ギア・アンティーク




「陽王」は「真なる神」によって全てを与えられた。

すなわちこの世界を統べることを任された。

賢く美しい神、「陽王」は世界の幸福と共にあった。

「陽王」を妬んだ「闇王」は「悪魔の月」を呼び、

その身に降魔の力を取り込み、「魔龍」となった。

永きに渡る争いの末に、「陽王」は「闇王」の軍勢を退け、

後には「降魔」が降り注ぎ、荒廃し、汚染された大地が遺された。

降魔の力によって歪められた生き物は未だ大地を徘徊しています。

我々は、「降魔」に対して警戒を緩めてはなりません。

                                  −第一法教会


轟音をたてながら疾走する列車

巨大な大砲を備えた戦車

空を進軍していく空中戦艦

様々な乗り物は蒸気機関によって動かされている。

そう、確かに蒸気の力が世界を突き動かしている世界。

ヴァルモン帝領、フィラム王国、ユーレンブルグ王国の三強時代。

人々は一時の安寧を求め、各国の思惑は錯綜する。

これはまぎれもなくスチーム・パンクの世界なのだ。

あなたに幸運の風が共にあらんことを!


「ギア・アンティーク」は1992年にツクダホビーから出版されたボックスタイプのス
チームパンクRPGです。


・世界設定
 ・場所
  舞台となるのは、エルスフィアと呼ばれる惑星の一地方、マキロニー地方と呼ばれる
  地域を扱っています。
  文明に関するアイデアソースを1800年代〜1900年代前半の現実世界における
  西欧から多く取り込んでいるので、イメージを掴むためにそれらの歴史書や文学書を
  読むのも良いでしょう。
  機械開発史などは押さえておいた方が良いかもしれません。
  マキロニー地方の風景や気候もヨーロッパをイメージしていますので、地理関係の資
  料さえ用意すればほぼ容易に想像できるのではないでしょうか?

 ・降魔 
  ギア・アンティークがヨーロッパを舞台とした、蒸気機関が主力だった時代のRPG
  にとどまらせないものの要素の1つとして「降魔」が挙げられます。
  「陽王」と「闇王」の戦い「降魔戦争」によって大量の降魔が大地に降り注ぎました。
  この降魔とは一言で説明するならば、「物の本質を歪める」力を持ったものと言えま
  す。降魔による本質の変容は、禍々しき力を呼び起こしますので、人々は降魔を忌み
  嫌い、畏れているのです。
  ただし、この降魔によって変質させられたある種の鉱物資源は莫大なエネルギーを与
  えてくれるため、危険を冒してでも手に入れようとする人々もいるようです。

 ・妖精
  かつて「降魔戦争」前、マキロニー地方にはたくさんの妖精が住んでいました。
  妖精たちは、降魔戦争で数を減らし、今では人前に姿を現そうとしないでしょう。
  魔法的な存在である妖精は、魔法使いから見れば良い研究材料であり、降魔よりも安
  全な動力源として注目されているからです。
  こうしたこともあって、妖精族は人間に対して警戒心を抱き、なかなか姿を現そうと
  はしませんが、人間に対して積極的に危害を加えることはないと言われています。
  ギア・アンティークは現実世界の歴史や文学だけでなく、伝承をも取り込んでファン
  タジーの要素も取り込んでいます。
  妖精や鬼族(ゴブリンなどです)、錬金術師たる魔法使いまでもが存在する味わいの
  ある世界を作り出しています。

 ・世界の種族
  ギア・アンティークではプレイヤーキャラクターは人間しか存在しません。
  ヴァルモン帝領は「北方人」が多く、フィラム王国では「南方人」が多いため、こう
  した民族的な対立もこの国家間の関係に深く影響しているようです。
  この他にも、商業民族とも言える「ラビエル民族」、超科学文明を持つ「トーラー古
  世人」と呼ばれるような謎めいた種族が主にNPC(ノンプレイヤーキャラクター)
  として登場します。

 ・キャラクター作成
  プレイヤーキャラクターは、システム面、世界設定面から明確な目的を与えられるこ
  とはありません。
  おそらく多くのキャラクターは、マキロニーでの未知なる、心躍る冒険に身を投じて
  いくことになるでしょう。

