音楽教育研究室

 

 


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新刊のお知らせ

今川恭子、宇佐美明子、志民一成編著
『子どもの表現を見る、育てる -音楽と造形の視点から-』

文化書房博文社 より 2005年4月刊行されました


 当ゼミは私の専門分野である「音楽教育」をテーマとしています。この部会では皆様より貴重な情報やご意見ご批判を賜っていこうではないかというもくろみであります。
 現在の研究テーマは「学校音楽におけるコンピュータ活用」、および「幼児の声」であります。今後、順次この場において研究成果を発表していく予定であります。

論文要旨の無断転載はご遠慮下さい。


音楽教育に関するプロフィール

東京芸術大学音楽教育研究室出身(修士課程、および研究生)
日本音楽教育学会、日本保育学会会員

主な論文

 

2003年

(NEW!)

「幼児の声の再検討 -フィールドワークによる音声表現の分析を通して-」(共著)
『音楽教育研究ジャーナル 第20号』(東京芸術大学音楽教育研究室)に掲載
A New Insight on Young Children's Voices:A Fieldwork-based Analysis of Their Vocal Expression

2001年

「幼児の声の可能性 -子どもの声域と歌声の再検討を通して-」
『音楽教育研究ジャーナル 第16号』(東京芸術大学音楽教育研究室)に掲載
The Potential of Children's Voice -Reconsideration of Children's Vocal Ranges and Singing Voices-

1998年

「コンピュータを活用した音楽学習の課題 -創作指導の事例検討を通して-」
日本音楽教育学会『音楽教育学 28-2』に掲載
Problem on Music Learning Utilizing Computers -Based on Analysis of Children's Creative Activities-

1998年

「歌唱・器楽指導におけるコンピュータの活用法に関する一考察 -伴奏としての利用に着目して-」
平成9年度 東京芸術大学研究生論文

1997年

「音楽科におけるコンピュータ活用の傾向とその変遷」
『'97全日本電子楽器教育研究会論文集』に掲載

1996年

「学校音楽におけるコンピュータ利用の教育的可能性と課題 -実践事例の分析から」
平成8年度 東京芸術大学大学院修士論文

 志民一成論文要旨

志民一成 平成8年度 東京藝術大学大学院修士論文

「学校教育におけるコンピュータの教育的可能性と課題 -実践事例の分析から-」

 パーソナル・コンピュータは家庭にまで普及するに至った。学校音楽においても、創作や音楽理論などの指導にコンピュータを利用し、成果を発揮したという実践例が年を追って増加している。しかし現段階では、その教育学的研究はほとんどなされていないのが現状であり、実践への導入が半ば無批判のままに推し進められている。
 コンピュータは良くも悪くも、人間の生活から創造のスタイルまで変化させてしまう可能性を秘めたメディアではないかと考える。その影響力の強さは、人間形成の重要な時期にあたる子どもにとっては、さらに大きな意味を持つであろう。これらのことを謙虚に受けとめ、コンピュータをより効果的に活用するための方法論を模索するという段階への、転換が迫られていると考える。そのための示唆として、コンピュータの教育的可能性を批判的に検討し、その裏に潜んでいる影の部分の解明が不可欠であろうと思われる。
 コンピュータを用いた指導の現場から、どのような問題点が指摘されているか。教育機器として、また楽器としてどこに限界があるのか。コンピュータの利用は、子どもの感性や創造性やにいかなる影響をもたらすのか。音楽教育でコンピュータが、どのような効力を持ち得るかなどといったことを明確にすることが本論文の目的である。
 第1章では、文献資料を基に、教育におけるコンピュータ利用の現状把握に努めた。まず第1節において、学校教育全般での利用の実際を確認し、第2節では、音楽教育における実践に焦点を絞って分析した。第3節では、アメリカの音楽教育における研究動向を追った。第4節では、第3節までの現状把握を踏まえて、問題の所在の確認を行ない、コンピュータ利用における問題点に関して、1)創作の過程、2)自ら学ぶ意欲とテクノストレス、3)個に応じた指導とコミュニケーション、の3つの視点を導き出した。
 第2章では、東京都立川市立南砂小学校での調査を基に、3つの視点から授業分析を行なった。まず第1節では、調査の概要を提示した。第2節の考察では、コンピュータを利用して創作した場合、コンピュータの提示するものから取捨選択するため、子ども自身の創造力による表現ではなくなる可能性が高いことが明らかになった。第3節では、子どものコンピュータへの関心や興味本意からくる積極的な態度は、活動の目的意識を明確にすることによって、次第にその目的に沿って表現しようという意識につながることが判明した。第4節では、個に応じた指導とコミュニケーションについて考察し、互いに異なった能力を持った子ども同士は、自己の能力を活かし、弱点を補填しあうことによって協調関係を築いていくことが明らかになった。
 第3章では、第1章と第2章のコンピュータ利用の様々な可能性や課題についての考察から得られた示唆をふまえ、コンピュータを活用した新たな音楽授業のモデルを構想した。まず第1節では、授業モデルの構築に先立ち、前章までの考察を基に、授業モデル構築のための視点を整理した。第2節では、第1節の授業モデル構築のための視点に関する考察を基に、授業モデルの構築を行なった。総合表現力を培うという視点から、ここでは山本文茂氏の提唱するモノドラマ合唱の指導に、コンピュータを活用した2つの具体的なモデルを提示し、研究の成果とした。


