ゴーストハンターRPG




「幽体調査研究所」−所々に錆が浮かぶ鉄の扉には、たしかにそう書いた札が掛けてあっ
た。

みすぼらしい、裏路地のビルの一室には不似合いな、立派な応接セット。
どっしりとした本棚には、豪奢な装丁の本、理解不能な文字で書かれた本。

一人の男が立っていた。
白髪の老紳士のように見える。

促されるままにソファーに腰を掛け、老紳士も腰を下ろしたとき、
枯れ果てた男は静かに語り始めた...

ようこそ、ゴーストハンターの世界へ。

この世界では、科学で、あるいは常識で説明のできない奇妙な現象に出会うことがある。
我々は、そうした様々な怪異を調査し、原因を究明しなければならない。
もし、そうした怪異がこの現実世界に悪影響を及ぼすのなら、阻止または排除しなければ
ならない。

こうした怪異に対する者たちを我々はゴーストハンターと呼んでいる。

しかし、ゆめゆめお忘れになりなさるな、好奇心や、名声を得たいばかりにゴーストハン
ターになった者は、その欲深さ故に長生きできなかったと...

なぁに、止めはせんさ、好きにやればいい、そして実際に目にすれば怪異に対する認識の
甘さを思い知らされることになるだろう。

男は笑い続けた、耳に障る声で...

−狂っている...−

この先に何が待ち受けているのか?

真なる狂気か、人知を越えた知識か、あなたは選ばれたのだ、ゴーストハンターに...


「ゴーストハンターRPG」は1994年にアスキー出版局から出版されたブックタイプ
のホラーRPGです。


・世界設定
 ・場所
  舞台となるのは、1920年代〜1930年代のアメリカおよびヨーロッパです。
  この世界では実際に怪異を起こす存在が確かに存在します。
  システムではそれぞれの時代を「享楽と狂気の時代」、「不安の時代」として、この
  激動の時代がいかに冒険心に満ちた生活ができるかを記述しています。

 ・幽霊という存在 
  この世界では生ける者はすべて、肉体、アストラル体(星気体)、エーテル体(霊体)
  の3つの体から構成されているとされています。

  生命が死ぬとき、もちろん肉体は朽ち果てていきます。

  他の2つの体は...

  エーテル体は、生命の性格や資質、感情などの精神的な活動に影響を与えます。
  このエーテル体も生命活動が停止すると、体を去っていきます。

  そして残されたアストラル体も普通は霧散していきます。
  このアストラル体が何らかの理由で壊れずに残った場合、幽霊となるわけです。
  アストラル体は、肉体とエーテル体をつなぎ止める役目を持っています。
  このことから、感情や精神的活動をエーテル体から肉体へ伝達する役目があるという
  ことが考えられます。
  壊れずに残ったアストラル体は、死の直前の感情や意志が残っていることがあり、こ
  れがあたかも幽霊が意志を持って動いているように見える理由となります。

  幽霊には自分でものを考える力はありません。生前のよく行っていた行動や行おうと
  していた行動を繰り返し行うだけです。

  他にも、奇現象として魔術がどうやって具現化されるかとか、秘密結社が何を目的に
  活動しているか、オーバーロードと呼ばれる高次の存在についてやこの世界を徘徊す
  る異界の怪物たちのことも記述されています。  
  
 ・キャラクターの作成
  ゴーストハンターRPGのキャラクター作成方法は基本的にトランプを用いて作成さ
  れます。
  山札から引いた12枚のトランプによって特徴が決められます。
  
  どんなものがあるかというと...