  キャラクターの能力値としては、体位、筋力、反射、器用、知恵、感応、容姿、身分
  の8つの能力値をさいころを振って決定するか、決められたポイントを割り振って決
  定するかの2つの方法から選択して能力値を決めていきます。
  
  言葉からではわかりにくい能力値をいくつか解説しますと
  体位は、体の大きさや、頑健さを総合的に表した能力値です。
  感応は、直感力や何かを無意識に感じ取る能力です。魔法的なセンスも表しています。

  これら8つの能力値以外にも「幸運」と言う能力値が存在します。
  この能力値だけは他の能力値と独立していて、特別な用い方をします。

  幸運以外の8つの能力値から6つ行為判定基本値が導き出されます。

  力判定は体位と筋力から、運動判定は筋力と器用から、操作判定は反射と器用から、
  作業判定は器用と知恵から、知覚判定は反射と感応から、交渉判定は知恵と容姿から
  導き出されます。

  そしてここからが頭を使うところです。
  ギア・アンティークでは実際にマキロニー地方に存在する教育機関を設定してあり、
  各キャラクターはそこでどういった教育を受けてどういった職業に就いたのかを決め
  ていきます。

  例えば、このキャラクターは初等学校(私たちの世界で言うところの義務教育機関の
  ようなものです)から上等学校に進んで職訓校へ行き、整備員として働いている。
  とか、初等学校をでた後、兵学校に進んで傭兵になった。
  と言った具合です。

  このことによって、キャラクターの年齢は教育をどの程度受けて、どのくらい仕事を
  していたかによって決まってきます。また、各教育機関で受ける教育の違いから、キ
  ャラクターの修得する特技にも違いがでてきますので、面倒な作業かもしれませんが
  キャラクターがどういった人生を歩んできたかが実感でき、愛着を持つことが出来る
  のではないでしょうか?
  
 ・職業
  職業は、1800年代〜1900年代前半の西欧に存在するどんな職業でも存在する
  といって良いでしょう。また、この「ギア・アンティーク」はファンタジーな世界観
  も存在しますので、それこそ思いつく限りのものが存在します。
  一応ルールブック中で示されている例を書き出してみますと...

  士官(陸軍、海軍、空軍)、兵士(陸軍、海軍、空軍)、傭兵、密偵、官僚、警官、
  技師、整備員、芸術家、大道芸人、記者、思想家、学者、医師、聖職者、探検家、
  職人(各種)、猟師、船乗り、盗賊、商人、労働者、放浪者、貴族、学生、主婦、

  などが挙げられています。
  職業は学歴(どういった教育機関で教育を受けてきたか)によって決定されます。

・システム
 ・特技
  「ギア・アンティーク」では特技を9つのカテゴリーに分けています。
  
  ・力判定関係
   握力、重量上げ、押さえつけ、打ち壊し

  ・運動判定関係
   騎乗攻撃、水泳、疾走、よじ登り、幅飛び、高飛び、綱渡り、綱登り、バランス、
   着地、気配消し、踊り

  ・作業判定関係
   スリ、速記、変装、蘇生、手当、漁、狩り、ワナつくり、縄結び、工作(各種)、
   演奏(各種)、歌唱、絵画、偽造、調理、銃器手入れ、武器手入れ

  ・操作判定関係
   銃器狙撃、弓狙撃、砲術、見切り防御、機関操作、二輪車操縦、4輪車操縦、
   無限軌道車操縦、気球操作、飛行船操縦、帆走、操船、手旗信号

  ・知覚判定関係
   聞き耳、匂い嗅ぎ、味見、遠視、殺気感知、強さ評価、ワナ感知、読唇、天文観測、
   地理観測、気候観測、道記憶、画像記憶

  ・交渉判定関係
   演技、魅了、読心、礼儀、論説、教育、世話、尋問、取引き、賭事(各種)、指図、
   威圧

  上記6つのカテゴリーはそれぞれの行為判定基本値を用いて判定を行います。
  また、これから挙げる3つのカテゴリーの特技については、判定時に相応しい行為判
  定基本値を用いて判定します。

