薬剤と皮膚アレルギー 
東京医科歯科大学大学院環境皮膚免疫学 教授 西岡 清
九州アレルギー・免疫センター
センターニュース NO.8 2000.12.
はじめに
 疾患の治療において薬物の持つ役割は大きいが、ときに目的とする薬効とは異なる薬理作用が出現して生体に障害を与える。このような薬物の作用は、薬物の有害事象adverse reactionとして一括されている。
有害事象は、造血器官、肝臓など生体のいずれの臓器においても発現されるが、その中でも皮層は、有害事象の発現頻度が高い臓器であり、また、より早期に有害事象を検出できる臓器として注目されている。

薬疹のメカニズム
 皮膚に表現される薬物の有害事象は薬疹として一括される。薬疹を起こすメカニズムは、アレルギー機序に加えて、表1に示すような種々のメカニズムが作
用している。薬物相互作用、薬物過剰投与、薬物不耐性など種々の非アレルギー性のメカニズムが作用していることも念頭においておく必要がある。
表1 薬疹発症のメカニズム
 アレルギー機序
 薬物過剰投与
 薬物相互作用
 薬物不耐症
 特異体質
 Herxheimer反応
 Biotropism(薬物によるウイルスなどの活性化)
 生態学的機序(菌交替現象)など

 薬物は、生体内に入ると種々の程度に代謝を受け、薬物および薬物の代謝産物が血流を流れる。これらの物質は、免疫学的にハプテンに属するので、生体蛋白と結合して免疫原性を持つようになる。多くの場合、血清アルブミンが結合蛋白である可能性が示唆されている。結合物は、抗原提示細胞に捕獲され、プロセスされて、T細胞を感作する。感作に要する期間は1週間程度と考えられているが、過去の報告では、3日ぐらいでも感作が成立する可能性が示唆されている。

 感作T細胞あるいは産生される薬物特異的抗体の作用によって皮膚障害が起こり、アレルギー性の薬疹を生じる。IgE抗体、IgG抗体、ヘルパーT細胞、細
胞障害性T細胞がエフェクターとして作用する。
 
 IgE抗体は蕁麻疹型、アナフイラキシー型の反応を、IgG抗体は血管障害型、ヘルパーT細胞は紅斑丘疹型、湿疹型など多くの病型を示す薬疹に、また、細胞障害性T細胞は苔癖型、GVH型薬疹などの皮膚反応が誘発されることが明らかにされている(表2)が、全ての薬疹のメカニズムが明らかにされているとはいえない状況にある。
表2 アレルギー機序による薬疹の病型

    エフェクター        病 型
IgE抗体         蕁麻疹型、アナフイラキシー型
IgG抗体         血管障害型、血管炎型など
ヘルパーT細胞     紅斑丘疹型、多形紅斑型、湿疹型など
細胞障害性丁細胞  苔癖型、GVH型薬疹など

薬疹の表現型
 薬疹として表現される皮膚症状は多技にわたっている(表3)(1)。最も頻度の高いものは紅斑丘疹型薬疹で、次いで、多形紅斑型である。薬疹の重症例は、アナフイラキシー型、多形紅斑型から移行するStevens−Johnson症候群、中毒性表皮壊死(TEN)型薬疹である。いずれも生命予後に大きく影響することから、薬疹のタイブの鑑別が大切となる。最近薬疹の発症と同時に潜在感染していたEBやHHP−6ウイルスの活性化による症状の垂篤化が観察され、Hypersensitivity Syndromeとして検討が行われている(2)
表3 薬疹の病型と頻度(3)
紅斑丘疹型46.6紫斑型2.9
多形紅斑型11.3光線過敏症型2.7
紅皮症型7.3色素沈着型2.2
湿疹型6.8座瘡型1.5
蕁麻疹型4.9SLE型0.7
苔癬型4.0水泡型0.5
固定薬疹3.3TEN型0.4

 原因薬物としては抗生物質、抗菌薬、解熱鎮痛薬、催眠鎮静薬、抗療病薬、脳循環代謝改善薬、降圧薬、利尿薬など使用顆度が高い薬物があげられている。

 しかし、薬疹を起こす薬物の例外はなく、ビタミン剤、抗アレルギー薬など全ての薬物が薬疹の原因となると考えるべきであろう。薬物と皮膚症状については、福田英三氏が出版を続けられている「薬疹情報」(3)を参照されたい。

薬疹の検査
 薬疹の原因薬物の検出には、プリックテスト、皮内反応、パッチテスト、薬物内服誘発試験、薬物によるリンパ球幼若試験(DLST)などが行われる。いずれかの試験で陽性所見がでれば原因薬物としての疑いがこくなる。

 薬物誘発試験によって薬疹の皮膚症状を再現することで確定診断が行われるが、試験には危険を伴うので、誘発試験が可能な症例であるかの判断が大切である。誘発試験ができない場合には、その他の試験結果と臨床データとを総合判断して判定する。

おわりに
 薬疹の治療の第一選択は、ステロイドの全身投与である。症状が重篤となる可能性が予測される場合には、血奨交換も適応となる。薬疹治療に当たって最も重要なことは,薬疹の診断を正確に行うこと、原因薬物をできるかぎり早く検出し、その使用を中止することである。そのためには、薬疹が予測される症例については皮膚専門医へのコンサルテーションを急ぐことが大切である。

【文献】
1.薬疹の統計。相原道子、宮川加奈太、池沢善郎:皮膚病診療9 ; 707-714, 1987.
2. Severe hypersensitivity syndrome due to sulfasalazine associated with reactivation of human herpes virus-6. Tohyama M. Yahata Y, Yasukawa   M, Inagl'R, Urano Y, Yamanishi K, Hashimoto K:Arch Dermato1 134,: 1 13-1 1 17,1998.
3. 藁疹情報1980-1996。福田英三編集、福田皮膚科クリニック発行、1997

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