間質性肺炎

 

〈間質性肺炎とは〉 

肺胞は実室と間質とにわけられ 実室とは、肺胞の中を指し、間質とは、肺胞と肺胞の間を指します。

(肺胞の外側と聞いたように思いますが 同じ意味かも知れません)間質性肺炎は肺の間質に炎症がおこる

病気の総称で 肺胞の部分にくり返し炎症が生じ その構造が破壊され 組織が固く変化し換気能力を制限

しそれと同時に炎症に伴い 肺胞の壁の厚みを増加させ肺胞の破壊へと繋がり酸素の取り込みの能力を低下

させ 低酸素血症を生じます。

肺胞領域を冒す 要因は特定されてはいませんが 主に煙草や埃が関連していると考えられていますが、

膠原病やそれに近縁した疾患でも同じ病状が引き起こされます。

〈症状〉

この病気の一番の特徴は、酸素の取り込みの障害です。このため強い酸素不足を生じます。

特に労作時において強い呼吸困難と胸苦しさを引き起こし また肺が固くなるため 息を吸うのにより

強い努力が必要になり 呼吸は浅く速くなります。

呼吸の負担により 胸の筋肉に負荷がかかり しばしば肋骨部に痛みを生ずることがあります。

また慢性の炎症のため咳きがでやすいこともこの病気の特徴です。

〈治療〉

現時点において この病気の治療法は確立されてはいませんが ステロイド(副じん皮質ホルモン)

や免疫抑制剤が使われていますが、副作用が問題となり 副作用に対処する治療も必要となります。

また肺機能を補うため在宅酸素療法を使用します。

2000.9

間質性肺炎の現状と方向性

<間質性肺炎では肺胞構造が破壊され、肺の機能が失われる>

通常、肺実質(肺胞上皮細胞とそれに囲まれた肺胞腔)および肺間質(肺胞腔以外の肺胞を構成して

いる組織)を含む肺胞領域に起こる炎症性疾患を 総称して肺炎とよぶがいわゆる肺炎と間質性肺炎

では、病変の部位だけでなくその成り立ちが大きく異なる。

 いわゆる肺炎は 細菌感染を主な原因とする肺胞腔内の炎症で、感染が生じると、肺胞腔内に

好中球、肺胞マクロファージを 主体とした炎症細胞の浸潤が起こる。

通常、肺胞壁は影響を受けないため、抗菌薬治療などにより肺胞は完全に元の状態に戻る。

 一方間質性肺炎は、結合組織、細胞外基質、リンパ管、毛細血管に富む肺間質が病変の

場であり、この部位に炎症が起こると間質内に炎症性浮腫が生じる。

さらに、この炎症性変化の修復過程として線維化(肺胞の虚脱)が起こり、ガス交換という

重要な肺の機能が失われてしまうことがある。

 このように、間質性肺炎は、線維化に伴う肺胞の不可逆的変化が生じるという点で、

いわゆる肺炎とは大きく異なる病態である。

<高齢者では原因不明の特発性間質性肺炎に注意>

間質性肺炎には、原因の明らかなものから不明なものまで140種類以上の疾患が含まれる。 

原因が明らかなものとしては、ウイルスや原虫による感染、薬剤、粉塵、放射線被爆、

さらに膠原病などの全身性疾患によるものなどきわめえ多彩である。

一方、原因不明なものは 特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonia:IIP)

