食品を介した寄生虫病
最近日本で注目されている寄生虫病
生活衛生44(4)、163-169、2000
                     
主要な感染源
寄生虫病名
(寄生虫の学名)
主な症状
飲料水・
野菜・
果物
水道水・表流水クリプトスポリジウム症腹痛、下痢
水道水・表流水ジアルジア症腹痛、下痢、胆嚢炎
ラズベリーなど  (生食)サイクロスポーラ症腹痛、下痢
有機・輸入野菜 (生食)ヒト回虫症腹痛、下痢、食欲不振
野菜 
(生食)    
ブタ回虫症肝炎、肺炎(幼虫移行症)
水生植物:セリなど  (生食)肝蛭症肝炎、胆管炎
海水産魚類 ホタルイカ 
(生食) 
 旋尾線虫症皮膚爬行痘、腸閉塞(幼虫移行症)
サバ・イカなど
(刺身・寿司)  
アニサキス症急性胃炎、腸炎、蕃麻疹(幼虫移行症)
サクラマス・サケ (寿司・ルイベ)    日本海裂頭条虫症腹痛、下痢(無症状のことが多い)
イワシ・シラス 
(刺身・三杯酢) 
大複殖門条虫症 腹痛、下痢 (無症状のことが多い)
淡水産魚類   淡水魚 
(刺身・おどり食い)
顎口虫症  皮膚爬行症(幼虫移行症)
コイ・フナ
(刺身)   
クリノストマム症咽頭炎
コイ・フナ 
(刺身)   
肝吸虫 下痢、肝腫大、黄疸
アユ・シラウオ
(せごし・三杯酢)
横川吸虫症腹痛、下痢
ドジョウ 
(おどり食い) 
刺口吸虫症 腹痛、下痢
甲殻類
(カニ、タニシなど)
サワガニ・モクズガニ
 (不完全加熱) 
肺吸虫症胸水、気胸、発咳、迷入による半身麻痺、失明
ジャンボタニシ、アフリカマイマイ広東住血線虫症脳炎(幼虫移行症)
牡蛎 
(生食)
ギムノファロイデス症腹痛、下痢、肝臓と膵臓の機能障害
両生類、
は虫類
ヘビ、カエル マンソン孤虫症幼虫移行症
獣畜肉 豚肉
(不完全加熱)
トキソプラズマ症水頭症、脳炎、脈絡膜炎
クマ肉・輸入畜肉 
(不完全加熱・刺身) 
旋毛虫症 下痢、肺炎、筋炎、全身浮腫
 輸入豚肉 
(不完全加熱・刺身)
有鈎条虫症(嚢虫症を含む)腹痛、下痢、脳炎
牛肉     
(不完全加熱・刺身)
無鈎条虫症腹痛、下痢
イノシシ肉 
(不完全加熱・刺身)
ウエステルマン肺吸虫症胸水、気胸、発咳、迷入による半身麻痺、失明

感染予防
 食品の製造過程で寄生虫を原材料から見つけ、それを除去することは実際には不可能かと思われます。

ですから、寄生虫病の感染を予防するためには、消費者である私たちが、寄生虫に関する正しい知識、特に感染の起こる機序についての基礎知識を持つことが必要かと思われます。

食品や飲料水を介して感染する寄生虫の多くは、加熱または冷凍により死滅することが確認されています。

したがって、魚介類、肉類については十分な加熱または冷凍を行い(筋肉トリヒナの場合は、−30℃で36時間処理した場合でも感染性が保持されるタイプが存在するので加熱が好ましい)、また、生野菜などでは調理、摂食前によく洗浄することが重要です。

さらに、イノシシ、クマ、は虫類などの生食にょる感染事例が報告されていることから、これらの生食の危険性を周知することが必要かと思われます。

おわりに
 現在は、かつて国民の70%以上が回虫に感染していた時代とは、衛生環境や食生活環境において大きく変化していると共に、多種多様な物資に満ち溢れ、経済的にも豊かな時代といえます。糞便で汚染された野菜を原因とする寄生虫病から、生鮮魚介類の生食による新たな寄生虫病へと、その発生も時代の変化に応じて様変わりしているものと考えられます。

自然食を含む生鮮食品の需要増加、調理済み食品の普及(特に魚介類)、ゲテモノの生食指向の高まり、海外からの生鮮食品の輸入増加、そして、食品の低温流通技術の発達(産地から大都市部へ新鮮な魚介類を届けることが可能になったこと)により、今後はさらに食品を介した寄生虫病が増加すると共に、これまで知られていなかった新たな寄生虫病の出現も予想されます。

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