久々のヨーロッパへ... Part2

 

 ブリュッセルの朝はめちゃくちゃ早かった・・・

なぜなら6時30分発のユーロスターに乗らねばならないからだ。

5時30分に目を覚まし、パッパと用意して早々とタクシーでブリュッセル MIDI駅へと向かう。

天気はあいにくの雨で、気温も摂氏12度とかなり肌寒く、時折吐く息が白かった・・・

ブリュッセル滞在最後の締めくくりとして、駅構内のカフェでプレーンワッフルを購入し、車内で軽めの朝食を済ます・・・

今でも思い出されるのが、初めてブリュッセルを訪れた時、駅構内からワッフルの甘い香りが漂っていて感動したこと!

 

 広大な田園風景に、低くたれ込む雲を眺めつつ、フランスのリール経由で

「パリ、シャルル・ド・ゴール空港」へ向かう・・・

世界最大級の空港だけど、過去に何度も利用しているので難なくトルコ航空のカウンターへ向かい、チェックインを済まし搭乗。

以前、シャルル・ド・ゴール空港の滑走路でウサギがたくさん走り回っているのを見て、

今回も見られるかなと期待したけど、なぜか1匹も姿を現さなかったのが残念だった・・・ 

 

 トルコ・イスタンブールのアタチュルク空港に到着したのは、お昼過ぎ。

ブリュッセル、パリとはうって変わり、飛行機を降りた途端、気温の高さを実感!

摂氏30度くらいはあったかな・・・

まずは予約したホテルへ向かうため、地下鉄と路面電車を乗り継ぎ、街の旧市街「スルタンアフメト地区」へ向かう。

やっぱり初めて訪れる国は、とてもワクワクして、トルコの象徴「モスク」などを見かけると

改めて異国に来ている実感が沸く・・・

 

 ホテル到着後、疲れも忘れて、まずはホテル近辺を探索してみようと早速散歩へ出かけた・・・

「トプカピ宮殿」や「ブルー・モスク」「アヤソフィヤ」、さらに海岸近くの「スレイマニエ・ジャミニ」などへも足を運び、

夕飯は旧市街と新市街を結ぶ「ガラタ橋」の真下に位置する海鮮レストランでクロダイのグリルを食べた。

日本と比べるとそれほど美味しくはなかったけど、海風にあたりながらのビールとワインは格別だった!

ひとつ面白い光景だなと思ったのは、橋の周辺で数多くの人が釣りをしていたこと。

どうやら、小さなイワシやアジが釣れるようで、イスタンブールでは釣りが街の風物詩となっているようだ・・・

 

 心地よい気分で、ぶらぶらと街を歩きホテルへ戻る途中、突然2人の男性に写真を撮ってほしいと声をかけられた。

僕は気楽にカメラを預かり、「不思議な背景で写真を撮るな〜」なんて思いつつ、写真を撮ってあげた・・・

そこで彼らは「僕たちは2人で旅をしていて、トルコに着いて2日目なんだ」と言い、

「せっかくだからお茶でもして、お互いの旅の話をしよう」なんて気さくに言われたので、近くのカフェに入った。

1人はスペイン人、もう1人はキプロス人だと自己紹介され、トルコ紅茶の「チャイ」を飲みつつ、水たばこも体験し、

すっかり彼らはいい奴らだと思いこんでいた。

それが、イスタンブールで頻繁に起こっている新手の詐欺とはつゆ知らず・・・

 

「チャイ」を2杯飲んだあたりで、急にめまいのような心地いいような、不思議な感覚にとらわれた・・・

不覚にも警戒心というものがすっかり消え去ってしまい、その場でヘロヘロになってしまったのだ。

後で分かった事だが、どうやら紅茶の中に何か薬を入れられていたようなのだ・・・

ヘロヘロの状態で彼らに言われるがままに、タクシーに連れ込まれ、街からだいぶ離れた怪しいバーに連れて行かれ、

そこで強いお酒をなかば強引に勧められた・・・

普段なら絶対に知らない連中とタクシーに乗って、どこかへ行くなんてあり得なかったのに、

薬のせいなのか、完全に正気と警戒心が崩壊していた・・・

 

 そのバーでの出来事は断片的に覚えているけど、どんどんお酒やフルーツが運ばれて、

ビール、ワインに加え、ウォッカのような強いお酒も飲まされた。

どのくらいの時間が経ったか、知らぬ間にスペイン人が消え、自分の疲れもピークになり

「もうホテルへ帰る」と強めにキプロス人の奴に迫ると、伝票がテーブルに運ばれ、

奴はパッとその伝票を見せ、「●●●●トルコリラが必要だ」と言う。

「その額のキャッシュがない」と伝えると、これまでの穏やかな態度から急変し、

「近くのATMで現金を下ろせ」と半ば脅される形となった。

仕方なく、奴と店の店員に連れられ、近くのATMで言われるがままに現金を下ろすと、なぜか限度額の表示が・・・

今になって本当に後悔しているのだが、パリからトルコへ来たとたん、通貨がユーロからトルコリラと代わり

完全に金銭の感覚が鈍っていた・・・

後になって気付いたのが、冷静にその引き出した金額を円に換算してみたら、予想以上の額になっていた事を・・・

さらに、別のカードでも現金を引き出されていて、それが膨大な額になっていた・・・

 