志民一成「音楽科におけるコンピュータ活用の傾向とその変遷」

『'97全日本電子楽器教育研究会論文集』に掲載

 本論では、音楽科におけるコンピュータ活用の傾向とその変遷を、文献資料を基にたどり、そこに見出せる問題点を確認し、今後のコンピュータ活用の歩むべき方向性についての指針を得ることを目的とした。
 まず、音楽科においてコンピュータが導入され、活用されるに至るまでの経緯を追った。次に指導内容の量的な傾向の変遷をたどった。また、歌唱・器楽、創作、鑑賞のそれぞれの領域における指導法について、コンピュータ活用の可能性と課題に焦点を合わせて検討した。
 本論を通して、今後の音楽科におけるコンピュータ活用を考える上での指針として、3点を導き出した。
1)音楽教育の理念を踏まえたコンピュータ活用の在り方を検討する必要がある。
2)問題、課題の明確化と、その解決策に関する教育学的研究が急務である。
3)教師間の指導法に関する情報交換を活性化すべきである。


志民一成 平成9年度 東京芸術大学研究生論文

「歌唱・器楽指導におけるコンピュータの活用法に関する一考察

-伴奏としての利用に着目して-」

 

 歌唱指導の補助ツールとしてコンピュータが登場して、はや10年ほどが経とうとしている。しかし、コンピュータの伴奏としての利用は、教師の負担の軽減や指導の効率化といったメリットに対して、子どもの音楽性などに憂慮すべき影響があるなど、リスクが大きすぎるということから、創作領域での利用に比べ、積極的に活用されていないという状況にある。コンピュータの利用が、歌唱指導や器楽の指導において、確かな利益を持ちうるものとなるには、問題の所在の明確化と、その解決策が見出される必要がある。そこで本研究では、コンピュータの歌唱と器楽指導における伴奏としての、より効果的な活用を、ひいては表現領域における、新たな活用の可能性を示唆していくことを目的とした。
 まず、歌唱・器楽指導における伴奏の現状について、整理することから開始した。第1章第1節では、音楽の授業における伴奏に関する問題点を確認し、既存の伴奏形態の比較検討を行なった。第2節では、コンピュータを用いた伴奏に焦点を絞って、教師を対象としたアンケートを基に、メリットとデメリットを整理した。続く第3節では、伴奏の「音楽的モデリング」としての音楽的影響について考察を行なった。
 第2章は、伴奏ツールとしてのコンピュータに関して、その音楽的な可能性と限界を中心に検討を加え、活用の新たな可能性を探った。まず第1節において、ハードウエア及びソフトウエアの機能に関して、音楽的表現の視点から検討した。また第2節では、歌唱を中心とした音楽教育に関わる開発研究の動向を、研究例を挙げながら検討し、近年、音楽的表現の領域へと踏み込んでいく研究が見受けられるようになり、注目すべき示唆を含むものであることが明らかになった。そして第3節では、子どもの音楽的表現の工夫を支援するツールとしての、コンピュータの活用を提案した。
 第3章では、その提案を授業モデルの形で具体的に示した。第1節では、授業モデル構築のための視点を述べ、続く第2節において、5つのグレードから構成される授業モデルの展開例を提示して、研究の成果とした。
 本論文の結論は、以下の2点に整理できるであろう。1)コンピュータの伴奏としての利用は、「音楽的モデリング」として問題があり、音楽表現を高めていく段階では、支障となるため、あまり用いられていない。2)コンピュータは、ある程度の音楽的表現が実現可能であり、さらには形として捉えることが困難な音楽的表現を、数量的情報として視覚的に提示することが可能である。そのメリットを生かし、子どもの音楽的表現の工夫を支援するツールとして、コンピュータを活用することにより、子どもの音楽的表現に対する意識を高め、表現技能の獲得につながるものと期待される。
 このモデルは、伴奏の「音楽的モデリング」としての可能性や、音楽的な認知に関わる仮説をも含んでおり、この授業モデルの実証が、そういった課題の解明への手がかりになり得るのではないかと期待されるゆえ、今後の重要な課題となろう。


