誰がために




はじめに

ある日、城に訪れた客人。
敵国との睨み合いが続く中、矢は放たれた。
一介の雇われ兵には真実は知らされぬまま、陰謀は密やかに巡らされる。
人は誰のために生きるのか?人は何のために生きるのか?
追跡行の果てに目にするものは、真実か虚構か...
幕は静かに開ける。


「一時の休息」
舞台は巍州五ヶ国、篝国。
紫雲家の元に身を寄せている、雇われ兵のプレイヤーキャラクター達は久方ぶりの休息を
満喫していた。
当面の敵国、南郷家との間の戦が一段落ついたのだ。
だからといって戦が終わったわけではない、一時的に南郷の軍勢を退けたに過ぎない、戦
局は混とんとしていた。

・プレイヤーの行動によっては提示される情報

南郷軍を先の戦で退けたことにより、一時的に睨み合いの状態になり、すぐには南郷軍が
攻め込んできそうにないことから、雇われ兵には休息が与えられることになった。

紫雲骸螺は戦を早く終わらせるために、ヨロイを欲しがっている。

紫雲家の当主、紫雲骸螺には目に入れても痛くないほどに可愛がっている娘、沙霧姫がい
る。沙霧姫はとても美しいらしい。

沙霧姫は、南郷家と戦を始める前までは恋仲である南郷鷹杜の長男である南郷遊馬の所へ
嫁いで行くはずだった。

今晩、お城に「特別な」客人が訪れるらしい。

ゲームマスターに明かされたる真実
沙霧姫と南郷遊馬が恋仲にあるのは誰もが知っている事実です。
そして、男の子宝に恵まれなかった紫雲骸螺がこのことを快く思っていないことも事実で
す。表向きは喜ばしいことだという顔を取り繕っていますが、内心では長女である沙霧姫
が嫁いでしまったときに、跡継ぎの無い自分の領地はどうなってしまうのかということし
か気にかけていません。
また、このことから紫雲家は南郷家との戦を望んでいたという噂を提示するのも良いでし
ょう。


「夜の来客」
日も暮れる頃、城内はにわかに慌ただしさを増した。
何でも「特別な」客人が来るらしい。
腕によりをかけたもてなしをするため、城内は慌ただしかった。

・プレイヤーの行動によっては提示される情報

今晩の客人は、神宮家の使いらしい。

神宮家の使いは連れが一人いて、今晩の客人は2人らしい。

神宮家の連れは、南郷家の人間らしい。

南郷家は、神宮家に仲立ちをしてもらって、戦を終わらせたいらしい。

城に来た南郷家の人間とは、南郷遊馬らしい。

ゲームマスターに明かされたる真実
夕刻、陽が落ちきる前に城にやってきたのは神宮家の使いと南郷遊馬です。
南郷家としては戦を終わらせたいと思っていますが、今回は遊馬の独断による身勝手な行
動です。
神宮家の使いに仲立ちしてもらって戦を終わらせる、と言うことを理由に紫雲の城に入り
込もうとしています。それが罠とも知らずに...
南郷遊馬は武芸の腕に覚えのある人間です。若さからかその腕を過信する傾向にあり、自
分の多分に思い付きに近い申し出に、神宮家の使いが快諾してくれたのかと言うところま
では考えることが出来ませんでした。


「消えた姫」
翌朝、城の一部の人間にとっては緊張が走った。
沙霧姫が消えたのだ、神宮家の使いの連れと共に。
即座に紫雲骸螺は命を下した、姫を連れ戻せと。
紫雲骸螺の懐刀、陰陽師である綱見星厳は薄く笑っていた...自分も行く、と。

・プレイヤーの行動によっては提示される情報

沙霧姫は、南郷遊馬と共に城を去ったらしい。

南郷遊馬は胸に見慣れない金属板を埋め込んでいた。

南郷遊馬は武芸には秀でている。(アーキタイプの強さ的にはヨロイ狩りあたりを使って
も良いかと思います)

城下から少し離れると、南郷家の領地までは山中行になるので、女性を連れた足ではそん
なに急いでは行けないはずだ。

ゲームマスターに明かされたる真実
沙霧姫を連れ出したのは、南郷遊馬です。正確には沙霧姫に似せて作られた傀儡です。
不幸なことにこれは紫雲家と神宮家の使いが目論んだ通りに事が運んでいます。
当然遊馬はそのことに気付いていません。
遊馬の胸に埋め込まれている金属板は、神宮家の使いが遊馬の申し出を承諾するときに条
件として埋め込めさせたもので「明鏡」の素とも言えるものです。
紫雲骸螺は南郷遊馬を利用して明鏡を(その先には当然ヨロイを手に入れるということが
あります)手に入れようとしています。
これは初めから紫雲骸螺と神宮家の使いとによって仕組まれたことなのです。
また、二人の行方は綱見星厳が式を放って監視しているので、最初から何処にいるかを掴
んでいます。人里離れた場所にたどり着くのを待っているわけです。
プレイヤー達が二人の行方に関する情報を掴めずに焦っているところで、星厳が余裕を見
せているということを話し、星厳の不気味さを出しても良いでしょう。


「与えられた運命」
ついに、二人は追いつめられた。
若き武者は愛する人を守るために、刃を放つ。
思惑が交錯する中、その先に待つ運命は...

