━━1999/2/8━━━☆━━━━━━━━━━━━━━━☆━━━━━━

                 たま

          バンコク発!<地球>乗り見聞録

━━━☆━━━━━━━━━━━━━━━━━[第七号]━━━━━━━

 

 ===================================================================

(4):《Back in The B.K.K》 

===================================================================

 

 先日、二ヶ月程の旅を終えバンコクに帰ってきた。

まるで楽しくない事務的な旅だったので、

ここでそれについて書こうとは思わない。

やはりオイラが書くべきは、タイ、バンコクの事であろうから。

 

 バンコクに住み着いて以来、こんなに長期間この街を離れた事はなかった。

今、久々に帰って来て、何か色々と感想があるべきはずだが、

実際の所ははっきり言って何も特別な感慨は無い。

長旅に疲れて、そういうものを感じる機能が

マヒしてしまったのか、時差ボケのせいか、

それともオイラはどこかで魂を失ってしまったのだろうか?

ともかく、旅に出る前には確かにあった

この街への好奇心がどこかへ失せてしまったかの様だ。

 

 これぁマズイ。

それじゃ何でオイラはここに居るのだ。日本に帰ろうって気も無いくせに。

このワケのわからない気だるさをなんとかするには一体どうすればいいのだろうか。

 

 ここはまず原点に立ち帰って、

とにかく街を歩き回るのが一番のリハビリ法であろう。

というわけで、目下、毎日なるべくたくさん街を歩き回るようにして、

少しづつ感覚を取り戻そうと努めている所だ。

したがって、この「たま乗り」にもガツンと気合の入った

文章を寄せることがまだできない状態である。

しかしそれでは、折角読んで下さる皆さんに申し訳ないので、

ここ数日に得た多少の感想でも綴ってみたいと思う。

 

 昨年、タイ国家挙げての一大イベントだったアジア大会も終わり、

街は多少落ち着きを取り戻しつつある様だ。

(って、もともと落ち着きなんか無かったかな?この街にゃ)

 そして、その祭りの後には、

まだ完成していない高架鉄道の建設という仕事が残った。

同時に地面の下には、

地下鉄の工事が進んでいて、やはり渋滞の要因になっている。

アジア大会はタイに何らかの経済効果をもたらしたのだろうか?

とりあえずうわべから見た限りでは

バンコクにはまだ80年代からの元気が続いているかのように見える。

 

 汗にまみれて歩く、歩く。何か変わったことは無いかな?

しかし、

ここに書くに値するほどの変化など、そうはなかなか見つかるモンではない。

増してや「たま乗り」のネタにしようなどと

浅ましい根性で歩いていてはなおさらだ。

ただちょっと目に付いた事があった。

 

 最近どうもパンク・ファッション

に身を包んだ10代後半位の若者の姿をよく見かけるようになった。

「う〜む、ロンドン・パンク・ムーブメントに遅れる事20年、

とうとうタイにもパンク小僧が出現したか・・・」

 と、これまた元パンク小僧の久慈ちゃんは感慨もひとしおであった。

 

パンク・ファッションというのは、あれでなかなか金のかかるもので、

もし本格的にキメようと思ったら、

例えば日本でなら軽く3〜4万円はかかってしまう。

タイのパンクスが、どれほどの金をそのファッションにつぎ込んでいるかは

知らないが、少なくとも貧しい家の子供ではないんだろうと思う。

(ちなみにオイラは貧乏だったので、元々持っていたシャツなどを

ビリビリに引き裂いてそれっぽく見せようとしていた)。

 

こういう若者が出現したという事は、

80年代から徐々に増えはじめた中間層の市民が

いよいよ安定し、娯楽やファッションの多様化という意味で

成熟しはじめてきた事の顕れかもしれない。

 

 かつてタイ人にとって髪の毛をキンキンに染めたり、

奇抜な格好をするということは特殊な事に属していた。

それがこういうパンク小僧を出現させるまでに変わってきたことを思うと、

結構な事だとは素直におもえずに、何かこのままタイ(というかバンコク)も

日本の様におかしな風になっていってしまうんじゃないか?

と(余計なお世話だが)ちょっとした不安を抱いてしまったりするのである。

 

 なんだか、どうでもいいような事をグダグダと述べてしまったようだ。

オイラのアンテナはまだ正常に働いてくれない。次号を出すまでにはなんとか、

皆さんに楽しんでもらえる事柄を見つけてご報告できるようにしたいと思う。

       <つづく>

 

 

◆◇◆コバちゃんの世界で、たま乗り◆◇◆

===================================================================

(4): Tipの効用

===================================================================

 

 タイにはTipの習慣がある。

屋台などではさすがにないが、ちょっとしたレストランやマッサージ店、

夜の店などでは、

店を出るときにちょっとした心遣いとして、いくらかのお金を置いておく。

 

Tipの習慣のない日本人から見ると

「なんでい、ヨーロッパでもないくせにTipの習慣だと!