  1枚目のトランプの数字によって外見が、最悪〜最高まで7段階で決められます。

  引いたトランプのスート(スペードとかハートといったものです)はここでは関係な
  く、数字が関係してくるわけです。
  
  他にも、所持金や学歴、肉親の有無など12個の特徴が決められます。    
  
  12枚のカードのスートの各枚数のうち分けから、4つの特徴値が決まります。
  4つの各スートに対応するように7つの能力値があります。
  
  スペード・・・体力、敏捷力

  ダイヤ ・・・分析力、知覚力

  ハート ・・・意志力、魅力

  クラブ ・・・運

  そして、各能力値に対応する特徴値から5段階、1D6〜1D6+5(1D10も使
  ったりして)のダイスを用いて各能力値を決定していきます。

  ここまで決まると、あとはプレイヤーキャラクターの職業とも言えるアーキクラス、
  各職業で専門的に使われるスキル(技能)や一般的なスキル(技能)を選択していけ
  ばキャラクターは完成します。
  
  アーキクラスには、
  戦闘が得意な「ディテクティブ」、霊能力の専門家「ミスティック」、情報収集のエ
  キスパート「ジャーナリスト」、野外の冒険活動のプロ「エクスプローラー」、心霊
  機械という怪異に対する様々な発明品を作り出す「サイエンティスト」、秀でている
  ものはないがいろんなことをそこそこにこなす「ディレッタント」
  があります。

  また、普通のキャラクターより成長にかかる経験点は増えますが、
  アーキクラスにはマルチクラスというものがあって、アーキクラスを組み合わせて2
  つの専門的知識を生かせるキャラクターを創ることもできます。

  アーキクラスが決定した後に、そのキャラクターの肩書きが決定します。
  
  例えば、「ディテクティブ」ならば戦闘が得意ということから自分のキャラクターの
  肩書きを「軍人」や「警官」を選んだり、マルチクラスで「ミスティック」、「サイ
  エンティスト」を選択していれば、「オカルト科学者」と肩書きを決めたりすること
  ができます。

・システム
 ・スキル 
  スキルには、

  専門スキル:大型拳銃、小型拳銃、格闘、機関銃、医療手当、追跡、手がかり、尋問
        神秘学、心理療法、霊能力、隠れる、忍び歩き、鍵開け、写真、
        資料検索、交渉、ライフル、手技、フィールドワーク、鑑定、心霊機械
        機械操作、魔術

  などの、約24種類があり、
        
  一般スキル:投げ、運動、回避、乗馬、水泳、武器戦闘、化学、外国語(各種)
        機械修理、考古学、心理学、自動車、人類学、生物学、地質学、天文学
        電気修理、動物学、薬学、歴史学、聞き耳

  などの約21種類が用意されています。

 ・判定法
  使用する自分の関連能力値と使用するスキルレベルからスキルロール(技能判)の成
  功率(1D100、10面体さいころ2つを使います)が算出されます。

  スキル成功率=(関連能力値+スキルレベル)×5%

  10面体のさいころを2個振って、成功率(%)以下がでれば成功となっています。
  そして、その行為の時の状況に合わせてゲームマスターの判断によって成功率が修正
  されます。目安として−70%〜+70%までの15段階が提示されています。

  スキルロールには大成功、大失敗という概念があります。関連能力値とスキルレベル
  を足した値以下が1D100で出れば大成功、90にスキルレベルを足した値以上が
  出れば大失敗となります。
  
 ・霊能力
  霊能力はスキルレベルに応じて1レベルから10レベルまで用意されています。
  基本的には消費MP(メンタルポイント、精神力)を消費することによって霊能力を
  発揮します。特にこれといった特筆すべきものはありません。

 ・心霊機械
  心霊機械のスキルを持っているキャラクターは心霊機械を製作することができます。
  製作できる技術はスキルレベルに応じて1レベルから10レベルまで用意されていま
  して、研究室とお金と暇とスキルが許す限りキャラクターは心霊機械の発明に没頭す
  ることができます。

  例えば
  1レベルなら
  怪光線I、生体磁力放射線I、高性能電池など
  これが10レベルになると
  生命体分解光線など

  自分である程度、自由に心霊機械がデザインできるので、なかなか楽しい作業となり
  ます。

 ・恐怖判定
  キャラクターが、常識では理解できない怪異や理解したくない怪異に出会うと精神的
  にその恐怖に打ち勝てたかどうかを判定しなければなりません。

  そのキャラクターの意志力+経験レベル(キャラクターレベル)×5%の値を目標値
  に1D100(10面体さいころ2個)で目標値以下が出れば恐怖判定に成功、恐怖
  に打ち勝ったことになります。
  
