連休の教訓


山本 深雪

2004/05/16

 

 今日、連休に入って数日目、早朝5時から携帯電話が鳴っていました。出てみると、近くのグループホーム入居者の声がして、「からだにふるえ、けいれんが……」。
 救急病院で診察にこぎつけ、「何の薬を飲んでいますか」。あわてて、彼の部屋においてある「お薬手帳」をとりに戻り、医師に渡しました。「府立精神医療センターへ行ってください。ここでは手におえない可能性があります」。どう見ても身体症状であるにもかかわらず、医師はそう言います。致し方なく枚方市にある旧中宮病院へ。そこで副作用止めの注射をし、ことなきを得ました。グループホームに戻れたのは、夜の10時近くでした。

 安全性が高いと評判のSSRIパキシル。そして、5rのフルメジンを飲みはじめて2日がたっていました。初期があぶないのです。薬が変更されている事は、ケースワーカーからメインスタッフは聞いていました。が、薬の内容については伝わっていませんでした。連休のため、常勤スタッフが休暇をとり、近所にいる私が運営委員の一人であるため、「何かあったら…」と私の携帯電話がホワイトボードに書かれていたのです。驚きました。

 電話の主は、20代の強迫神経症の若者です。部屋をきれいに整理整頓しておかないと落ち着かない、インターネット大好き人間でした。特に具合が悪いという話も聞いていませんでした。5月6日には、マクドナルドのバイトの仕事に行くと聞いていました。 

 フルメジン糖衣錠は、気分を調整する作用があるので、統合失調症にかぎらず、強い不安感や緊張感、気分の停滞などいろいろな精神状態の改善に用いることがあります。気分が落ち込んでいるとの訴え、バイトをしたいとの話を聞いて、副作用止めの薬を出すことなく、安全性の高い抗うつ薬と言われているパキシルと一緒に出されたのです。
 パキシルは、従来の薬に多く見られる口の乾きや便秘などの不快な副作用も少なく、長期の維持療法にも適すると言われています。この系統(SSRI)の特異な副作用として「セロトニン症候群」があります。フェノチアジン系のフルメジンとの相性が「重なり合う副作用」となったことが考えられます。念のため頭に入れておいたほうがよい知識だと、今回思い知りました。発汗、体のぴくつき、ふるえ、けいれん、といった症状があるときは、「なにか普段と違う!」とすぐ気がつくことが大切です。

 厚生労働省の障害福祉課、老健局の役人は、「みまもりは、(ヘルパーや世話人の)ワークじゃないから、お金をつける項目じゃない。片手間でできること。身体介護や家事援助とは区別が必要」と老人介護を念頭に言ってきました。が、精神障害者にとって、みまもりや電話を受けることは、生命の維持につながる大事な支援です。
 今日の早朝、みまもり手がいなくて対応がとれていなかったら、どうなっていたか……、ぞっとします。そんな重症の状態ではなかった人だし、若い人だったこと、インターネットのしすぎで背骨や首筋が痛いとふだんから言っていたことから、それほどの状態悪化の前兆とは思っていませんでした。あの時、思い込みで対応しているとあぶなかったなと思っています。実は、本人の表情を見るまでは、「いつもの事だろう」と思っていました。ごめんなさい、思い込みでした。飲んでいる分量が少ないし、とあなどっていました。

 初期に出やすい「セロトニン症候群」パキシルの副作用をコピーしてみます。(副作用止めを使えば、体力は一時的におちますが元にもどります、念のため。)
【重い副作用】 めったにないですが、初期症状等に、念のため注意ください
セロトニン症候群−興奮・混乱、もうろう状態、取り乱す、発汗、体のぴくつき、ふるえ、けいれん、発熱。
悪性症候群−体の強い硬直、じっとして動かない、ふるえ、意識がはっきりしない、発汗、高熱。錯乱(取り乱す、もうろう状態)、けいれん。
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)
−頭痛、のどが渇く、けいれん、意識もうろう、気を失う。
肝臓の重い症状−だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が褐色。
【軽い副作用】
吐き気、食欲不振、口の渇き、便秘、下痢。眠気、めまい、頭痛、だるい、ふるえ。
性欲低下。発汗、尿が出にくい、動悸、目がまぶしい。発疹、発赤、かゆみ。yamamoto.jpg

 私も、軽い副作用は出ているのですが、体力をつけようと、できるだけ歩くように心がけています。精神病の薬は飲まないわけにはいかないので(これが身体障害者の杖や車椅子のかわり)、気をつけて生活を送るしか方法はありません。未体験の他人にはわからないでしょうが……。

 つまり、「身体介護(支援)」=「精神障害者の場合の、みまもり支援」という位置づけがないと、あぶない目にあうということなのです、(本日の教訓)。
 こういう事を国の役人は知らんから、「身体介護はワークとして目にみえて判る。精神の付きそいは、目にみえず評価できない」などと口にするのです。人の命が、こうした副作用を見過ごしたせいで失われても(病院では、しばしば訴訟になっています)、そんなことは知らんというのでしょう。ヘタに資格をもっている看護師よりも、思い込みや慣れをもたない誠実な素人やピア・サポ―ターのほうが、地域生活支援には向いています。そうした現実を、言っていくしかおまへん。(写真は、初めての孫-れいや君と)

(やまもとみゆき/『そよ風のように街に出よう』72号まで「ハートよ届け!」を連載)

 
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