アースドーン




今日の英雄は明日の伝説。
                          −スロール国王ヴァルラスIII世


今から約400年前、奴らは予言通りにやってきた。

世界に苦痛と破壊をもたらした、この残忍な生き物のことを人々は「ホラー(恐怖)」と
呼び、この絶望的な出来事を「大災厄(スカージ)」と呼んだ。

<馬鍬の書>第1巻の予言に従い、人々は壮大な地下都市、ケーア(もしくはシタデル)
を築き、約400年もの永きに渡り、ホラーが去るのを待ったのだ。
世界の魔力の高まりが弱まり、ホラーは徐々にもといた世界に押し戻されていった。

ようやくその世界を手に取り戻そうと、人々は日の光のもとに姿を現したのだ。

 
アースドーンは飛空船の名前。
アースドーンは勇気あるもの達の拠り所。
アースドーンは自由の象徴。

アースドーンは希望...


明日の伝説のために、今日の英雄達は世界を取り戻すために、戦いは始まる。

いま、大地は新たな黎明の時代を迎えようとしていた...


「アースドーン」は1997年にメディアワークスから出版されたブックタイプのファン
タジーRPGです。


・世界設定
 ・場所
  舞台となるのは、パーセイウ゛と呼ばれる一地方です。
  このパーセイウ゛がどこにあるのかというと、飛空船アースドーン号が「地球の夜明
  け」号と訳されていることからも、いつの時代かは分かりませんが「伝説の時代」の
  地球を舞台にしていると思われます。

 ・ホラー 
  世界に流れ込む魔力の波が高まり、霊気が一定の強さに達すると、異界のもっとも暗
  い片隅との間に橋が架けられ、ホラーはやってくるといわれています。
  世界の災厄を知らしめた<馬鍬の書>第1巻には、ホラーは強大な力を持ち、人の理
  解を超えた思考を持っていると記されています。
  そして破壊と欲望をもたらし、生き物の中に湧き上がる苦痛、恐怖、邪悪な感情を糧
  にするとも記されています。
  魔力の波が弱まった現在でも、まだホラーの残党は世界のあちこちに残っています。

 ・パッション
  アースドーンの世界にも神のような存在がいます。それらが「パッション」と呼ばれ
  ていて、パーセイウ゛の人々の信念と習慣に形を与えたとされています。
  大災厄前、人々は12柱のパッションから恩恵を授かっていましたが、大災厄の間、
  この暗黒時代の邪悪な影響力のために3柱のパッションが「狂えるパッション」とな
  り争いが起こりました。
  すなわち12柱のパッションとは、

  愛情、芸術、音楽のアステンダー

  富、交易、嫉妬、欲望のコロリス

  混乱、不要な労働、官僚主義、奴隷制度の狂えるパッション、ディス

  喧噪、精力、勝利、運動のフロラヌス

  暖炉、癒しのガーレン

  成長、大地の保護、自然に対する愛情のジャスプリー

  反抗、変化、自由のロコスト

  正義、同情、共感、真実のミンブルユ

  復讐、苦痛、嫉妬の狂えるパッション、ラゴック

  肉体の闘争、勇気のシストニウス

  建物、建築、設計のアパンダル

  手技、虚偽の狂えるパッション、ヴェストリアル

  大災厄後、信仰する人々の間にも信仰に基づく争いを生み出す結果となったのです。

 ・パーセイウ゛の人々
  このパーセイウ゛には、主に8つの種族が住んでいます。
  トロール
  ドワーフ
  エルフ
  オーク
  ヒューマン
  トゥスラング
  ウィンドリング
  オブシディマン

  各種族の特徴や外見は、ルールブックの28ページから詳しく書かれています。

 ・キャラクター
  プレイヤーキャラクターは、英雄たらんとして振る舞い、明日の伝説に語り継がれる
  ことを目指します。いわゆる、初めは駆け出しの英雄予備軍といったところでしょう
  か。  

  「アースドーン」にはキャラクターの作成方法(34ページから)も紹介されていま
  すが、慣れないうちはルールブック中に紹介されている既製キャラクターである、ア
  ーキタイプキャラクターを使って遊ぶのが良いと思います。

  キャラクターの能力値としては、敏捷力、筋力、強靱力、知覚力、意志力、魅力、が
  設定されています。
  
 ・ディシプリン(職業)
  「アースドーン」では13種類のディシプリン(職業)が用意されています。
  どんなものがあるかというと...

