天羅万象




永遠に戦の終わることのない世界「天羅」。
この世界において、弱者はただ駆逐されるのを待つのみ・・・
生きるために必要なのは何よりも力。

人は力を得るために、あるものは刀の練習に励む。またあるものはヨロイを駆り、戦場を
駆け巡ることだろう。己の体に秘術を施し、人であることを止めてまで強くなろうとする
者もいる。

そんな世界だ・・・

彼らは強さの先に何を見るのだろう?
強くなるということは、ただ敵を殺す力を身につけることだけなのだろうか?
それは分からない。私たちにも、もしかしたら彼ら自身も・・・

今はただ、心の渇きを癒すため、そして理由を求めるために戦場を駆けるだけである。
ますます心が渇いていくことにも気づくこともなく・・・

天羅万象は1997年にHJより発行された「ハイパーオリエンタルRPG」です。戦国
時代の日本とも似た、しかし広大な国においてのPC達の生き様を見せ付ける(あえてこ
ういう書き方をします)システムです。

このシステムは今までのRPGというものと比べて、PC達の役割分担という考え方が希
薄です。どのアーキタイプを選択したところで、能力値こそ違うものの行えることに大し
た違いはありません。法術を使うシノビ、刃物武器を手にとって戦う僧達がいても何ら問
題はないわけです。ある意味、このシステムのアーキタイプはPCのビジュアル設定の補
助といえるのかもしれません。

注:天羅万象はその世界観およびルールリファレンスをビジュアルブックというブックタ
  イプで、基本ルールのみを収録したゲームマスター用とも言える基本セットをボック
  スタイプで出版するという、他のTRPGシステムでは見られない、特殊なサポート
  を展開していました。
  プレイヤーならばビジュアルブックのみで天羅万象を遊ぶことができるのです。

・行為判定
  このRPGの行為判定の方法は至って簡単です。
 振るサイコロは6面体のみ。
 振れる個数は各々のキャラクターの「能力値」の数です。

 振られたサイコロは<技能>の段階によって、決められた数値を下回ったものとそうで
 ないものに振り分けられます。
 下回ったものの総数を「成功数」と呼びます。この「成功数」とマスターの定めた「難
 易度」を比較し、「成功数」が「難易度」を上回った場合に判定は成功となります。

  行為判定の中でも特殊な状況があります。PCとPC、もしくはNPCが何かを競い合
 うという状況のときです。こういった時の判定方法を「対抗判定」といい、「難易度」
 が相手の「成功数」に置き換わります。さいころを振った結果、両者の「成功数」が等
 しい場合、「受動側」の勝ちになります。

  戦闘における判定も、この「対抗判定」を用います。
 戦闘の場合は相手の「成功数」上回った分(「成功度」といいます)が基本ダメージと
 なります。これに武器の修正などを加えた値が最終的なダメージです。(成功数が相手
 をしたまわった場合、武器修正を足してダメージが正の数になったとしてもダメージは
 与えられません)戦闘のとき、成功数が等しかった場合はつばぜり合いや間合いを計っ
 ている状態などが考えられます。

・技能
  天羅万象における技能は<汎用><専門>の2つがあります。
 汎用技能はたとえ習得していなかったとしても、天羅世界を生きていく必要最低限の知
 恵として使うことができます。
 専門技能は名の通り専門的な技能で、天羅世界において認知度こそ高いものの一般的で
 はないので、習得しない限り使うことすらできません。

  端的に言えば、汎用技能は修得していなくても、一応判定できるが、専門技能は修得し
 ない限り判定ができない技能です。

  <汎用><専門>には次のような技能があります。

 <汎用技能>
  戦闘系
   <回避><白兵戦闘><射撃戦闘><格闘戦闘>
  肉体系
   <運動><隠身><観察><騎乗><耐性><追跡>
  精神系
   <意志力><枕事><話術>
  知識系
   <応急手当><事情通>

 <専門技能>
  肉体系
   <早業>
  精神系
   <接合>
  術法系
   <陰陽術><傀儡術><蟲術><神通力><操気術><法術><忍術>
  知識系
   <偽造><芸事><作法><帝王学>
  その他
   <神術>

 各技能の説明は省きますが、一部の特殊なものを除けば理解できるものがほとんどだと
 思います。

・業システム
  天羅万象の根幹ともいえるべきもの。それがこの業システムです。天羅万象=業システ
 ムといえるかもしれません。

  業システムとは、人の心理的な葛藤、思い出などを表現するシステムです。このシステ
 ムは「因縁」「気合」「業」「宿業」の4つからなります。

 ・「因縁」
   因縁はPCの想いそのものです。それは、「弱いものに対する憎しみ」であるかもし
  れませんし、法師のたてた「殺生をしない」という誓いかもしれません。
   PCはこれにそくした行動をする(主に発言)事によって、「気合」というものを獲
  得します。

