♪音楽の話

はじめに(07.5.2)

 私が子供の頃、朝起きるといつもバロックの音楽が流れていました。クラシック音楽ファンの両親がNHKのFM放送番組「あさのバロック」を聴くのを習慣にしていたのです。すごい長寿番組。今は「バロックの森」と番組名は変わりましたが、当時と同じ時間帯で放送されていますね。早朝に流れる美しいバロックの調べは、子供の頃のやわらかい朝の空気も連れて来てくれるよう。癒されています。

 「たのくら」今年度の講座のテーマは「百花繚乱・バロック音楽」。テキストは先生の近著「バロック音楽名曲鑑賞事典」(講談社学術文庫)です。この本でご紹介くださっている100曲の中には、私もまだ聴いたことのない曲もありますが、私の思い出の曲もいくつかあります。未知の曲にはこれから知る楽しみがあり、思い出の曲は当時を振り返りながらも、今新たに思うこと感じることもあるでしょう。それぞれの作品に色々な関わり方ができそう。そんな私の音楽の話を少しづつここに書いてみようと思います。



♪様式感がわかるとき
(07.6.6)

「バロック音楽名曲鑑賞事典」の最初に登場するのはカッチーニの《アマリリ麗し》。これは、私も最近合唱団で伴奏したところでしたが、「イタリア歌曲集」の冒頭に置かれているということを知り、学生の頃使った楽譜を引っ張り出して改めて見てみました。編者である畑中良輔氏の「はじめに」の文章の中に、「これらの古典歌曲の持つ美しさを、ほんとうに理解するには、相当長年の音楽修行が必要なのですが、古典の持つ“様式感”がわかりはじめて来ると、これらの曲は実におもしろいのだということが実感できる筈です。」とありました。さて、今の私はどうだろう・・・。

思えば、私が子供の頃受けたピアノ教育は、「バイエルピアノ教本」と「メトードローズ・ピアノ教則本」で導入し、「ブルグミューラー」「ソナチネアルバム」「ソナタアルバム」と進められました。「ツェルニー」の練習もたくさんやらされました。その中でちょっと異質な存在だったのがバッハの「インべンション」。右手と左手が対等に動かなければ弾けないという難しさと、だからこその面白さもあり、子供心にも何か特別なものに思えたのを記憶しています。

小学校高学年になり、先生も変わって少しレッスンの幅が広がりました。当時は今と違って町の楽器店で販売されている楽譜もごく限られたものでしたが、先生から薦められた教材「田村宏編 ピアノ指導曲集2」の中には、クープラン、テレマン、スカルラッティといったバロックからベートーヴェンの変奏曲、レーガーやドビュッシーの小品も入っていました。この中のいくつかを発表会で弾いたということもあって、使い込んでもうボロボロですが、愛着ある楽譜です。

音高、音大に進学すると、バッハは必修科目のようにレッスンしましたが、そういえば、他のバロックの鍵盤曲を弾くことは殆どなかった。力不足でロマン派の作品をさらうので手一杯だったのかもしれません。

音大を卒業して愛媛の実家に戻り、近くの楽器店でピアノ講師の仕事を始めた頃のこと。ある日、楽器店主催で私たちピアノ講師のための講習会が開かれました。お招きした講師の先生はジュリアードで学ばれた経歴もある中村菊子さん。欧米と日本のピアノ教育の違い、バロックから近代までそれぞれの時代の本物の作品を小さいうちから勉強する必要性を熱心に話してくださいました。私は接待役を仰せ付かった役得もあり、中村さんの気さくなお人柄のおかげで、ざっくばらんに色んなお話を伺うことが出来てよかった。その時のことは今でもよく覚えています。私がバイエルを使わないで、トンプソンやバーナムを使うのもその影響から。中村菊子編「バロック名曲集上・下」もこの時からずっと手元に置いてます。中村さんはその後「古典期名曲集」「ロマン期名曲集」「近・現代名曲集」各上下も出版されていますね。良い教材です。

娘が師事した佐々木弥栄子先生は、私が持っていた日下部憲夫編「プレ・インべンション」と中村菊子編「バロック名曲集上・下」の中からたくさん課題を与え、的を射たとても充実したレッスンをしてくださいました。その後のインベンションのレッスンもです。このことは、私にとっても、小さい頃からバッハは弾いてきたものの、バロックの様式感というものを本当の意味で初めて意識することが出来た貴重な体験でした。

先日「バロック名曲集」下巻の楽譜をめくっていましたら、フローベルガーの舞踊組曲のところで、大きく「様式美」と書かれた佐々木先生の字を見つけたので、懐かしさも手伝って改めて弾いてみました。楽譜は一見簡単そうに見えますが、体位的に動くモチーフを立体的に弾こうとすると結構難しい。短い組曲ですが、一つの主題から色々に変化していく、アルマンド(4/4拍子Andante)、クーラント(3/4拍子Allegretto)、サラバンド(3/4拍子Largo)、ジーグ(6/8拍子Allegro)を、それぞれ相応しい舞踏のリズムとテンポで生き生きと豊かに聴かせようとすると難しい、けれどとても面白い。10年前、娘と一緒に弾いた時こんな風に感じたかしら。。。この辺の小品からもう一度弾き直してみることにしましょう。

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