  射手(アーチャー)・・・弓の使い手です。

  獣使い(ビーストマスター)・・・動物(魔法生物も含みます)を使役することに長
                  けています。

  騎兵(キャヴァルリィマン)・・・騎獣に乗った戦士です。

  元素魔術師(エレメンタリスト)・・・5つの魔法元素、風、土、火、水、木を支配
                    する力を得た魔法使いです。

  幻影魔術師(イリュージョニスト)・・・虚偽にまつわる呪文を扱う魔法使いです。

  異界魔術師(ネザーマンサー)・・・異界に属する魔法を専門とする魔法使いです。

  空賊(スカイレイダー)・・・飛空船に乗り、セラ帝国に対して略奪を働きます。

  剣匠(ソードマスター)・・・剣の扱いに長けた戦士です。

  盗賊(シーフ)・・・盗みの技に長けています。

  吟遊詩人(トゥルバドール)・・・芸術家です。

  武人(ウォリアー)・・・戦いの魔法を身につけた戦士。

  刀鍛冶(ウェポンスミス)・・・伝説の武器を鑑定し、鍛え上げる技術を持っていま
                 す。

  理論魔術師(ウィザード)・・・理論の面から魔法の扱いを身につけた魔法使いです。

・システム
 ・タレント
  この世界でのタレントとは単なる技能ではなく、魔法の力を伴った一種の魔法技能で
  す。

  そして、このアースドーンのおもしろいところは戦闘に関する技能までもがこのタレ
  ントに分類されているところです。
  どんなものがあるかざっと一覧を書き出しますと...

  呪い抑え、軽業斬り、宙の舞い、空渡り、風の伝言、動物との絆、動物憑き、
  動物馴らし、見切り、不思議なささやき、アストラル視覚、打撃回避、跳弾当て、
  ときの声、雄叫び、血の共有、書物記憶、書物想起、感覚借り、矢戻し、予告攻撃、
  ネコ歩き、突撃、猛る爪、爪生やし、登はん、コブラの奇襲、冷たき浄め、
  武器隠し、クリーチャー分析、強打、偽りの死、罠発見、武器発見、導きの矢、
  武器落とし、機械の罠解除、装い、幻装、獣支配、降下攻撃、頑強、騎獣頑強、
  ワシの目、土の皮膚、精霊縛り、精霊語、感情の歌、感応命令、感情感知、
  寒さしのぎ、軽口、強化マトリクス、証拠分析、視覚だまし、素早い手、猛撃、
  闇流し、たぎる血、火の癒し、第一印象、燃える矢、武器鍛錬、追い払い、
  獣僕追い払い、滑走、いとま乞い、跳躍、値段交渉、獣僕治癒、励まし、
  スレッド保持、催眠術、武器強化、群衆扇動、動物扇動、アイテム知識、
  カルマ儀式、印象づけ、生命拾い、生命力透視、獅子の心、読唇術、トカゲの跳躍、
  念動鍵開け、鍵感知、受け流し、接近戦、映像記憶、金属結界、声色、精神波、
  射撃、連続攻撃、騎獣攻撃、魔法の照準、偵察霊、スリ、毒抵抗、翻訳、魔法語、
  変形、愚弄抵抗、突き返し、安全な道、2回攻撃、二刀流、毒感知、盾攻撃、
  忍び足、通訳、呪文行使、呪文マトリクス、霊体回避、霊体縛り、霊騎、霊体斬り、
  霊体会話、ほころび発見、韋駄天、鉄の意志、鉄のにらみ、釘づけ、安定騎乗、
  不意打ち、瞬発蹴り、愚弄、他者鍛錬、自己鍛錬、温度変化、スレッド編成、投擲、
  虎のバネ、獲物追い、罠避け、曲乗り、狙撃、まこと見、格闘、大地の支え、多芸、
  ねじり矢、武器知識、旋回攻撃、旋回防御、強き意志、風乗り、魅惑の微笑み、
  木の皮膚、踏ん張り

