私的リプレイ分類学




 さて、このTRPG妄想学では雑想ノートの五回分の記事とは一風変わったコラムと
いうことで少々根も葉もない妄想を交えて今までとは違った内容を書いてみようと思い
ます。
今回は「リプレイ分類学」と題して、リプレイの意義、分類などの考察が出来たらと思
っています。

 そもそも、リプレイという形式でTRPGが雑誌上などのメディアに紹介されたのは
いつ頃なのか、これを知る上で貴重な記述が富士見書房からつい最近(1998年6月)
出版された、リプレイ本「ロードス島戦記 I」の冒頭にあります。
 その記述に従えば、リプレイが初めて広範なメディアに登場したのは1986年から
足かけ二年連載された、コンピュータゲーム雑誌「コンプティーク」誌上の「ロードス
島戦記」が最初とあります。これは、私もよく記憶しています。
 最初の「ロードス島戦記」は、TRPGを紹介する目的で、システムとしては当時一
番日本で普及していたであろう「D&DTM」(新和が翻訳販売を行っていました)を題
材にしたリプレイ記事だったのです。このリプレイ記事は、私見ですがかなり出来が良
く、これから「D&DTM」を遊んでみようかという方にとっては、まさに参考になる記
事でした。
 結局、このリプレイ記事は雑誌上の展開のみで今のように文庫にまとめられて出版さ
れることはなかったのですが………おそらく、版権が絡んだ問題だったのではないかと
思われます(そういえば、大きく「D&DTM」を扱っているとは謳っていなかったよう
な記憶があります)。では何故、今「ロードス島戦記」のリプレイ本があるのかという
と、そうして1990年に入った時に「ロードス島戦記」における一つのムーブメント
がありました。
 「ロードス島戦記コンパニオン」(現在のロードス島RPG角川スニーカー文庫刊の
ものとは異なります)の登場です。リプレイ記事として絶大な人気を獲得した「ロード
ス島戦記」は、その後もキャラクターを変えてキャンペーンが続き、結局第三部まで続
きました(まぁ、その後に「クリスタニア」が続いていくのですが…)。そうした流れ
の中で、いつまでも「D&DTM」上で展開していく訳にもいかなかったのでしょう。第
二部開始と同時に、「ロードス島戦記コンパニオン」の元となるルールが発表され、第
一部のリプレイも新たに「ロードス島戦記コンパニオン」のルールを用いて再収録され
たのです。
 これが現在、私たちが入手できる「ロードス島戦記」第一部のリプレイです。

 何故、「ロードス島戦記」にまつわる話をしているかといえば、ここに現在のリプレ
イ分類のための鍵があるのではと私が睨んでいるからです。

 実際、「ロードス島戦記」のリプレイはよく売れていたのではないかと記憶していま
す。人気はうなぎ登りでOVA化、小説の出版、関連グッズの販売などなど…当時はマ
ルチメディア展開とはこういうものだ、というくらいの勢いがあり、また商業的にも大
成功を納めていたのではないでしょうか。
 しかし、ちょっと待ってください。ビデオが売れる、小説が売れる、有名声優を配し
たドラマ仕立てのテープが売れる、ゲームソフトが売れる、関連グッズが売れる…果た
してこれらのことはTRPGとして「ロードス島戦記」が発展していく上で必要なこと
だったのでしょうか?
 確かに「ロードス島戦記」のおかげでTRPGの知名度は一時的にせよ認知されるよ
うになりました(一時的にといっているのは1998年現在、TRPG市場が縮小しつ
つあるのを受けての表記です)。しかし、「ロードス島戦記」が好きだという方の何人
かと話している内にあることに気付いたんです。「ロードス島戦記」の誰々というキャ
ラクターが好き、小説の何巻の話が好き、登場人物が好き…そういった話の中で少しも
TRPGに関しては触れられることはありませんでした(何故かというと、「ロードス
島コンパニオン」自体がそもそもそんなに質問が噴出するような複雑なルールではなか
ったことも影響しているのではと思います)。というよりも触れる必要もなく話すこと
は出来たのです。

 そうです。彼らは「ロードス島戦記」は愛していても、TRPGとしての必然性を感
じていなかったのではと推測します。つまりは、人気はTRPGリプレイに対してとい
うよりは、ロードス島という舞台で活躍した英雄たちに向けられてしまったようなので
す。考えても見れば、まだ日本ではライトファンタジーもあまりなかった時期で、本格
的な国産のファンタジーなど望むべくもないようなご時世でした。