アジアにそんな習慣はいらないやい。」

と思うかもしれないし

昔、僕もそう思っていたのだが...

 

 

 Hatyaiに下り立つと空気の中にしっとりとした柔らかさがあった。

南タイは早くも雨期に入っているようで、

タ方には必ず厚い雲が立ち籠め、大粒の雨が降り初めるのだった。

 

雨雲にもめげず、ハジャイの街を散歩をしてみた。

夜、見知らぬ通りを歩いているうちに、

まったく来たことのない場所に出てしまった。

 

はてはて、どうやって帰ろうか...

街灯もなく、人の往来もないハジャイの夜道というのは、

いくらタイとはいえ多少の不安がつきまとう。

その点バンコクには、何処にいっても屋台があり、その明かりや人の暖かさが

治安の維持に貢献しているのは見過ごせなところだ。

道に迷ってしまい小一時間程歩き疲れた体は、

外の空気と同様に蒸し暑くなっていた。

 

ふと上を見上げると、NO.1と大きな文字で書かれた看板があり、

どうもトラディショナル健康マッサージ店のようである。

足のだるさを取るために、そのマッサージ店に入ってみることにした。

 

僕に付いたマッサージ嬢は、いかにも真面目そうな印象を与えていた。

 

彼女の出身は、チェンライだった。

チェンライといえば、ここハジャイから遥か遠くの北にある県である。

バスに乗ってバンコクで乗り継いだとして優に20時間はかかる。

何故チェンライで働かないんだ?と聞くと

 「そりゃあ実家のチェンライで働きたいわよ。

でもあそこにはマッサージ(タイ語でヌワット)はマッサージでも

ソープランド(タイ語でアープオープヌワット)しかないもの。

それはそうと今日はあなただけしかお客さんいないから儲けもないわ。

たった40バーツだけよ...」

 

えっ!?  レジで僕は一時間の料金120バーツを払ったはずだ。

 

ということは彼女にその内40バーツ入り、

使用者に80バーツ入るということになる。

40バーツといえば、日本のお金で約130円である。

今日の彼女の収入はたったそれだけなのだろうか?

 

マッサージの仕事はかなりきつい肉体労働だ。

多くできても一日3人(計6時間)がやっとで、

3人もやると、親指の付け根や背中の筋肉が痛くなってくる。

たとえ彼女がフルタイムで6時間仕事をしたとしても1000円もいかない。

 

 

 それで思い出したのだが、

僕の友達で、夜の店のウェイトレスをしている人がいる。

彼女のひと月の給料は3500バーツ なのだが...

 

彼女はきちんと働いてはいるのだが、

元々体が弱い上に、

店のエアコンは効き過ぎていて、タバコを吸う客が多いことから

風邪をひいてしまい、仕事をたびたび休むことがある。

 

問題なのは、

仕事を一回休むごとに600バーツのペナルティーが課せられることだ。

休みの日(月に3回)を除いて、例えば月に6回休んでしまうと

つまり彼女の給料は御破算ゼロになってしまう。

 

店は毎日大繁盛しているのにもかかわらず、

結局、彼女の毎月の収入は高々1000バーツほどなのである。

ただ働き同然である。

日本の小学生の小遣いのほうがだんぜん多い!

 

彼女が「じゃあ、私これから仕事に行ってくる」

というときに、僕は

「仕事じゃないでしょ!お手伝いに行ってくるんでしょ」と言っている

うーん笑えない話ですねえ

 

他の友達にそのことを訪ねてみると

「しかたないさ、それは体を売れってことよ。

オーナーとしても、給料で稼いでもらうより

体で稼いでもらったほうが、お店の利益になるわけだし...」

 

 

マッサージ嬢にしてもウェイトレスにしても、

直接働いている者への配当が少なすぎる気がしてならない。

 

庶民がいくら働いてもいつまでも貧しく、

利権や資本を畜えた富裕層が何もせずともお金に余裕があるのを

こんなところから垣間見ているのかもしれない。

 

そんなタイの階層社会の中で、Tipは

労働者に直接手渡される唯一の「ねぎらい」の役割を果たしているのだろう。

                               〈つづく〉