  これらのタレントは、スキルの代わりとして使えるものがあったり、使用する際には
  カルマ(後述)をコストとして払わなければならないものがあったりと様々です。
  タレントのうちいくつかは、そのタレントを持っていなくても対応する能力値で代用
  できたりするものもあります。

 ・スキル 
  「アースドーン」では、魔法の力に依らない技能をスキルとしています。
  スキルは3つのカテゴリーに分けられ、それぞれ知識スキル、一般スキル、技巧スキ
  ルとなっています。

  知識スキルは自由に設定できます。

  一般スキルにどんなものがあるかといいますと..
  軽業、演技、動物使役、芸術家、贈賄、話術、職人、変装、礼儀作法、偽造、釣り、
  恋愛術、狩猟、開錠、方位術、医者、言語の読み書き、研究、航行、誘惑、
  言語会話、都市知識、戦術、追跡、売買、生存術

  などがあります。

  技巧スキルも知識スキルと同じように自由に設定できますが、このアースドーンの世
  界では、技巧スキルを持つことは特別な意味を持ってきます。

  ホラーとの関わりを研究するうちに1つの事実を見いだしたのです。
  「ホラーに汚された者は芸術や工芸を実践するための訓練を続けることができない」
  というものです。

  このことが分かって以来、ホラーに汚されていないことを証明する1つの手段として
  使われます。

  すなわち、技巧スキルを持つことはホラーに立ち向かう英雄の証明でもあるわけです。

 ・判定法
  使用する自分の関連能力値+タレントのランク(技能レベル)からステップを算出し、
  そのステップに対応したアクションダイスで指定された種類および数のさいころを振
  って、目標値以上の目が出れば判定は成功になります。

  もし、振ったさいころの目が全て「1」だった場合はファンブル(失敗)で、逆に振
  ったさいころが全て「最高の目」であれば最高の目が出なくなるまでふりつづけ、出
  た数を足していきます。

  例えば、忍び足のタレントを例に挙げると
  敏捷力が「15」で忍び足のランクが「2」だった場合、敏捷力のステップは「6」、
  敏捷力ステップ+タレントのランクが「8」となるのでアクションダイスは2d6、
  6面体のさいころを2個振ることができるわけです。
  そして、振ったさいころの目がゲームマスターの設定した目標値以上の目が出れば、
  忍び足は成功となります。
  (ステップ/アクションダイスの算出はルールブックの24ページを参照してくださ
   い)

 ・カルマ
  プレイヤーキャラクターはカルマというものを持っています。
  どんなものかというと、タレントを使うのにカルマを消費したり、カルマを消費する
  ことによってアクションダイスにさらにさいころを振り足せるようにすることができ
  るわけです。

