それぞれの花花インタビュー 岡本 尚子
 

この世で一番好きなピエロは、これ

木彫作家 福田 進さん

 


 

 なんという頬…。やわらかく透き通るような…、わずかにほの紅い…。うつむき加減の横顔。その眼差しは涼しげで、もの思うかのように斜め下を差している。口もとは、ほんのほんの少しほほえんで、鼻はやさしく赤い。

 これを彫った人はどうなっているのだろう?…。どうしたらこんなものが彫れるのか…。

 木彫レリーフ(浮き彫り)のピエロに、作者よりも先に出会った。

 吸いこまれそうだった。髪をなびかせ、勇敢そうなピエロ。大きく手を広げ、楽しげな天使のピエロ。髪をまとめた、やさしげな女性…。様々な人物が彫られ、それは男も女もいて、鼻だけはピエロの鼻。80号インタビュー

 福田進さん。木彫作家。大阪府堺市在住。55歳。主にピエロをモチーフとして、木の板に浮き彫りで表現する。 

 “いくとくギャラリー”(大阪市阿倍野区)で定期的に展覧会を開催。手鏡、ブローチ、髪止めなどの小物も制作し販売している。堺市内で木彫教室主宰。高校生の時、AS(強直性脊椎炎)を発症(強烈な痛みを伴いながら、背骨や関節の靭帯が石灰化もしくは骨化していく病気)。31歳の時、石灰化して固まってしまった股関節を手術。リハビリで木彫に出会って以来、病とともに制作活動を続けている。

 「ひええー! 取材? 私なんか、そんな…」と電話口で困っていた進さん。それでも取材者の話をじっと聞いてくれ、遠慮がちにOKをくれた。「工房なんてガレージの上にあるだけですよ、普通の家で…」。

 仁徳天皇陵近くの住宅街。

 展覧会で会った時と同じように伏し目がちに現れた進さん。青とグレーのストライプのシャツ姿。

 木彫作家は、「私はソファーに座るのはしんどいので、これで」と笑いながら、少し高めの椅子へ浅くゆっくりと腰をかけた。かたわらで木の中のピエロが静かにほほえんでいる。
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