志民一成「コンピュータを活用した音楽学習の課題 
-創作指導の事例検討を通して-」
『音楽教育学 28-2』(日本音楽教育学会)に掲載

 本稿では、音楽学習におけるコンピュータ活用の可能性と課題を、現状把握と授業の分析を通して批判的に検討した。
 はじめに、日本の音楽教育の現場におけるコンピュータ活用の実際を探り、続いてアメリカの音楽教育における研究動向を調査した。これらをふまえ、コンピュータを活用した子どもの創作活動の分析をもとに音楽学習におけるコンピュータの影響を検討し、音楽のデジタル化が次のような危険性を孕んでいることを明らかにした。1)コンピュータの機能に依存しながら創作するため、十分に創造性を培うことができるかという点で疑問が残る。2)感情や感覚と切り離された思考のみで、音楽を捉えるようになる危険性がある。
 以上の考察から、今後授業を考えていくうえで重要となろう3つの視点を示した。すなわち、1)からだの感覚としての音楽的体験の保証、2)表現手段の主体的選択能力の育成、3)音楽を協力してつくりあげる喜びの重視、である。


志民一成「幼児の声の可能性 -子どもの声域と歌声の再検討を通して-」
『音楽教育研究ジャーナル 第16号』(東京芸術大学音楽教育研究室)に掲載

 「はたして子どもの声は、大人の声の縮小版でしかないのだろうか?」という疑問が本研究の出発点である。これまでのリニア的な声の発達観を見直すために、本稿では子どもの声域と歌声そのものの再検討を通して、幼児の声の可能性について考えた。
 まず「単なる話し声」を含めた、子どもの声全般についての分析を行った。幼稚園における普段の子どもの声を記録し、その中から抽出した声のサンプルを分析した。その結果、園児たちは非常に多様で且つ広い声域の声を用いていることが明らかとなった。一方、乳児の観察から、生後4~6カ月には、すでに裏声を含めたかなり広い声域を有していることを確認した。これらのことから、幼児が歌唱において声域が限定されるのは、歌唱における声の用い方に原因があると考えた。
 さらに幼児の歌唱における「どなり」を分析した結果、幼児の声域よりも楽曲の音域が高いために地声で歌えない音域を無理に出そうとして、どなっているのではないことが明らかとなった。これらの結果を踏まえた上で、なぜ「歌声域」は「話声域」よりも狭いのかということについて検討し、以下の結論を導き出した。
 子どもは生後間もなくして歌唱にも十分な声域を獲得するが、歌唱においてはピッチマッチングや喚声点の問題などがあり、すべての音程を正しく歌うためには声で表現する経験を積み重ねることが不可欠となってくる。そういった経験の中で、適切な声の使い方を取捨選択し、自分の声の表現を新たに再構築していくというプロセスを経ることによって、子どもたちは声という表現媒体を自分のものとしていくのだと考えられる。


志民一成・今川恭子(共著)「幼児の声の再検討 -フィールドワークによる音声表現の分析を通して-」
『音楽教育研究ジャーナル 第20号』(東京芸術大学音楽教育研究室)に掲載

 本稿では,幼稚園でのフィールドワークから得られた子どもの音声表現の事例を,フィールドノートと機器による音響的分析とを呼応させながら検討した。フィールドノートからは,子どもがどのような状況下にあってその声を発しているのか,その声の生起する文脈を明確にし,一方,音響的な分析では,その声のピッチ(基本周波数)の確認と,サウンド・スペクトログラムによる音響特性の分析(いわゆる声紋分析)を手掛かりに,声区などの判定を行った。これらの情報を組合せて検討することにより,子どもの声の能力を,1)声域,2)コントロールの技能:裏声,3)コントロールの技能:チェンジ(換声),という音楽的に見て重要な3つの切り口から検討した。
 事例の検討を通して,従来考えられてきた以上に,1)幼児は広い声域をもつ,2)声をコントロールして裏声を駆使する技能をもつ,3)声をコントロールしてチェンジする技能をもつ,ということが明らかになった。これらの可能性と技能は子どもたちの生活の中のさまざまな音声表現の中で自覚的に発揮されており,声の生起する文脈から孤立して起こりえるものではないことも明らかである。子どもなりのわかりかたによって,声のコントロールという技能を適用させることに結びつけていると言えよう。
 子どものさまざまな表現のアプローチは,得てして大人が規範的とするアプローチとは異なり,子どもなりのやり方で行なわれる。子どもにとって,声を表現手段とした音声表現の経験の積み重ねが,自己の表現手段をより拡張していく上で重要なプロセスであり,そのことは歌唱における重要な技能の獲得においても極めて意義のあることであると考える。そのとき子どもの持っている能力を引き出し伸長していくためには,子どもなりのアプローチの中で起こっている試行錯誤を尊重し,その試行錯誤がより豊かな表現力の育ちに結びつくような,大人の働きかけと支援のあり方を考えねばならないのではないだろうか。


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