春のおはなし「ゴメンなさい……」

 

 わたしも、お母さんも、とってもこわがりなんよ。春になって、あたたかくなると、いろんな虫が出てくるでしょ。あれがダメなんよ。とくにゴキちゃんがダメ。あの黒くてデッカイやつ。
 お母さんなんか、ゴキちゃんが出ると、
 「ギャ〜ッ。」
 とかなんとかさけんで、家のなかをにげまわってるよ。もち、わたしもいっしょになって、にげてる、ウフッ。お父さんがいるときは、お父さんが新聞紙をまるめて、バシンッてやっちゃうんだけど、いつもいないから、にげるばっか。ゴキブリって飛んでくるんだよ。明るいところめがけて、チョロチョロ、バァ〜ッて。

 このまえね、あんまりお母さんがこわがるもんだから、わたしがおもいきって、目をつむってお父さんのように、新聞紙でバシンとやっちゃったんだ。こわかったよぉ。そしたらお母さんが、
 「ありがとう。でも、こわいってことだけでバシンしちゃって、ゴキブリさん、ごめんね。」
 っていうんだよ。しかたがないから、ぺちゃんこのゴキちゃんに、わたしも、
 「ゴメンね。」
 っていったよ。それを見ていた、いつもは、なにがあっても、しらんぷりしているお兄ちゃんが、わたしのもっていた新聞紙をとりあげて、ぺちゃんこのゴキちゃんの近くのゆかをバシンして、
  「ゴメンね。」
 って、いったの。お兄ちゃんは、いつもは、しゃべらないんだよ。なにがおもしろかったんだろうね。

 それからだよ。わたしとお母さんが、ゴキちゃんをみっけて、
 「ギャ〜ッ。」
 って、ドタドタにげると、お兄ちゃんが、新聞紙でバシン、ゴメンね。バシン、ゴメンねって、ゴキちゃんをおいかけるの。でも、お兄ちゃんのバシンは、ゴキちゃんにぜんぜんあたらないんだよ。

 お兄ちゃんの学校の先生が、家庭訪問で、わたしんちにきたの。先生がお母さんに、こういったのよ。

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