 ホテルに戻り半ば放心状態だったが、ようやく冷静な自分を取り戻し、悲しさと悔しさが入り交じり、

急にイスタンブールの街が嫌いになった・・・

その夜は、ほとんど寝付けず、今後の対応を考えていたのだが、せっかく来た旅を無駄にしたくはないと思い、

とりあえず朝から街へ出ていろいろな場所を訪れた。

 

 海峡を巡る観光船にも乗り、そこそこに未体験ゾーンを楽しもうとしたのだが、やはり気分は滅入る一方・・・

このままではいけないと思い、とりあえず昨夜起きた事件をホテルのフロントに伝え、警察署へ案内して欲しいと頼んだ。

対応してくれたフロントの人は心底心配そうに話を聞いてくれ、

セルティンさんという片言の日本語が話せる男性を紹介してくれた。

会話は英語のほうがいいと思ったが、彼はどうやらあまり英語が話せないようで、

時折意味不明な日本語でどんどん話しかけてくるので、僕は丁寧に事件の説明をし、一緒に警察署へ行ってくれることになった。

 

 警察署はホテルから徒歩10分くらいの所にあり、僕を励ましながら連れて行ってくれた。

署内はライフル銃を肩に下げた警官がたくさんいて、その銃口が自分のほうに向くたびにビクビク状態だった・・・

警察署での話は一向に進展せず、日本の銀行の対応にも問題があり、結局、被害届も出されずに終わってしまい、

2人して悔しさを滲ませた・・・

 

 自分の不注意も原因であるから仕方がないと、自分自身に言い聞かせつつ、

セルティンさんが「元気を出せ!僕は悲しい!」と常に励ましてくれたのが本当に救いだった。

もしそこでお金の支払いをグズグズしていたら、命の危険もあった!と言われ

金銭感覚のない中、普通にお金を渡したのが連中にとって警戒心を解かせ、命も助かったのだろうと彼なりに分析した・・・

僕はお礼もかね、一緒に夕食を食べようと提案したら喜んでくれて、宿泊しているホテル直営のレストランへ。

食べてみたかった本場の「イスケンデル・ケバブ」を頼み、そこからセルティンさんとの友情が始まり、様々な事を語り合った。

 

 彼はホテル直営の絨毯屋さんの店員で、日本が好きで独学で日本語を勉強していると言う。

また、絨毯屋さんの他の店員さんもとてもいい人たちばかりで、自分の事件を心底心配してくれ、励ましてくれた。

そして、自然と絨毯屋さんで彼らの手伝いをすることに・・・

手伝いといっても、セルティンさんと話つつ店番をする程度で、お客さんが来たら一緒に絨毯や革製品を広げて見せたりと

なかなか経験することのない貴重な体験が出来た。

そして閉店の時間が訪れると、セルティンさんから「明日、朝食を一緒に食べましょう!」と言われ、

ホテルの屋上のテラスで待ち合わせをした。

明日の夕方には空港へ向かわねばならないので、荷物をまとめ、救われた気分でベッドへ潜りこんだのだ。

 

 次の日の朝は、快晴で気温も25度と湿度もなく、心地よい気候に恵まれた。

約束通りセルティンさんと一緒に朝食を取り、なぜかまた一緒に店番をすることに・・・

頻繁にお客さんは来ないので、チャイをごちそうになりながらのんびりと時間が過ぎて行った。

時折、彼は僕を近所へ連れ出し、「僕の兄弟だ!」なんて言いつつ、いろんな人を紹介してくれた。

イスタンブールへ着いて街を歩いた時に気付いたのは、トルコの人は散歩がとても好きだということ・・・

 

 そして、お昼もホテルのまかないを一緒に食べ、そこで「マサさんにあげます!」とひとつの紙袋を渡された。

その中には黄色と赤の模様が入ったマフラーで、トルコサッカーの人気チーム「ガラタサライ」の

チームカラーだよと教えてくれた。

その僕に対する優しい心遣いに心から感動し、イスタンブールに来て良かったと改めて思った程だ・・・

 

 のんびりと流れていた時間は瞬く間に過ぎ、空港へ向かう時間が訪れ、セルティンさんは近くの駅まで送ってくれた。

そこでの別れは本当に悲しく、涙が自然と溢れ出てしまう・・・

嬉しさと悲しさが入り交じり、感謝の気持ちでいっぱいだったのだ。

車内ではこれまでの様々な出来事が走馬燈のように思い出され、イスタンブールの街並みに別れを告げ、

アタチュルク空港から成田行きの飛行機へ搭乗・・・

 

 これまでの海外滞在で、初めて犯罪に巻き込まれた形で今回の旅は締めくくった訳だが、

異国の人の優しさに直接触れることが出来、そこには新たな友情が生まれ、僕の旅は永遠に終わる事がないだろうと実感した。

これが今回の僕のヨーロッパ滞在記・・・

 

 

拝 マーボ

2010年10月9日 1時53分 自室にて