ひとりひとりのための民主主義

白石 裕 (早稲田大学教育学部教授) 

 わたしたちは、わたしたちの社会の約束として、民主主義というものをきめています。ところが、その約束を考えなおそうという意見が、このごろになって出てくるようになりました。たくさんのひとびとの意見で、ものごとをきめるのではなく、ひとりひとりのための民主主義にしては、どうですかというものです。どうしてそのような考えが出てきたのでしょうか。わたしは、こう考えています。たくさんのひとびとの意見で、ものごとをきめると、たしかにたくさんのひとびとの意見が正しいことになりますが、それでは少ないひとびとの意見が正しくなくなり、そのひとびとをわたしたちの社会からおい出してしまうという働きをしてしまうからだと。

 わたしたちの社会には、いろいろなちがいをもったひとたちがくらしています。たとえば、おんなとおとこ、からだのちがい、考えかたのちがいなど、さまざまです。ところが、たくさんのひとびとの意見できめる民主主義では、それらのさまざまなちがいを、おたがいにほめあったり、ささえたり、たすけあったりすることが、うまくいかないことがしばしばあるのです。それではいけない、ひとりひとりの意見の重さは、おなじなのだと考え、ひとりひとりを大切にする民主主義を、いちばんの約束にしようとしているのだともおもいます。

 ほんとうの民主主義は、それぞれの、ひとびとのちがいによって、わたしたちの社会があり、ひとりひとりの意見や考えかたがおなじ重さで、みんなのこころとからだにあって、それが社会の約束になっていることです。このひとりひとりのための民主主義という考えかたは、これからのわたしたちの社会の未来にひつような、新しい考えかたなのです。

 人権啓発絵本「ともだち100まんにん」は、ひとびとと社会のありかたを、ゆっくりと考えさせてくれる本です。「あーっ、そうか」と、新しい発見がつぎからつぎへと出てきます。わたしも、この本を読んで、わたしなりに、ひとりひとりのための民主主義は、どうしたらできるのだろうかと、考えています。みなさんもぜひ、あたたかく読み、風のように考えてみてください。


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