  恐怖判定に失敗すると、キャラクターはゲームマスターからトランプを1枚もらいま
  す。絵札以外の数字札だった場合、MPの最大値(おおもとの値)と現在値が減少し
  ます。
  そうして以後このキャラクターは、戦闘中であればラウンドの最初の抵抗ロールに成
  功するまで恐怖に硬直し、行動不能になります。

  トランプは1シナリオ中累積してゆき、MP値が0以下になることによって、キャラ
  クターは「狂気」に陥ります。

  絵札には特殊な効果があり、他のキャラクターを狂気から回復させるのに使ったりす
  ることができます。ですから、全く各キャラクターがトランプを持っていないという
  のも困った状況になるわけです。適度に恐怖判定に失敗して、絵札を手札に持つ必要
  があるという駆け引きが必要になってきます。
  基本的に手札は他の人に見せないこととなっています。

 ・狂気
  最終的にMP(精神力)が0点以下になった時点の数札のスートによって、どんな影
  響を受けて狂気に陥ったかが決まります。

  スペード:身体的能力に影響のある狂気に陥ります。

  ダイヤ :知性、知覚力に影響のある狂気に陥ります。

  ハート :心理、モラルに影響のある狂気に陥ります。

  クラブ :不幸な偶然を呼び起こす行動を取り始めます。

  狂気に陥るたびに、キャラクターは特徴値(キャラクターの作成で4つのスートの各
  枚数から決まった値です)を1点ずつ失っていき、後遺症が残ります。
  また、特徴値がどれか1つでも「0」以下になるとそのキャラクターは「真の狂気」
  に囚われ、ゲームに登場することは二度とありません。

・世界に徘徊する異界の怪物たち
  ゴーストハンターRPGには実際の伝承などに登場する怪物たちのデータが用意され
  ています。
  いくつか例を挙げますと...
  ・ブラシュニュクル
   人間の脳と脊髄だけの生物。

  ・デッドリースポーン
   バスケットボール大の大きさの肉の塊のオタマジャクシのような生き物で尻尾があ
   ります。
  
  ・ヴァーゲン・ナーチャ
   人間の中に眠っていた様々な生物の要素が、混沌の力を持つ<異界の存在>と融合
   することによって、突然でたらめに発現した生物です。

・付属シナリオ
  この「ゴーストハンターRPG」にはサンプルシナリオとして連作シナリオ、キャン
  ペーンシナリオが付属しています。

 ・1人きりの演奏会
  行方不明になった霊能者、ローザ、彼女の足取りを追ううちに、たどり着いた森の奥
  の古びた屋敷で待ち受ける運命とは...

 ・パリの魔術師
  パリで起きた芸術家の行方不明事件。なぜローザはさらわれたのか?
  謎の秘密結社「聖者の棺」の目的とは...

 ・霧のロンドン
  ロンドンで待ち受ける様々な怪異。
  ゴーストハンター達は「聖者の棺」の野望を打ち砕くため、今、最後の戦いに挑む。

 と、少しホラーRPGのシナリオの説明とは思えないような説明ですが、だいたいこん
 な感じです。 

・総括
  今回は国産の本格的なホラーRPGを紹介させていただきました。
  キャラクターの作成の部分では使うダイスに統一性があまりなく、かなり慣れないと
  煩雑に感じることでしょう。
  ルール的にはあまり癖がなく、可もなく不可もなくといったところでしょうか、トラ
  ンプの使い方が今ひとつ必然性を感じない感があります。
  戦闘バランスは怪物が絶対的に対抗できない強さを持っているわけではなく、ホラー
  RPGとしては戦闘はあまり危険なものになっていないかもしれません。
  現在でも、入手できるシステムではありますが、都内ゲームショップの在庫の状態か
  ら推測するに、それほどヒットしたシステムとは言い難いようです。
  ただし、ファンタジーなどと比較すればホラーRPGは出版されている数が少ないの
  で、手軽にホラーRPGを遊ぶといった点では一度遊んでみても良いかもしれません。

                                      (了)

                             ゴーストハンターRPG
                                 アスキー出版局
                               ゲームデザイン
                                    安田 均
                                    白川 剛
                                 グループSNE
                                 1994年発売


 

 

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Written by ragou