 ・「気合」
   気合はPC達の火事場力の様なものです。「気合」を使うことによって、PCは成長
  したり、戦況、状況を有利にしたりすることができます。
   この様に便利な「気合」ですが、使用すると「業」という数値が上昇していきます。
  業を溜めることによって得るメリットはほとんどありません。

 ・「業」
   世間一般にいわれている業とは少し違います。一般的に「業深きもの」というのは
  「悪いことをしてきたもの」を指すと思いますが、天羅の「業」は異なります。
  
  天羅における業とは「心の中のモヤモヤ」や「形にできない想い」といったものです。
  ですが、何にせよ増え続けていい事はありません。各PCが許容できる業の限界を超
  えたとき、PCは発狂し「修羅」と化します。
 
  「業」を減らすには、モヤモヤを払い、形にできない想いを具現化することです。そ
  うして出来上がったもの。それは、新たな「因縁」です。しかし、新たな「因縁」の
  誕生と共に「宿業」という数値が上昇します。

 ・「宿業」
   人間はいろいろな夢、想いを持ちたがります。しかし、一度に想える量には限界があ
  ります。人間、同時に何人もの人を愛することは難しい・・・そういう事です。

  その限界が「宿業」です。自分一人で想いを抱えきれなくなったとき、つまり「宿業」
  が限界を超えたとき、「業」の限界が減少します。過剰な想いはストレスとなり、モ
  ヤモヤに対する耐性に悪い影響を及ぼします。

  この「宿業」を減らすにはどうしたらいいか?それは「因縁」をなくすことです。人
  間いろいろな夢や想いを持ちたがりますが、それはいつか風化します。
   例えば・・・これを読んでいる貴方が小さいころ大切にしていた「何か」があるとし
  ましょう。今、大切だったその「何か」は貴方にとって大切なものですか?
   宿業を減らしたときには共に「因縁」を失うだけです。人間、頼っていたものから離
  れるというのは大切なことです。

  業システムは天羅万象の根幹ともいえるモノなので、若干複雑です。新しく「因縁」を
  作り、すぐ消してしまったとしても、システム的に間違ってはいません。しかし、それ
  が正しいことかは分かりません。

  貴方は好きになった人をすぐに忘れられますか?死んでしまった大切な人をすぐに風化
  させられますか?

 もし「Yes」と答えられるのであれば、それは「因縁」に値しないモノなのではない
  でしょうか?

・世界観
  平たく言えば、戦国時代の日本です。しかし、その大きさは広大で日本の数倍の広さを
 持つ国が20国以上存在しています。この大陸の名前を「天羅」といいます。

 「天羅」と日本の相違点、第一には先ほど挙げた大きさ。そして、第二には軍事力の進
 歩です。
 「天羅」の戦場には機械甲冑、人造人間などが数こそ多くありませんが闊歩しています。
 それら兵器の戦力は絶大です。

 この世界観については「天羅万象ビジュアルブック」に詳しく書かれています。このワ
 ールドガイドは簡易ルールブックも兼ねているという優れたものなのですが、先日「絶
 版になってしまった」という事です。

 (注:1998年7月現在、再販が確認されています)

・総評
  「天羅万象」というシステムは非常に癖があり、万人受けするものではありません。他
 のシステムと比べて「PCのなすべきことが明確でない」という点、「業システムのみ
 に依存している(演技重視で判定が軽視されている)」という点など欠点は様々です。
 しかし、その欠点を克服できるほどの感動を得ることができるシステムでもあります。
 演技重視であるため、初心者に薦められるものではありません。ですが、ベテランの方
 ならば、他のシステム以上に「自分たちで話を作る」という感が持てるのではないでし
 ょうか?
  私はこのシステムを敢えてTRPGと呼びません。それは、このシステムこそ、テーブ
 ルゲームのあらたなるジャンルである「TCG(テーブルトークコミュニケーションゲ
 ーム)」だと思っているからです。

                                      (了)

                               天羅万象
                               ・基本ボックス
                               ・ビジュアルブック
                                 ホビージャパン
                               著:井上 純弌
                               天羅万象制作チーム
                                 1997年発売


 

 

Go to 紹介記事 page

 


Written by kazuha kitouin