不思議そうに眺めていた。

 

しかしまったく食べる気なんてこれっぽっちもなかったようだ。

まさに

豚に真珠、タイ人にお寿司!

 

スキヤキの食べ方がよくわからないようなので、

彼女の皿に、ぐつぐつと煮こまれた牛肉としらたきを生たまごのタレに付けて、

乗っけてやったのだが、食べようとさえしない。

「食べないの?」

と聞くと、生たまごは食べれないのだそうだ。

日本人がバッタやタガメが食べられないのと同じように、

タイ人は普通、生の魚や卵を食べることができない。

 

味噌汁も一度、蓋を開けて覗いただけで、口もつけず、

唯一おしんこをまずそうにボリボリと食べてくれた。

日本人に人気のある、うす味だが

タイではうす味(チュート)イコール“まずい”という意味になってしまう。

 

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そんな彼女を見ていたせいか、

ソムタムを食べる彼女は、水を得た魚のように、優雅に見えた。

 

そんなことはわかっていた。

ただ、その落差が見てみたかった。

 

 

世界で一番高い所にある首都を知っているだろうか?

 

それは、南米大陸のアンデス高地に位置する国、ボリビアの首都ラパスである。

標高3600mもあり、富士山の頂土並みの高さなわけだ。

 

4000mの高原が続くこの地は、砂礫ばかりの荒涼とした大地で、

木々や緑のないその風景はまるで火星か月にでもいるかのように錯覚させられる。

月のクレーターのような巨大な凹地に広がる首都ラパスは、

未来の惑星コロニーの見本となるのかもしれない

 

「Coroinco」というリゾート保養地があり、

ラパスからそこまでの旅は高々二時間ほど。

しかし、ラパスとCoroincoの高度差は、ナント2600mもある。

つまり一時間で、1300mも下らなけねばならないわけだ。

 

このルートは、下り坂の連続であるはかりでなく、

ほとんど垂直にきりたった高い崖、つまり断崖絶壁の道ばかりが続く。

車窓から崖下を覗くと、きりたった高いがけが何百メートルと続いているし、

頭上を見上げても同じように、崖が何百メートルと続いている。

道路にはガードレールなどなく、たまに崖下にバスが転落しているのが見える。

冷や汗が容赦なく、したたり落ちる。

運転手は慣れているのだろうが、旅客はたまったものではない。

たとえバスの運転が安全であっても、

崖崩れがあったら、否応なく奈落の底に落ちるしか道はない。

 

まさに命がけのリゾート旅行なのである!

 

 

 落差は人の恐怖心を誘う

 

ニュージーランドの北島の中央部に「Taupo」という湖のある街があるが、

その河口にバンジージャンプ台がある。

落差が56mもあり、

ビルで例れば、14階の高さから飛び降りることになるわけだ。

 

ジャンプ台から下を覗くと、

眼下にはゆっくりと流れる冷ややかな川がずーっと下のほうに見える。

背筋から、冷ややかな寒気がゾクゾクとし、

足は震えて、感覚が麻痺し、

自分が立っているのか、宙に浮いているのかよくわからなくなり、

それが恐怖心を更に助長する。

 

ニュージーランドには、56mのジャンプでも物足りずに、

ヘリコプターから飛び下りる約150mのバンジージャンプがある。

というのだから驚きだ。

まったく飛び下りる奴の顔が見てみたいもんだ。

 

そのうち、それにも空き足らずに、

宇宙上空から地表まで落下するバンジージャンプが登場するかもしれない。

眺めはゾクゾクするほどよいのだろうが、

生きていることもできないのだろうから、

一生に一度だけの楽しみってわけです。

                     

                               〈つづく〉