と呼ばれている。

IIPの病態にかぎっては、50年以上にわたって病理組織学的研究が重ねられており、肺胞間質の

線維化の質的な違いが、治療反応性や予後に関連しているのではないかとの認識がされてきた。

 最近になって、その差異が画像診断でも一部鑑別できることが明らかになり、現在では

IIPを臨床画像病理的に(下表)に示す7つの病型に分類している。

IIPの発生頻度は 10万人あたり3〜5人と、きわめて頻度の低い疾患であるが間質性肺炎で

外来を 訪れる患者の半数は原因不明のIIPであり,最も予後が 不良とされる特発性肺線維症

(idiopahic pulmonary fibrosis:IPF)の平均生存期間が 約4年であることを考えれば、

決して見逃してはならない重要な疾患と位置づけられる。

また IIPは高齢者に多くみられ、発症時の年齢が高齢であるほど死亡率も高いことから、的確診断と

慎重な治療、管理が必要となる。

<どんな場合に間質性肺炎を疑うか?>

間質性肺炎は、注意深い臨床症状の観察と的確な問診に加え、画像所見や肺機能の評価によって、

大半の場合、その存在を疑うことができる。

■ 臨床所見

間質性肺炎は主な症状は、労作時息切れに始まる呼吸困難、乾性咳である。

初診で ばち状指を示す場合には、間質性肺炎が数年前からあったことが示唆される。

聴診では 両側下肺野の捻発音(fine crackle)が特徴的な所見である。

これは、血圧計のマンシェットをはがすときのような バリバリという音で、線維化して硬く

なった肺胞内に空気が 流入する時の 乱流によって発生するといわれえいる。



■ 問診

間質性肺炎を疑う場合には、病歴や生活環境に関する情報が重要な判断材料となる。

既往暦、職業暦、生活暦、喫煙状況、薬剤服用状況などについて十分な問診を行い

間質性肺炎を 起こす背景がないかどうかを探ることが重要である。

■ 画像所見

胸部X線所見:特徴的な所見として両側性のびまん性陰影、間質性陰影(網状、輪状、線状)、

肺容量の減少による横隔膜拳上などが認められる。

胸部CT所見:IPF(特発性肺線維症)の典型例の場合は 胸膜直下に見られる 蜂巣肺、

牽引性気管支拡張所見などの斑状分布、限局性の肺野濃度の上昇という特徴によってかなりの

確かさで診断できる。

しかしIPF(特発性肺線維症)以外の間質性肺炎では、CT所見だけで確かな鑑別をすることは

難しいことが多い。



■ 呼吸機能

高齢者では、間質性肺炎でないのにかかわらず捻髪音が聞こえたり、両側の胸膜直下に陰影が

観察されたりするケースがあるので注意を要する。

こうした例では呼吸機能の評価が診断の重要な決め手になる。

最近では、パルスオキシメターやスパイロメーターなどの簡便な測定機器が開発されているので、

実地臨床においてもこれらの機器を積極的に導入し、呼吸障害の程度を評価することが求められる。

以上述べた手段を経て、間質性肺炎の可能性が高いと判断された場合には、原則としてその時点で

専門医に紹介し、確定診断、疾患の活動性の評価や治療の必要性の有無の評価、治療内容の選択

などの判断を仰ぐことが望ましい。


高齢者ではステロイド薬の使用は最小限に
−在宅酸素療法に大きな意義>

原因の明らかな間質性肺炎については、基本的には原因を取り除けば改善あるいは進行を抑える

ことが出来る。

しかし原因不明のIIP(特発性間質性肺炎)は医療に難渋する例が少なくない。ここではIIPのなか

でも高齢者に多い慢性型のIPFに対する治療・管理について説明する。

IPF(特発性肺線維症)については、現時点では進行例に対する肺移植以外に根治の手段はなく、

肺移植の適応でない場合は対処療法に頼らざるおえない。

一時的にせよ炎症を抑えるという点で、ある程度の有効性が確認されているのは薬剤はステロイド薬

のみであり、ステロイド薬の抗炎症作用を補強、あるいは代用する薬剤として免疫抑制剤が使用されている。

高齢者は、年齢という点で肺移植が適応とならないため、対処療法が中心となるが、ステロイド薬の、

感染症、糖尿病、血栓症、などの副作用をおこす可能性があり かえって死亡のリスクを高めることになり

かねない。 したがって、スエロイド薬の使用は 最小限にとどめ、在宅酸素療法によって管理することが

望ましい。

これまでの検討で、在宅酸素療法の延命効果は明らかではないが、患者のQOL(生活の質)の向上に大きく

寄与することは明らかになってきている。

したがって、高齢者の間質性肺炎に対しては 在宅酸素療法を早期に 導入して労作負荷時の心臓への負担を

軽減し、活動能力を支えていくことが推奨される。

 一方、肺の線維化を抑えて呼吸不全を避けるという意味で、抗線維薬の有効性が注目されている。

最近、アメリカで開発された薬剤(パーフェニドン:pirfenidone)は肺機能の安定化に対する有効性が確認されている。

現在、日本でも臨床試験が終了し、一部の肺機能の安定化が確認され、厚生労働省での承認も終了している

段階である。

pirfenidone(抗線維化剤「パーフェニドン」経口薬 塩野義製薬 )

:は抗炎症薬として開発された薬剤であるが,動物実験の経過中に抗線維化あることが見出された。先行する米国での臨床試験では,

高度の線維症患者の生存率や呼吸機能の維持に寄与することが期待される成績が得られている。

本剤は、過剰な線維化の防止だけでなく、すでに病的線維化を起こしてしまった組織の改善作用を示唆するデータも得られて

います。対象疾患としては、肺線維症、硬化性腹膜炎、前立腺肥大症、慢性腎炎、ケロイド、肝硬変をはじめとする線維化に

よって引き起こされる多岐にわたる疾患への治療薬としてその可能性を秘めています。

まず特発性肺線維症を対象に開発を進める予定です。本疾患は進行性の致死的な疾病であり、有効な薬剤の開発が待たれています。

患者指導のポイントは、“風邪を引かないこと“”無駄な労作を避けること“間質性肺炎は原則的には

専門医による治療が必要であるが、症状や肺機能障害が軽度で、進行もほとんど見られない場合には

定期的に経過観察を行う。その際には、急性増悪の徴候と肺がんの 合併をいかに 早期に発見するかが

最も重要な観察ポイントとなる。

また、経過観察中に 急性増悪を起こす最大の要因は、細菌やウイルスによる感染などで、“風邪をひか

ないこと”が患者指導の第一ポイントとなる。 さらに, 心肺機能の悪化を防ぐために 

“必要以上の無駄な動作をおこなわない”にも注意を 促す必要がある。

これまで 間質性肺炎については 疾患概念にはじまり、診断、治療に関して 世界中でさまざまな知見が

集積されてきた。 その成果として、欧米では2000年に「特発生肺線維症のガイドライン(ATS)」

(Idiopathic pulmonary fibrosis:diagnosis and treatment、International consensus

 statement)が、また「特発性間質性肺炎の診断指針ガイドライン(ATS/ERS)」

(International multidisciplinary consensus classification of the idiopathic 

interstitial pneumonias)が2002年に公表されている。

それらは 自験症例での経験を 訳注として加え、これら一連のガイドラインを翻訳した

(医学書院 2003)

わが国においても、日本の現状を踏まえた独自のガイドラインが策定中であり、近い将来公表される

予定である。

2003.11.30


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