  ・言語
   共通語、古世語、魔族語、妖精語、宗教語、呪術語、野卑語、極北語

  ・その他
   執筆、医療知識、外科手術、内科診断、薬物知識、毒物知識、動物知識、植物知識、
   珍品知識、国家知識(各国)、歴史知識、宗教知識(各派)、軍事知識(各兵科)、
   航路知識(各地方)

  ・技術資格
   特級技師資格、一級技師資格、二級技師資格、三級技師資格、四級技師資格、
   五級技師資格

 ・行動判定 
  「ギア・アンティーク」の行動判定は一風変わったものとなっています。
  難易度に対する%ダイス(10面体さいころ2個を用いた判定)によるロールになる
  のですが、難易度は7段階用意されています。

   1/3判定
   1/2判定
   基本判定
   ×2判定
   ×3判定
   ×4判定
   ×5判定

  そして、判定の仕方ですが、用いる行為判定基本値以下の目が出れば基本的に成功な
  のですが、1/*の難易度の場合は、判定のロールを*回行い、そのどれもが成功し
  なければなりません。

  例えば、1/2判定の場合、2回さいころを振って2回とも行為判定基本値以下の目
  を出さなければならないと言うことです。

  反対に、×*判定の場合、判定のロールを*回行い、その内の1回でも成功していれ
  ばその行為は成功になります。

  例えば、×2判定の場合、2回さいころを振ってどちらかが行為判定基本値以下の目
  であれば良いということになります。

  そして特技はそのレベル分、難易度を軽減するのに用いられます。
  特技は最高3段階まで教育機関やキャラクター成長時に重ねて取得することができま
  す。
  
 ・WOL判定
  行動判定に失敗したとき、キャラクターはこのWOL判定を試みることができます。
  基本的に幸運値以下を%ダイスで出せば成功です。
  このWOL判定の面白いところは、WOL判定の成功失敗にに関わらず一時的に幸運
  の値が上昇していくことです(この一時的に上昇した幸運値をWOL値と呼びます)。
  この上昇は累積され、WOL判定による成功値はシナリオ中どんどん上昇していくの
  です。
  このルールによって冒険の渦中にあるプレイヤーキャラクターたる物語の主役が、運
  に恵まれて危機を脱していく、というシーンを再現しようと試みたルールと言えます。

  しかし、一見便利なこのWOL判定もそうそう良いことばかりは起きません。
  ある決められた値をWOL値が超えたときに、プレイヤーキャラクターは運に見放さ
  れ、ツキ過ぎたツケとして「しっぺ返し」というアクシデントに見舞われることもあ
  るのです。
  「しっぺ返し」に見舞われたキャラクターのWOL値はもとの幸運値まで戻り、また
  WOL判定により上昇していくことになります。

  このWOL値はシナリオ開始時は必ず幸運値から始まります。

 ・魔術
  魔術に関しては、基本ルールブックでは語られていません。第1エキスパンションで
  ある「アート・アルケミー」において述べられています。
  「ギア・アンティーク」の世界では、魔術は存在するものの一般的ではありません。
  魔族の力に通じるものとして忌み嫌われているからで、ルールブック中でも打倒すべ
  き魔法使いなどのNPCに適用するのが望ましいと書かれています。

  「ギア・アンティーク」における魔術はかなり独創的です。
  魔術は言葉の組み合わせから成り立ちます。そして魔術を行使するキャラクターは文
  字通り、言葉を組み合わせて魔術を行使するのです。

  呪唱修辞詞と呼ばれる「どのように」呪文をかけるかを表す言葉。
  「どこにある」か、対象までの距離を表す距離形容詞。
  「どのくらいの大きさの」対象に呪文をかけるかを表す質量形容詞。
  呪文に対してどのくらい受け入れやすい対象かどうかを表す抵抗形容詞。
  どういったものに呪文をかけるかを表す対象類別詞。
  「どれぐらいの強さで」呪文をかけるかを決める威力形容詞。
  どういった効果の呪文をかけるかを表す呪文動詞。
  呪文を完成させるため呪文の終了を表す終了詞。