 さて以上のことを鑑みて、一端ここまでのリプレイのスタイルを分類してみましょう。

 まず、TRPG自体を紹介するリプレイを「紹介型」、ルールの運用方法などを解説
することを目的としたリプレイを「解説型」としておきます。
 そして、人気の登場キャラクターや著名な舞台を元に出されているリプレイを「物語
型」としておきましょう。
 「紹介型」や「解説型」のリプレイは、その目的の通り非常にTRPGのことを意識
して書かれています。なにしろ紹介しようとするTRPGシステムやルールを理解して
もらうために書かれているものなのでこれは当然でしょう。しかしその反面「物語型」
は、これらのTRPGを普及性させるために紹介・解説をするということはある意味無
視されています。「物語型」のリプレイが目指すところは読み手を物語の世界に「引き
込むこと」が目的となります。こうしたリプレイでは、実際にプレイされたものの物語
の表現上好ましくないもの、必然性のないキャラクターのやりとりなどはすべて省かれ、
それこそ普通の小説などと変わりないレベルの読み物にすることが優先されます。次々
と危難を苦労こそしろくぐり抜けていく登場人物、最後に待ち受ける感動の物語…これ
らは後述する「娯楽型」の源流ともいえるものです。

 一応ここで注釈をつけておきますが、「ロードス島戦記コンパニオン」のリプレイは
「紹介型」、「解説型」に分類されるかというと少々複雑なことになります。なぜなら、
本来の「ロードス島戦記コンパニオン」の元となるルール発表は第二部の頃なので、第
二部のリプレイが「紹介・解説型」の体裁を取っているはずなのですが、順番としては
再録された第一部リプレイの方が先になるので、第一部も「紹介・解説型」の体裁を取
っています。しかし、参加したプレイヤーがすでに第一部全体のストーリーを知ってい
るためにプレイング自体に少々歪みが出ているように思われます。ですからここで用い
ている分類法を正しい発表された順番に当てはめれば、まず第二部が発表され「紹介・
解説型」の体裁で出され、次の第三部が若干の「物語型」の要素を含んだ形で発表され、
第一部がそれらに合わせる形で再録され、並びとして初めに来るために「紹介・解説型」
の体裁にして発表されているということになります。
 このことから言えるのは、「ロードス島戦記コンパニオン」のリプレイシリーズは、
全般的に「紹介・解説型」の体裁に比重が置かれているものの、最初からそうした意図
で計画的に出されたものではない、ということではないでしょうか?

 果たしてリプレイのスタイルはこれだけでしょうか?そんなことはありません。

 ではどんなものが考えられるのでしょうか?あなたが、TRPGをよく遊んでいるの
なら考えてみてください。自分が参加するTRPGの集まりで、そのプレイ中の模様を
カセットテープなどの記録媒体に記録したことはありませんか?そして、そういった記
録をみんなで回し聞きしたり、市販されているリプレイ本のように文章に書き起こして
ワープロやパソコンのプリンタから打ち出したものをみんなで回し読みしたりしたこと
はありませんか?
 そういったリプレイを読むのは楽しいものです。「あのシーンでは誰々がこんなこと
をやった」、「あのシーンでは苦労したんだよなぁ」、「最後の戦闘で死ぬかと思った」
いろいろと思い出される印象深いプレイの数々。確かにプレイは面白かったし、そのプ
レイをリプレイにしているんだから面白いことは間違いなし…本当にそうなのでしょう
か?その後にこんな文章が続かないとは言い切れないと思います。

 「確かにそのプレイに参加していたら面白かっただろうなぁ」

 失念している方もおられるかもしれませんが、そういった楽しいと感じられるリプレ
イの記録には、リプレイの文章からよりもそこから連想して引き出される楽しかった記
憶の方がかなりの比重を占めていると思われます。そして、そういった体験からくる面
白かったことというのは非常に文章にしにくいものがあります。
 つまりは、自分たちが楽しかったことを正確には文章で伝え切れていないということ
で、こうした自分たちのプレイの記録といったリプレイは分類上「記録型」としておき
ましょう。
 自分たちのプレイまたはキャンペーンを記録していくという意味では、後から見ても
楽しいものですし、良い思い出にもなりますね。自分がTRPGを続けていく上では非
常に良いことだと思います。