・プレイヤーの行動によっては提示される情報

二人の行動は式によって監視されていた。

連れ去られた沙霧姫は偽物で実は傀儡だ。

これは、紫雲骸螺が明鏡を手に入れるために神宮家の使いと仕組んだことだ。

南郷遊馬を不用意に殺してはならない。

沙霧姫を南郷遊馬の前で殺せ。

ゲームマスターに明かされたる真実
沙霧姫は偽物で傀儡です。しかし、南郷遊馬は必死の思いで此処まで逃げてきているので
それを信じることは出来ません。
そしてそれは、傀儡である沙霧姫にも言えます。沙霧姫は自分が傀儡であると言うことを
知らされずに育てられていました。二人はこの事実に呆然とし、それでもなお遊馬は沙霧
姫の影を追い、傀儡である沙霧姫を守ろうとするでしょう。
綱見星厳は、なんの躊躇もなしに沙霧姫を殺そうとするでしょう。

沙霧姫を殺された場合、最愛の人を失った若き武者は何を思うでしょう。ここで、若き武
者は業を108まで貯め込み、修羅化します。
遊馬の修羅化に呼応するように、遊馬の胸に埋め込まれた金属板が不気味な光を発し始め
ます。
これは、金属板が修羅となった魂を取り込もうとしているからで、取り込みが完全に終わ
ると「明鏡」が完成する仕組みになっています。

ただし、遊馬が意識を保ったまま「明鏡」が完成してしまうと恐ろしいことが起こります。
「明鏡」を埋め込んだ武者はその明鏡修正によって金剛機並の力を発揮します(当然、修
羅化しているので最初から能力全開の高速移動で襲いかかってくることになります)。
ここがポイントです。修羅化して、金剛機並の力を発揮しようとする「生身の」体は、そ
の圧倒的な力にそう長くは耐えきれないことでしょう。耐えきれなくなった結果、遊馬は
ただの肉塊と化します。あとには鈍く光を放つ「明鏡」のみが残ることになります。
綱見星厳はプレイヤーキャラクター達が「明鏡」が完成しきる前に遊馬の意識を無くさせ
ることが出来なかった場合、これを狙ってくるでしょう。プレイヤーキャラクターの安否
を気遣うことなく。

此処まで来て、プレイヤーキャラクターが綱見星厳に非協力的になった場合、綱見星厳は
二人もろとも、その場にいる全員を殺そうとするでしょう(当然、本体をプレイヤーキャ
ラクターの前にさらすことはないでしょう)。爆発能力を持った式を使うのがお手軽な方
法です。
プレイヤーキャラクターが綱見星厳、ひいては紫雲骸螺の目論見を崩すためには、既に南
郷遊馬の体に埋め込まれた「明鏡」が完成する前に遊馬を殺す以外にないことに気付くこ
とでしょう。

はたして結末は...



あとがき
決して後味の良いシナリオではないと思います。
プレイヤーが最初から非協力的だった場合はまた話が変わりますが。
自分なりの解釈がかなり盛り込まれたシナリオとなってしまいましたので、好き嫌いとい
うか、受け入られるかそうでないかはっきり分かれるのではないでしょうか?
「明鏡」というのはどうやって作られるのだろう、なんて事を考えながら作ったシナリオ
です。
基本的に天羅万象は「言った者勝ち」的なゲームだと思いますので、プレイヤーが積極的
に関わろうとしなければ、このシナリオはなんの苦悩も呼ばない、ただのあくどい国に雇
われた雇われ兵の汚れ仕事で終わってしまうことでしょう。
人の生き様を見せつけるゲーム(少なくとも私はそう捉えています)でそうした行動は寂
しい限りです。
ゲームマスターはその辺に気を付けてマスタリングをして下さい。あまりに情報を制限し
すぎるとシナリオが進みません。
また、シナリオの出だしから気付かれると思いますが、話の関係上雇われ兵で無理なくプ
レイ出来るアーキタイプの選択をお勧めいたします。


 

 

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Written by ragou