  これらのカテゴリーに記された言葉を組み合わせることにより、キャラクターは1つ
  の呪文を発動させることができます。

  このルールは慣れるまでにはかなり苦労すると思いますが、いったん慣れてしまうと
  かなり簡単な作業になります。

  他にもこのサプリメントでは「聖職者」の行使する「法力」、普通の人間とは違った
  能力を持つ「異能者」、太古より遺された「トーラー文明の遺産」について言及され
  ています。

 ・車両デザイン
  「ギア・アンティーク」における花形とも呼べる蒸気機関を搭載した車両を好きなよ
  うにデザインできるように第2エキスパンション「スチーム・パレード」は発売され
  ました。

  このサプリメントによって、マキロニーにおける科学技術の現状や技術開発年表の詳
  細が明らかになり、オリジナルの蒸気機関メカをデザインすることが可能になりまし
  た。

  また、各国の軍事および軍事車両に関する情報が公開され、この「ギア・アンティー
  ク」をスチームミリタリーRPGとして遊ぶためのより詳細な軍人キャラクターの作
  成ルールが掲載されています。
  「ギア・アンティーク」をどうやって遊ぶかの1つの方向性の提示とも言えるでしょ
  う。

  他にもこの「スチーム・パレード」ではマキロニーにおける秘密結社、犯罪組織、邪
  教組織、各国の秘密警察や公的機関の設定までが公開され、「ギア・アンティーク」
  をより、面白い世界へとしてくれます。

・マキロニー地方に生息する生物たち
  「ギア・アンティーク」の世界での生活はかなり文明的だと言えるでしょう。
  しかし、荒野、人のあまり立ち入らないところには「降魔戦争」の名残である「歪め
  られた生物」が今なお徘徊し、人々の脅威となっているのです。

  ・ハシリコウモリ
   コウモリとネズミの中間のような生物です。
   夜行性で荒野や下水に集団で住み着いています。

  ・鉄カブト
   とても硬い甲羅を持った小さな昆虫で、高速で飛来したときには鉄板をも貫いてし
   まいます。ときおり、製油施設などの工業施設を破壊し事故を起こすこともあるの
   で、マキロニーでは害虫としてよく知られています。
  
  ・降魔戦車
   降魔鉱石を動力の一部として用いていた戦車が、活性化した降魔に逆に乗っ取られ
   た状態です。無補給、無整備の状態で暴れ回ります。

  こうした、様々な独創的なモンスターがいろいろと挙げられていますが、キャラクタ
  ーは荒野でのワイルダネスな冒険よりも蒸気メカが暴れ回る町中での冒険の方が多い
  のではないでしょうか。

 
・総括
  今回は国内で市販された唯一のスチームパンクRPGを紹介させていただきました。
  よく紹介するときに、宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」を
  挙げることがありますが(「未来少年コナン」や「不思議の海のナディア」も挙げら
  れますね)、イメージ的にかけ離れている部分も多く初めての方に説明するのは結構
  難しいジャンルです。
  一番簡単な方法はシステムの発売に追随して発売された「ギア・アンティーク」のコ
  ミックスを読ませることなんですが...
  戦闘に関しては紹介を割愛させていただきましたが、バランス的には銃器での戦闘が
  メインになることが多く、戦闘はかなり危険な行為であると言えます。
  「ギア・アンティーク」の魅力は「誰もが夢見た科学」の反映だと思います。なんだ
  かよく分からない発明メカが煙を吐きながら動き回り大活躍する、そういった世界で
  の冒険活劇を待ち望んでいる方にはお勧めできるシステムでしょう。
  しかし、残念ながら現在「ギア・アンティーク」は発売元のツクダホビーのRPG関
  連業務の撤退から絶版となっており入手はかなり困難です。
  今でもサプリメントは時折目にすることはあります(1998年6月現在)。
  構想に6年、サプリメントも予定されていたものは全て発売され、完成したシステム
  と言っても差し支えないものだけに非常に残念です。
  現在、ブルーフォレスト物語はゲームフィールド社から改版が発売されていますので
  この「ギア・アンティーク」の復活も是非期待したいところです。

                                      (了)

                               ギア・アンティーク
                                  ツクダホビー
                               ゲームデザイン
                                    伏見健二
                                 1992年発売


 

 

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Written by ragou