外来医療費こんなに違う
日経新聞 2005.6.19
どこの医療機関にかかっても同じ保険診療であれば、かかる費用も同じと思っている人が多いだろう。
実は外来の医寮費は病院や診療所といった施設の規模などで異なりへ何倍もの差がつくこともある。個人の負担がどう変わるか、実例を見てみよう。
 「検査も薬も同じなのに、なぜここは商いのだろうか」。
高血圧症で都内の診療所に通院中の長井一典さん(仮名、撃は不思議でならない。症状が安定したため、当初かかっていた大学病院から、自宅に近い診療所を紹介してもらったら、医療費が跳ね上がったからだ。

 半月ごとに通って処方せんをもらい、月一回は尿と血液の検査も受ける。内容はまったく同じにみえるが、毎月の自己負担額は大学病院で1389円だったのに対し、診療所では3327円と2.4倍になった。

 保険診療は一つの診療行為に一つの診療報酬を割り当てる二物一価」が原則だが、なかには医療機関の規模によって異なる料金が設定されている項目がある。長井さんの医療費が変わったのもこれが原因だが、どうしてこんなに大きく変動するのか。費用の内訳をみると。

 外来の医療費はおおまかに診療基本料、指導管理料、検査・治療料、薬代を積み上げてはじく。再診患者の場合、診てもらうたびに必ずかかる「再診料」が診療基本料にあたる。これは、二百床以上の大病院が最も安く、診療所は最も高い。

 ここからは、医療機関が医療保険制度と患者の双方から受け取る分を足し合わせた診療報酬ベースで実際の料金を見ていこう。患者の自己負担額はその三割にあたる。

 診療所が受け取る再診料は全部で一回あたり1250円。さらに患者を継続管理する料金として月一回、50円が上乗せされる。一方、大病院の再診料にあたる「外来診療科」は720円にとどまり、継続管理の上乗せもない

 大病院だけに適用される外来診療科は簡単な検査や、切り傷など軽度の処置の料金を含んでいる。長井さんの場合でも、大学病院にかかっていたときは尿・血液の検査料は外来診療科に含まれていたが、診療所に移ってからは、これらの費用が診療報酬に550円分上乗せされた。

一番大きいのが、治療計画を立てて食事や運動などの具体的な指導をしたとして「特定疾患療養指導料」 (2250円)が月二回加算されたこと。これは高血圧症や糖尿病、ぜんそくなどの慢性喘息の患者に対する料金で、同じような指導をしても2百床以上の病院ではかからない。

 こうした費目を足しあげると、診療所の一カ月分の診療報酬は1万1千90円となり、大学病院の4630円の2.4倍になる。

 こうした外来医療費の違いは診療所と病院の間にとどまらない。図にあるように、病院のなかでも規模によって三通りに分かれる。

 また、高血圧症、糖尿病、高脂血症の患者については、食事など生活瞥慣の指導料と検査料、処方せん料などをまとめて一定価格とする包括払い方式、診療所と中小病院が利用できる。ごの結果、生活習慣病の再診患者の医療費は、医療機関と算定方式によって『一物一価』どころか『一物六価』にもなる。

 再診患者の立場からすれば、大病院ほど医療費が安くなる傾向がある。しかし、病気やケガをして初めて行く際にかかる「初診料」にはこの法則は当てはまらない。

 初診料そのものは診療所の2千740円(自己負担分822円)に対し、病院は2550円(同765円)とやや安い。しかし、大病院では診察所や中小病院の紹介状がないと「初診時特定療養費」という追加料金を求められることが多い。この追加料金は2百床以上の病院が設定でき、患者から徴収する料金は病院により千円から五千円台までまちまちだ。

 仮に五千円の追加料金をとる大病院に行くと、初診の乱己負担は5千765円。二百床未満の病院なら765円、診療所でも822円で済むので、大病院での負担は診療所の7倍に達する。紹介状をもらうにも、患者は診療所で「診療情報提供料」の870円などをとられるほか、紹介先の病院でも「紹介患者加算」として120〜1200円を払う必要がある。

 こうみると、金額的には「初診は診療所や中小病院。再診が続くようなら大病院」と言えそう。ただ、大病院は混雑し、診察時間が不十分な場合もある。医療機関を選ぶときは費用だけでなく、症状の緊急度や診療の質などと合わせて総合判断する必要がある。
厚生労働省が同じ診療行為や処方でも医療機関によって診療報酬に差をつけているのは外来患者を診療所や小病院に誘導し、大病院は入院医療に集中させる機能分化を進めるため。規模の大きい医療機関の再診料を低めにすれば、大病院は再診患者の受け入れに消極的になり、診療所などに患者が誘導できるとの判断だ。

 ただ医療費の自己負担が三割になり、患者が「価格」に敏感になるにつれ、この誘導策は空回りしつつある。患者は口コミやインターネットで医療費の格差を知り、診療所よりも病院に再診患者が流れるという政策意図とは逆の行動が広がっている。

一方、大病院では「報酬が安すぎて採算が合わない」として、外来部門を分離して隣接地に新たに診療所を併設する「外来分離」の動きが強まっている。日本医師会は「報酬の違いを利用した不公平な形態」と批判するが、「外来部門を診療所にするだけで報酬ががるなら経営者としては当然考える対抗策」 (都内の総合病院理事長)といえる。

 日本病院会など四掛院団体協議会は三日、外来診療報酬の同一化を求める要望書を厚労省に出した。「価格設定で患者を誘導するなら、むしろ診療所を安くすべきだ」との指摘も出ており、2006年の診療報酬改定の焦点になる可能性もある。

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