水門         詞・曲/友部 正人

 

 

ぼくは今、地平線に立っている

ここには古い 水門がひとつあって

それが、夜が昼に

流れ込むのをせき止めている

だけどもう少しして日が沈み

夜の量が 今よりふえたら

水門はもう それ以上

夜をせき止めておくことは出来ないだろう

 

ぼくは今、地平線に立っている

日没にひとりの男がやって来て

長い弦を 夕日に垂らしたまま

バイオリンを弾き始める

その美しい音に つられて

夕日の輝く水たまりの中から

今はもういないといわれている

幻の魚が何匹も釣れるのさ

 

 

ぼくは今、地平線に立っている

ほら、あの古い水門ときたら

まるで船の 操舵室のようじゃないか

どれどれ僕が操舵手になって

この巨大な船を動かしてやろう

いやなものも素敵なものも

なにもかも全てこの船に乗せて

日暮れに向かって船出しよう

 

ぼくは今、地平線に立っている

太陽はもうとっくに消えてしまった

この暗闇の中で 今度、光に出会ったら

僕はそいつを自分の鏡にしよう

長い長い時間は男を船乗りにする

ほら、港で待つ恋人の姿が見えるだろう

水門はまたしてもきのうに取り残されたけど

もうあしたをせき止める作業を始めている