 さて、ここまでで4つの型のリプレイが出てきましたが、これですべて出尽くしたで
しょうか?まだですよね。「物語型」のところで後述するといっていた「娯楽型」があ
ります。
 「ロードス島戦記」のリプレイから始まった日本のリプレイの歴史ですがその後に雨
後の竹の子のようにリプレイがどんどん出てきたかというとそうでもありません(少な
くとも私はそう感じていました)。リプレイ本が流行るためにはもう一つの転機が必要
だったのです。
 「ロードス島戦記」の第一部のリプレイ連載が終了して1年後、若者向けのライト感
覚で読める小説を掲載していた雑誌「ドラゴンマガジン」(富士見書房刊)誌上で展開
していた一つの企画が実現されました。そうです「ソードワールドRPG」(富士見書
房刊)の発売です。「ロードス島戦記」第一部から第二部の間までには少しの間があり、
その間にもグループSNEの手による国産のオリジナルファンタジーRPGをという声
が高かったようです(この時点では、「ロードス島戦記コンパニオン」はまだ発表され
てませんでしたし、マルチメディア展開という声もありませんでした)。
 そういった背景で満を持して発売された「ソードワールドRPG」は瞬く間に多数の
支持者を抱え、こちらも順風満帆の出だしとなったのです。そして雑誌「ドラゴンマガ
ジン」誌上でのリプレイ連載。雑誌上の展開では「ロードス島戦記」とほぼ同じでした
が、こちらは「ソードワールドRPG」のルールQ&Aなど、他にも関連記事があった
のが違いでもあり、支持された理由でもあったのではないでしょうか(適切なサポート
がなされれば普通のユーザーは支持をするという実例ですね)。
 そして、「ソードワールドRPG」関連のリプレイが徐々に発売されるに従い、国内
でもいろいろなTRPGシステムが発売され、リプレイ本がたくさん発売される環境に
なっていったように思います。
 さて、最初の頃は「ソードワールドRPG」のシステムを紹介することを念頭に置い
ていたと思われる良質なリプレイ「盗賊たちの狂詩曲」シリーズ(富士見書房刊)など
を順調に排出していた「ソードワールドRPG」ですが、回を重ね、リプレイを続々と
出版している内にその内容も変質していったようです。
 システムの紹介やルールの解説よりも読み物としての質を、読み手を楽しませる内容
のリプレイを…ある意味1996年の「ソードワールドRPG完全版」登場までの7年
間これといって大きなルール改訂や、ユーザーに影響を与えうる追加ルールの発表もな
くリプレイ記事を連載し続けていたのですから、当然の流れではなかったでしょうか。
そして「ロードス島戦記」のようにマルチメディア展開出来るほどの英雄を「ソードワ
ールドRPG」は擁していませでした(違いを述べるのなら、舞台の大きさが違ったか
らでしょう。「ロードス島戦記」のように島全体の命運をかけた英雄譚というような感
じでアレクラスト大陸をまたに掛けて大活躍するようなキャラクターがプレイヤーキャ
ラクター側に出てこなかったからではと推測されます)。
 飽きられないために、常に斬新なことを、楽しませる工夫を…ここに現在のリプレイ
の本流ともいえる「娯楽型」が登場したのです!「娯楽型」のリプレイも「物語型」と
同様に、笑いを取るために不要な記述を削除している場合があります。
 そのTRPGシステムにある程度慣れてしまってる方ならば、そういった娯楽性を求
めてリプレイを読むのも良いかもしれませんが、こうした「物語型」や「娯楽型」のリ
プレイを読んで「こういったプレイがしたい」と思っても実現するのはほぼ不可能だと
思います。何しろ思い描いている理想のプレイ自体が脚色・改竄されている記録である
可能性が高いわけですから。

 どんなリプレイ記事にも完全な記録というものはないと思いますが、その目的によっ
て脚色・改竄される部分が異なってくるということですね。

 こうしてみると、リプレイのスタイルも年代で分けることも可能なのかもしれません
が、一応今回はどんなスタイルがあるのかという分類までにとどめておきます。また、
グループSNEに関係した作品からのアプローチでしたが、他意はありませんし他のア
プローチもあるかと思われます。御気分を害された方にはここで謝罪しておきます。

 リプレイのスタイルを5つの型に分けてみたのですが昨今のリプレイを見てみるに必
ずしもそれぞれが独立して存在しているわけではないと思われます。「解説型」の体裁
を取りながら「娯楽型」の内容も含まれていたりといった感じです。
 これからTRPGを始めてみようと思っている方、リプレイ本を公に発表しようと思
っている方はどうかこういったリプレイの目的を常に念頭に置いてもらいたいものです。
自分の要求を満たすリプレイはどのスタイルのリプレイか、これから発表するリプレイ
はどういった方に読んでもらいたいリプレイか。
 これらのことを考慮することは、非常に重要なことだと思います。

 最後に各スタイルをまとめておきましょう。

「紹介型」…発売されたばかりのRPGや認知度の低いRPG、みんなに知られていな
      い海外RPGを紹介することを目的としたリプレイ。
      自分に合ったTRPGを探している方におすすめできるスタイルです。

「解説型」…ユーザーにとって理解しづらいルールの解釈や新たに追加されたルールの
      運用方法を解説することを目的としたリプレイ。
      自分の気に入っているTRPGのルール解釈を深めたい方におすすめでき
      るスタイルです。

「物語型」…読み手がストーリーに集中できるように物語性を高めたリプレイ。
      好きな登場人物の活躍に興味のある方におすすめのスタイルです。

「記録型」…自分やある特定の集団が過去に自分のプレイを振り返られるように記録と
      して残したリプレイ。
      これは少し特殊で、商業ベースではまず出てくることはないように思われ
      ます。一応、他の方がどういう風に記録を取っているのかが気になる方に
      おすすめできるスタイルです。

「娯楽型」…読み手が一時の息抜きに、笑いを取ったり楽しめるように娯楽性を主眼に
      置いたリプレイ。
      楽しい話を聞きたい方におすすめできるスタイルです。

他のスタイルもあるよという声もあるかと思いますが、私の分類法ではこんな感じでし
ょうか。ある程度は網羅できているのではないかと思います。

さぁ、それではあなたに合ったリプレイを探しに行くことにしましょうか。

 

 

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Written by ragou