最後の峠

8時・・・・すっかり明るくなった空を窓から見ながら、病院の廊下を分娩室へ向かって進む。げんきんなもので、ゴールが見えた途端、痛みも忘れ鼻歌すらもれそうな勢いで「んふーふんふふふん(いや、鼻歌もれてたかも・・・・)」と自力で歩く(さっきまでナースコールのボタンすら押せなかったのは誰なのだろう)。
「やっといきめる・・・・・・・」
お産とは本当に、痛みといかに上手に付き合うか・・・と、いかにいきみを上手に逃すか(先にも少し触れましたが、ひどくお腹を壊していて、しかもひどい腹痛で、でもトイレに行けないという感じに近いので、いきめる・・・というのは、もうトイレの便座にすわり、お腹は痛いけど、さあいつでも用を足して大丈夫ですよ・・・という状態に近いと思う。)・・・だと思います。いきめるという事は、あとは痛みに耐えるだけ・・・だって、本には「二回いきんだら生まれた」とか「五回いきんだら生まれた」って書いてたもの!・・・と楽天家の私。だから「じゃあ分娩室へ行きましょう」と言ってくれた助産師さんの言葉は私にとってゴールを指していたのです。というか、勝手に思い込んでいたのです・・・
内診の時、外へ出され、そのまま廊下で待機していた旦那と目が合いました・・・・・が、後日(未だに・・・なんですが)旦那に言われる。「いざ出産」という大事な時に、分娩室へ向かう私は、かなり怪しい「ニヤニヤ笑い」をして、思い切り挙動不審だったらしいです。あいつ、大丈夫か・・・と旦那は本気で心配したらしい。
分娩室にて。万一の状況に備えて、血管の確保(緊急の際に、輸血や投薬が素早くできるように)。あと、お腹にモニターをつけて、ちびなりの心音をチェック(いきみから、いきんだ直後、お母さんの呼吸が止まる為、赤ちゃんの心拍が下がる。その後お母さんが深呼吸する事によって、赤ちゃんに酸素が行き渡り、赤ちゃんの心音がまた元気になる。赤ちゃんの状態を知るために絶対に必要なモニター)一通り用意が整った所で「いきんでいいよ!」との声が。もう我を忘れていきむ、いきむ。
・・・・・が、本当の苦しみはこれから。お産まで長い時間が必要になる。
いきみ、ひとーーーーーつ。いたーーーーーーーーい・・・・・
いきみ、ふたーーーーーつ。いででででででで・・・・・
いきみ、みーーーーーっつ。むおおおおおおおお・・・・・
いきみ、よーーーーーっつ。ひいいいいいいいい・・・・・
いきみ、いつーーーーーつ。誰か助けて・・・・・・・
いきみ、むーーーーーっつ。いだーーーーーーーーー!!!!
・・・・・・生まれないよーーーーー!いきんでも、いきんでも、産まれない!!!!お腹の上の方は大変な下痢状態なのに、下の方はとっても頑固な便秘!という状態に近い。
しかも、ただの便秘じゃない。石坂啓さんのエッセイの通り、まさしく「赤ん坊型のデカイ便を、いかにして排泄するか」という、壮絶極まりない状況。石坂啓さんの指摘はすごい的を得ていると思う。
そうこうしている内に、夜間の看護婦師さん達、交代の時間。
「私たちの時に生まれると思ったんだけど、ごめんね。交代の時間なの」と申し訳なさそうな表情の助産師さん達。何をおっしゃるのですか・・・あれほど、狂ったようにナースコール押し続けた私を、嫌な顔一つ見せずに介抱して下さったナースの皆様・・・本当にありがとうございました。
「お世話になりました・・・・・」と頭を下げる。本当は土下座したいくらい。その後、一人の助産師さんは、痛さのあまり朝食が食べられなかった私のために、おにぎりをにぎって来てくれました(涙)。
そして、日勤の助産師さんに交代。(これがまた、話し方もおっとりとした、暖かなお優しい方で・・・。まさしく「白衣の天使」でした。)
いきめどいきめど、生まれない。助産師さんの触診と内診では、赤ちゃんの頭はかなり下がってきているとの事。「もう少しですよ!」と励まされるも、お産は全く進みません。助産師さんが他の患者さんのところへ行っている間、なぜか旦那が分娩室に登場。「奥さんのそばにいてあげてください、と言われたよ」・・・・うーん、確かに心強かったけど、まさか旦那と分娩室で過ごす事になろうとは思ってもいませんでした。
なにせ断固、立会い出産拒否の夫(理由:血が苦手)・・・というより、立会い出産を認めている病院でもないし。まさかまさかの分娩室だったろうけど、結構彼、頑張ってくれました。背中をさすって、深呼吸の音頭をとって、看護師さんを呼びに走り(出産が他にもあったため、ナースコールでは連絡が取れないことも)、手を握って励まし・・・・・・・
10時・・・分娩室に入ってから既に二時間経過。私のいきみが弱まってきたので、酸素吸入。もう既に疲労がピークに達していて、言葉も出せない状態。旦那に水を飲ませてもらうのがやっとなんだけど、吐き気もし始めて、飲んだお水を戻しそうになる。深呼吸した時に聞こえてくる元気なちびなりの心音が、頑張れる元。
11時・・・とうとう陣痛促進剤投与。(多分濃度の事かな?「20」からスタート。ちなみにMAXは「120」らしいです)促進剤・・・・これが凄い。投与された途端、テキメンに腹痛!!!「いだだだだだだ〜!!!」強烈ないきみがやってきていきむ。これが並みのいきみじゃない。自分が自分ではないような・・・・。「うおりゃああああ・・・・・ぁぁぁぁ」今までの二倍は長くいきめる感じ。
赤ちゃんの頭は、助産師さんがおすそから触れるくらいのところまで降りてきているらしい。でもでも生まれない。子宮口が全開になってからあまり時間がかかり過ぎると母体にも赤ちゃんにも良くないらしく、まだまだ長引くようなら、吸引分娩か鉗子分娩になるとのこと。
12時・・・その後全くお産が進まないので、助産師さんに「促進剤(の濃度)を上げたいんだけど、いいですか?」と聞かれる。そこで、恥ずかしながら、絶対言うもんかと思っていた弱音を吐いてしまいました。促進剤はもうイヤ。先生を呼んで吸引か鉗子を使用して下さい・・・赤ちゃん産ませてください・・・と。ああ、情けない。ちびなり、ゴメン・・・。ちびなりだって凄く頑張ってくれてるのに・・・・。流産、外妊、不妊を乗り越えてここまで来たのに・・・。自分が情けなくて、思わず痛みからではない涙が出ました。(これは出産後、現在でも悔やまれる出来事です)
助産師さんは困った顔で「じゃあ、もう少しだけ促進剤を使って、それでダメなら先生を呼びましょうね」と言って、促進剤の濃度は「25」に。
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・・・・・・・・・「うっ」
さらに激しい腹痛。地獄といってもいい状況・・・・。生まれて初めての壮絶な痛み。
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