  カルマを使うことによって、普通では成し遂げられないような困難な状況を打破する
  力をプレイヤーキャラクターは持つことができます。

  このルールによってアースドーンでは英雄らしさを出しているとも考えられます。

 ・魔法
  「アースドーン」では、魔法をかけるのに、まずスレッドを編み込んでから、魔法を
  発動させるという手順を踏みます。

  スレッドを編み込むというのは「魔法を準備する」という意味に読み替えた方が分か
  りやすいかもしれません。

  中にはスレッドを編み込まなくてもすぐに発動できる魔法もあります。

  魔法も、技能判定の一種という扱いなので、アースドーンでは魔法使い系のキャラク
  ターはいつでもどこでも使える状況ならば魔法を発動させることができます。

  また、直接的な攻撃呪文以外の呪文もかなり用意されているので、プレイヤーがよく
  考えれば思わぬところで思わぬ魔法を役立たせられる可能性がかなりあります。

  魔法使い系キャラクターを好んで使うプレイヤーの方は魔法をどう使うのかという腕
  の見せ所でしょう。

 ・伝説点
  「アースドーン」ではキャラクターに与えられる経験点を伝説点と呼んでいます。
  どういったことに反映されるのかというと、伝説点を消費することによって、
  
  ・キャラクターのサークル(キャラクターレベル)の上昇

  ・能力値の上昇

  ・タレントのランク(技能レベル)の上昇

  ・スキルのランク(技能レベル)の上昇

  ・カルマの購入
   カルマはカルマ儀式でも得ることができますが、伝説点を払うことによって、一度に
   たくさんのカルマを得ることもできます。

  ・スレッドの編成
   マジックアイテムを使ったりするのに編み込むスレッドです。

  ・新しいディシプリン(職業)の修得

  また、キャラクターの直接的なレベルを表すサークル以外にもそのキャラクターが今
  まで蓄積してきた伝説点によって、そのキャラクターの地位や知名度を表す、伝説レ
  ベルというものも獲得していきます。

  こうして、キャラクターは伝説点を得ることによって強くなり、英雄として有名にな
  っていくのです。

・生物および世界を席巻したホラーたち
  パーセイウ゛には普通の生物から魔法生物、はては未だに異界に戻っていないホラー
  の残党など、実に様々で危険な生物が人々と一緒に生きています。

  ここでは、このシステムの世界観として特徴的なホラーのいくつかの例を挙げます。

  ・ブロートフォーム
   ブロートフォームとは様々なホラーをひとまとめにした名称であり、ナメクジやク
   ラゲのような姿をしたものを指します。

  ・クリスタル・エンティティー
   小さめの建物の中に住み着き、住み着いた建物の内部は水晶が張り付いたように見
   えます。外見の形状から直接攻撃はしてきませんが魔法による攻撃を仕掛けてきま
   す。
  
  ・デスペアソート
   大きな白い芋虫のような姿をしているホラーです。
   物理攻撃にしても魔法攻撃にしても脅威となりうるホラーです。
 
・総括
  今回は最近発売された(1997年)本格的なファンタジーRPGを紹介させていた
  だきました。
  キャラクターの作成については、慣れないうちはアーキタイプを使って遊ぶことをお
  勧めいたします。それでも充分に楽しめるでしょう。
  アクションダイスの算出が結構煩雑に感じるかもしれませんが法則性はあるので慣れ
  れば苦になることもなくなります(いったん算出してしまえば後はさいころを振るだ
  けなので苦労するのは最初だけです)。
  行為判定もすっきりと統一されていて、いったんやり方さえ分かれば後は楽な作業に
  なります。
  ルールブックの中にはあちこちにイメージを膨らませるためのイラストが盛り込まれ
  ていて好感が持てます。
  ただし、残念なのは基本ルールブックの中にサンプルシナリオがないことです。
  手っ取り早く遊ぶためにはアドベンチャーブックを購入する必要があるかもしれませ
  ん。
  そのサプリメントにしても初心者には推奨できないシナリオが含まれているなど、か
  なり減点しなければならないようなサポート展開であることは否めません。
  ただし、今後もしばらくはサポートが続けられるようなので、じっくりと味わい深い
  ファンタジー世界に取り組みたい方にはお勧めできるでしょう。

                                      (了)

                                  アースドーン
                             発行/メディアワークス
                             発売/主婦の友社
                                訳 柘植 めぐみ
                                 グループSNE
                                 1997年発売


 

 

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Written by ragou