振り返ってみること


木村 さおり

2012/04/23

 

 現在『そよ風のように街に出よう』誌で「のっぽさんのコンタクトレンズ」なるものを連載させてもらっています。今回「そよかぜ」の依頼があり、何を書けばいいのかすごく悩んでいましたが、最近とてもモヤモヤしているので、この機会にこれまでののっぽさんを振り返ってみようと思いました。とても唐突な感じもしますが、しばらくお付き合いください。 

 「のっぽさんのコンタクトレンズ」ではいろいろ自分が感じたことを書いてきたわけですが、なんとなくその前ののっぽ先生とは違って全体的にネガティブだったと感じています。私自身の性格的なものもあるのだろうとは思うのですが、特に「先行き不安ということ(No.77)」、「ひとりで暮らしていくということ(No.80)」などでは私のネガティブな部分が大きく出ていたと思います。世間がもし不安な雰囲気であっても、私が正社員で働いて、結婚していたら自分の中でのちっぽけな不安は一撃で吹っ飛んでいたと思います。しかし未だ不安定な仕事をして、ひとりで細々とワンルームで暮らしていますので、引き続き私のネガティブな状態というのは続いています。

 仕事に関しても、以前より福祉の仕事につきたいと思ってはいましたが、実際は学童の指導員をやめてからずっと事務の仕事をしていました(職場は一応福祉関係ではありましたが)。その間何もしなかったということではなく、通信制の大学に在籍し、社会福祉士の資格を目指していました(No.75「勉強するということ」)。一生懸命勉強をした甲斐があって、平成21年に取得することができました。それで次こそは福祉の現場で仕事をするぞ!と意気込んでいましたが、タイミングが悪く、そのときの仕事をやめることが出来ずにズルズルとそのあと2年も続けることになってしまいました。この状態ではダメだと思い、その仕事を続けながらまた短期養成の専門学校(通信)に行き、平成23年に精神保健福祉士の資格を取得しました。

 資格を取ったところまではよかったのですが、社会福祉士のときも、精神保健福祉士のときも同様に、周りからの「資格を取得したあとはいったい何の仕事をするのか」という問いに対して私は明確な答えを出すことができずにいました。一概に「相談援助」の仕事って言っても高齢、児童、障害、などいろいろな分野での仕事があります。また働く場として、施設もあるし、在宅も、行政機関などたくさんあります。以前「そよかぜ No.116)」で、自分が何をしたいのかわからず中途半端でフラフラした状態であることを書きました。その当時は30歳でしたが、その後も結局私自身は何も変わることがなく、7年を過ごしてしまいました。

 そんな私に身内は「役に立たない資格ばかりとって、何の意味もない」とその都度批判します。もちろんそれもそうだと思います。お金と時間をかけて資格をとったのはいいけど、それを活かして仕事をするわけでもないとするなら、無駄であると。そう思うと私は今まで無駄なことばかりしてきたのかな、と後ろ向きになってしまいますが、今から思えば資格を取ることだけがそのときの自分の目標であったのではないかと思います。どの資格でもそうですが、資格を取ることがゴールではなく、それがスタートであって、その後経験を積んでいっていかないと資格の意味がありません。そう思うと、もともと私の仕事に対する考え方というのが甘かったのかも知れませんが。

 自分の考えがまとまらないままではありましたが、2011年の4月から相談援助の仕事につくことになりました。私にとって初めての福祉の現場での仕事です。日々時間に追われ、わからないことだらけで、半年経った今でもまだパニック寸前といった状況です。手探りの中でなんとも言えない複雑な感情を抱えながら仕事をしていますが、当たり前のこと(例えば、相談者の話に真摯に耳を傾ける、笑顔で対応、などなど)を忘れずに、といつも思いながら仕事をするようにしています。

 現場で働いてみて、改めて頑張って勉強をし取得した資格の意味を考えさせられました。確かに私は社会福祉士と精神保健福祉士を取得しました。職場的には有資格者だと苦しいながらも言えますが、仕事をする上で必要なのは資格だけでなく、生きた知識と経験であることをつくづく実感しました。正直なところ相談者からから尋ねられたことに関して、求められている答えをすぐに出すことができません。内容によってはかなりしどろもどろしていることも多いですし、「すみません! わかりません」と言いたくなることもしばしばです。資格のための勉強はかなりやってきましたが、覚えていたはずのことが頭の中からぱっと消えてしまったようです。それでは本当に資格をとった意味がないと、また言われそうですが。

 ここしばらくののっぽさんを振り返ってみましたが、ボチボチとマイペースで、ではありますが、今後は経験を積み、実力をつけていき(もちろん勉強も継続して)、少しでもよい援助者に近づくことができればと思うようになりました。それは相談援助の仕事についたから思えたことで、以前の事務の仕事をまだ続けていたら、もっとモヤモヤ…としていたでしょう。前向きにそんなことも考えてはいますが、仕事でうまくいかないときは「私にはこの仕事はむいていないかも知れません」と先輩に泣き言を言い、ネガティブになってしまう日もあります。日々山あり、谷ありなので精神的に浮き沈みがありますが、どちらにしてももっと自分に自信をつけて、胸を張って仕事をしていけたらと思っています。

 どうでしょうか。のっぽさんは少し成長したでしょうかね。ちょっとでも「のっぽさんは成長したね」と誰かに言ってもらえたらとても嬉しいですし、今後の励みにもなると思います。本誌では相変わらずの拙い文章力で、お恥ずかしい限りですが、またこれからも温かい目で見ていただいたらと思っています。

(きむらさおり/『そよ風のように街に出よう』に「のっぽさんのコンタクトレンズ」を連載中)


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