あなたは、学校が好きですか。自分のことを好きですか。
――― おばちゃんからのメッセージ ―――
穏土 ちとせ
みなさんは、どうして毎日学校へ通っているのかな。そんなことを考えたことがありますか。
おばちゃんには、3人のこどもがいます。末っ子の幸実は、学校が好きで好きでたまらない、1年生の女の子でした。学校が休みになるとからだのぐあいが悪くなるくらいに、学校が好きなこどもでした。
幸実は、赤ちゃんのころに病気になって、自分の力だけで息をすることがむずかしくなりました。だから、人工呼吸器という機械に、息をするのを助けてもらうことになったのです。つえや車いすを使っているひとや、メガネをかけているひとと同じで、幸実も人工呼吸器をつけていたのです。そして、じまんの車いすに、人工呼吸器やランドセルをつみこんで、毎日、ともだちと元気いっぱい、学校に通いました。
学校では、おにごっこも、サッカーも、ゴムとびも、じゅず玉つなぎもして、ともだちと、毎日、目いっぱい遊んでいました。ときには、けんかをして、放課後、いのこりでしかられたこともあったっけ。もちろん、勉強だってがんばっていましたよ。花マルをもらえるとうれしいもんね。ともだちときょうそうで、先生のところにノートを持って行っていましたよ。
あるとき、給食のデザートに、あまなつ(夏みかん)が出ました。幸実がとなりの席のキガちゃんと何やらコソコソそうだんしています。
「このみかんのタネ、うめたらどうなるんかな。」
「ナイショデ、ウメタラ、イイ。」
そういえば、さっき、『生活』の勉強で、アサガオのタネまきをしたばかりです。
給食を食べおわったミオちゃんが、話によってきました。
「保育園のとき、サクランボのタネ、口の中にかくしとって、こっそり花だんに行って、プッと吹き出してうえよった。」
「ヤッテミヨウ!」
「やってみようか!」
みんなの顔が、そばで聞き耳をたてていたおばちゃんの方をむきました。
「おばちゃん! ないしょでうえて、もし、校長先生に見つかったら、おばちゃん、(ぼくらのかわりに)あやまってくれる?」
昼休み、いつの間にか車イスのまわりにすずなりになったチビっ子ギャング団が、中庭の植え木の方に向かいました。
「見つかったらおこられるかね。」
「言うたらいけんよ。」
「ナイショ、ナイショ。」
ころがっていたレンガで土をほりおこし、キガちゃんの口の中ににかくしていた、2つぶのあまなつのタネが、みんなのドキドキ・ワクワクといっしょに土の中にうめられました。ほかのクラスのともだちが、拾った名ふだに『あまなつ』と書いて目じるしに立てました。幸実もともだちと水をかけました。
「あまなつが山ほど実ったらどうしようか。」
みんながもう1回、おばちゃんに念をおしました。
「おばちゃん! ぜったい先生に言うたらいけんけえね!」
幸実も目を大きくパチパチさせて、うなずきます。
「ソウヨ! カアサンハ、スグ、シャベルンダカラ!」
と。
幸実は、そのあともともだちをさそっては、いろんなくだもののタネを学校のあちこちにうめました。スイカ、ブドウはもちろん、キーウィのタネまで。あの、ゴマつぶよりちっちゃい黒いつぶつぶです。今のところ幸実たちがまいたくだもののタネが芽を出したなんて話は、聞いてませんけど……ね。
でも、これは幸実たちの『ひみつ』ですから、あなたもナイショにしていてくださいね。それに、何年かたったら、幸実たちの学校の中庭が、くだもの畑に変身しているかもしれませんし…。
このように、次々に新しいドキドキとワクワクが生まれる毎日ですから、幸実は、学校が大好きだったんでしょう。みなさんは学校で、いつもどんなドキドキや、ワクワクを見つけているのかな。
幸実の一番たいせつな宝物は、『ともだち』でした。ともだちをいっぱい作ることがちっちゃいころからのゆめだったしね。あなたも、幸実のともだちになってくれますか。
本当は、幸実は、1年生の最後の日まで、元気に学校に通いきったあと、とつぜん天国に旅立ってしまったので、今は、もうおばちゃんのところにはいません。でもね、これからはじまる、絵本の中で、幸実はちゃあんと生きています。だから、あなたもぜひ声をかけてくださいね。
「ゆきちゃん、ともだちになろうよ。」
って。
幸実は、きっと大きな目をパチパチさせてこう答えるでしょう。
「ウン、イイヨ!」
と。幸実もそうだったけれど、世界中のこどもたちは、ともだち作りの名人で、天才ばかりなんですから……。
(『やったネ』前文より) |